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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション公開中!
ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション

【4:激闘! 野外ステージ】


 同じ頃、桜稜郭の野外ステージでは、ぼっち座――そして座長でいだらぼっちとの野外ライブ対決もその盛り上がりの真っ最中だった。

「わわっ! お客さんを一気に持ってっちゃった!」

 でいだらぼっちが芸を始めるや否や、その視線があっという間にでいだらぼっちのほうへと吸い寄せられていったのに、虹村 歌音が慌てたような声を上げた。鼻つまみ者として名が知られているとは言っても、樹京で芸を学んでいただけのことはある。ふぇすた座の生徒たちが劣っているわけではないが、その体格による迫力で、観客がつい飲まれてしまうのも無理からぬ話だ。
「わたしたちの芸でお客さんを呼び戻さなくっちゃ!」
 歌音が言うと、ああ、と頷いたのはウィリアム・ヘルツハフトだ。
「こけら落としのタイミングを狙って難癖をつけ、公演権を奪いに来るやりかたが気に入らん」
 こちらの芸で客を呼び戻し、武芸者としての格の違いを見せつけてやろうではないか。そんな気合を見せるウィリアムに、シャーロット・フルール行坂 貫も強く頷き、日向 千尋は「待ちに待ったふぇすた座の初公演、コケさせるわけにはいかないデス!」と憤慨と気合を露にした。

「一発ガツンと舞芸の喜びを思い出させてやるのデス!」
 そんな一同に、藤原 陽も「オレたちの記念すべき第一歩。相手にとって不足はなくなくなくない?」と不敵に笑って見せる。
「フルール・ロックって奴を葦原中に見せつけてやろうぜ!!」
 その言葉に一同が頷くと、『リトルフルール』の団長シャーロットは、メンバーに向けて腕を振り上げた。
「派手にいっくよー!」
 

