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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション公開中!
ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション

【6:決着! でいらだぼっちとの対決】


 そうして、ぼっち座とふぇすた座との対決の明暗がはっきりした頃。
 そんな中の様子を、芸小屋から出てきた観客たちの話の様子から知った弥久 風花は、その成果を盾にしてでいだらぼっちに向けて口を開いた。
「貴方の一座はとんだ無様を晒した様ね! 威勢が良いのは口だけだったのかしら?」
 ふぇすた座に言いたい放題言ったんだから言い返されるのも道理だろう、と風花の言葉による攻撃は容赦がなかった。
「都会に行って洗練されることを垢抜ける、何て言うけど、寧ろ垢が増えてるようね! ああ、そう言えば私の故郷の小噺に、大柄な人を謙遜して表現する時に「大きく見えますが、半分は垢で御座います」何て言う台詞もあったような……」
 とある落語の話に出てくるセリフを引用し、忌々しいとは思いながらも、自分へのことだからと無視できないで聞いていたでいだらぼっちに向かって、風花は尚も続ける。言葉には刺や敵意があちらこちらから滲んでいたが、そもそもぶつけられた言葉が無礼なものだったのだ。風花は容赦をするつもりは無いようだ。
「あら?あんな所に見上げるほどの……、垢の山!」
 大げさに言って投げられた視線が向かったのはでいだらぼっちだ。観客達がつられるようにして視線をでいだらに向けたところで、口上は続く。
「一座揃って日々の磨き方が足りなかったのね、汚れが目立つわ!!」
 垢が抜けないと垢が落ちていないということをかけ、ぼっち座の修練不足や品性、そしてそんな座の座長の力不足をあからさまに揶揄するその言葉に、でいだらぼっちの目が剣呑になり「てめぇ」と低い声が唸る。
「言ってくれるな……あぁ?」
 岩のように大きな体躯がずいと見ろしてくるだけで恐ろしいが、風花はどこ吹く風だ。仲間を悪く言われて怒っていたのもあるが、風花にはもう一つ狙いがあった。
 態度も恐ろしいが、でいだらぼっちは大口を叩けるだけの実力者であるのは、これまでの芸技でわかっている。そんな相手に、序ノ口が啖呵を切った娘がいるらしい。その娘のいるふぇすた座の芸とは、と、興味を引くことだ。
 風花の狙い通りそんな噂を聞いた観客が野外ステージへとやって来ると、そこでは続いて桐山 撫子がでいだらぼっちに向かって一方的に話しかけている最中だった。
「樹京と言えば舞芸の名門。其処で名を残したのであれば、座長はそれなりの舞芸者だと認められるね。ただ、相手を潰す……陥れる意図での舞芸では、あたし達に勝てないと思うよ?」
 さらりと言われた一言に、でいだらぼっちが敵意を強めたが、撫子は構わずに続ける。
「何が原因か詮索はしないけど、勝算が無い……そう察した時こそ、舞芸は相手を潰そうとする方向へ向かうのが常なんだよ。そう……暗黙の内の敗北だね。特に……格下に牙を向けるのは……」
 あからさまに、ぼっち座のやり方は自ら負けを認めているやり方だ、と指摘という形のようでいて煽っているように聞こえるこのセリフに、でいだらぼっちの周囲の気温が怒りでどんどん下がっていく。観客達がはらはらしながら――一方で面白がるようにしてその言葉を聞いていると「終わりにしない?」と撫子は続ける。
「まぁ……一度は……一時は劣るとしてもだよ? 創意工夫と試行錯誤でより優れた舞芸を創り上げる事が……“王道”じゃないかな?」
「何が言いたい」
 苛立ちも露わにでいだらぼっちがとうとう口を挟むと、撫子はにっこりと笑って応じる。
「今、あたし達が演じるべきは、座に集まって頂けたお客様に純粋に楽しんで……喜んで頂く事だよ!」
 そう言って、撫子は自らのライブを開始した。
 自作自演歌手、所謂シンガーソングライターである撫子の披露する曲は『機械仕掛けの神~デウス・エキス・マキナ~』だ。あえて純ロックに近い形の楽曲は、疾走感と共に風のように駆け抜けていくようなロックナンバーだ。
 
