【陰陽アイドル大戦】大幕・葦原華乱舞!
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■御前披露~樹京復興へ、願いを込めて~(2)
「ミヤビさん、少しお話をしませんか?」
ミヤビの下に、緋袴姿の空花 凛菜がやって来た。樹京の復興を願う御前披露に協力したい旨を伝えた上で、凛菜は樹京について知りたい、とミヤビに告げる。
「ミヤビさんに樹京の良いところ、素敵なところをたくさん教えてもらえたら嬉しいです」
「そうですね……。樹京はこれまで多くの優れた舞芸を生み出してきました。それらももちろん素晴らしいのですが、新来芸道……あなた方の行う舞芸と触れ合うことでこれまでのとは違う、新たな舞芸を生み出すことができました。そしてその舞芸がこうして、町の復興につながっていく……それはとても素敵だと思うのです」
真剣な眼差しで、未だ復興途中の町を見つめていたミヤビが、ふふ、と表情を崩して凛菜に向き直り、言葉を続けた。
「後は……他の地域に比べて、生魚が美味しいです。炊いた穀物と一緒にいただくのが良いですよ」
その言葉は凛菜に、容易に樹京の住民の生活の様子を思い描かせた。きっと家族揃って、新鮮な生魚の料理に舌鼓をうっているのだろう。
「ありがとうございます。樹京の街と住民の皆さんの素敵な生活の様子を心に思い描くことが出来ました。
是非、樹京の街の復興を成し遂げましょう。ミヤビさんと私たち舞芸者、それと観客の皆さんの力で!」
凛菜の声にミヤビがはい、と頷いたところで、凛菜の出番が近付く。
「それともう一つ……出来ればミヤビさんと一緒に、舞芸を披露したいのです」
「分かりました。あなたの樹京を思う真摯な願いは、きっと樹京を癒やしてくれるでしょう」
快く返事を返したミヤビに改めて礼をして、そして凛菜がミヤビと共にステージへと上がる――。
「いやぁ……凄かった、としか言えないね」
「うんうん。神が二人も!? って感じだったね」
凛菜とミヤビのステージを鑑賞し終えた観客からは、一様に二人の舞芸を讃える声が聞こえてきた。『御前披露』という雰囲気には最も相応しく、素晴らしい舞芸の披露であったといえよう。
「でもこれだけの舞芸者が集まっているんだし、せっかくなら別のミヤビ様を見てみたいというのは贅沢な望みかしら」
そんな観客の声に、他の観客もうんうん、と同意を漏らす。……そしてそんな観客の願いは図らずも果たされることとなったのであった。
「みなさーん、楽しんでるデスかー!? ワタシはめっちゃ楽しいデース!」
虹色に光る鍵盤を持つ芸器をくるくる、とリズムに合わせて回し、日向 千尋が観客へアピールを飛ばす。
「イェーイ! 千尋ちゃんサイコー!」
「ミヤビちゃんかわいいよー!!」
観客もノリノリで、ステージの千尋とミヤビへ声援を送る。先程までの荘厳な雰囲気から一転した、陽気というよりはアゲアゲなミュージック。葦原に持ち込まれたまったく新しい芸道は、今やしっかりと観客の心を掴んでいた。
「ミヤビちゃんも、楽しいデス?」
「ええ、とても。……不思議なものですね、知識としてどう立ち振る舞えばいいかなんて知らないはずなのに、身体が自然と動いてしまうのですから」
そう口にして笑ったミヤビからは、神のような厳かさは無く、代わりに見た目通りの少女らしさが出ていた。
「よかったデス! 観客さんにもミヤビちゃんにもバッチリ楽しんでもらえたら、私はハッピーデス!」
ミヤビの様子に気を良くした千尋が、猛々しいロックナンバーにさらに火をつける。妖しい炎が乱れ飛び、その中で舞うミヤビも、それを目の当たりにした観客も、どこか酔いが回ったように笑い、楽しいひと時を過ごしたのであった――。
「ミヤビィ、今度こそオレとデートしねぇか。
前もやった天照舞用の曲、葦原のパリピ達にも聴かせてやろーぜ?」
いつものチャラい様子で、ミヤビとの共演を望む藤原 陽に対し、ミヤビは返答の代わりにこう口にする。