 ドオォン!
 と。それはそんな派手な音と光から始まった。
 シャーロットと貫の炎天劫火による眩い光と共に、千尋のかみなりバチによる雷音が轟き、強烈な音と光に観客たちが驚いてふぇすた座のステージの方を振り返ると、その音が引ききる前に、陽の傾奇奢宇斗が響き渡る
「葦原のみなサァ~ん!! フルールロック開演の時間だオラァ!! この舞台で一番アツゥイ奴は誰か、教えやるぜ!」
 観客たちの間にどよめきが生まれたところで、傾奇碁漆句を纏って舞台に上がり、夜桜六絃琴をべべんっとかき鳴らすのは歌音だ。観客たちの注目が自分たちの舞台側に向けられたのを図り、傾奇奢宇斗で皆に響かせるように口上を告げる。
「さぁさぁ皆様お立会い!! ふぇすた座自慢の新来芸道、熱く激しく燃え上がるロックミュージカルの開演だよっ!!」
 そうしてまだ炎天劫火の炎の名残のある舞台の上に、歌音のオープニングナンバーが響く中、舞台へ上がったシャーロット、千尋を歌音が紹介したところでリトルフルールの演目は始まった。
「じゃじゃ~ん、炎の半妖コンビシャロ&ちひろのお出ましだっ♪ や~、ちひろちゃん悪戯は楽しいね☆ 皆驚いて、てんやわんや♪」
「デスデース! 思う存分驚くがいいデス!」
 軽やかに登場した二人は、先程の炸裂音にまだ驚きの名残を残す観客たちを見回すようにしてからからと楽しげに笑い声を上げる。そうして舞台の上をきょろきょろとしたシャーロットは「この隙に村の西瓜はいただきだっ!」と、舞台の端までそろそろ、っとした動きで進んでいく。と、その時だ。
「おい、コレは一体何の騒ぎだ!?」
 貫の声がその逆側から響くと、侍姿をした二人組みが舞台袖から駆け上がってきた。
「そこの妖ども、何をしている!」
 ウィリアムが叫ぶと、二人の半妖……シャーロットと千尋は足を止め「おとと、見つかっちゃったか」とお互いに顔を見合わせる。その仕草に事情を悟って、侍姿のウィリアムと貫はそろって自らの刀を抜いて構えた。
「お前らの仕業か、少し懲らしめてやる必要があるようだな?」
 ウィリアムの鐘打刀と貫の飾り月光刀がきらりと輝くさまに、半妖二人は目を細めて不敵に笑った。
「たった2人でボクらを止められるかな?」
「ふっふっふ……やれるもんならやってみろデス!」
 そう声が上がった瞬間、舞台の上で激闘が始まった。千尋のバチがごろごろと雷鳴を響かせ、それにあわせるようにして歌音と陽の弦奏でる六訓楼屡がその激しさを演出する。
「行くよちひろちゃん、必殺、蜘蛛糸虎独楽乱舞っ♪」
 まずシャーロットが放ったのは、女郎蜘蛛の糸で作られた七色のあやとり紐だ。それをステージの上に張り巡らせると、それで二人の刀を絡めとり、夢妖の宴技によってその上に吃驚化け独楽を走らせる。
「ほらほらほらっ♪ 油断してると押し潰しちゃうよ!」
 勿論、独楽は妖術で巨大化して見えているだけだが、巧みに操られた糸の上を跳ね、侍たちに襲い掛かろうとする巨大独楽は見ている者にインパクトを与える。
 そして、そのインパクトを更に加算させていたのは千尋の大立ち回りだ。浮遊身転で張り巡らされた糸の上を飛び回るような動きをし、時には刀の上に飛び乗ったりして茶化すように動き回る。
 陽の傾奇奢宇斗による叫ぶような音がギターで奏でられると、まるで本当に剣戟が行われているような鋭い音が、観客たちの興奮を煽った。
 そして、そうして派手な演出で暴れまわる半妖二人とは対照的に、翻弄されているように見えながらも侍に扮するウィリアムと貫は緩急をつけた殺陣の動きで手堅く、メリハリを意識した動きでそれに応じる。
 あらゆる方向から襲い掛かってくる独楽や千歳の動きに、刀で防ぎ、時に深く身を沈めて決定打を食らわないように動き回る二人は、一瞬目線を交わすと同時に刀を閃かせた。
 ウィリアムの刀が涼やかな音を立て、貫の刀が舞台の上で煌いて七色の糸をばらばらに斬り落とす。ふわりと舞台に散るその糸に、観客たちが見入っている中で「にゃ~~!?ボクの糸がっ!?」とシャーロットは慌てたような声を上げて、千尋と共に舞台の端まで退いてぐぬぬ、と大袈裟なぐらいに難しい顔をしてみせる。
「くそ~、この侍ちゃんなかなかやるんだよ」
 そんなシャーロットの演技にあわせて、千尋も険しい顔を作って「ええ……でも、見せ場はここからデス!」と調子を合わせる。 
「そう、ここからが本番だっ☆ 行くよちひろちゃん、合体奥義だっ♪ ウルトラスーパーダイナミックフルフレイム~~☆」
 その声を合図にするように、歌音の弦の音とシンクロさせた陽の唐紅六訓楼屡が響き渡ると同時に、シャーロットと千尋、二人分の酒鬼乱舞による妖しい炎が大きな火の球のように集まっていく。ゆらゆらと揺れる炎に、観客たちがごくりと息を飲む中で、舞台上の二人の侍は怯むことなく構えを取っていた。
「巨大な火球でびびらせようってことか。なめるなよ!」
 一声、ウィリアムと貫の二人はそれぞれ抜刀一閃と誰何心眼の動きを真似て炎を斬るように刀を振るった。もちろん、実際に炎が切れたわけではなく、タイミングを合わせてシャーロットと千尋が炎を動かしたのだが、撒かれた観客席からは侍二人の剣が炎を切り裂いたように見え、わあっと観客たちが思わず歓声を上げた。
 その熱の冷め遣らぬうちに、シャーロットはひゃあっと慌てて「ごめんなさーい!」と土下座をすると、千尋もそれにならって侍たちにあわあわと言い訳する。
「ご、ごめんなさいデース! スイカがあんまりおいしそうだったので、つい……」
 そのセリフに、侍二人は顔を見合わせると、呆れたように溜息を吐き出した。
「そういう時は暴れたり、略奪するより一言言ってくれ。スイカ食べたいってな」
 貫はそう言って、西瓜をすっぱりと割るとそれを二人へと差し出した。
「ほら、一緒に食おう」
「え……」
「いいのデス?」
 驚いた二人が目を丸くする中、ほら、と気前良く西瓜は手渡され、半妖二人は顔を見合わせるとぱあっと明るい笑みを浮べた。
「お礼にお納めくださいデス……」
 とお返しに千尋がふぇす饅頭を差し出すと、貫は投擲術を応用して桜餅を観客に向けてばら撒いた。舞台の上も、見ていた者も等しくお菓子を分け合う――そんな演出を挟む中、じゃんっと〆に弦を鳴らした歌音の声が響き渡る。
「こうして四人は仲直り。人と妖、種族を越えた友情を育んだのでした。めでたしめでたし♪」

 その口上に再び観客たちがでいだらぼっちから関心を戻した中、貫はこちらを忌々しげな顔で見る視線に気付いて顔を上げると、同じく投擲術の応用でSAKURA=MOCCHIを投げて渡した。
「アンタもどうだ?一緒にライブして美味いもの食えば、もう戦友みたいなもんだろ?」
 その言葉に一瞬驚いたような顔をしたでいだらだったが、結局ふんっと鼻を鳴らしただけでそれを一口で飲み込んでしまうと「調子に乗るんじゃねえよ」と吐き捨てた。
「戦友だと? 勘違いすんじゃねえ、てめぇらごとき相手にもなっちゃあいねえよ!」
 ぶっきらぼうな物言いにはどこか焦りや動揺が滲んでいるように思えたのは錯覚だろうか。そっぽを向き、再び舞い始めたでいだらぼっちの演技は荒さが目立ち始め、観客の中にちらりほらりと視線を向けない者が出始めた。
 そんな中、続いて舞台を華やがせたのは『ミルキー☆プリンセス』の夢宮 恋アリス・ラブハート、そして『Aegis』の桃城 優希アリサ・ホープライトのコラボユニット【桃色レイジングハート】の四人だ。
「俺達だって芸を磨いてきた。それを見せて、でいだらぼっちにも認めてもらおう」
 優希の言葉に、三人は決意を共有するように顔を合わせ、うん、と頷いて舞台の上へと向かう。