♪ 運命の歯車が動き出す 織りなす鼓動のスピリット
 蒼空を翔ける剣を手に 今 世界の創造に立ち向かう

 迷い戸惑い悲しみ 暗闇に墜ちないで 自分の心に問い掛けて
 答えの意味だけ闘いがある 命の音色……

 生きる輝き放つ剣 僕らは目覚めるフロンティアへ
  さあ 戦火の悪夢を断ち切ろう ♪

 まだアイドルの認識も広まったばっかりの葦原で、和風アレンジではない純ロックはまだ広く受け入れられていないと言う点で不利だろう。その音を再現するにしても限度がある以上、不快と捕らえる者もいるかもしれない。が、あえてわかっていて選んたのは「原点」を示そうと思ったからだ。
 聞いてくれた人にインパクトを残せれば、これからの新来芸道にもより広がりを作れるのではないか、と撫子はあえて挑むようにして続ける。

♪過ちを撃ち抜く覚悟を胸に 真っ直ぐな想い加速する
 君の強さへ変わって行く 夜明けの眩しい光が導く

 渡した涙が虹色に煌いて 終末に奇跡が舞い降りる
 灯した勇気……明日を掴み取るんだ ♪

 時に音楽は「活力」だ。お客様に届けるのは勿論、舞芸者のあり方もまた活かせればいい――撫子なりの「活心流」は、万人受けという形ではなかったものの、聞いていた観客達に「ロック」というものを改めて教えるのだった。

 そして、そんな撫子に続いて舞台に上がり、また違うロックの形を披露するのは風花だ。
 傾奇栗鼠絆で装飾した傾奇碁漆句炉利衣太班駆――ボンデージ要素を端々に取り入れた拘束感を抱かせるロック調の服装で舞台に上がった風花は、手にした大大祭和太鼓を打ち鳴らしながら、自らの持ち歌である『跳ねっ返り娘』を歌い始めた。

♪ 何時だって抑えるモノ
 何処だって真っ直ぐにしようとするモノ
 襲ってくる

 それが良いんだよって
 こっちが近道、楽な道、正しい道
 そんなの知るもんか! ♪

 六訓楼屡の曲調に乗せ、傾奇奢宇斗で力強く歌われるその歌は、怒りをぶつけるようにして舞芸で対抗してくるでいだらぼっちに負けじと力一杯に歌って演奏する。
 体格差のあるでいだらぼっちに対抗するには、迫力に呑まれたら勝機はない。でいだらぼっちが怒りによって迫力を増していることも想定内だ。その程度で怯むくらいなら、最初から挑発的なことを口にはしない。

♪  聞かせなくて良い! 連れてってくれなくて良い!
 自分で見たいんだ! 納得行くまで行きたいんだ!

  走って跳んで転んで倒れても! これが私の道! ♪

 自らの曲と同じように、自分の道を突き進もうとする風花の歌声と、散羅李図夢による激しくも見えそうで見えないと言うもどかしさとで興奮を煽るその踊りとが合わさって観客を盛り上げ、でいだらぼっちに拮抗する。
「絶対に、負けたりしないんだから!」

