沖縄旅行のある日!
リアクション公開中!
リアクション
「みんな、遅れてごめんね~!」
シャーロット・フルールがアスティノア・シエスタリアと共にメンバーと合流したのは、参加登録締め切りまであと僅かというギリギリのタイミングだった。
「かいちょ、マジギリじゃん。オレちょ~心配したんだけど?」
「よーちゃんごめん~、赤点取って補習受ける事になっちゃって。あすちゃんが教えてくれたからなんとか乗り切れたよ、ほんとありがとね!」
シャーロットが実に申し訳なさそうに藤原 陽に両手を合わせて謝り、ここまで付き合ってくれたアスティノアにお礼を言うと、「ま、間に合ったんならオールオッケーっしょ!」と陽が返し、アスティノアも微笑を浮かべてこくり、と頷く。
「これで全員集合だね! 藤さん、陽さん、今日はよろしくお願いしますっ」
「うん、よろしく、みんな」
虹村 歌音と氷堂 藤、陽の三人が集まり、パートの最終確認を行う。歌音と藤が二人でギター&ボーカルを担当し、陽はギターのみで二人のアシストを担当することになっていた。
「んじゃまあ、俺らはライブを熱くする手助けが出来る様に頑張ろうか」
「そうね。演出でギター演奏を盛り上げてあげましょう」
木戸 一晴の言葉にアスティノアが同意する。二人がステージの演出を担当することになっていた。
(これだけのメンバーを、取り持たないといけないんですね……。今から緊張してしまいます。
しっかりしないといけないのは、分かっているんですけど――)
キーボードを担当し、その役割からバンド全体を見ることも求められている梓弓 莉花が、自分に務められるのだろうかと緊張した面持ちを見せる。
「ん~? りかちゃん、顔硬いよ~? ほら、リラックスリラックスぅ」
「きゃあ!? ……シャーロットさん、いきなりはビックリしますよ、もう」
と、それを察したシャーロットが莉花の顔をつんつん、と突っついて緊張を解させようと試みる。顔をつつかれた莉花はちょっと膨れたような顔を見せつつも、緊張はだいぶ解れたようだった。
「はーい、みんなちゅうもーく!」
そしてシャーロットが声をあげ、今日のために集まったメンバー――歌音、藤、陽、一晴、アスティノア、莉花――と順に顔を合わせ、宣言する。
「こっからは気合入れていくよー! 『ヒヌカンヴォルケイノ』で目指すは優勝っ!」
「かいちょ、その『ヒヌカンヴォルケイノ』ってなんすか?」
陽の質問に、シャーロットはよくぞ聞いてくれました! と言いたげな顔をして口を開いた。
「えっとね、沖縄には『ヒヌカン』って炎の神様を祀る風習があるらしくてね。その神様は海の彼方から来たらしいんだ! つまり、フェスタから来たボク達は新しいヒヌカンだよっ♪ ってこと!」
「おぉ~、さっすがかいちょ! あ~マジ楽しみ、早く演りたいっすね~!」
命名の意味を知ったことで、陽を始めとしてメンバー一同、より一層演奏への気合を十分とする。
「盛り上げはこの会長に任せてにゃんっ♪ よーちゃんにとっての、そしてみんなにとっての夢の晴れ舞台、最高の演奏で楽しんじゃおう!」
「おーーー!!」
――そして、彼らのバンド【ヒヌカンヴォルケイノ】の出番を告げるコールが会場に流れる。観客から期待を込めた拍手と歓声が送られると、ステージ後方、中央付近にスポットライトが当たり、ドラムセットとシャーロットの姿を映し出す。
「沖縄のみんなー! これからの時間は炎でお祭りだよっ! ボクたち【ヒヌカンヴォルケイノ】にしっかり付いてくるんだよっ♪」
背中の羽根飾りがスポットライトと陽光を反射し、まるで伝承の火の鳥のような姿のシャーロットがドラムを叩き始める。気分を高揚させるような打音と同時に火花が舞ったかと思うと、その直後に背後で爆発が生じる。観客は一瞬身構えるが、次いでギターを構えた三人組が登場したのを見てライブの開始を悟り、盛大な歓声でもって彼らを出迎える。
