【陰陽アイドル大戦】大幕・葦原華乱舞!
リアクション公開中!

リアクション
■天津神宮での混戦――守る、ということ――(4)
(輝夜も真蛇も、裁かれるべき者だ。だがそれでも、彼らの死だけは避けたいと想う友が居る)
一行の先頭を進むアーヴェント・ゾネンウンターガング、その背後には氷堂 藤と夢月 瑠亜が続き、輝夜の元へ向かっていた。
(だから自分は、アイドルの歌が、音楽が、何かを変えられると信じて……。
自分達のライブが、何か思うところ、考えさせる価値観を輝夜に残すことができれば、最悪の結末は回避できるはずだ……!)
視界が開け、途端に周囲の温度が急上昇する。炎鳥が炎を撒き散らしながら羽ばたき、喚び出された無数の幻獣が咆哮を上げながら地を駆け、その中心で背中に炎の羽根を背負った輝夜が、抗戦を続けるアイドルたちに熾烈な攻撃を加えていた。
(さあ、真蛇の中に居る輝夜へ全力のライブだ!)
改めて気合を入れ直したアーヴェントが、前に進み出て派手派手しく名乗りをあげながら輝夜に呼びかける。
「輝夜、自分達の新来芸道のロックを奉納したい。聞いてはくれないだろうか!」
その声に、一瞬輝夜の視線がアーヴェントたちを捉えたように見えた。しかしよほど戦闘に集中しているのか、すぐに視線を外しそれ以降顧みることはなかった。
「構わない。それでも自分たちは、届けなければならない。
藤、瑠亜、準備はいいか?」
「私はいつでもいけるよ」
「はい……私も、大丈夫です」
アーヴェントの呼びかけに、藤、瑠亜がそれぞれ頷く。まずは瑠亜が彼らの前に進み出、周囲を祓い清める舞を奉納する。戦闘の余波が熱波となって瑠亜を襲い、体力を奪うも舞う動きに乱れは無い。
(アイドルの歌が、運命さえも変えられると信じて……。
輝夜さん、この世に生があるもの、全ての命は尊いものです。決して粗末に扱って良いものではありません。……それはもちろん輝夜さんも、ここで消されるものではありません。
どうか私達の、魂の輝きを見てください)
舞を終えた瑠亜を、ひときわ大きな余波の炎が襲う。炎は瑠亜を包み込んでしまったように見えたが、炎が晴れた先に現れたのは星を意識したポップなデザインのギターを携えた瑠亜の姿だった。同様に藤も一輪の花が際立つベースを構え、アーヴェントはドラムセットの前に位置し、二人に合図を送るとスティックを振りかぶり、叩き始める。
『――――!!』
生じた爆音が輝夜と、輝夜と戦っている者たちに衝撃となって与えられる。アーヴェントとしてはこれを攻撃のつもりではなく、これくらい『ビリビリくる』刺激がないと聞き入ってもらえないだろうという意図で用いていた。
(仲間には後で、誠心誠意謝らないとな……)
自分たちの我儘かもしれない行いに巻き込んでしまったことへの謝罪を今は心の中のみに留め、燃え盛る炎のように猛々しいロックナンバーを演奏する。
(私は歌うことしか知らない。二人の犯した罪の重さ、それに対する罰……私には分からないし、決められない。私はあまりにも身勝手かもしれない……だけど、だからこそ、歌で変えられるものがあるって信じてる。
輝夜……私は、あなたに消えて欲しくないの。生きて、この世界の楽しさを知ってほしーから。あなたの心も、私達の歌で変えて魅せるからね)
アーヴェントの演奏に合わせ、藤がベースを鳴らし、歌声を乗せる。この場の誰よりもずっと熱く、何もよりもずっと燃え上がるように。
(輝夜、ロック好きなんでしょ? 私もなんだ。
ねえ、このロックを、一緒に歌わない? 音楽って、楽しーんだよ。誰かと歌うって楽しーの)
――この世界にも、まだまだ楽しいこといっぱいあるんだよ。
だからさ、もうしばらくこの世界で一緒に楽しーこと、探してみない?
