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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

新世界を拓け! ヒロイック・クラリティ・プレリュード!

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新世界を拓け! ヒロイック・クラリティ・プレリュード!

リアクション

■パラダイスシアターライブ 夕方の部【1】観客へのアプローチ

 ステージでは、八重崎 サクラがウォーミングアップとして拳法の型見せをしていた。
 ちなみにまだライブは始まっていない。
 今回彼女が披露するのは、シャドー演武で、軸としては(無刀術)をベースにした【殺陣】である。
 そのため、格好は(戦着物)の上から【紅演舞着】を纏い、葦原の侍を想像させるものになっている。
 身体が温まったところで、サクラはスタッフに音楽をかけるよう、目配せする。
 流れてきたのは、格闘ゲーム音楽を軽く編集したものだ。
 それに合わせて、サクラは【ビートフュージョン】で小さく跳びながらリズムをとる。
 今回、対戦相手として想定しているのは、身長2m程度の長物の武器を持った男数人、だ。
 しかし、相手はステージ上にはいない。これをいかに存在するかのように魅せるかが、この演武の重要なところである。
 
 まず、サクラは1人の男に向かっていく。
 鋭く踏み込みながら、相手の胸に向かって直突きと見せかけて、スライディング気味に(足払い)する。
 男がバランスを崩し、倒れそうになるところをサクラは肘で打ち上げ、両腕を伸ばし、双掌打で敵を飛ばす。

 この演武に観客たちは、固唾を呑んで見守る。

 1人倒したところで、サイドステップで位置を取り直すと、相手が薙刀を振って攻撃してくる。
 サクラは後退しながら、左右に軽くかわす。
 ある程度かわしたところで、リズムに合わせて、相手の左腕を取って投げる形に持っていき
 そのまま顔を踏みつけ、2人目を撃破する。

 曲が間奏に入ると、敵と少し間を取りながら体勢を低くしてダッシュで接近する。
 接近してきたのがチャンスだと思ったのか、敵はここぞとばかりに武器を振るう。
 だが、サクラは急ブレーキをかけ、バックステップで回避してから
 大きめに飛び上がり、敵の顎へ脚を大きく振り上げて飛び蹴りをする。
 着地後、背当てで吹き飛ばし、前転を数回して距離を取り、半捻りで飛び上がって構え直す。

 観客たちは、サクラの演武から敵が見えてきたのか、時々「おぉ……」と声を漏らす。

 サクラは余裕の笑みを浮かべて、敵を軽く挑発する。それに乗った相手はサクラに向かって武器を振り下ろす。
 彼女は迎え撃つように見せかけ、奴を軽くいなし、その後ろで控えていた相手のみぞおち目がけて突進し、突く。
 そして彼女は跳び、後ろ回し踵蹴りを繰り出した。

 ここでさっきいなした相手を無視し、観客たちに向かって投げキッスでアピールする。
 観客たちは歓声を上げ、それに応えた。
 相手の殺気を感じたサクラは、身体を横にかわし、腕を取って引き寄せ、顔面に肘打ちする。
 そこから体勢を低くし勢いをつけ、顎に打ち上げ掌打で敵を転がした。

 最後にバク宙し、再び投げキッスで決める。
 観客席は拍手の音で包まれ、サクラの演武は終了したのだった。
 
◆ ◆ ◆

 泰河と同じように、新しい世界に楽しみを抱く芹沢 葉月は、緊張しながらステージに登場した。
 まずは挨拶と【グッドスマイル】で観客たちの視線を集める。

『芹沢葉月ですっ! ……え、えっと、今日のために作ってきました、聴いてください、君の隣!』

 葉月は【ストームエフェクター】を取り付けた【イナズマギター】で、勢いのあるロックナンバーを奏でる。
 前振りやタイトルとのギャップに、観客たちは慌ててルミマルを振るテンポを速めた。

『君の隣は私の場所じゃなかった
 あの人も私も大して変わらない気がするし
 じゃあ私でもいいじゃない』

 一番は「好きな人が他の子と付き合ってしまった」という内容で
 失恋のショックや可愛げのある範囲の恨み言が織り交ざったものになっている。
 共感を得やすいように、聞くだけでも頭に入っていきやすい具体的な表現で歌う。
 ここまでは順調だった。ところが――
 間奏に入ったところで、葉月が突然慌てる素振りを見せる。
 そしてマイクを使って、観客たちにお願いする。

『ごめんなさい、二番の歌詞全部飛んじゃいました! 半分ヤケクソながら立ち直って
 次の恋を探す感じの内容だったのは覚えてるんですけど……! もしよければ協力してくださいっ!』

 突然のお願いに観客席からは戸惑ったようなざわつきが起こる。
 集団心理が働いているのか、なかなか協力してもらえない。
 そこで葉月は補足する。

『単語やフレーズでもいいので、お願いします!』

 補足後、1人の女性から声があがる。

「自分が虚しい!」

 その声を皮切りに、女性が中心となってフレーズを飛ばす。
 たくさんの単語が聞こえ、混沌とした状況になっている中、葉月は聞こえてきた言葉をなるべく採用して
 頭の中で歌詞を作っていく。
 そして出来上がった歌詞を【エモーショナルプレイ】で場の空気を読みながら歌い、演奏する。

