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「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ふぇすた座、こけら落とし!

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ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション

【5:魅せろ ふぇすた座の華】


 同時刻。
 芸能小屋の内側でもまた、ぼっち座の取り巻き相手に勝負の真っ最中だった。
 勝負といっても、外が激しく派手に賑やかに、といった演目が行われている間、こちらは静かに印象的な舞台が続いている。
 今美しく物悲しい歌声を響かせながら舞台に上がっているのは、薄氷 鬼月だ。
 冷ややかな清く美しい舞いは、決して焦がれてはいけない相手へと焦がれ、実らせる事が叶わない想いを乗せて、見る者を切なくさせる。
 許されないならば、ただ思い続けよう。たとえ受け入れてはもらえなくとも構わない。ただ、思い続けることだけは許して欲しい――そんな、静かな悲しみと激しさとの入り混じったような深い恋情を歌う声に合わせ、隠れ身の術で姿を隠しながら演奏を行っているのは不知火 和夢 だ。野菊の漆筝から奏でられる繊細な音色はより悲しみの深さを観客席へと響かせて胸を刺した。
 着物の袖で時折目元を隠しながら、舞う姿は涙を堪えているように、そして冷ややかな舞いはあえて押し殺した想いをひしひしとその所作に滲み出させた。
 思っているだけで良い、けれどそれが決して幸せな筈がないのだ。思いを返して欲しいと願う気持ちを殺すしかない苦しみがさりげない動きに現れ、観客席からはすすり泣く声が聞こえてきた。
 そうして踊っている間にも、思いは募って次第に俯きがちになると、ついには舞台にしゃがみこんだ。とうとう涙を耐えられなくなったのだ、と観客たちが心痛に眉を寄せた、その時だ。
 その動作を合図にしていた和夢が、雨芸で舞台の上へと雨を降らせた。
 しと、しとと鬼月が降らせるその雨は、柔らかく優しい音で鬼月の頭上から包み込んでいく。まるで空から降る涙のようなそれに、女性に扮する鬼月は顔を上げ、一瞬唖然としながらも次第にその表情を変えた。
 驚きが緩み、その口元がゆっくりと泣き笑いのようなそれへとなっていく。ああ、この雨は慈悲なのだ。涙さえ素直に流せない自分のために降った雨だ。この雨の中ならば、涙を流したところで誰にも気付かれない――神様は自分を哀れんで、泣き場所をくださったのだ。
 そう感じれば、悲しみに張り裂けそうだった心は緩が緩んでいく。それを示すように、和夢の演奏も切ないものから柔らかで優しい、暖かな曲調へと変化していった。
 切なさが、悲しさが消えたわけではない。それでもこうして今だけでも泣く事のできることへの感謝を、旅巫の舞いに乗せて舞う。
 物語だけなら、ありきたりな切ない恋物語だ。新鮮味はないかもしれない。けれども何故ありきたり、と呼ばれるのかといえばそれだけ多く描かれてくるだけ、求められてきたからだ、とも言える。そういう話が好まれてきた、という長い時間があるのだ。
 目新しいものは確かに惹かれる。けれど時には理解されず、あっさりと飽きられたりもする。勿論そこから生まれて来る世界もあるが、ただ「新しい」というだけの力に頼るぼっち座の未熟者たちに、見慣れたものの良さを教えてやる――……というのが鬼月たちの思惑だ。
(さて、お客の反応は如何かな?)
 舞台の引き立て役に徹した和夢が観客席を伺うと、そんな鬼月たちの思惑通り、演じられた恋の物語は年代も超えてその胸を打ち、切なさと感動とで目を潤ませながらお客たちからは最初は小さく、しかし次第に大きな拍手が広がっていった。
 その拍手の大きさこそが、ありきたりな物語の持つ共感という武器が通じた証明だ。鬼月は客席へ向けて頭を下げながら、舞台袖の和夢とそっと目線を交わして、客に見えないようにお互いに不敵に笑って見せた。


