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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション公開中!
ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション

【2:挑め! 座長、でいだらぼっち】


「ったく、だらしねぇなあ」

 取り巻きたちの慌てた声が、ふぇすた座の盛況な様子を伝えるのに、ぼっち座の座長でいだらぼっちは呆れたように溜息を吐き出した。
「しかたねぇ、そろそろ本物の芸ってやつを見せてやらにゃならんかな」
 そう言ってのそりと立ち上がったでいだらぼっちが、その身体をむくむくと膨らませていった、その時だ。
 パカラッ、パカラッと高くひづめの音が響き、馬の嘶きが聞こえたと思うと「待て待て待てぇい!」と声がし、突然のことに驚く取り巻きたちに構わず、ぼっち座の舞台袖に伝馬に乗って乱入してきたのはサイバネティック 天河だ。
「でいだらぼっち座長、貴様にどうしても言いたいことがある……! スキル、【萌呂李図夢】(もろりずむ)!」
 ひらりと馬から飛び降りた天河は叫んだ。が、勿論そんなスキルは無いので注意されたい。
 兎も角「巨大化しても破けないその服! どうなっとるんじゃ-!」と、あわよくば殴打用マイクで座長の尻太鼓をかまそうとしていた天河だったが、15メートルという巨体を前に視線は自然と上に上がり、そこに飛び込んだふんどしというか、全ては語らないがお察しくださいなそれを目の当たりに、がくりと両手を地面についた。
「格の違いを見せるつもりが……、見せつけられた……」
 相手は15メートルの巨体である。体格から考えてお察しのそれである。ともかく、男の格とやらがあからさまに違うそれに力を落とすしかない天河だったが、きっ、と唐突に顔を上げた。
「それでも、俺様は逃げねぇ! 格の違いがなんだっ!」
 そんな気合と共におもむろに振袖を脱ぎ捨て、盛夏ふんどし一丁になると、ぼっち座の面々が呆然としている間にそのまま舞台へ駆け上がっていく。どよりとどよめく観客たちの前に、「これが俺様の六訓楼屡!」と一声と同時、その手は夜桜六絃琴で素早い高音ビートをかき鳴らすと、そのまま思いきり身体を仰け反らせた。
「レッツ・サンダー!」
 瞬間、琴に付けた不思議な風鈴が股間でほのかに光っていた。タイミングとしてはそうとしか見えないタイミングで光っていた。ほのかにではあるが。繰り返すが、そうとしか見えないような感じで股間辺りで光っているのである。
 そこへ更に炎天劫火の太陽の様な眩い光を一瞬炸裂させたかと思うと、唐紅六訓楼屡の猛々しい和風ロックナンバーが暑さと熱とを巻き上げながら舞台を激しく動き回ると、チリン、チリンと相変わらずどこぞで光っている風鈴の音がそれに混じった。
 尚、見えそうで見えないのが散羅李図夢というものなので、どこぞが光っていて、何がどう見えそうで見えないのかという旨は深く考えてはいけないものである。というか見えたらいけないものなので、見えないと言ったら見えないのである。さておき。
「自分の芸を突き進む…お前らの座長は孤独(ぼっち)じゃねぇ、孤高なんだよ! お前達も、もう一度樹京でやり直してみたら……って、あ~っ!」
 ノリ良く舞台の上で暴れまわっていた天河だったが、突然のことに呆然としていた観客たちが我に返って騒ぎ出し、同じくあまりのことに出遅れたふぇすた座のスタッフたちによってあえなく舞台から引き摺り下ろされたのだった。
 そんな天河の捨て身のパフォーマンス――ふぇすた座の鼻つまみ者になってもめげない姿を見せ、ぼっち座手下達に感動を与え改心させる――ことが出来たかどうかは定かではない。