『あぁ いつまで引きずるの
 君を想い続ければ 続けるほど むなしいだけ
 それなら いっそ
 もう君なんて知らないっ
 君からもらった 私が送った
 アドレス メール 写真も全部
 全部 消して
 生まれ変わるんだ 新しい私に
 探そう 次の恋を
 ステップを 踏むように
 一歩ずつ 進むんだっ』

 アドリブでできた二番を観客たちは、嬉しそうな表情で聞き入る。
 自分たちで投げた言葉が、歌となり会場に響くのが嬉しかったのかもしれない。
 葉月も協力してもらえたことに感謝しながら、気持ちを込めて歌う。
 こうして彼女は、観客たちと一体になるライブを作り上げたのだった。

◆ ◆ ◆

 行坂 貫は、カボチャの被り物を脇に抱えながら、ここまでの経緯を思い返していた。
 ある日、グループメンバーと【カボチャギター】の使い方について話をしていたら、変な方向に盛り上がってしまい
 最終的には「カボチャライブ、期待してる」と言われ、今に至る。

(あいつら、自分はやらないからって結構好き放題言ってくれたな)

 笑顔で期待の言葉を口にしたメンバーたちの顔が浮かぶ。

(まあ、やるって言ったからにはやるけどな)

 ドアをノックするように、相棒であるカボチャの被り物を叩く。
 コンコンと音が返ってきて、その丈夫さがうかがえる。
 彼は相棒の返事を聞いたところで、ステージに立った。

『変わったパフォーマンスだが、少しでも笑ってくれると嬉しい』

 そう言うと、彼は曲に合わせて【カボチャギター】を振り回し始める。
 演奏ができない代わりに、【ビートフュージョン】を用い、派手に回す。

(頼むから笑ってくれよ……
 笑ってくれなきゃ、ただ頭のおかしいやつにしか見えないぞこれ……)

 そう思いながら、彼は一心不乱に【カボチャギター】を振り回す。
 彼の懇願に対し、観客席の反応は、リズムに乗ってルミマルを動かしていた。
 終わりが近づいてきたとき、貫は【カボチャギター】を置き、カボチャの被り物を被る。
 相応の重さを感じながら、狭い視界で【カボチャギター】を手繰り寄せる。
 その様子が面白かったのか、観客席からは軽く笑いが起きた。
 そして、曲が終了する瞬間、かぼちゃの被り物で頭突きし、【カボチャギター】を壊す。
 それは、バラバラになってあらかじめ用意してあったテーブル上に散らばる。
 観客たちはそれで終了だと思い、歓声を上げる。
 だが、貫にとってここからが本当のパフォーマンスだ。
 被り物を取り、マイクで観客たちに伝える。

『悪いがこれで終わりじゃないぞ、こっからが本番だ』

 彼のアナウンスに会場がざわつき始める。
 同時に、スタッフがステージに移動式のキッチンや大きめの寸胴鍋を用意していく。
 準備が整ったところで、貫はヘッドセットマイクを装着し、再び話す。

『さっき壊した【カボチャギター】で、今からカボチャのスープを作る。出来上がったら皆に振る舞う』

 貫の言葉に、観客たちはルミマルを振りながら大きな歓声を上げて応えた。
 喜びの声が聞けたところで、貫は【鉄板トーク】で面白おかしく楽しげに、作り方の説明をする。

『まずは、【カボチャギター】の可食部を適当な大きさに切りそろえる』

 調理している間、観客たちが退屈しないように【ゴーストダンサーズ】が、調理過程にあわせて踊る。

『鍋にバターとスライスした玉ねぎ、カットベーコンを入れて炒める。
 ベーコンの代わりにウインナーとか入れても美味いかな』

 鍋に先ほど挙げた食材を入れたあと、水と調味料、カボチャを投入する。

『ここからカボチャが柔らかくなるまで煮込む。このとき何かできると良いんだが
 目を離すわけにはいかないんで、しゃべるぐらいしか出来ないな』

 せっかくのカボチャライブなので、貫はカボチャに関する話を展開する。
 ある程度話し終えたところで、おたまでかき混ぜながらスープの様子を確認すると
 カボチャがちょうどいい柔らかさになっていた。

『カボチャが柔らかくなったら、一度火を止めてブレンダーで滑らかになるまで混ぜる』

 鍋にブレンダーを入れ、適度に混ぜると、貫は牛乳を加え、火をつける。
 そしておたまでゆっくりと下から上にスープを混ぜながら、温まるのを待つ。
 匂いがしてきているのか、前列の観客たちは、顔を少し上げ、鼻を動かしている。

『ちなみにこの状態で火を入れずに混ぜれば、冷製スープになる』

 補足したところで、スープが完成する。
 出来上がったあと、紙コップに入れて観客たちに配っていく。
 スープはマルベルたちにも配られた。

「…………ありがト」

 マルベルは、小さい声で貫にお礼を言う。
 椛音は、短いギター音で感謝のリズムを刻む。
 スープが全員に回ったところで、貫は最後にこう言った。

『スープ飲んであったまったら、この後の皆のライブも楽しんでくれよ』

 その場にいる全員が、声をあげながら乾杯するかのようにコップを掲げる。
 この時間は一時休戦のような雰囲気で、皆カボチャスープを味わったのだった。
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