プロローグ



――華乱葦原　樹ノ国首都樹京　羅城門



　通常であるのならばアイドルに向けられる視線というのは一種の羨望のようなものだろう。

　もしくは興味と言ったようなものだろうか。

　嫉妬のようなものこそあれ、基本的にはマイナスなものは少ないだろう。

　しかし今回のPV撮影は通常の撮影現場と異なっていた。

　向けられる視線の多くは嫌悪に近いようなものばかり。

　中には値踏みするようなものや、ニタニタと獣欲を透かしたような笑みを見せるものすらいる。

「ほら、その毛をよこしな！」

　そして少しでも隙あらばこうやって毛狩醜女がアイドルたちの髪を奪おうと手を伸ばしてくる。


「………………」

　話に聞いていたとは言え、あまりの惨状に言葉をなくすアイドルたち。

「コシのあるライブ、ねぇ……。確かに髪にもコシやハリが必要とは言うけど……」

　毛狩醜女の伸ばす手をひらりと避けながらアイドルたちは苦笑を浮かべる。

「そういえば育毛シャンプーなのに名前が天使が生まれるってどういうことだろう」

　誰しもがこの話を聞いた時に思ったかもしれない疑問をアイドルの一人が呟いた。

「………………」

　誰しもがそう思ったかもしれないが、その問いの答えを誰も知ることはなかった。

　育毛剤ということから連想されるのは年配の男性のイメージが強い。
そのせいかとあるアイドルの脳内では天使の翼で空を自由に飛び回る頭のハゲたおじさんの絵面が浮かんだとか浮かばなかったとか……。



　何はともあれ、アイドルたちは無事にPV撮影を終わらせるべく、各々の役割を果たすのだった。

　果たして撮影が終わった時に全員の髪の毛が無事かどうかは今はまだわからない。

■目次■

1ページ　プロローグ・目次

2ページ　撮影開始
3ページ　ｖｓ毛狩醜女
4ページ　治安維持
5ページ　撮影中
6ページ　ｖｓ毛狩獅子女
7ページ　諍いはどんなところにも
8ページ　撮影終了

9ページ　エピローグ