 ***


 さて、気を取り直して、でいだらぼっちとの対戦のために用意された二つのステージの上。
 ざわめきの残るふぇすた座側の舞台の上に立ったのは朝霞 枢だ。黒地に桜模様の、丈の短い蟲惑的に足の覗く衣装の上へ、水虎の衣を重ねた姿で静かに中央まで進んだ枢は、そのまま正座をすると首を垂れた。そのしん、とした空気につられるように、ざわめく観客が静まっていくのを待って、枢はしゃらりと光る花の簪を揺らしながらその頭を上げた。
 「皆々様、こたびはお忙しい中ふぇすた座こけら落としに足をお運びくださり誠にありがとうございました。若輩ながら前座を務めさせていただきます、朝霞 枢と申します」
 柔らかな声音で行われる挨拶に、先程までの空気は一変し、観客たちの注目は枢へと集中する。それを感じながら、枢は華のかんばせに笑みを浮べて、その容姿を印象付けながら続けた。
「我らふぇすた座一堂、誠心誠意を持って楽しみ、楽しませていただきますので、最後までごゆぅるり、ご観覧くださいませ」
 郷に入れば郷に従え、だ。奇抜なだけではなく、葦原流の流儀に則ってきっちりと挨拶を行うことで、異世界の文化にまだ不信感がある人たちにも誠実さを伝えようとするその態度は、桜稜郭の人々に好意的に受け入れられたのが空気で判った。
 そうして場を整えた枢は、目を伏せると横笛に口笛を寄せた。覚えたばかりの曲だ、。少しばかりたどたどしいが、見た目がいかにも玄人みのある艶やかな女性のそういった初心さはかえって初々しい愛嬌だ。観客たちが関心を寄せてきたのを見計らい、音の伸びが良くなってきたところでくるりと笛の音に合わせて舞を始めた。
 シンプルな舞だが、袖を振るたび召喚された桜の花弁がひらひらと舞い降り、その中で舞う愛らしい子猫のような演技が観客の心を掴んでいく。
(さぁて、そろそろやなぁ)
 そんな状況を見計らい、曲調をアップテンポなものへと切り替えると、舞う桜の花弁へと鬼火で火を灯した。ライブ中に使う技ではないので花弁にうまく火をつける事はかなわなかったが、続けて繰り出す酒鬼乱舞の妖しい炎が代わりに舞台の上を彩っていく。(ふふ、猫ちゃんは気ぃを許すと化けて憑くえ? なぁんてね)
 まるでまたたびで猫が酔ってしまうように、その幻想的な芸技に、観客たちはとろけるような心地と共に、演技を終えて頭を下げた枢へと拍手を惜しみなく送るのだった。

 そんな蟲惑的な演目の後、続けて舞台へ上がった槍沢 兵一郎蔵樹院 紅玉蔵樹院 蒼玉エイリル・プルフーの四人――『双玉夜光』の演目は、いくらか大掛かりなものだった。
「どうぞ皆さん楽しんで行ってくださいませね!」
 新曲「太陽挑戦者(リベンジャー)」――名の通り燃え盛る炎のように猛々しい、物語調となった華乱葦原向けの和ロックを演奏するのは紅玉、蒼玉の二人だ。それぞれが名前をイメージしたような見た目に双玉夜光のエンブレムが記された専用カスタマイズの六絃琴をかき鳴らす。
「それじゃあ、いきますわよ!」
 最初に歌いだしを担当するのは紅玉だ。羽ばたくようなはつらつとした歌い出しで奏でられる曲の一番は、強すぎる熱量の太陽の黄泉憑きによって妻を失った侍が、その仇を討とうとするも失敗してしまう、という流れの曲だ。無念と失意を歌うその曲にあわせ、双子の兄であるとばれないようにと言う意味もあって、誰か判らないように顔まで和のマスクで覆った和風の鎧姿に扮した兵一郎が斬り合いを模した演舞でイメージを舞台の上へと現せば、それを更にエイプルの夢妖の宴技が華を添えた。
 蝶の羽ばたきの影が見える提灯の揺らめきが、侍の無念と悲しみを表すと、観客席からは鼻をすするような音が聞こえてくる。紅玉、蒼玉二人の歌声と共に、兵一郎とエイプルの作る世界観が客たちの心を揺さぶっているのだ。
 そうして盛り上がること訪れた曲の二番。
 侍は仇を討てなかったという失意の中、遂に娘まで倒れてしまう……と、歌の中で物語が転じていく中、蒼玉はそっとカットライトで周囲の光源を消していくと、ゆっくりと舞台が暗がりになっていく。観客の間でどよめきの広がる中、エイプルが闇に紛れるようにしてそっとその立ち位置を兵一郎の傍へと変え、四人はそれぞれ自然な動きで舞台の上を動いてラストまでの演出に向けて場を盛り上げていく。
(さあ……いきますわよぉ)
 位置を確認し、それぞれが目線だけでタイミングを交わした、その時だ。激しい殺陣によって黄泉憑きとの激闘を演出する兵一郎が、あまりに強い黄泉憑きを相手に苦戦しつつも、娘を失ってはならぬ、と奮起する――というシーンを象徴するように刀を振り上げると、エイプルが曲中の黄泉憑きをイメージして生み出した太陽のような眩い光が暗闇を照らした。
 瞬間。
「されど 立ち向かいし リベンジャー!ついに 太陽を斬る! 」
「されど 立ち向かいし  挑戦者!  ついに 太陽を斬る! 」
 蒼玉の声にあわせ、紅玉の声が副音声のようにその言葉が重なる。
 同時、ハイジャンプで高く跳躍した兵一郎は、不徳応報の動きを模してエイリルの炎天劫火を斬り付けた。
 燃える炎に照らされた火焔白鳥の刃が赤く照って燐光を散らす。蒼玉の展開したアイスフィールドによって幻想的な空間が舞台に広がり、見ていた観客たちを大いに沸かせたのだった。