「私達の事だけ見てなさいよねー!」
 先ず最初に舞台に立ったのは、アリサと優希だ。
 アリサの夜桜六絃琴が、大音量の傾奇奢宇斗を響かせて、再びでいだらぼっちに傾きかけていた空気を引き戻すと、続いて優希のバチが太鼓をドンッと叩いた。
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」
 気合の入った腹の底からの声と、心臓を震わすような太鼓の音が、先の六弦琴の音で振り向いた人たちに、「何が始まるんだ!?」という期待感を芽生えさせて更なる注目を集めると、続いてステージライトが照らしたのは、恋とアリスだ。
 中央へ揃った四人がそれぞれに目線を交わすと、アリサと恋のギター演奏が開始された。
 披露された曲は『夢恋ロマンス』――自分の初恋に気付いた女の子の気持ちを描いたポップソングだ。演奏する恋とアリサの袖口を彩る極彩色の孔雀の袖飾りがひらりと揺れて二人を彩り、観客の注目を浴びる中、ボーカルの恋は自身のギター、くれない小町さんから継承したBENI=TEMARIを奏でるのにあわせてクリアボイスで歌声を響かせ始めた。

♪ 最近ちょっと気になってる 私の心の不思議な気持ち
よくわからなくて誤魔化し 過ごしてた
もしかしてずっと前から気づいてた
あなたの口から好きって言葉が生まれるたび
私の心ドキッとしてる~♪

 そんな恋の歌とアリサ、そして優希の演奏にあわせて、ペダル・アンサンブルで演奏を引き立てているのはアリスだ。美しい野菊の紅い結紐についている金の鈴が可愛く揺れ、火焔白鳥が燐光を散らすことで徐々に自分の初恋に気付いていく少女の心、その内側で燻っている炎を演出する。
 
♪ これは 恋♪ 恋♪ 恋してる♪
 一緒にいるだけで幸せな時間♪
 あなたがこっちを向いて笑うたび 私の心キュンってしてる~♪

 やっぱり 恋♪ 恋♪ 恋してる♪
 あなたと2人素敵な時間♪


 少女の心がときめき、弾んでいる様子が生き生きと描かれたその歌に、観客の中の年若い少女たちやかつて少女だった女性たちの心を掴んでいたが、心を掴まれたのは女性たちだけではない。
 恋やアリスの衣装や振る舞いが見せるゴージャスさや、アリサの露出が高めな納涼婆娑羅の衣装が観客たちの視覚に訴えることで、男性陣の視線は釘付けなのである。そして――

♪もっと いっぱい 褒めてほしいの♪
 もっと たくさん 好きって言って♪

 甘えるような声音が歌う歌詞の瞬間。妖艶な輝きを魅せる優艶の舞いで視線をひきつけたところでの嫣然一生は、その歌詞の響きのせいもあって、観客たち、特に男性たちはは心を蕩かされるような心地に思わず息を飲み込んだ。
 一方で、女性の心を掴むべく、間奏にはいったところで立ち回ったのは優希だ。
 鬼神の見顕しでユニット名の恋色らしく桃色の閃光を放ち、真っ赤な情熱をイメージさせる紅演舞着に着替えて視線をひきつけると、その巧みな技術で太鼓のバチを回転させ、あるいは太鼓を叩く速度を上げて強弱をつけるなどしてアピールすると、その隙間隙間で嫣然一生の微笑みを観客へと向ける。 そうして四人それぞれの魅力に観客たちも各々が虜になった相手へ向けて声援が響き始めると、間奏の終わるタイミングで放たれたアリサの炎天劫火は、その激しい光と熱で一同の気持ちを更に燃やして盛り上げる。
 熱狂と興奮の吹き上がる舞台の上で、曲はフィナーレに向かって激しさを増していった。
 アンプ・コーラスの歌唱法でアリサのギター演奏と優希の太鼓にの音に寄り添うように声の歌声は響き、それぞれの音を美しく重ねていくハーモニーが観客たちを盛り上げる。

♪ 朝起きた時も お昼寝中も
眠れない夜も 楽しい時も 寂しい時も
あなたの言葉ひとつで いつでもどこでも頑張れるから~♪

 だから ずっと♪ ずっと♪ そばにいてね♪
 世界で一番幸せな時間 ♪

 そうしてすっかり自分たちの方へと空気を塗り替えた恋色レイジングハートのライブは盛況で幕を閉じ――移ろいやすいはずの観客たちの心は、ゆっくりと、だが確実にでいだらぼっちからふぇすた座へと留まり始めていた。
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