この世界の楽しさも美しさも、知ってほしい。黄泉にいくの、それからじゃだめかな……?――
アーヴェントと藤が歌声を紡ぐ傍ら、瑠亜は符の力で喚び出した舞芸者も加え、演奏をより派手に、重厚に仕上げていく。歌わずとも、演奏に込めた想いは二人に決して劣ることなく。
――今この世界で生きること。この世界で楽しむことを諦めないで欲しい――
――私達も音楽が、ロックが好き。貴方と同じ……そのことがとても嬉しい――
――お母さんに会いにいく前に、貴方と私達の好きなロックで、少しだけ寄り道をしませんか?――
――この世界にも楽しいことが、いっぱいあるんだよ――
(何だ、これは……? 先程までよりさらに、真蛇の身体を上手く扱えている……そうでありながら離れていくような感覚、これは何故だ?)
最初はほんの少しだった違和感が、ライブが熱く盛り上がっていくにつれどんどん強くなっていく。輝夜はこれまで感じたことのないものに、当惑を深める。
(まさか……作り変えられている!? 神である、この我が!?)
――優れた芸術作品は、時に見る者の性格すら変えうる力を持つ。天津神に認められるまでに成長した『ふぇすた座』の舞芸であれば、神である輝夜の神性すら変えうる。
(やめろ……! 我を勝手に作り変えるな! 我は誰の指図も受けぬ!)
『輝夜、君は自分が既に以前の君でないことを納得はしていないだろうが、理解しているはずだろう? そして私は今君に最も近い所に居る……君の神性を理解するのにそう苦労することは無かったよ』
「何をゴチャゴチャと――あぐっ!?」
口を挟もうとした輝夜の手が、喉にかかる。
『このまま君と共に自害するのは、趣味じゃないな。とりあえず私の中から出ていってもらおうか』
「お、おのれえええぇぇぇ!!」
手を胸に当て、引き剥がすように振るうと、辺りをひときわ強い風が吹き荒れた。木がざわめき石像がガタガタと揺れ、それが収まった中心で、仄かに燃える炎を手に佇む真蛇の姿があった。
「……シャロちゃん、とりあえず一件落着、なんでしょうか?」
「たぶんね~。真蛇ちゃんの言ったことが本当なら、輝夜ちゃんは神としての自分を変えられたことになる。そしてボクたちは神に認められた舞芸者。神だって変えてみせる! っていうか変えちゃったわけで」
歌音とシャーロットが、そんなことを口にし合う。
「でも、輝夜ちゃんも真蛇ちゃんも、心ではまだ諦めてないんだと思う。だからボクたちはもっともっと、お話をする必要があると思う。まぁその辺は、ねむちゃんとあみかちゃんがやってくれると思うにゃ~」
「……あっ、お二人が来ましたね」
歌音が示す先で、風華とあみかが降りてきて真蛇の元へ向かう――。
「仮面、外れた今ならお話、できませんか?
どうしてもお礼が言いたかったのです。わたしたちが生きているのは、あの日のあなたのおかげですから」
「……礼を言われるのは、慣れないな。あいにくとそのような人生を送ってないものでね」
あみかに話しかけられた真蛇からは、邪気というか、何者をも寄せ付けない雰囲気のようなものが消えていた。もしかしたらこれが、真蛇本来の姿なのかもしれない。
「どうか、聞かせてもらえませんか。あなた方にとって『夜刀』とはなんだったのかを」
天草 燧に自分の個人情報を持ってこさせながら、風華が聞きたかったことを尋ねる。真蛇はそれらに特に興味を示すこと無く、番傘に浮かんだ宵の満天を見つめながらぽつり、と口を開く。
「……自分の生きている世界が、自分に牙を剥く、そんな風にしか思えない者たちが集い、安心して暮らせる世界を目指す集団……といえば聞こえがいいかな。実際やっていたことは人間と妖怪の世界の否定と破壊だからね」
世界を壊したくてやっているわけじゃない。ただ、世界が自分を殺そうとしているのだから。それならば何も無い、『原初の葦原』のような世界の方がいいだろう。……半妖として恵まれないどころではない暮らしを強いられた真蛇は、世界を憎まねば、否定しなければ生きられなかったのだ。
「…………。自由に生きてほしい、という言葉はとても酷だ、ということは分かっています。それでも私は、真蛇さんが誰かを傷つけたり、傷ついたりするのを見たくありません。私もねむねむさんも、真蛇さんや『夜刀』の皆さんの受けた傷を知りませんけど……皆さんには少しでも前を向いて、この世界で生きていってほしいと思います」