 そうして、双玉夜光の舞台が盛り上がっている間、その袖では堀田 小十郎睡蓮寺 陽介睡蓮寺 小夜の三人が出番に向けて待機していた。
「そうか……桐嶋と橘、何人かの生徒達は黄泉憑きの対処に向かったんだな」
 本当ならふぇすた座のこけら落しに出演する筈だった彼らのことを思い、小十郎は思わず呟いた。彼らもこの公演の為に準備をしてきたはずだ。それでも、黄泉憑きを放っては置けないと戦うことを選んだのだ。自分の為より誰かの為をとる。その決断は、誰にでも出来ることではない。
 そんな小十郎の尊敬の念を耳に入れながら、僅かな苦笑を浮べるのは陽介だ。彼らの選択を尊重したいと思うし、自分もそこへ混ざるべきだったのかもしれない、とも思う。しかし――
「この舞台、外す訳にはいかねぇんだわ」
 今回の舞台は、小夜が想いを込めて作った曲の初お披露目だ。小夜にとって、夢を叶える大きな一歩を踏み出す日に、傍にいないわけにはいかない。そう、二人はここに残ることを決めたのだ。
「なればこそ――……全霊を以て、ふぇすた座を守らねばな」
 ここでぼっち座に敗北したら、戦いに言った彼らは自分たちの判断を悔いるかもしれない。そんな彼らの勇気と決断を後悔にさせないために、そして小夜の夢を押すために、小十郎はぐっと決意を新たに前を向く。
「己が刀……全霊を以て振るうとしよう」
 そんな力強い言葉に頷き、陽介は二人の背中を押した。
「さあ、小十郎、小夜。俺らの幻想演武……いつものように魅せてやろうぜ!」
 そうして小夜が舞台の中心へ立ったところで、陽介と小十郎はその支えとなるような形でそれぞれに立つと、流れ始めた曲にあわせて二人が行うのは「演舞」、そして「演武」である。
「似て非なる二つのエンブ……どうかご覧あれ」
 小夜の歌にあわせ、陽介が夢妖の宴技で二刀の鐘打刀を操り、酒鬼乱舞――妖しい炎や扇子を乱れ舞わせ、観る者を陶酔させる鬼の芸技で舞台を彩ると、もう一方では無拍子と、抜刀からの一閃に続く戦いの動きを、巧みな技術で演舞として摸し、陽介の半妖らしい妖艶な演技とはまた違った切れ味の良い迫力をそこへ現した。
 だが勿論、今回の主役は二人ではない。小夜だ。
 改めて目の当たりした座長のでいだらぼっちの見た目の迫力に気圧されていたが、歌い出してからは小夜の心はただ歌に集中していた。
 『それでも私はウタを歌う』――薪舞いのぱちぱちと爆ぜる火やその煙や灰までを自身の彩としながら、青春シャウトで思い切り声を羽ばたかせる。歌が好きだという気持ち、歌で人を笑顔にしたいという気持ち。それらを懸命にこめた歌を、小十郎や陽介の演舞の魅力をさらに際立たせるようにと願いを込めて。
 そんな熱い思いをそのまま形にするように、陽介は炎鳥・迦楼羅と融合し、太陽のような光や炎を舞台の上へ華のように咲かせて観客たちを熱くさせ、小十郎もまたショピアニーナの技術を駆使して演武の中に盛り込み、観客へと届けていく。
「もう二度と、夢を失くしたりしない……決めたんだ、諦めないって……!」
 自分も夢を諦めない。だから、これを聴いている皆にも、夢を諦めないで欲しい。歌に込めた想いは、ありきたりなキャッチフレーズだったかもしれないが、その祈りと言うには熱く、しかし心の内から勇気を灯すような歌声は、観客たちの心を暖かく震わせ、その演奏と同時にわっと割れるような拍手でその感動を伝えたのだった。