「ち……っ」
 そうして、自らが芸を披露しても観客全てを奪えなくなってきたのに、次第に苛立ちと覚え始めたでいだらぼっちに対して、続いて舞台に上がったのは夢月 瑠亜だ。
 伝馬に乗って華やかに舞台へと登場した瑠亜は、妖の色目で観客の目を女性の色気で自身に惹きつけると、馬から飛び降りると舞台の中央へ躍り出る。
「さあ……そろそろこちらも本気を出していきますよ」
 そうして、残る観客も再びふぇすた座へと取り返すべく、ロック調の激しいステージから一転、瑠亜の披露する歌は『切なき桜乙女』――和風のバラード曲だ。
 動きに合わせて仄かな光がぽつりぽつりと舞う蛍火舞いと、桜の香りを焚きしめた着物とあわせて幻想的な空気を作り上げながら、桜散る季節の切ない恋心を表現する。
「私達はあなた達みたいにぼっちじゃない。皆で観客を喜ばせることに喜びを感じるんです」
 曲の間奏にそうしてでいだらぼっちへと言葉を投げかけると、曲のフィナーレの近づくのに懐から緋蒼扇を取り出して、天津舞を舞い始めた。
 ふわりと一瞬浮遊した瑠亜の舞に合わせて、絹と見間違うような美しい和紙に、緋と蒼の優美な模様があしらわれたそれは、若葉色の房がゆらゆらと揺らす。神々の祝福を纏ったその舞は、扇の美しさを合わせて更に優美さを見る者へと感じさせる。
 ゆるりと流れるようなその動きは、思わず時が止まっているのではないか、と思わせるほどに神聖な空気があり、空を飛ぶとは思ってもみなかったらしいでいだらぼっちも一瞬、目を瞬かせてその動きを止めた。
「……っ!」
 瑠亜の舞が終わり、観客席から大きな拍手が上がったことで、ようやくでいだらぼっちも一瞬自分が動きを止めていたことに気付いて「ちって」と舌打ちすると、自身にではない観客の興奮の様子に眉を寄せた。
「くそっ、こっちを見やがれ……!」
 でいだらぼっちは苛立ちと焦りの両方を滲ませながらどしんどしんと地響きを起こしつつ叫んだが、乱れて粗野になった芸は、観客達の心を離していくばかりだ。
「あんなやつらに、負けるはずが……!」
 そうして憤るでいだらぼっちには、足下は見えていなかった。ふぇすた座の舞台の上が何故か空っぽで、なかなか次の舞芸者が出てこないのにざわついている。
「どうした、次は誰だ!?」
 そのことにようやく気付いたでいだらぼっちが叫んだその時だ。でいだらぼっちの舞台の裏から飛び出したのは死 雲人だ。
「俺は……ここだ!」
 伝馬に乗って旗揚げロックを奏でながら駆ける雲人は、驚く観客を達を前に二つの舞台の中央付近へと炎天劫火で眩い光を炸裂させて注意を引くと、その炎で空気を熱くさせてさながら炎を操る炎馬のごとき演出と共に自身の舞台の上へと突撃した。
「デカいぼっちだがなんだか知らんが、一人ぼっちの癖に目立つのは生意気だ。それに光凛にあんな侮辱を言うのも許さん」
 俺の無許可でこのような行動は大罪だ。そんな憤りを気合いに変えて駆けると。そんな伝馬に乗る雲人の持つ夜桜六弦琴の月と桜のプリントが、走る馬の風に振られた孔雀の袖飾りと共に見る者の視線を惹き、観客達の関心を吸い寄せていく。
 その道中ででいだらぼっちから観客の視線を奪っていった雲人は、舞台に到着すると同時に天下御免羅舞存句を歌い始めた。
 堂々と演じられるその和風ラブソングは、曲と踊りの両方で伝馬――炎馬を一層魅力的に見せ、観客達を沸かせる。

♪ 前進する人々を導き突き進む炎馬
 人々に勝利と団結をもたらす!
 熱き魂を持つ人々達の 志と共に炎馬は駆ける!
 前進し道よ開け! ♪

 そうして熱気に満ちた舞台の最終ラウンドは唐紅六訓楼屡での激しい曲だ。先ほどまでの葦原風の楽曲とは打って変わって、地球のロックと葦原の伝統とを組み合わせたその曲は、耳障りの良さと馴染みの深さで盛り上がりを見せていた観客をまた違った感動へと誘導していく。
 誇り高い炎馬が時代を導こうとしているかのような演技を、と雲人は高く歌声を上げた。