「夏の暑さに負けない炎のビートを頼むよ! ヴォルカニックレオ、よーちゃん♪」
まず陽がステージの前方に飛び出し、相棒の『ヴォルカニックレオ』を高々と掲げ、挨拶代わりの音色を響かせる。アスティノアが上空へ火山から噴き出す溶岩をイメージした炎を打ち上げ、大海原を越えてやって来た火の神『ヒヌカン』を演出する。
「キュートなツインギターボーカル、かのんちゃん、ふじちゃん!」
「みんなー! 私達の歌と演奏を聞いてねー!」
「盛り上げていくから、覚悟してよ?」
続いて歌音と藤がステージに進み出て、所定の位置に立ち、ギターを鳴らしながらマイクから声を響かせる。二人の演奏に一晴が火花を散らす演出を加え、会場のボルテージを上げていく。
「ステージの演出はお手のもの! あすちゃん、ハルちゃん!」
二人を紹介する声が響いた後、返事を返すようにアスティノアと一晴が上空に炎の筋を幾本も打ち上げる。
「キーボードはりかちゃん! ボクと一緒に軽業ダンスも魅せちゃうよ!」
紹介を受けた莉花が、宙に浮かぶ鍵盤を撫でるように叩いて七色の光と音を生み出し、くるりと回ってシャーロットから投げられたスティックをキャッチして観客に応えた。
「このメンバーで、いっくよー! 『ヒヌカンヴォルケイノ』!」
莉花から投げ返されたスティックをキャッチして、シャーロットがドラムを叩き始める。ベースラインを莉花の操る鍵盤とで構築し、その上で陽がオープンコード・バッキングで支えとなり、頂上は歌音と藤のボーカルギターで彩る。周りの風景を一晴とアスティノアが作り出せば、彼ら【ヒヌカンヴォルケイノ】は全員で聳え立つ活火山となった――。
(オレが縁の下の力持ちってやつ? 頼れる所しっかりと見せてやっから、フジとカノンノは存分に歌えよな!)
見た目はイマドキのチャラい印象から、しかし中には音楽に対してマジモンの熱を持っている陽が、歌音と藤のギターサウンドをガッツリとサポートする。歌いながら、というところもあり、歌音と藤だけだとどうしても音が薄く、軽く聞こえがちだったのが陽が加わることにより厚みが増し、観客は腹の底から突き上げられるような衝撃に翻弄され、やがて乗りこなし思い思いのリズムを刻んでいく。
(……サポートしてくれるのは、感謝してるけど。でも、私もひとりの歌うたいだ。
行くよ、Black cat。あんたもこんなところでくすぶってたくはないでしょ?)
陽のサポートを受ける形でありながら、まるでそれを嫌って振り切るように藤の演奏が疾走を始める。夏を待ちきれなくて駆け出した少女が、照りつける陽光を浴びて一皮剥けたように、その音色は感情に強く訴えかけてくる。
(わぁ、藤さんの演奏、いつも以上に激しくて凄い!
よーし、私だって全力全開、フルスロットルでいっくよー!!)
そして、触発されたひとりである歌音もまた、自分の普段の演奏以上の情熱を込めて音色に変える。最初は一緒に走っていたものが一旦はバラバラになりながら、今またより高いレベルでもって並走を始め、音を重ね合う。
Run!! 夏が来る前に こっちから駆け込んでいこう
Say!! 夏が来たって 声をあげて全身で感じよう
(いやーこれは思った以上だね? 演奏してないはずなのに疲労度ハンパないよ?)
その演奏のある意味割りを食ったのが、一晴であった。彼は三人のギタリストの演奏を的確に捉え、音色に合った火花を生じさせることで盛り上げを担っていたが、三人が競うかのように走り出してしまったので付いていかざるを得ず、魔術を行使しっぱなしであった。
(けど、三人とも楽しんでるわけだし、ここで一人水を差すのも空気読めないよね!