 そして、その歌の余韻も冷めやらぬ内に、背中を押されるような形で舞台へと上がったのは神崎 凪穂ロベリア・バーデンだ。
「こけら落としが芸勝負になっちゃったけど、ボクのやることは変わらない、フェスタの皆でこけら落としを成功させる! それだけなんだよっ」
 ふぇすた座への期待が高まった中で中央へ立つ凪穂は、迎える拍手にふわりと一礼をしてからライブを開始させた。
 『星降る夜、恋の流星』――傾奇帆符とクリアボイスによって何処までも響くようにと歌われたその歌は、流星群に恋の成就を願う少女の、しっとりとした雰囲気のイントロから始まる物語性のある曲だ。
「瞬く星のような時の中 君と私出会ったんだ」
 イントロが終わると、BENI=TEMARIでの演奏にあわせて曲調は明るく激しく、恋に向かって一直線な少女を表現する。題材はありがちではあるが、逆に言えば誰しもの少女の心にある願いだ。
「どんな壁だって どんな困難だって 私諦めない!」
 前向きに、全力に。恋に向けて頑張る勇気を与えるように。そんな歌詞と歌声に、特に年の若い観客たちが手拍子で応援するようにその曲に心を傾け始めたのが舞台からも見えた。
 そんな彼らに向けて、凪穂もまたより明るく、激しく、それでいてしなやかな舞いも混ぜて舞台を演出していく。そしてそんな舞台を更に盛り上げるようにサポートしていたのがロベリアだ。
 前座として、前に出るよりも皆のパフォーマンスをより輝かせたい。そんな思い出、得意のエアリアルと手品で客席の注意を舞台に集中させるように動き、凪穂のしなやかな舞にあわせてバックダンサーよろしく舞の厚みを深める手伝いをする。
 そうして盛り上がりが最高潮へ向かうステージの上で、凪穂のテンションも高くなっていく。楽しんで貰いたい、そして一緒に楽しみたい! そんな気持ちが、歌声と共に迸る。
「この恋は もう止まらない!」
 サビの演奏と同時、一層響く歌声に、観客たちから若い歓声が上がり、曲の終わりに一礼する凪穂を拍手が包み込む。

「よし、この調子なら……!」
 ふぇすた座が盛り上がり、観客たちの関心は全てそちらに移った、かに思われたその時だった。
「……そこそこやるようじゃねぇか」
 自身へ対抗する為に次々行われる演目を見ていたでいたらぼっちは、ふん、と不敵に言い捨てると、その巨大な身体をむくりと舞台の上で起き上がらせた。
 たったそれだけの動きでも、山が動いたようなインパクトである。ある者は恐怖で、ある者は驚きで、一瞬空気がでいだらぼっちへと向かった瞬間に、その演技が始まった。
 取り巻きたちの修練不足なそれと違い、その動きと技は樹京から来たと言う名に恥じず、堂々と見事なものだ。特にその体格そのものが、野外では有利なのである。どすん、という地響き一つで空気を換えてしまうそれに、観客たちの関心はすっかりでいだらぼっちへ移ってしまったようだった。
「そう簡単には、勝ちとはいかせてはもらえないようね……」
 ロベリアは難しい顔をしたが、諦める生徒たちではない。良い舞台をすれば、観客たちは見てくれるのはこれまでの演目で判っているのだ。奪われたらそれだけ取り返せばいい。

 そんな決意に、ふぇすた座の一同は改めて闘志を燃やしなおした。
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