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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ふぇすた座、こけら落とし!

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ふぇすた座、こけら落とし!

リアクション

【1:波乱のふぇすた座、こけら落とし!】


 ***


 そうして、ふぇすた座の面々が歌い裏で決意を深め、その準備にいそしんでいた頃。
 チラシや呼び込みで興味を引かれたのだろう、続々と集まってくる桜稜郭の人たちの中に紛れていた天地 和は突然、テーマソングである『運命は麻雀のように・和!』の演奏を始めた。
 葦原で誰もが知っている童謡のフレーズから始まったかと思うと曲は激しさを増し「何だ?」とどよめき始めた頃には前奏は終わってその曲調は踊りだしたくなるような者へと変化する。
 そうして関心を自らに引きつけたタイミングで、麻雀の鳴き培った傾奇奢宇斗で、集まっている観客たちに向けて「皆様、『隠れ里』というのをご存知でしょうか!」と声を上げた。
「妖達が密かに住まう、常人は入れない不思議な場所。そんな隠れ里の1つに……桜稜郭よりも大きな場所がありました」
 ぼやかしてはいるが、和が語っているのはフェスタのことだ。選ばれた人しか見ることも入ることもできないけれど、入れれば見知らぬ舞芸を学べる場所、と御伽噺でも語るような口調で続けられるそれに、作り話だろう、とは思いつつも周囲が聞き耳を立て始めたのを見計らい、和が取り出したのは高級麻雀セットだ。
 見知らぬ物ではあるものの、高級そうな見た目のそれに、どよめきは深くなっていく。本当か? そうではないのか? 真偽はともかく、宣伝のためにここまで手の込んだ作り話をするなら舞台はどんなものが出てくるのだろう。そもそも序ノ口の人間が宣伝という下っ端の仕事をしているのなら、舞台に出てくるのはどんな凄腕なのだろう。
 狙い通り、そんな好奇心が芽生えてきたのを見計らって和は声を上げる。
「これから舞台に上がるのは、その隠れ里に認められて学んできた者たちばかり! 皆様……どうぞご期待ください!」
 そうしてざわざわと騒がしく――勿論、ただの好奇心だけの者もまだまだ根強くいるのだが――なったところで、舞台の幕は上がったのだった。


 *** 

「ぼっち座みたいな性格の悪い連中の集まりなんかに負けないわ!」

 気合十分。勢いそのままに、最初にそのステージを飾ったのは『cat’s tail』――白波 桃葉矢野 音羽藤崎 圭の三人だ。
「他人を貶してる暇があったらレッスンでもして芸を磨きなさいよね」
 ぼっち座の取り巻き達に言われた言葉が相当に腹に据えかねたらしく、桃葉は怒りも露にしながらまだぶつぶつと言っている。
「どうせ、大して基礎もできてないんじゃないの?」
 そうやって桃葉が一人文句を言っているかと思えば「え、まさかあんなにバカにしといて口先なんてことは無いわよね……?」と、どこか喧嘩腰な物言いで笑みを浮べるのは音羽である。
「気を抜いたライブなんかしたら容赦しないわよ?」
 言葉や声の端々から棘が突き出しているような態度に、流石にぼっち座の面子もいくらか怯んだようだ。
 「他の人にケチを付けたり弱音を吐いたりする暇があったらレッスンして腕を磨け」という思考の持ち主である音羽にとって、言いがかりのような言い分も態度も理解できないものだ。
 喧嘩を売るなら買うぞ、とでも言いたげな二人の様子を見ながら、困ったような顔をするのは圭である。
「ま、まぁ……さんざん言われて気分を悪くしてるのは分かるけど気を引き締めていこう」
 そう言って、二人を見比べた圭は宥めるように言って、ぽんとそれぞれの肩を叩く。
「何があっても僕たちは僕たちで全力を出し切るだけなんだからさ」
「……それもそうね」
 その言葉に桃葉が頷くと、ほっと息を吐き出した圭は「ほら」と観客が待つステージへと上がっていくと、三人のパフォーマンスは賑やかなものになった。
 メインボーカルの音羽の歌声に合わせ、メインダンサーである圭がステージを華やがせると、サブダンサーの桃葉が更にそれを彩らせる。そして音羽の声もまた、二人分のコーラスを受けて観客たちに向けて響き渡った。
 三人の息のあったチームワークに、ただの興味本位で訪れた観客たちも驚きと共にその舞台に見入っている。自然と沸きあがる手拍子に、桃葉はパフォーマンスではなく笑みを浮べた。
 観客と皆で楽しむこと……それを忘れて慢心し、自分達が凄いと言い出し始めては、どれだけ技量があってもぼっち座と同じだ。桃葉たち三人は、ぼっち座へ怒りを抱いていたことも半ば忘れるほど、観客の手拍子にあわせてライブをやりきったのだった。