その上で、とあみかが重ねて言う。
「あなた達のいた証を創るお手伝いがしたい。あなた方の夜への、安息への、架け橋になりたいんです」
長く、長く続いた沈黙。少なからぬ犠牲を払いながら貫き続けてきたものを諦めるには、それでもまだ短すぎる時間。
「……『夜刀』は力を失い過ぎた。以前の力を取り戻すには早くて数年はかかるだろう。もしその間に世界が、壊す必要のないものに変わっていたのなら――」
「行いを改める、と?」
七咒の問いに真蛇は沈黙でもって応える。
「そうか。可能性をもってくれたこと、機会をくれたことに感謝する。自分でよければいくらでも力になろう」
七咒が感謝の言葉を述べ、下がる。代わりに下がっていたあみかと風華が進み出、告げる。
「どうか、うたわせてください。あなた達が歩んできた道の半ばで散っていった同志へ。
顔も名前も分からない、だけど決して忘れてはいけない……それがきっと、最初の一歩になると思うんです」
「私は祈願を……何よりあなた方には、安眠が足りません。安眠と快起の時なのです」
あみかが真蛇と『夜刀』の者に宛てた歌を歌い、風華が舞と共に二つの絵札を舞わせる。
「……優れた舞芸は神をも操る……到底人の身で敵うはずもないか」
――ただ、舞芸が世界を変えるのならば、私も――その言葉は宵の空にふわり、と消えた。
「ちょっとー! なにかってにいいはなしだなー、でおわろうとしてんのよ!
アタシのことわすれてんじゃないわよ!」
そんな聞き覚えのある声と共に現れたのは、ミニフィギュアサイズにまで小さくなった輝夜だった。大きな頭にくりくりとした目が愛玩っぽさを増していた。
「……何、これ?」
水希の問いに、真蛇があぁ、と頷いて答える。
「君たちが彼女の神性を作り変えたところに、私が手を加えてみた。君たちは彼女の消滅を望んでいないみたいだからね。まぁ、君たちへの感謝、とでも思ってくれればいい」
「アンタだったのねへびこー! いますぐもどしなさい、いますぐに!」
激昂する輝夜だが、傍からみればジタバタと暴れているだけなのでかわいい。
マスコットめいたその姿を、水希は指先で撫でようとして跳ね除けられ、しかしなぜか微笑んだ。
「……いいカッコになったじゃん。そのかっこで、母親のところまで連れてったげようか?」
「バカいってんじゃないわよ! こんなみじめでクソダサなかっこで、ママにあえるわけないじゃん!」
まったく……とへそを曲げて怒る輝夜の姿は、まるきり子供そのものであった。
「……真蛇、輝夜。俺の話を聞いてくれないか」
行坂 貫の声に、真蛇は仕方なさそうに、輝夜はえらく不機嫌そうに、それでも貫の方を向いた。
「ありがとう。俺は、お前達が悪だとは思わない。だがお前達のやり方じゃ、無闇に敵を増やすだけだ。暴力は反感を買い、悪にされ易いからな。
だからアイドルになって、自分のファンを作って味方を増やす事から始めないか? 世論を味方につけてお前達の目的を世界に認めさせるんだ。二人がペアを組めば人気出ると思うぜ?」
「……私が、アイドル? これと?」
「これってなによ!」
指差した真蛇の指に、輝夜が噛み付く。しかしただの甘噛みしかならず、その仕草もまたかわいい。
「……ははは。何を言い出すかと思えば。君たちはいつも私の想像の上をいく。まったく、面白いものだ」
笑い出した真蛇からは、今までに無い雰囲気が滲み出ていた。
「真蛇、今でもまだ、生きているもの全てが憎いのか?」
「憎いさ。それは昨日今日でやすやすと捨てられるものじゃない。それは私の一部でもあるのだからね」
「そうか……俺は、お前を理解したいと思ってる」
「そういうこと面と向かって言われると気持ち悪いけど、まぁ君たちだからね。好きにしたらいいんじゃないかな」
真蛇から視線を外して、貫が輝夜へ視線を向ける。
「母親に会いたいだけの貴女に、酷な仕打ちだというのは分かっている。けれど今はこの状態で我慢してほしい」
「ふんっ! へびこーがどうにかしないともどれなそうだし、へびこーはアタシをもどすきなさそうだし!