どうせやるなら全力で――今の俺に出来る全てを、出し切って、やる……よっ!!)
それでも、一曲分、数分間くらいなら全力で食らいついてやろう、その意気込みを込めた炎弾を頭上遥か高くへ打ち上げる。観客の視線が花火のように打ち上がった炎弾に向いたところで、一晴は演奏する三人のギタリストの背後に燃え盛る炎の演出を生じさせる。
こうなればステージはもはや噴火寸前、シャーロットもドラムセットから飛び出しスティックを道具にジャグリングを始める。
(おおっと、かいちょのアドリブタイムじゃね? んじゃこのメロディに切り替えてこ!)
即座に陽がメロディを切り替え、キーボード・ドラムがベースとなるものからギターメインで成立するメロディへとシフトさせる。これでより自由に動けるようになったシャーロットは、莉花を呼んでの曲芸タイムに突入する。まずは二人で飛んで跳ねて、シャーロットがドラムを叩く用に使っていたスティックを莉花へ向けて投げ、莉花はそれをタイミングよくハイジャンプで回避。目標を見失ったスティックはしかしブーメランのようにくるりと反転してシャーロットの手元に収まった。
「りかちゃん、アレでいこう!」
「アレですね、分かりました!」
言葉だけではさっぱり分からないが、二人には感覚でこれからどうすればいいかが分かっていた。まずシャーロットがスティックを空高く投げ飛ばし、その勢いのままバク転。一方莉花は側転でシャーロットよりも奥側に先に回り込むと、床にしゃがみ込んでから一気に飛び上がり、バク転で降りてくるタイミングのシャーロットの両足を同じく自分の両足で思い切り蹴り上げ、自身は空中で回転して着地する。蹴り上げられたシャーロットはステージ奥への移動力と高さを得、落ちてきたスティックを掴んでドラムへ叩きつける。
『――――!!!!』
直後火花が散り、まさに大噴火と表現すべき大爆発が起こった。あまりの衝撃に会場の観客も、そしてメンバーも思わずしゃがみ込んでしまうほどだった。
「大丈夫、この爆発は安全だよっ♪ だから飛び込めりかちゃん! アイドルはえくすぷろーじょん♪」
「さ、流石にそれって無茶振りな気がしませんか?」
まだ立ち上がれずにいる莉花は、動揺を隠せない様子だった。それは他のメンバーも同じ……ただ一人を除いては。
「おいおい、今の爆発、演出ってレベルじゃねーっしょマジ」
口ではそんな事を言いながらも、陽のギターを奏でる手に、身体を支える足に震えは無い。
(ここで攻めていかなきゃ、オレの立場が無いっしょ! 目立つだけがギターじゃないって言ったけど、目立つ時にめいっぱい目立つのがギターってやつ! オレの全力全開、見せてやっから見逃すんじゃねーぞ!?)
混乱したチームを立て直し、ひとつにまとめる陽のソロ演奏で、確かにチームは混乱から脱し再び演奏を軌道に乗せる。そして盛り上がりは先程以上に熱の入ったものとなっていった。
(……ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど。ニューフェイスの力でなんとかなりそうね。
ちょうどいいわ、あれだけ派手な炎を見たのだから、これからの『炎』はより違った魅力として見えることでしょう。いい、シャロ。炎にはこういう使い方もあるのよ)
アスティノアが呪文を唱え、周囲に青い光を放つランタンを複数生み出す。そのランタンがそっと光を放てば、会場はまるで水没したかのように姿を変える。観客が幻想的な光景に目を奪われる間にアスティノアは箒を使って上空へ移動していた。
(仕込みを気付かせないのが、一流の演出家よ)
そこから氷の粒と小さな魔法石の欠片を降らせる。舞い散る氷とスターダスト、それらが今もなお燃え続ける演者と触れ合い、満天の星空が再現される。大噴火を経て飛び散った灼熱の岩石が、メンバー自身の力によってまたひとつの舞台に揃った瞬間でもあった。
(このまま最後まで、突っ走ってくぜ! 最高の、仲間と共にッ!)