 そうして次々と行われる演目に、観客席は様々な盛り上がりを見せている中加宮 深冬ノエル・アドラスティアは舞台ではなく、観客席側でそっと状況を伺っていた。あえて公演には参加せず、桜稜郭知識を利用して普通の華乱葦原人、それもぼっち座のファンのふりをして渡り歩いていたのは理由がある。
(ふぇすた座のこけら落とし公演、同時にぼっち座との対決もある大事な日にたくさんの黄泉憑きが現れて、ふぇすた座のアイドルが対応に出向く羽目になる……?)
 いくらなんでも出来すぎではないだろうか。ふぇすた座が不利になるように仕組まれたのではないか、と、二人は疑っているのだ。
(今回黄泉憑きが発生した場所で、樹京から来た陰陽師が何かやっていたそうだし……その陰陽師が原因?ぼっち座は元々樹京に居たそうだから、その陰陽師と関係があって、グルなのかも……?)
 とはいえ疑いはあくまで推測だ。先ずは真実を確かめなければ、ということで深冬が接触を試みたのはぼっち座の舞芸者だ。樹京では鼻つまみ者だった彼らはファンにもてはやされる経験に飢えている筈、と近付いてわざとらしく弾んだ態度で声をかけた。
「流石樹京の舞芸者様! ふぇすた座なんかイチコロですね!」
 そうして持ち上げて警戒を薄めさせ、さらには差し入れとして持ってきた飲み物をわざと自分の着物に零して色気を出し、男性の下心を擽って誘わせれば、楽屋に上がりこめるかもしれない――恥ずかしさと怖さを押し殺して誘いをかける深冬に対して、ノエルの方は大胆に色仕掛けで聞き込みに回っていた。
 ぼっち座のような集団は女の子にモテないだろう、ということで、自分の大きな胸をちらちらと眺めてくる男を標的にしてそそっとさりげなく近付くと、意味ありげに視線を上げて微笑みかけた。
「ねえ、このままコッソリ二人で抜け出さない?」
 と妖の色目で誘惑し、人ごみに押されたふりをして胸を押し付ければ、ころっといかないはずがない。幸い半妖だからと選り好みするようなタイプではなかったらしく、直ぐに鼻の下を伸ばした男に内心で笑いながら、情報収集にいそしむ。
 そうして二人で情報を探ってみたが、男たちに誰かと共謀しているような雰囲気はなく、その態度や言葉の端々から単に今回の件が偶然重なっただけであったことが判ると、二人は心配が取り越し苦労であったことに安堵して、あとは観客としてふぇすた座の公演を楽しむことにしたのだった。