ま、へびこーがしんだらもどれるから、それまでがまんしてあげるわ!」
不機嫌を隠さない輝夜に、貫は苦笑するしかなかった。
混迷を極めた天津神宮の戦いは、このような形で一応の決着を見ることとなった――。
(輝夜も真蛇も、裁かれるべき者だ。だがそれでも、彼らの死だけは避けたいと想う友が居る)
一行の先頭を進むアーヴェント・ゾネンウンターガング、その背後には氷堂 藤と夢月 瑠亜が続き、輝夜の元へ向かっていた。
(だから自分は、アイドルの歌が、音楽が、何かを変えられると信じて……。
自分達のライブが、何か思うところ、考えさせる価値観を輝夜に残すことができれば、最悪の結末は回避できるはずだ……!)
視界が開け、途端に周囲の温度が急上昇する。炎鳥が炎を撒き散らしながら羽ばたき、喚び出された無数の幻獣が咆哮を上げながら地を駆け、その中心で背中に炎の羽根を背負った輝夜が、抗戦を続けるアイドルたちに熾烈な攻撃を加えていた。
(さあ、真蛇の中に居る輝夜へ全力のライブだ!)
改めて気合を入れ直したアーヴェントが、前に進み出て派手派手しく名乗りをあげながら輝夜に呼びかける。
「輝夜、自分達の新来芸道のロックを奉納したい。聞いてはくれないだろうか!」
その声に、一瞬輝夜の視線がアーヴェントたちを捉えたように見えた。しかしよほど戦闘に集中しているのか、すぐに視線を外しそれ以降顧みることはなかった。
「構わない。それでも自分たちは、届けなければならない。
藤、瑠亜、準備はいいか?」
「私はいつでもいけるよ」
「はい……私も、大丈夫です」
アーヴェントの呼びかけに、藤、瑠亜がそれぞれ頷く。まずは瑠亜が彼らの前に進み出、周囲を祓い清める舞を奉納する。戦闘の余波が熱波となって瑠亜を襲い、体力を奪うも舞う動きに乱れは無い。
(アイドルの歌が、運命さえも変えられると信じて……。
輝夜さん、この世に生があるもの、全ての命は尊いものです。決して粗末に扱って良いものではありません。……それはもちろん輝夜さんも、ここで消されるものではありません。
どうか私達の、魂の輝きを見てください)
舞を終えた瑠亜を、ひときわ大きな余波の炎が襲う。炎は瑠亜を包み込んでしまったように見えたが、炎が晴れた先に現れたのは星を意識したポップなデザインのギターを携えた瑠亜の姿だった。同様に藤も一輪の花が際立つベースを構え、アーヴェントはドラムセットの前に位置し、二人に合図を送るとスティックを振りかぶり、叩き始める。
『――――!!』
生じた爆音が輝夜と、輝夜と戦っている者たちに衝撃となって与えられる。アーヴェントとしてはこれを攻撃のつもりではなく、これくらい『ビリビリくる』刺激がないと聞き入ってもらえないだろうという意図で用いていた。
(仲間には後で、誠心誠意謝らないとな……)
自分たちの我儘かもしれない行いに巻き込んでしまったことへの謝罪を今は心の中のみに留め、燃え盛る炎のように猛々しいロックナンバーを演奏する。
(私は歌うことしか知らない。二人の犯した罪の重さ、それに対する罰……私には分からないし、決められない。私はあまりにも身勝手かもしれない……だけど、だからこそ、歌で変えられるものがあるって信じてる。
輝夜……私は、あなたに消えて欲しくないの。生きて、この世界の楽しさを知ってほしーから。あなたの心も、私達の歌で変えて魅せるからね)
アーヴェントの演奏に合わせ、藤がベースを鳴らし、歌声を乗せる。この場の誰よりもずっと熱く、何もよりもずっと燃え上がるように。
(輝夜、ロック好きなんでしょ? 私もなんだ。
ねえ、このロックを、一緒に歌わない? 音楽って、楽しーんだよ。誰かと歌うって楽しーの)
――この世界にも、まだまだ楽しいこといっぱいあるんだよ。
だからさ、もうしばらくこの世界で一緒に楽しーこと、探してみない?