「あなたは目の前の民に対して、何ができるとお考えですか?」
その声に、陽の表情がスッ、と変化する。
「……こんなひでぇ状況でも、前向いて笑ってる。そんな奴らに応えるには、最高にテンアゲなライブをするしかねぇ。
オレより芸が上手い奴はいくらでもいる、ケド、誰かを楽しませる事に一番力入れてるのはオレだし? それに何より? ミヤビィを一番笑わせられるのはワンチャンオレ説あるし?」
結局はいつもの調子に戻ってしまった陽へ、ミヤビがくすっ、と笑って言った。
「いいでしょう。舞芸に対する思いを強く持っていることはよく分かりました。
……そこまで言うからには、最も優れた舞芸を魅せてくれるのでしょうね? 陽」
「そんなのアタリマエだし! …………ってあれ? ミヤビィ今さり気なくオレの名前――」
「私が何か言いましたか?」
尋ねた陽に、ミヤビが普段のやや冷めたような表情で応える。そのまま背を向けてしまったので、陽はそれ以上問いただすこともできない。
「……やるっきゃねぇ!」
相手を楽しませるには、まず自分から――。陽は自分を鼓舞して、ミヤビの後に続く――。
ひらり きらり 舞い踊りましょう
天津 照らす 桜のように
使命 悲鳴 暗闇の空
黒き秘め事も あるでしょう
驕り 騙り 意地張り 怖がり 怒り 濁り 寂しがり 嘘ばかり
誰もが持つ感情 あなたも持っていいよ
黒を認め深紅に染まる 誇り高きミカドはそう 天照小町
ひらり きらり 舞い踊りましょう
天津 照らす 桜のように
ゆらり ふらり 震える霞
全て 詰めて 咲き誇りましょう
みやびやかに 想いを込めて
好きな気持ちを 叫びましょう
華乱葦原とミヤビを応援するメッセージを込めた歌を披露した陽が、最後の歌詞にある通りに心にある好きな気持ちをシンプルなメッセージとして発する。
「オレは! この華乱葦原が大好きだ! おめーも! おめーも! おめーらも!」
左から中央、右へ移動しつつ観客を指差しながら叫びをあげた陽が、最後にくるり、とミヤビへ振り返る。
「もちろん、ミヤビィのこともな! 今日のデートはフルコースだぜ! しっかり捕まってろよ」
「え? あなた一体何を――」
ミヤビの声を無視する形で、陽がミヤビを麒麟に乗せ、観客席の真ん中辺りまで飛ぶ。
「ワショーイ!!」
「きゃあああ!!」
そして麒麟から飛び降り、観客席へ飛び込む。いわゆる『ダイブ』というヤツである。
「おめーらしっかり運べよ! あそれMI☆YA☆BI! ウェイ! MI☆YA☆BI! ウェイ!」
陽が先導する中、観客がノリノリでミヤビを波のように、ステージへと運んでいく。
「わ、私はどうすればよいのですかー!」
悲鳴にも近い声をあげるミヤビだが、観客である民が実に面白おかしく笑いながら自分を運んでいくのを目の当たりにして、理解を得る。確かに、誰かを楽しませる事にかけては、全力であるようだった。
「……大丈夫か? まあその様子を見るに、楽しんできたようではあるが」
戻ってきたミヤビを見て、草一がさすがに心配の声をかける。髪はすっかりグシャグシャになってしまったし、顔には大量の汗が浮かんでいた。それでもミヤビから不満の声が飛んでこない辺り、ミヤビ自身も共演を楽しんでいた証拠であった。
「着替えが必要でしょうね。……朔ノ鏡はどうなりましたか?」
「それなら安心しろ、見事なものだ。まずは着替えを済ませてから見てみるといい」
安心させるような草一の声と表情に、ミヤビも納得してステージ袖へと引き上げていった。すると代わるように小鈴木 あえかが草一の下へと近付く。
「朔ノ鏡は便利です。ですが事ある毎に頼るようになっては、ゆくゆくは国の力を衰えさせる結果になりかねません」
「確かに言う通りだ。……その口ぶりからして、何か良い方法が?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、あえかが提案を口にする。話を終わりまで聞いた草一は苦笑しつつも、結構乗り気であるようだった。