 そうして桃葉たちが場を暖めたところで、続いてそれを引き取るようにして舞台に上がったのは、幸福乃感詰――蝶野 光メストラール・ミシュアル小石川 涼矢の三人である。
(私もああいう喧嘩をしてくる人ってあまり好きじゃないですね)
 舞台に上がるすがらに、光は内心で呟いた。
 ああいった態度をとるのは、実力が無い証拠である。因縁をつけている暇があるなら少しでも練習をすれば良いものを、と呆れる気持ちもあったが、同時に光の中にあるのは憤りというよりも強い勝気である。根っこがレスラーであるからだろうか、喧嘩を売られれば買ってしまうのが性分なのだ。
 とは言え、まさか口を相手に手を出すわけにも行かない。アイドルとして、アイドルの流儀であるライブでお相手しよう――そう内心に燃える光のそばで、うきうきとしているのはメストラールだ。
 理由の一つは、涼矢が珍しくロックをやる、と言ったことだ。普段はプロデューサーを務めることの多い涼矢と一緒にライブが出来る、というのが言葉にはしづらいが嬉しい、と感じているのだ。とは言え、ぼっち座の言い分にカチンときた為に自ら歌うことにした涼矢には、そんなことは言えないのだが。
「さぁて、叫ぶぞ~~~♪」
 そうして気合も十分に、歌いだされた曲――普段はチームで一つの曲を担当する作品が多いユニットだが、今回はそれぞれの顔見世と個の力を披露という意味であえて別々の曲をメドレーすることになったその最初の曲を担当するのはメストラールのPOP調の曲だ。
 爽やかな出だしに、未来を感じさせるような楽しい音が舞台の上で弾けていく。


♪ さらさらと舞う 薄紅色の雨の先に
 いつまでも手を振る君がいる
 ねえ 木漏れ日に日傘(かさ)差して
 零れる笑顔に心奪われるって知ってて
 手招きしてるわけじゃないのに 罪作り
 どうしようかな どこまでも堕落ちてしまおうか

 君の見る世界は飴玉
 街はきらきらと光る宇宙なんだね
 恋する少女は着飾って ふわふわと泳ぐ金魚姫
 楽しそうに話すから 言い出すのも忘れたまま
 この恋心
 どうしようかな どこまでも堕落ちてしまおうか

 花は舞い彩るけど 君にはかなわない
 トキメキの色に 春、一番
  この恋心
 どうしようかな 気を抜いたら
 いつか攫っちゃうよ? ♪

 愛しいあの子に届くように、葦原の女の子たちが夢を見られるように。
 そんな明るく楽しい曲が、光のたおやかな舞で華を増した舞台の上から、聞いている観客の中へ響いていく。聞いていた観客たちの、特に少女たちがその歌や歌詞にきらきらと顔を輝かせるのに満足そうに笑み、メストラールが歌い終えると、続く二曲目、バラード――今日のために書き下ろした新曲、蒼き空の叙事詩」を口ずさむのは光だ。

♪ 星灯 照らす下(もと) 語られし
 遥か蒼き空の物語 遠き拠り
 継がれ往く 彼方空へ至る契り結びし者の
 往く先 見護る 宿命(さだめ)受けし子よ
 私は紡ぐ 空の叙事詩(サーガ)
 偽りの旋律の真  空の女王神
 祝福を与えん 数多の 旅路の
 往き着く 果ての光明
 
 私は謳う 共に誕生(うま)れ 
 宿命に其の身 縛られし「あなたと共に」♪


 歌い手の実力が試されるバラードを、陰陽鈴でリズムを取りながら基本に忠実に、と念じるように歌い上げる。メストラールや涼矢の演奏のサポートを受けながら歌い上げられるそれは、まだ粗削りではあるが、情感の溢れる歌声に、観客が耳を済ませていると、曲は最後の盛り上がりへと向かっていく。

♪ 歩む永き道のはてに
 たとえ別れが待っていても
 詩(うた)は風に乗りて 蒼き風の中に ♪

 そうして光のバラードも歌い終わり、拍手が広がる中、三曲目を勤めるのは涼矢だ。
 ぼっち座の態度への怒りもまだ冷めやぬ中、向こうの腕前よりこっちが素晴らしいことを万人・満天の元に披露して、二度とここに手が出せないようにする――そんな気概で舞台の中央へ出た涼矢は、アイスフィールドで自らの下とにスモークを起こし、センターへと立った所で夜桜六絃琴をかき鳴らした。
 披露するのは、この日のために書き下ろした、ロックナンバー「蒼風」だ。