♪ 進化した新時代が到来
 全ての葦原は人々の誇り高き楽園にして宝!
 それこそが我らの希望なり! ♪

 炎馬がこの地球と葦原……2つを組み合わせたライブという新時代へ人々を導く。そんな自信に溢れた歌は、共感としてはまだまだ完璧とはいえないまでも、その第一歩として拍手によって迎えられたのだった。


 そうして熱く盛り上がった舞台を引き継ぎ、舞台へ上がるのは天導寺 朱だ。
 でいだらぼっちの用に大きく迫力のある演技は確かに人々の注目を引くには有効だ。だが、見えやすいことだけが優れた芸とは限らない。それを証明するかのごとく、朱の演目はでいだらぼっちとは真逆のニュアンスを舞台に与えた。
 夢妖の宴技により、片手は宵鬼の扇子、もう片方に枝垂彼岸を持つと、青い炎をゆらゆらと周囲に舞わせ、鮮やかな紅の傘との好対比で観客たちの視線を引く。
 しかし最も観客達の関心を引いたのは、その扇や傘を旨く使った散羅李図夢だ。
 くるりと回り、あるいは激しく手を揺らし、と体を動かしながらも、その瞬間瞬間で扇が顔を隠し、傘が表情を覆う。そのくせ、口元や頬の輪郭、あるいは片目がちらちらと狭間から覗き、見せそうで見えないその顔はいかなるものかと目がついついと追いかけていく。
 全部が見えている、あるいは全部見えていないよりもほんの僅かに垣間見える、というのは人の好奇心を誘うものだ。
 朱の狙い通りに人々からの注目を集めたのを察しながら、舞がクライマックスになり、その好奇心と期待が最も高まった瞬間。それを見計らって、大きく手を振って扇と傘とを外向きに広げて見せ、その中性的な美少年である朱の顔が観客に向けられた。
 男女どちらでもない危うさが微笑むその華のかんばせに、ほう、と観客から感嘆の息が漏れる。
 ようやく現れたその顔の艶やかで色のある魅力は、舞を更に彩って、注目していた観客の心を掴んで離さない。
「見えそうで見えない、そんなところに人は注目してしまうのぜ」
 朱の言葉の正しさは、演技を終えた瞬間に上がった歓声が証明していた。


「さあて、次は俺達の番だな」
 そうして観客達の注目のほとんどがふぇすた座へと向けられている中、生徒たちの最後を飾るのは春瀬 那智社 狂志郎日辻 瑶の三人によるユニット「百歌繚乱」だ。
「半端者なんて言われて、流石に黙ってる訳にはいかないよな」
 時間は僅かに遡り、雲人の演舞中の舞台袖で、那智がそう口を開くと狂志郎がぱしんと自らの手を鳴らす。
「半端者上等、田舎もん上等。こちとらこの色町で、桜稜郭一の神楽座を観て育ってンだ。――その鼻っ柱ごとぶっ潰してやらぁ」
 そんな気合い十分な狂志郎に頷きながら那智も再び口を開く。
「確かに、俺達はまだ葦原に来たばっかだし、舞芸者としてもアイドルとしても一人前とは言えねーけどさ。音楽を好きな気持ちや、聞いてくれる人を笑顔にしたいって情熱は、ここにいる皆誰にも負けてねーよl」
「うん」
 その言葉に瑶も頷いて、同じように口を開く。
「確かに俺たちは未熟かもしれない。でも、だからね、最高のライブにしたいんだ」
 その言葉に二人も頷くと、舞台を降りる雲人と入れ替わりに三人は上って行った。


「どれだけ技術があっても、自分が楽しんでなきゃ意味ないぜ? 身も心も熱くする本物の音楽、俺達が教えてやるよ」
 舞台に上がったのと同時にイントロが流れ出すと、那智は挑発的にそう言って観客と座長との意識を引き付けると『灼華繚乱』を歌い始めた。
 明るく弾けるような曲調の和風ポップのその曲は思わず身体を動かしたくなるようなリズムと、硬派なイメージの歌詞とが融合する歌だ。
  