「……まあ、俺がミヤビに怒られれば済む話か。分かった、その案でいこう」
着替えを済ませて戻ってきたミヤビを、草一が『朔ノ鏡』の下へ案内する。
「……!」
そして、鏡の中を見たミヤビが、言葉を失った。鏡の中の樹京は、まるでこれまでの災厄が無かったかのように元の姿を取り戻していたのだ。
「まさかこれほどまでとは……。これで樹京も元通りになりますね」
「ああ。……だがやはり、本来は国の力で治すのが常道であるし、これが常になってはいけないと思う。そこで彼らに協力してもらってひとつ、策を打ちたいのだが、力を貸してくれるか」
「? 私でよければ構いませんが……」
首を傾げつつも協力を約束したミヤビを、朔ノ鏡の後ろに立たせる。
「……よし、そのまま始めてくれ」
「はい……」
草一の意図が分からないまま、ミヤビが朔ノ鏡に触れ、力を発動させる。鏡がボウッ、と光り出し、鏡の中の世界が現実の世界に置き換えられるように書き換わっていく。しばらく続いた光が収まり、鏡が力を失う。
「……終わりました。これで樹京の町は元通りに修復されました。
ですが、民の心まで元通りになったわけではありません。一刻も早く民が安心できる暮らしを取り戻さなくてはいけませんね」
「そうだな、やるべきことはたくさんある。ミヤビ、決して無理はするなよ」
「それくらい分かっています。ですが今は、少しでも多く民のためにできることをしたいと思うのです」
そんなことを話しながら二人がステージへと足を踏み入れると、盛大な歓声に出迎えられる。
「美巫女ミヤビ様ー!!」
「あぁ、生の美巫女ミヤビ様だ……俺明日から生きれるわ~」
「な、何事です!? その美巫女ミヤビとは一体――」
聞き慣れない単語にミヤビが戸惑っていると、ステージに設置されていたモニターに映像が映し出される。それはミヤビが鏡の力で樹京を修復した時のものなのだが、明らかに加工が加わっており、鏡ではなくミヤビがもたらした光によって町が修復されたように映っていた。加えてミヤビにも加工が施されており、微笑みを湛えたその姿はなるほど、美巫女と表現するのが適切であるようだった。
「……!」
映像を見終えたミヤビが、キッ、と草一の方へ向き直る。あまりの鋭さに、草一も思わず視線を外してしまう。
「なんですかあの映像は! 私が私じゃなくなってます! 盛り過ぎです! やり過ぎです!」
「あ、あはは……」
「あぁぁ……私はこれからどうやって民の前に立てばいいのですか……」
木霊する美巫女ミヤビコールの前で、ミヤビはがっくりと項垂れるのであった――。
(美巫女ミヤビさんの微笑みが胸の内にあれば、この先大変な事が起きたとしてもきっと頑張れるはずです)
――ステージが盛り上がる中、一足先にステージを抜けたあえかは、小さなお社の前に立ち、そっと手を合わせる。
(穢ノ神様達との戦いで疲弊した現状では、神様と人々の歩み寄りなんて誰も耳を貸してくれません。……でも、人々に余裕が出来れば、きっと穢ノ神様達のことをちゃんと調べて、偲んでくれる人々が現れてくれるはず。
大戦後の妖怪と人間のように、神様達に寄り添ってくれる人々が現れてくれるはずなんです)
――その時までは、自分だけでもいい。
悪として立ち塞がり、けれど完全な悪になりきれなかった神様を慰め、祀ろう――。
こうして、『御前披露』は成功に終わり、樹京の町並みは元の姿を取り戻した。
それは正確には元の姿ではないのかもしれない。災厄があった事実は変えられないし、そこで受けた傷は決して無かったことにはできない。
だが、それでも町は生きている。そこに住まう民も動物も、生きている。
生きている限り、変わることができる。希望を胸に宿し、より良い暮らしを求めることができる。
元から育まれてきた舞芸と、新たに持ち込まれた舞芸の融合。