♪ 人はなぜ探し続けるんだ
限りなく切ない明日(ミライ)のユメを
何一つ変えられない、この思い譲れない
小さな覚悟じゃ勝てそうない
揺らめく蜃気楼どこまでも追いかける
羽ばたく鳥のように蒼き風の中を 駆けて行け ♪

 光のバラード同様にまだ粗削りなところはあるものの、格好良さを求める観客に耳に馴染みやすい歌は、その歌詞の力もあって聞いている者たちへ前向きな心を強く揺さぶった。
 手拍子は段々と激しくなり、観客たちは地球でのライブさながらに手を振り上げたり、身体を揺すったりしてその興奮を露にする。
 それを更に盛り上げたのは、曲のサビの部分だ。演奏が寄り激しさを増した瞬間に、三人の声がそこに揃う。

♪ No pain, No gain この痛みを勇気に変えて
 No pain, No gain 涙で明日を曇らせないように  ♪

 三人の種類の違う声が混ざりあって、その歌は聴いている観客たちの心を盛り上げていく。元々は冷やかしに来たつもりでいた客たちも、すっかり観客の一員となってライブを楽しんでいるようだ。
 そんな様子を見やり、涼矢たちも顔を見合わせて笑みを浮かべ、最後の盛り上がりのためにそれぞれが最高のパフォーマンスをしようと動く。

♪ I have to be a lonely warrior 幾つもの時をこえて
 I have to be a lonely warrior 熱い想いを抱いていけ ♪


 そうして完成した三人のメドレーは、観客たちの興奮を盛り上げるのに成功しているのを横目に、ぼっち座の面々は「ち……っ」と舌打ちと共に忌々しげな表情を浮べていた。
「なかなかやるじゃねえかあいつら」
「あ、あんなもん、やかましいだけじゃねえかっ」
 そんなふぇすた座の面々の活躍に、ぼっち座も黙って見てはいない。桃葉や涼矢たちのステージの予想外の出来栄えに内心で驚きを隠せないでいるものの、引き下がるわけにもいかないのである。
「田舎者にはできねえ芸を見せてやるぜ!」
 そう言って、ぼっち座の取り巻き舞芸者たちはそれぞれ芸を披露しはじめた。
 ふぇすた座の一同からすれば、それは錬度も足りておらず、修行不足であるのは明らかなのだが、樹京で流行の演舞などは桜稜郭の人々からすれば真新しい芸である。
 その物珍しさに観客たちが盛り上がっている様子に、ぼっち座の面々は安堵の見え隠れする顔で、ふぇすた座の一同に自慢げな態度をして見せたが、それは逆に皆の心を奮起させることとなった。

 そちらが真新しさならば――とばかりに、舞台に上がったのは空花 凛菜だ。
 巫らしい清楚な緋袴を穿いた、いかにもお嬢様、といった雰囲気のある少女は優雅な一礼をしながら舞台の中央で微笑を浮かべる。
「まだまだ研鑽中の身ですが、精一杯の舞を披露させていただきます。最後まで観ていただけたら嬉しいです」
 そうして始まったのは、春の訪れを祝うための華やかな舞い「春光繚乱の舞い」だ。華乱葦原に伝わる舞いがベースとなったそれを、出来るだけ元を生かすようにした堅実な動きで丁寧に舞っていく。
 伝統という地に足のついた安心感を感じさせる安定した舞が、浮ついていた観客の心を掴んで引き戻していくと、凛菜の舞は徐々に変化をしていった。堅実な舞の中から華やかさが零れ始め、段々とテンポが上がってきたかと思うと「おさんぽ日和の舞」へと繋がった。
 ぽかぽかと晴れやかな調子の舞は、近くにいた小鳥たちを引き寄せて舞台の上を可愛らしく演出していく。盛大に盛り上がった、と言うのではないが見ている者の心を暖かくさせるそれは、派手な演出だけでは手に入らない種類の感動である。
 いつまでも見ていたいような、そんな空気を感じさせるその舞が終わり凛菜がぺこりと礼儀正しくお辞儀をすると、観客たちの拍手は名残を惜しむようにぱちぱちと鳴り響く。
「とても緊張しましたが良い経験になりました」
 そんな拍手を背に受けながら、舞台から降りた凛菜は、緊張していた分の息を深く吐き出して胸を撫で下ろすと、次の出番を控えた笹鳴 風花たちに微笑みかける。
「ふぇすた座のこけら落としに参加してよかったと思います。結果はまだわかりませんが…出来るだけ上手く行ってほしいですね」
「……」
 その言葉に、風花はこくりと頷いて微笑み、きゅっと掌を握って見せる事で同意と意気込みを伝えると、今度は自分の番、と凛菜に入れ替わって舞台へと上がっていった。
 相手は新しさ重視で、粗暴さが受けているところもあるかもしれない。だが、どんな相手だろうと、自分は自分の舞でみんなを魅了してみせる、と、そんな意気込みを胸に舞台に上がった風花の演技は、一風変わったものだった。
 自前の糸で作り上げた蜘蛛糸の綾取り紐であやとりを行いながら、なめらかで柔らかな美しさを香わせる舞いを歌にあわせて踊っていく。
 水が流れて川になっていくように、川が流れて上流から下流へと形を変えていくように、時が移り変わるその様は人の心の移り変わりにも良く似ている。
 時に出会い、時に別れ、細い流れはやがて結び合うようにして大きな海へと流れ込んでいく……そんな水の持つ時間や心を描く歌詞に合わせて、その糸は川や心の橋を綾取りで作り出していった。
 静かな、けれどどこか目の離せない糸の怪しげな光の動きに、先程とは違う意味で目を離せない光景に観客たちが見入っていると、さらさらと音が聞こえてきそうなその糸の流れと舞いとが不思議な光景を作り出す。