 さて時間は僅かに戻り、舞台の上ではまた趣向が変わって橘 樹のトークが行われていた。
 折角立ち上げたふぇすた座の危機をなんとかしなくては。されど舞も歌もさほど自身がない、ということで選んだそのトークの内容は、とある作り話だ。
「巨大な怪物に食い殺されるって、物語としてはよくあるけど、想像してみるだけでも怖いよね……こんな話知ってる?」
 視線をするりと巡らせながらの妖の色目で観客たちの注意を引き付けると、知り合いと噂話をするような自然な語り口で、しかしどこかひんやりとした声色で語り始めた。
 とある所に、まともに働くこともせず、他人から手当たり次第に金品を奪い取って生活していたある男がいた。
「自分には恐ろしい怪物が味方に付いているんだぞ!」 と法螺を吹き、でっち上げた証拠品を見せつけて人を脅して回っていた男は、くつくつと陰で笑っていた。
 怪物が味方に付いている、などとは大嘘で、名前も適当にでっち上げた架空の怪物だ。
 そんなものに騙されて怯えるなんて馬鹿な奴らだ、と笑いながら、その夜もいつものように、カモになりそうな人間を探していると、ちょうどよく人の良さそうな男がいた。
 いつものように脅しをかけると、相手はすぐに怯えたように身を縮ませた。
「おお怖い。その怪物の名前は何と言うのです?」
 震えながら言う相手に気を良くし、男はいつも法螺話につかっている怪物の名前を上げて、これが証拠とばかりに鈴を鳴らしてみせると、相手は突然「ほう」と冷たい声を出した。
「その名前、ここいらの沼に住む主の名前と知ってたかい?」
 態度の変わった相手に男が驚いていると、相手はずいと近づいて男の顔をのぞき込む。
「沼でひっそりと暮らしていたというのに、おまえさん、よくもその名前を使って随分と悪事を働いてくれたね」
 その言葉に、男があっと声を上げたときにはもう遅い。相手はゆっくり膨らんでいくと、ついには大きな蛇の姿を現した――
 樹がそのタイミングで飛炎を舞わせておどろおどろしい空気を演出留すると、知らず知らず引き込まれるようにして聞いていた観客たちが、その臨場感にびくりと体を竦ませる。
 そこへさらにアイスフィールドの冷気が漂ってきたのだから、観客の恐怖、そして同時に話への関心が高まっていく中、ぱっくりと口を開ける蛇の動きを手で模すようにしながら「男はそのまま大蛇にひと呑みにされてしまったのさ」と樹は話を続ける。
 そうして人に化けた大蛇は、見事、自らの汚名を晴らし、男は自らの悪事の天罰を受けたというわけである。
「自分のやるべきこともやらずに、強い存在の威を借って他人に危害を加えてると罰が当たるってことだね。怖いなあ、こうならないように気をつけなきゃ」
 最後はちらりと視線を動かし、わかりやすくぼっち座への皮肉を乗せると、それに気づいてぎりぎりと歯噛みする取り巻きたちを後目に、会場の拍手を受けて樹は一礼と共に舞台を後にしたのだった。


「くっそ、あの野郎!」
 樹の皮肉に煽られたぼっち座の取り巻き達は勿論黙っているはずがない。すぐに観客を取り返そうと舞台の上で激しく踊り始めたが、元々あまり修練を積んでいないような者たちである。
 相手を落とそうとばかりすることで一層その粗が目立ち始め、新しさだけではそろそろ観客の興味を引くのにも限界が近づきつつあった。
 そこへきて、ふぇすた座の舞台に上がったのは黒瀬 心美である。
「ふぇすた座のこけら落とし公演にようこそ!」
 第一声で観客へ向けて心美が声をかけると、わっと歓声が出迎える。これまでの演目で観客達のふぇすた座への心証はかなり良くなっているらしいのに、心美は内心で小さく安堵を浮かべた。
 ぼっち座とのライブ対決は、もちろん負けるつもりはなかったけれど、勝負というのはおまけに過ぎない。ステージというのは、そこに上がるアイドルと見てくれるお客たちとが一体となって思い切り楽しんで場を作るのが本来の姿だと思っているからだ。
 今、勝敗の域を分かれて会場は熱気に満ちているなら、十分に楽しいライブを行えそうだ。そんな晴れやかな気持ちと共に、心美はその気合いを言葉にして叫ぶ。
「一生忘れられないぐらいの、熱く激しい舞芸を心に刻み込んでやるよ! 身も心も燃え尽きる覚悟はあるかい?」
 応! と応じる歓声が響くと、心美は野菊の漆筝を爪弾いた。
「さぁみんな!ついておいで!!」
 そうして始まった曲は心美の持ち歌『紅の誓い』だ。名前の通りの熱い歌詞、そして青春シャウトに乗せた熱い声音が、芸小屋に響きわたる。
 本来であればこの曲は、エレキギターを使った激しい曲だ。だがここは地球ではなく葦原である。であれば演奏する楽器に合わせた方がいいだろう、と和風アレンジした曲は、インパクトと同時に観客達の耳に自然に耳に入っていった。
(インパクト重視とは言っても、ただ目立つだけでは芸がないもんな)
 出来るだけ自然に溶け込むように、それでいて今まで聞いたことのないような芸を披露しないと、と、心美の歌と演奏は激しさと同時に葦原の人々に馴染みやすい音調で響いていく。
 そうして曲の盛り上がったラスト、最も重要なサビの部分で不動の大見得――一瞬動きを止め、決めポーズを取りながら観客を見回す、いわゆる歌舞伎の見得を応用した動きで、観客に緊張感を与えたところで