それは樹京を、ひいては樹ノ国をも生まれ変わらせようとしていた――。
「ミヤビさん、少しお話をしませんか?」
ミヤビの下に、緋袴姿の空花 凛菜がやって来た。樹京の復興を願う御前披露に協力したい旨を伝えた上で、凛菜は樹京について知りたい、とミヤビに告げる。
「ミヤビさんに樹京の良いところ、素敵なところをたくさん教えてもらえたら嬉しいです」
「そうですね……。樹京はこれまで多くの優れた舞芸を生み出してきました。それらももちろん素晴らしいのですが、新来芸道……あなた方の行う舞芸と触れ合うことでこれまでのとは違う、新たな舞芸を生み出すことができました。そしてその舞芸がこうして、町の復興につながっていく……それはとても素敵だと思うのです」
真剣な眼差しで、未だ復興途中の町を見つめていたミヤビが、ふふ、と表情を崩して凛菜に向き直り、言葉を続けた。
「後は……他の地域に比べて、生魚が美味しいです。炊いた穀物と一緒にいただくのが良いですよ」
その言葉は凛菜に、容易に樹京の住民の生活の様子を思い描かせた。きっと家族揃って、新鮮な生魚の料理に舌鼓をうっているのだろう。
「ありがとうございます。樹京の街と住民の皆さんの素敵な生活の様子を心に思い描くことが出来ました。
是非、樹京の街の復興を成し遂げましょう。ミヤビさんと私たち舞芸者、それと観客の皆さんの力で!」
凛菜の声にミヤビがはい、と頷いたところで、凛菜の出番が近付く。
「それともう一つ……出来ればミヤビさんと一緒に、舞芸を披露したいのです」
「分かりました。あなたの樹京を思う真摯な願いは、きっと樹京を癒やしてくれるでしょう」
快く返事を返したミヤビに改めて礼をして、そして凛菜がミヤビと共にステージへと上がる――。
「いやぁ……凄かった、としか言えないね」
「うんうん。神が二人も!? って感じだったね」
凛菜とミヤビのステージを鑑賞し終えた観客からは、一様に二人の舞芸を讃える声が聞こえてきた。『御前披露』という雰囲気には最も相応しく、素晴らしい舞芸の披露であったといえよう。
「でもこれだけの舞芸者が集まっているんだし、せっかくなら別のミヤビ様を見てみたいというのは贅沢な望みかしら」
そんな観客の声に、他の観客もうんうん、と同意を漏らす。……そしてそんな観客の願いは図らずも果たされることとなったのであった。
「みなさーん、楽しんでるデスかー!? ワタシはめっちゃ楽しいデース!」
虹色に光る鍵盤を持つ芸器をくるくる、とリズムに合わせて回し、日向 千尋が観客へアピールを飛ばす。
「イェーイ! 千尋ちゃんサイコー!」
「ミヤビちゃんかわいいよー!!」
観客もノリノリで、ステージの千尋とミヤビへ声援を送る。先程までの荘厳な雰囲気から一転した、陽気というよりはアゲアゲなミュージック。葦原に持ち込まれたまったく新しい芸道は、今やしっかりと観客の心を掴んでいた。
「ミヤビちゃんも、楽しいデス?」
「ええ、とても。……不思議なものですね、知識としてどう立ち振る舞えばいいかなんて知らないはずなのに、身体が自然と動いてしまうのですから」
そう口にして笑ったミヤビからは、神のような厳かさは無く、代わりに見た目通りの少女らしさが出ていた。
「よかったデス! 観客さんにもミヤビちゃんにもバッチリ楽しんでもらえたら、私はハッピーデス!」
ミヤビの様子に気を良くした千尋が、猛々しいロックナンバーにさらに火をつける。妖しい炎が乱れ飛び、その中で舞うミヤビも、それを目の当たりにした観客も、どこか酔いが回ったように笑い、楽しいひと時を過ごしたのであった――。
「ミヤビィ、今度こそオレとデートしねぇか。
前もやった天照舞用の曲、葦原のパリピ達にも聴かせてやろーぜ?」
いつものチャラい様子で、ミヤビとの共演を望む藤原 陽に対し、ミヤビは返答の代わりにこう口にする。
「あなたは目の前の民に対して、何ができるとお考えですか?」