この世界の楽しさも美しさも、知ってほしい。黄泉にいくの、それからじゃだめかな……?――
アーヴェントと藤が歌声を紡ぐ傍ら、瑠亜は符の力で喚び出した舞芸者も加え、演奏をより派手に、重厚に仕上げていく。歌わずとも、演奏に込めた想いは二人に決して劣ることなく。
――今この世界で生きること。この世界で楽しむことを諦めないで欲しい――
――私達も音楽が、ロックが好き。貴方と同じ……そのことがとても嬉しい――
――お母さんに会いにいく前に、貴方と私達の好きなロックで、少しだけ寄り道をしませんか?――
――この世界にも楽しいことが、いっぱいあるんだよ――
(何だ、これは……? 先程までよりさらに、真蛇の身体を上手く扱えている……そうでありながら離れていくような感覚、これは何故だ?)
最初はほんの少しだった違和感が、ライブが熱く盛り上がっていくにつれどんどん強くなっていく。輝夜はこれまで感じたことのないものに、当惑を深める。
(まさか……作り変えられている!? 神である、この我が!?)
――優れた芸術作品は、時に見る者の性格すら変えうる力を持つ。天津神に認められるまでに成長した『ふぇすた座』の舞芸であれば、神である輝夜の神性すら変えうる。
(やめろ……! 我を勝手に作り変えるな! 我は誰の指図も受けぬ!)
『輝夜、君は自分が既に以前の君でないことを納得はしていないだろうが、理解しているはずだろう? そして私は今君に最も近い所に居る……君の神性を理解するのにそう苦労することは無かったよ』
「何をゴチャゴチャと――あぐっ!?」
口を挟もうとした輝夜の手が、喉にかかる。
『このまま君と共に自害するのは、趣味じゃないな。とりあえず私の中から出ていってもらおうか』
「お、おのれえええぇぇぇ!!」
手を胸に当て、引き剥がすように振るうと、辺りをひときわ強い風が吹き荒れた。木がざわめき石像がガタガタと揺れ、それが収まった中心で、仄かに燃える炎を手に佇む真蛇の姿があった。
「……シャロちゃん、とりあえず一件落着、なんでしょうか?」
「たぶんね~。真蛇ちゃんの言ったことが本当なら、輝夜ちゃんは神としての自分を変えられたことになる。そしてボクたちは神に認められた舞芸者。神だって変えてみせる! っていうか変えちゃったわけで」
歌音とシャーロットが、そんなことを口にし合う。
「でも、輝夜ちゃんも真蛇ちゃんも、心ではまだ諦めてないんだと思う。だからボクたちはもっともっと、お話をする必要があると思う。まぁその辺は、ねむちゃんとあみかちゃんがやってくれると思うにゃ~」
「……あっ、お二人が来ましたね」
歌音が示す先で、風華とあみかが降りてきて真蛇の元へ向かう――。
「仮面、外れた今ならお話、できませんか?
どうしてもお礼が言いたかったのです。わたしたちが生きているのは、あの日のあなたのおかげですから」
「……礼を言われるのは、慣れないな。あいにくとそのような人生を送ってないものでね」
あみかに話しかけられた真蛇からは、邪気というか、何者をも寄せ付けない雰囲気のようなものが消えていた。もしかしたらこれが、真蛇本来の姿なのかもしれない。
「どうか、聞かせてもらえませんか。あなた方にとって『夜刀』とはなんだったのかを」
天草 燧に自分の個人情報を持ってこさせながら、風華が聞きたかったことを尋ねる。真蛇はそれらに特に興味を示すこと無く、番傘に浮かんだ宵の満天を見つめながらぽつり、と口を開く。
「……自分の生きている世界が、自分に牙を剥く、そんな風にしか思えない者たちが集い、安心して暮らせる世界を目指す集団……といえば聞こえがいいかな。実際やっていたことは人間と妖怪の世界の否定と破壊だからね」
世界を壊したくてやっているわけじゃない。ただ、世界が自分を殺そうとしているのだから。それならば何も無い、『原初の葦原』のような世界の方がいいだろう。……半妖として恵まれないどころではない暮らしを強いられた真蛇は、世界を憎まねば、否定しなければ生きられなかったのだ。
「…………。自由に生きてほしい、という言葉はとても酷だ、ということは分かっています。それでも私は、真蛇さんが誰かを傷つけたり、傷ついたりするのを見たくありません。私もねむねむさんも、真蛇さんや『夜刀』の皆さんの受けた傷を知りませんけど……皆さんには少しでも前を向いて、この世界で生きていってほしいと思います」