 見に来てくれたお客さん達が、いつまでも思い出に残るライブになればいい。
 そんな思いの成就を示すように、大きな拍手と歓声が会場を包んだ。


 そうして熱を帯びた会場を、さらに熱くさせるのは
火澄 悠リーゼロッテ・リスタリアの二人だ。
「ったく、オレはライブ得意じゃねーんだっての……」
 乗り気ではない悠だったが、そんな悠の態度にリーゼロッテはむすっと不機嫌を露わにする。
「ちょっと、悠ー? やる気ないって、あんなヤツラにバカにされてるんだよ、超ムカツクじゃん!」
 そう言って、びしっと悠に指を突きつけ、リーゼロッテは続ける。
「つべこべ言わずに手伝ってよね、異論は認めないんだから!」
「あー……わかってるよ」
 悠としても、舞芸者とも呼べないような者たちに大きな顔をさせるのも気に入らない、という気持ちは分かる。
「しゃーねぇ、いっちょやってやるとすっか……」
 そうして、舞台に上がると、リーゼロッテのギターが響き、悠の遠雷の双杖を打ち合わせてリズムを取る中、歌われたのは『天下御免羅舞存句』だ。
「アタシの歌、聴いてってよ! サイッコーに楽しい時間をプレゼントするからさ♪」
 ロック調の和風ラブソングだ。悠の生み出す幻の雷光と雷鳴が演出する中を、リーゼロッテの歌声は響いていく。
 年齢や性別、ましてや世界が違っても、天下御免のラブソングはきっと皆の心に届くはず。そんな想いと共に、散羅李図夢の激しい踊りで、納涼婆娑羅のただでさえ露出多めな衣装を、見えそうで見えないぐらいにスカート閃かせてキュートな踊りを魅せると、それに併せて盛り上がっていく会場の空気を更に煽るように、悠は炎天劫火のまばゆい光で注目を集めた後、幻獣のカムイに芸をさせたり、燃えさかる炎と、飛炎で生み出した小さな炎を踊らせて文字通り熱く燃えさかるステージを演出する。
「へっ、オレの炎で皆もっと熱くなるといいぜ……!」
 そんな炎に煽られるように観客達の熱気は最高潮まで達したが、あまり暑くなりすぎても観客が熱中症などで倒れてしまう危険がある。ということで、曲の盛り上がりの頃合いを見計らって、悠とリーゼロッテはステージの上に飾りとして置いておいた打水風船を次々に観客に向けて放り投げ、そのタイミングに合わせて導きの風とエアブロウの衝撃派をそこに放つ。戦闘中のようにはいかないが、威力はなくとも薄い水風船だ。頭上で割れたその中から弾けた水が観客の上に降り注ぎ、驚きと暑い体への慈雨のような涼しさに歓声が上がった。その水はリーゼロッテ達にも降り注いだが、納涼婆娑羅の衣装は濡れることでその露を輝かせて魅力を増す性質がある。
 そうして更にリーゼロッテが異性からの視線を自分へと向けさせたのと同時、曲の終わりに弦を響かせたリーゼロッテは、悠と背中合わせに位置取り、その魅力的な笑顔を観客席へ向けることで注目を集めた。
 そして悠の方も、同じく太鼓を叩いて最後の音を響かせると、リーゼロッテがしたのと同じタイミングで華のかんばせによる微笑みを観客席へと向ける。
「オレに惚れるとヤケドするぜー………? なんてな……」
 そうして、最後に男女それぞれへのアピールを終えた二人は、興奮さめやらぬ観客席へ向けて笑顔を向けたままで手を挙げてそれに応じる。
「聞いてくれてありがとー!アタシもサイッコーに楽しかったよ♪」
 そんな彼女らに向けられた盛大な拍手と興奮は、同時にすでにその関心を完全にふぇすた座のみに向けていると察せられるほどに盛大で、ぼっち座との勝負の結果を如実に表していたのだった。
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