その声に、陽の表情がスッ、と変化する。
「……こんなひでぇ状況でも、前向いて笑ってる。そんな奴らに応えるには、最高にテンアゲなライブをするしかねぇ。
オレより芸が上手い奴はいくらでもいる、ケド、誰かを楽しませる事に一番力入れてるのはオレだし? それに何より? ミヤビィを一番笑わせられるのはワンチャンオレ説あるし?」
結局はいつもの調子に戻ってしまった陽へ、ミヤビがくすっ、と笑って言った。
「いいでしょう。舞芸に対する思いを強く持っていることはよく分かりました。
……そこまで言うからには、最も優れた舞芸を魅せてくれるのでしょうね? 陽」
「そんなのアタリマエだし! …………ってあれ? ミヤビィ今さり気なくオレの名前――」
「私が何か言いましたか?」
尋ねた陽に、ミヤビが普段のやや冷めたような表情で応える。そのまま背を向けてしまったので、陽はそれ以上問いただすこともできない。
「……やるっきゃねぇ!」
相手を楽しませるには、まず自分から――。陽は自分を鼓舞して、ミヤビの後に続く――。
ひらり きらり 舞い踊りましょう
天津 照らす 桜のように
使命 悲鳴 暗闇の空
黒き秘め事も あるでしょう
驕り 騙り 意地張り 怖がり 怒り 濁り 寂しがり 嘘ばかり
誰もが持つ感情 あなたも持っていいよ
黒を認め深紅に染まる 誇り高きミカドはそう 天照小町
ひらり きらり 舞い踊りましょう
天津 照らす 桜のように
ゆらり ふらり 震える霞
全て 詰めて 咲き誇りましょう
みやびやかに 想いを込めて
好きな気持ちを 叫びましょう
華乱葦原とミヤビを応援するメッセージを込めた歌を披露した陽が、最後の歌詞にある通りに心にある好きな気持ちをシンプルなメッセージとして発する。
「オレは! この華乱葦原が大好きだ! おめーも! おめーも! おめーらも!」
左から中央、右へ移動しつつ観客を指差しながら叫びをあげた陽が、最後にくるり、とミヤビへ振り返る。
「もちろん、ミヤビィのこともな! 今日のデートはフルコースだぜ! しっかり捕まってろよ」
「え? あなた一体何を――」
ミヤビの声を無視する形で、陽がミヤビを麒麟に乗せ、観客席の真ん中辺りまで飛ぶ。
「ワショーイ!!」
「きゃあああ!!」
そして麒麟から飛び降り、観客席へ飛び込む。いわゆる『ダイブ』というヤツである。
「おめーらしっかり運べよ! あそれMI☆YA☆BI! ウェイ! MI☆YA☆BI! ウェイ!」
陽が先導する中、観客がノリノリでミヤビを波のように、ステージへと運んでいく。
「わ、私はどうすればよいのですかー!」
悲鳴にも近い声をあげるミヤビだが、観客である民が実に面白おかしく笑いながら自分を運んでいくのを目の当たりにして、理解を得る。確かに、誰かを楽しませる事にかけては、全力であるようだった。
「……大丈夫か? まあその様子を見るに、楽しんできたようではあるが」
戻ってきたミヤビを見て、草一がさすがに心配の声をかける。髪はすっかりグシャグシャになってしまったし、顔には大量の汗が浮かんでいた。それでもミヤビから不満の声が飛んでこない辺り、ミヤビ自身も共演を楽しんでいた証拠であった。
「着替えが必要でしょうね。……朔ノ鏡はどうなりましたか?」
「それなら安心しろ、見事なものだ。まずは着替えを済ませてから見てみるといい」
安心させるような草一の声と表情に、ミヤビも納得してステージ袖へと引き上げていった。すると代わるように小鈴木 あえかが草一の下へと近付く。
「朔ノ鏡は便利です。ですが事ある毎に頼るようになっては、ゆくゆくは国の力を衰えさせる結果になりかねません」
「確かに言う通りだ。……その口ぶりからして、何か良い方法が?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、あえかが提案を口にする。話を終わりまで聞いた草一は苦笑しつつも、結構乗り気であるようだった。