ラストは再び、陽が歌音と藤のアシストに回る。シャーロットと莉花がベースラインを弾き、一晴とアスティノアが演出を維持し、最後の最後まで最高のライブとするべく奔走する。
(私たちの音楽が、届いてほしい――ううん、違う。届かせるから、聴いててよね?)
藤が歌音に視線を向け、歌音が藤に頷いて、二人ともに最高最強のパフォーマンスでもって、声の限りに叫ぶ――。
We are HI・NU・KAN VALCANO!!
全ての参加者の演奏が終了し、審査の結果、『宜野湾ギターコンテスト』優勝および特別賞受賞者は以下となった。
【優勝】
藤原 陽・虹村 歌音・氷堂 藤・シャーロット・フルール・梓弓 莉花・アスティノア・シエスタリア・木戸 一晴 【ヒヌカンヴォルケイノ】
【特別賞】
サイバネティック 天河・ヲトメコンダクター アリア
最後にコンテストに参加した参加者がステージに立ち、彼らに対して観客が温かな拍手を送り、コンテストは無事に終了となった――。
シャーロット・フルールがアスティノア・シエスタリアと共にメンバーと合流したのは、参加登録締め切りまであと僅かというギリギリのタイミングだった。
「かいちょ、マジギリじゃん。オレちょ~心配したんだけど?」
「よーちゃんごめん~、赤点取って補習受ける事になっちゃって。あすちゃんが教えてくれたからなんとか乗り切れたよ、ほんとありがとね!」
シャーロットが実に申し訳なさそうに藤原 陽に両手を合わせて謝り、ここまで付き合ってくれたアスティノアにお礼を言うと、「ま、間に合ったんならオールオッケーっしょ!」と陽が返し、アスティノアも微笑を浮かべてこくり、と頷く。
「これで全員集合だね! 藤さん、陽さん、今日はよろしくお願いしますっ」
「うん、よろしく、みんな」
虹村 歌音と氷堂 藤、陽の三人が集まり、パートの最終確認を行う。歌音と藤が二人でギター&ボーカルを担当し、陽はギターのみで二人のアシストを担当することになっていた。
「んじゃまあ、俺らはライブを熱くする手助けが出来る様に頑張ろうか」
「そうね。演出でギター演奏を盛り上げてあげましょう」
木戸 一晴の言葉にアスティノアが同意する。二人がステージの演出を担当することになっていた。
(これだけのメンバーを、取り持たないといけないんですね……。今から緊張してしまいます。
しっかりしないといけないのは、分かっているんですけど――)
キーボードを担当し、その役割からバンド全体を見ることも求められている梓弓 莉花が、自分に務められるのだろうかと緊張した面持ちを見せる。
「ん~? りかちゃん、顔硬いよ~? ほら、リラックスリラックスぅ」
「きゃあ!? ……シャーロットさん、いきなりはビックリしますよ、もう」
と、それを察したシャーロットが莉花の顔をつんつん、と突っついて緊張を解させようと試みる。顔をつつかれた莉花はちょっと膨れたような顔を見せつつも、緊張はだいぶ解れたようだった。
「はーい、みんなちゅうもーく!」
そしてシャーロットが声をあげ、今日のために集まったメンバー――歌音、藤、陽、一晴、アスティノア、莉花――と順に顔を合わせ、宣言する。
「こっからは気合入れていくよー! 『ヒヌカンヴォルケイノ』で目指すは優勝っ!」
「かいちょ、その『ヒヌカンヴォルケイノ』ってなんすか?」
陽の質問に、シャーロットはよくぞ聞いてくれました! と言いたげな顔をして口を開いた。
「えっとね、沖縄には『ヒヌカン』って炎の神様を祀る風習があるらしくてね。その神様は海の彼方から来たらしいんだ! つまり、フェスタから来たボク達は新しいヒヌカンだよっ♪ ってこと!」
