オギャリ・フロム・ストリート
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リアクション
4.自然に帰ろう
もはや街中は一つのライブ会場と化していた。リベレーターたちによるパフォーマンスは明らかに街ひとつを熱狂、否、活気に満ちさせていた。
「そして! 最後はこの我の出番というわけだなっ!」
活気づいた観衆たちの前に元気よく飛び出したのは小さな少年、アウロラ・メタモルフォーゼスだ。翼の生えた子犬――幼生神獣を抱えた彼は、このウェストレヴンにはないような無邪気さでふんぞり返ってみせる。
後ろからは彼をサポートするのだろう保護者……もとい、仲間たちがついてくる。千夏 水希、スピネル・サウザントサマー、アーヴェント・ゾネンウンターガングの三人だ。
「アウロラ、行けるな?」
「当然だっ、我を誰だと思っている? かんぺきにライブをこなしてやるからなっ」
アーヴェントの言葉に、アウロラも手に持ったギターを鳴らしてみせる。彼の持つギターにユニゾンしたアーヴェントは、彼と、そして観衆をリードするようにハミングを始めた。
(アウロラくんたちの歌をきちんと届けられるよう、きちんとチューニングしないとね!)
後ろに控えたスピネルも、このライブを万全にするべく調整を始めていた。アウロラの、子供らしくも元気な歌。そして彼が気ままに飛び跳ねながら空に動物を描くのに合わせて、その音の強弱をめりはりをつけていく。
(この世界から忘れ去られていった自然たち……緑の木々、色とりどりの花々、鳥の鳴き声……かつてディスカディアにもあっただろう、自然のことを思い出してほしい)
そんな思いでこの演目を立案した水希は、とかくアウロラを軸にその想いを成就するべく裏方に徹していた。ありし日の光景を思い出させるために鳥の幻影を空へと羽ばたかせ、スピネルの歌声によって観衆へ花の香りを感じさせる。そして、アウロラの歌声に潜むように、かつての自然を讃えた黄昏の歌を重ねていくのだ。
アウロラの無邪気な仕草と歌声、そしてその合間に重ねるように響く切ない旋律。彼の魅力もさることながら、決して一人では引き出すことのできないものだ。アーヴェントは、これまでのパフォーマンスと、そして今回の四人の調和を確かにその身で感じていた。
『ほら、みんなと一緒に神獣の餌やりをするんだろう?』
『むっ、そうだったな!』
「貴様らも我とともにこいつを存分にもふもふして遊んでよいのだぞ! さあ、我とともに戯れようではないか!」
目一杯に遊び、歌う。そんな彼を導きながら、アーヴェントも心を踊らせていた。
「さあ、みんなも遠慮せずに。一緒に遊びましょ?」
水希がふわりとアウロラや神獣の身体に触れると、そこから鮮やかな紫色の花かざりが現れる。キランソウ、追憶の日々の花言葉を持つその花を咲かせると、観衆に向かって手を伸ばす。
あなたを待っています。そんな言外の意思も添えて。
花に彩られ、空を動物の絵が闊歩して。まるでかつての、ディストピアと化す以前の街並みが蘇るようであった。
「みんなも手を伸ばして!」
スピネルの想いもまた、これに通じるものだ。ディスカディアは自然を忘れ去ってしまった。しかしかつてのディスカディアにも自然があったはずなのだ。ディスカディアが嫌いなわけではない、けれど、だからこそ。
「行こう! 自然と、機械と、人々がともにあるディスカディアへ!」
そんな世界を作りたいとそう願う心は、決して間違いではないはずだ。手を伸ばした観衆の手を包み、引っ張り上げ、ともに広がる世界を見る。そうやって引っ張り上げられた人々に、水希が神獣の餌を渡して生命と戯れてもらうのだ。
それはとてもあたたかな光景で、ウェストレヴンの市民たちも、リベレーターも、
時にはD.D.さえも巻き込んだ大きな騒ぎとなっていた。
その場に居る人々が手を合わせ、時には歓声を送り、そして笑顔を浮かべる中。このライブ会場には、人々が忘れていたような自然や、人々の繋がり、その温かみが確かに広がっていた。
「ぐ、くぅっ……か、かわいい……ッ!!」
D.D.たちもまた、これまでの度重なるパフォーマンスにたじろいでいる。観衆同様、偽りではない父性や母性を揺さぶられてのことであろう。あるいは、かつてディスカディアにも存在していたであろう大自然の美しさを夢に見たのかもしれない。
手を取り合い、ともに遊ぶその光景。その最後に光がアウロラへと集まり。
「我とともに、次のステージへ行かないか?」
うるうるおめめで繰り出されたその一撃に、
『う、う、うわぁあ~~~~ん!』
D.D.たちの涙腺が一斉に崩壊し、このままここに居るのは危険だと一斉に判断。一糸乱れぬ統率で、
『守ってあげたいなんて思ってないんですからねぇ~~!!』
捨て台詞を吐いて一目散と逃げ出していった。同時に、今までで一番の喝采が周囲に沸き起こる。リベレーターたちは、確かに人々の笑顔を取り戻したのであった。