「……まあ、俺がミヤビに怒られれば済む話か。分かった、その案でいこう」
着替えを済ませて戻ってきたミヤビを、草一が『朔ノ鏡』の下へ案内する。
「……!」
そして、鏡の中を見たミヤビが、言葉を失った。鏡の中の樹京は、まるでこれまでの災厄が無かったかのように元の姿を取り戻していたのだ。
「まさかこれほどまでとは……。これで樹京も元通りになりますね」
「ああ。……だがやはり、本来は国の力で治すのが常道であるし、これが常になってはいけないと思う。そこで彼らに協力してもらってひとつ、策を打ちたいのだが、力を貸してくれるか」
「? 私でよければ構いませんが……」
首を傾げつつも協力を約束したミヤビを、朔ノ鏡の後ろに立たせる。
「……よし、そのまま始めてくれ」
「はい……」
草一の意図が分からないまま、ミヤビが朔ノ鏡に触れ、力を発動させる。鏡がボウッ、と光り出し、鏡の中の世界が現実の世界に置き換えられるように書き換わっていく。しばらく続いた光が収まり、鏡が力を失う。
「……終わりました。これで樹京の町は元通りに修復されました。
ですが、民の心まで元通りになったわけではありません。一刻も早く民が安心できる暮らしを取り戻さなくてはいけませんね」
「そうだな、やるべきことはたくさんある。ミヤビ、決して無理はするなよ」
「それくらい分かっています。ですが今は、少しでも多く民のためにできることをしたいと思うのです」
そんなことを話しながら二人がステージへと足を踏み入れると、盛大な歓声に出迎えられる。
「美巫女ミヤビ様ー!!」
「あぁ、生の美巫女ミヤビ様だ……俺明日から生きれるわ~」
「な、何事です!? その美巫女ミヤビとは一体――」
聞き慣れない単語にミヤビが戸惑っていると、ステージに設置されていたモニターに映像が映し出される。それはミヤビが鏡の力で樹京を修復した時のものなのだが、明らかに加工が加わっており、鏡ではなくミヤビがもたらした光によって町が修復されたように映っていた。加えてミヤビにも加工が施されており、微笑みを湛えたその姿はなるほど、美巫女と表現するのが適切であるようだった。
「……!」
映像を見終えたミヤビが、キッ、と草一の方へ向き直る。あまりの鋭さに、草一も思わず視線を外してしまう。
「なんですかあの映像は! 私が私じゃなくなってます! 盛り過ぎです! やり過ぎです!」
「あ、あはは……」
「あぁぁ……私はこれからどうやって民の前に立てばいいのですか……」
木霊する美巫女ミヤビコールの前で、ミヤビはがっくりと項垂れるのであった――。
(美巫女ミヤビさんの微笑みが胸の内にあれば、この先大変な事が起きたとしてもきっと頑張れるはずです)
――ステージが盛り上がる中、一足先にステージを抜けたあえかは、小さなお社の前に立ち、そっと手を合わせる。
(穢ノ神様達との戦いで疲弊した現状では、神様と人々の歩み寄りなんて誰も耳を貸してくれません。……でも、人々に余裕が出来れば、きっと穢ノ神様達のことをちゃんと調べて、偲んでくれる人々が現れてくれるはず。
大戦後の妖怪と人間のように、神様達に寄り添ってくれる人々が現れてくれるはずなんです)
――その時までは、自分だけでもいい。
悪として立ち塞がり、けれど完全な悪になりきれなかった神様を慰め、祀ろう――。
こうして、『御前披露』は成功に終わり、樹京の町並みは元の姿を取り戻した。
それは正確には元の姿ではないのかもしれない。災厄があった事実は変えられないし、そこで受けた傷は決して無かったことにはできない。
だが、それでも町は生きている。そこに住まう民も動物も、生きている。
生きている限り、変わることができる。希望を胸に宿し、より良い暮らしを求めることができる。
元から育まれてきた舞芸と、新たに持ち込まれた舞芸の融合。
それは樹京を、ひいては樹ノ国をも生まれ変わらせようとしていた――。