 そうして演技が終わると、はっと世界から引き戻された人々の間から拍手が起こる中、続いて舞台に上がった穂波は注目が戻るまで待ってから、自身もしなやかな舞を披露する。
 ぼっち座の取り巻きたちが見せたものとは違い、真新しさは無いものの、彼らの修練不足のそれと違って美しく舞いの形は観客たちに正統派といった印象で目を楽しませた。とはいえ、ただそれを舞うだけでは芸が無い。
(ボクらの芸で、皆に楽しんでもらおう!)
 勝負であるという以上に、ここは舞台であり、訪れた人たちは観客である。楽しんでもらえなければ意味が無いのだ、と、異国の舞であるエスクワイアステップを舞いのなかに所々入れる事でメリハリをつけ、観客たちをその意外性でひきつける。
「ふふ、ボクの舞いに見とれないよう、気を付けてね」
 微笑む表情もまた、舞いの味付けの一つだ。扇の変わりに振るう桜の枝も、その色と香りとが穂波の舞をいっそう華やかに香り高くしていく。そんな花の香りに魅せられたように、観客たちはその舞いの終わりに盛大に拍手を送るのだった。

 二人の舞が観客たちをひきつけ、先のぼっち座の作っていた「樹京から来た新しい芸」に興味をひかれていた観客の雰囲気を一掃させた後、続いたのは筒見内 小明だ。
 中央へと出た小明が披露するのは旅巫の舞いだ。前に踊った二人の舞よりは簡易なものだが、それを選んだのには理由がある。ひとつには、ふぇすた座が新しい座であること、そしてアイドルは町の人から見れば旅芸人のような存在だ。故に、まずはこの地の道祖神と地の人々に挨拶を、と『桜の地の神に、舞を奉る』と深く礼を贈る。
『彼方の地より訪れし諸人の一芸、この地に住まう先達にご覧に入れましょう』
 そうして、緊張を胸に大舞台での一歩を踏み出し、この日のために詰んだ基礎練習の成果をそこへ披露する。『桜の地に脈々と受け継がれし伝承を詠いて、春を運び、桜花のように舞わんとするならば』
 ぼっち座の修練不足が一層引き立つような、桜稜郭の知識を元とした伝統を自身で解釈するその舞は、その地に住む人々の心の深いところへと染み渡るように広がっていく。
『其は風となりて、此れを見守りたまへ』
 桜の花びらが風に舞い踊る様を、風を神、花を人に喩えるようにして扇子を大きく翻し、衣装の揺れでそれを表現する動きは、大仰な舞台装置がなくとも、小道具がなくとも、その舞そのものを魅力としてそこへ描き出した。
『然して、雨粒に困りて軒先を借りずんば、その恩義を忘るる事なかれ』
 浪々と歌われる詩の持つ響きが観客が魅了する中、小明の舞は続いていく。
『伏した花弁はまた咲き誇るる』
 義理人情による助け合い。人情を忘れなければ、また立ち直り、散った桜もまた芽吹く。そんな言葉を詩に載せて、歌われる歌はついに終わりを迎えた。
『隆盛は今まさに訪れし、夢幻の如く、心に芽吹いた桜の都』
 そうして静かに舞が終わり、深々とお辞儀をする小明の姿に、最初は静かに、しかし一度広がれば盛大に拍手が広がって、観客たちを大きく魅了したことをそこに示したのだった。
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