♪ 赤く 紅く 燃え咲け華よ  刹那なぞ幻と色鮮やかに ♪

 そんな那智の歌声とともに舞台を演出するのは、狂志郎と瑶の舞だ。狂志郎の宵鬼の扇子が翻るたびに青い炎が周囲を舞い、同時に蛍火の衣の周囲にも炎が浮かぶ。蒼と赤の二種の炎が三人を煌煌と照らす中で、瑶もまた同じように蛍火の衣で周囲に炎を浮べつつ、散らすのはドリディナフラワーの花弁だ。次々と零れる花弁が、瑶の踊りに合わせるかのように散り、狂志郎の炎がそれを浮かび上がらせる。
 炎と花の対照的であり、だからこそか不思議な美しさを醸し出す二人の、それぞれがそれぞれに踊りながら同時に互いの呼吸をあわせるべく神経を注いだその演出を、二人の踊るその足音や、衣擦れに扇の揺れまでを拾い上げ一体感を作り上げていく。
 曲はAメロからBメロと続き、サビを経て間奏に入っても三人の休む気配はなく、演出は止まらない。
 那智が赤染の着物を翻しながら、火焔白鳥を使った殺陣を披露して観客の視線を引く間、それにあわせて狂志郎、瑶の浮遊身転は、空中でくるりと回転する動きで那智の剣を避けているかのように動き回る。その一連はまるでひとつの演目のように舞台を華やがせたが、そこで終わりではない。
 ひゅっと那智が刀を振り上げたその動きにあわせて、空中で扇子を翻す狂志郎の生んだ青と赤の炎が中空で踊り、その光が那智の刀身を赤く照らさせ、振ると燐光が散った。そこへ瑶の桜花招来によって現れた葉安平が舞うと、まるで那智の刀身が花吹雪を呼んだかのように観客せくからは見えた。
 そうして満開の光と炎の花が散る舞台の上で、ひらりと一閃させつつ刀を納めれば、続くCメロからはその花弁が風に煽られてゆっくりと地面へ落ちるように、テンポが穏やかなものとなっていく。興奮していた客たちが、それによって幾らか意気消沈しているようにも見えた。
 ふぇすた座の公演にあてられて、もっと興奮が欲しいという欲求が止まらないのだろう。そんな舞台全体の空気に、那智は力強く笑みを浮べる。
(はは、残念そうな顔してるお客さん、安心してくれよ――まだ終わりじゃねーから、さッ!)
 内心での合図と共に一転。Cメロからラストのサビに入ると当時、那智の炎天劫火による眩い光と、続く炎に合わせて狂志郎と瑶の酒鬼乱舞の炎が混ざって舞台の上で燃え盛る。
 
♪ そして どうか 叶うのならば この想い焼きつけてくれ 君に ♪

 激しく燃え上がった炎に負けない青春シャウトを効かせたサビの盛り上がりに会場は沸き立ち、曲の終わると同時に膨れ上がった歓声は、観客たちの意識を完全に捕らえている。

 ぼっち座の座長、でいだらぼっちは、その後も体格を生かした芸を見せ続けていたが、ふぇすた座の一同が演じる千差万別の個性と迫力、何よりも観客たちと一緒に盛り上がりたい、という気持ちの前には力及ばず、とうとうその動きを止めてはあ、と深く息を吐き出した。
「くそっ…………俺の、負けだ」
「座長!」
 その言葉に取り巻きたちが驚いた声を上げたが、でいだらぼっちは不思議とさっぱりしたような顔で苦笑し「見ろよ」と観客席を見渡した。興味を持ってきた者も、元々は冷やかしに来たのだろう者たちも関係なく、ふぇすた座の公演を見る観客たちの表情は皆、興奮や驚きの中に必ず同じ感情が見えている。
「……楽しそうにしてやがる」
 そういうものを随分長い間忘れていた気がする。でいだらぼっちはまぶしいような気持ちで、再演を乞う観客たちの熱気に目を細めたのだった。
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