「おぉ~、さっすがかいちょ! あ~マジ楽しみ、早く演りたいっすね~!」
命名の意味を知ったことで、陽を始めとしてメンバー一同、より一層演奏への気合を十分とする。
「盛り上げはこの会長に任せてにゃんっ♪ よーちゃんにとっての、そしてみんなにとっての夢の晴れ舞台、最高の演奏で楽しんじゃおう!」
「おーーー!!」
――そして、彼らのバンド【ヒヌカンヴォルケイノ】の出番を告げるコールが会場に流れる。観客から期待を込めた拍手と歓声が送られると、ステージ後方、中央付近にスポットライトが当たり、ドラムセットとシャーロットの姿を映し出す。
「沖縄のみんなー! これからの時間は炎でお祭りだよっ! ボクたち【ヒヌカンヴォルケイノ】にしっかり付いてくるんだよっ♪」
背中の羽根飾りがスポットライトと陽光を反射し、まるで伝承の火の鳥のような姿のシャーロットがドラムを叩き始める。気分を高揚させるような打音と同時に火花が舞ったかと思うと、その直後に背後で爆発が生じる。観客は一瞬身構えるが、次いでギターを構えた三人組が登場したのを見てライブの開始を悟り、盛大な歓声でもって彼らを出迎える。
「夏の暑さに負けない炎のビートを頼むよ! ヴォルカニックレオ、よーちゃん♪」
まず陽がステージの前方に飛び出し、相棒の『ヴォルカニックレオ』を高々と掲げ、挨拶代わりの音色を響かせる。アスティノアが上空へ火山から噴き出す溶岩をイメージした炎を打ち上げ、大海原を越えてやって来た火の神『ヒヌカン』を演出する。
「キュートなツインギターボーカル、かのんちゃん、ふじちゃん!」
「みんなー! 私達の歌と演奏を聞いてねー!」
「盛り上げていくから、覚悟してよ?」
続いて歌音と藤がステージに進み出て、所定の位置に立ち、ギターを鳴らしながらマイクから声を響かせる。二人の演奏に一晴が火花を散らす演出を加え、会場のボルテージを上げていく。
「ステージの演出はお手のもの! あすちゃん、ハルちゃん!」
二人を紹介する声が響いた後、返事を返すようにアスティノアと一晴が上空に炎の筋を幾本も打ち上げる。
「キーボードはりかちゃん! ボクと一緒に軽業ダンスも魅せちゃうよ!」
紹介を受けた莉花が、宙に浮かぶ鍵盤を撫でるように叩いて七色の光と音を生み出し、くるりと回ってシャーロットから投げられたスティックをキャッチして観客に応えた。
「このメンバーで、いっくよー! 『ヒヌカンヴォルケイノ』!」
莉花から投げ返されたスティックをキャッチして、シャーロットがドラムを叩き始める。ベースラインを莉花の操る鍵盤とで構築し、その上で陽がオープンコード・バッキングで支えとなり、頂上は歌音と藤のボーカルギターで彩る。周りの風景を一晴とアスティノアが作り出せば、彼ら【ヒヌカンヴォルケイノ】は全員で聳え立つ活火山となった――。
(オレが縁の下の力持ちってやつ? 頼れる所しっかりと見せてやっから、フジとカノンノは存分に歌えよな!)
見た目はイマドキのチャラい印象から、しかし中には音楽に対してマジモンの熱を持っている陽が、歌音と藤のギターサウンドをガッツリとサポートする。歌いながら、というところもあり、歌音と藤だけだとどうしても音が薄く、軽く聞こえがちだったのが陽が加わることにより厚みが増し、観客は腹の底から突き上げられるような衝撃に翻弄され、やがて乗りこなし思い思いのリズムを刻んでいく。
(……サポートしてくれるのは、感謝してるけど。でも、私もひとりの歌うたいだ。
行くよ、Black cat。あんたもこんなところでくすぶってたくはないでしょ?)