その上で、とあみかが重ねて言う。
「あなた達のいた証を創るお手伝いがしたい。あなた方の夜への、安息への、架け橋になりたいんです」
長く、長く続いた沈黙。少なからぬ犠牲を払いながら貫き続けてきたものを諦めるには、それでもまだ短すぎる時間。
「……『夜刀』は力を失い過ぎた。以前の力を取り戻すには早くて数年はかかるだろう。もしその間に世界が、壊す必要のないものに変わっていたのなら――」
「行いを改める、と?」
七咒の問いに真蛇は沈黙でもって応える。
「そうか。可能性をもってくれたこと、機会をくれたことに感謝する。自分でよければいくらでも力になろう」
七咒が感謝の言葉を述べ、下がる。代わりに下がっていたあみかと風華が進み出、告げる。
「どうか、うたわせてください。あなた達が歩んできた道の半ばで散っていった同志へ。
顔も名前も分からない、だけど決して忘れてはいけない……それがきっと、最初の一歩になると思うんです」
「私は祈願を……何よりあなた方には、安眠が足りません。安眠と快起の時なのです」
あみかが真蛇と『夜刀』の者に宛てた歌を歌い、風華が舞と共に二つの絵札を舞わせる。
「……優れた舞芸は神をも操る……到底人の身で敵うはずもないか」
――ただ、舞芸が世界を変えるのならば、私も――その言葉は宵の空にふわり、と消えた。
「ちょっとー! なにかってにいいはなしだなー、でおわろうとしてんのよ!
アタシのことわすれてんじゃないわよ!」
そんな聞き覚えのある声と共に現れたのは、ミニフィギュアサイズにまで小さくなった輝夜だった。大きな頭にくりくりとした目が愛玩っぽさを増していた。
「……何、これ?」
水希の問いに、真蛇があぁ、と頷いて答える。
「君たちが彼女の神性を作り変えたところに、私が手を加えてみた。君たちは彼女の消滅を望んでいないみたいだからね。まぁ、君たちへの感謝、とでも思ってくれればいい」
「アンタだったのねへびこー! いますぐもどしなさい、いますぐに!」
激昂する輝夜だが、傍からみればジタバタと暴れているだけなのでかわいい。
マスコットめいたその姿を、水希は指先で撫でようとして跳ね除けられ、しかしなぜか微笑んだ。
「……いいカッコになったじゃん。そのかっこで、母親のところまで連れてったげようか?」
「バカいってんじゃないわよ! こんなみじめでクソダサなかっこで、ママにあえるわけないじゃん!」
まったく……とへそを曲げて怒る輝夜の姿は、まるきり子供そのものであった。
「……真蛇、輝夜。俺の話を聞いてくれないか」
行坂 貫の声に、真蛇は仕方なさそうに、輝夜はえらく不機嫌そうに、それでも貫の方を向いた。
「ありがとう。俺は、お前達が悪だとは思わない。だがお前達のやり方じゃ、無闇に敵を増やすだけだ。暴力は反感を買い、悪にされ易いからな。
だからアイドルになって、自分のファンを作って味方を増やす事から始めないか? 世論を味方につけてお前達の目的を世界に認めさせるんだ。二人がペアを組めば人気出ると思うぜ?」
「……私が、アイドル? これと?」
「これってなによ!」
指差した真蛇の指に、輝夜が噛み付く。しかしただの甘噛みしかならず、その仕草もまたかわいい。
「……ははは。何を言い出すかと思えば。君たちはいつも私の想像の上をいく。まったく、面白いものだ」
笑い出した真蛇からは、今までに無い雰囲気が滲み出ていた。
「真蛇、今でもまだ、生きているもの全てが憎いのか?」
「憎いさ。それは昨日今日でやすやすと捨てられるものじゃない。それは私の一部でもあるのだからね」
「そうか……俺は、お前を理解したいと思ってる」
「そういうこと面と向かって言われると気持ち悪いけど、まぁ君たちだからね。好きにしたらいいんじゃないかな」
真蛇から視線を外して、貫が輝夜へ視線を向ける。
「母親に会いたいだけの貴女に、酷な仕打ちだというのは分かっている。けれど今はこの状態で我慢してほしい」
「ふんっ! へびこーがどうにかしないともどれなそうだし、へびこーはアタシをもどすきなさそうだし!
ま、へびこーがしんだらもどれるから、それまでがまんしてあげるわ!」
不機嫌を隠さない輝夜に、貫は苦笑するしかなかった。
混迷を極めた天津神宮の戦いは、このような形で一応の決着を見ることとなった――。