陽のサポートを受ける形でありながら、まるでそれを嫌って振り切るように藤の演奏が疾走を始める。夏を待ちきれなくて駆け出した少女が、照りつける陽光を浴びて一皮剥けたように、その音色は感情に強く訴えかけてくる。
(わぁ、藤さんの演奏、いつも以上に激しくて凄い!
よーし、私だって全力全開、フルスロットルでいっくよー!!)
そして、触発されたひとりである歌音もまた、自分の普段の演奏以上の情熱を込めて音色に変える。最初は一緒に走っていたものが一旦はバラバラになりながら、今またより高いレベルでもって並走を始め、音を重ね合う。
Run!! 夏が来る前に こっちから駆け込んでいこう
Say!! 夏が来たって 声をあげて全身で感じよう
(いやーこれは思った以上だね? 演奏してないはずなのに疲労度ハンパないよ?)
その演奏のある意味割りを食ったのが、一晴であった。彼は三人のギタリストの演奏を的確に捉え、音色に合った火花を生じさせることで盛り上げを担っていたが、三人が競うかのように走り出してしまったので付いていかざるを得ず、魔術を行使しっぱなしであった。
(けど、三人とも楽しんでるわけだし、ここで一人水を差すのも空気読めないよね!
どうせやるなら全力で――今の俺に出来る全てを、出し切って、やる……よっ!!)
それでも、一曲分、数分間くらいなら全力で食らいついてやろう、その意気込みを込めた炎弾を頭上遥か高くへ打ち上げる。観客の視線が花火のように打ち上がった炎弾に向いたところで、一晴は演奏する三人のギタリストの背後に燃え盛る炎の演出を生じさせる。
こうなればステージはもはや噴火寸前、シャーロットもドラムセットから飛び出しスティックを道具にジャグリングを始める。
(おおっと、かいちょのアドリブタイムじゃね? んじゃこのメロディに切り替えてこ!)
即座に陽がメロディを切り替え、キーボード・ドラムがベースとなるものからギターメインで成立するメロディへとシフトさせる。これでより自由に動けるようになったシャーロットは、莉花を呼んでの曲芸タイムに突入する。まずは二人で飛んで跳ねて、シャーロットがドラムを叩く用に使っていたスティックを莉花へ向けて投げ、莉花はそれをタイミングよくハイジャンプで回避。目標を見失ったスティックはしかしブーメランのようにくるりと反転してシャーロットの手元に収まった。
「りかちゃん、アレでいこう!」
「アレですね、分かりました!」
言葉だけではさっぱり分からないが、二人には感覚でこれからどうすればいいかが分かっていた。まずシャーロットがスティックを空高く投げ飛ばし、その勢いのままバク転。一方莉花は側転でシャーロットよりも奥側に先に回り込むと、床にしゃがみ込んでから一気に飛び上がり、バク転で降りてくるタイミングのシャーロットの両足を同じく自分の両足で思い切り蹴り上げ、自身は空中で回転して着地する。蹴り上げられたシャーロットはステージ奥への移動力と高さを得、落ちてきたスティックを掴んでドラムへ叩きつける。
『――――!!!!』
直後火花が散り、まさに大噴火と表現すべき大爆発が起こった。あまりの衝撃に会場の観客も、そしてメンバーも思わずしゃがみ込んでしまうほどだった。
「大丈夫、この爆発は安全だよっ♪ だから飛び込めりかちゃん! アイドルはえくすぷろーじょん♪」
「さ、流石にそれって無茶振りな気がしませんか?」
まだ立ち上がれずにいる莉花は、動揺を隠せない様子だった。それは他のメンバーも同じ……ただ一人を除いては。
「おいおい、今の爆発、演出ってレベルじゃねーっしょマジ」
口ではそんな事を言いながらも、陽のギターを奏でる手に、身体を支える足に震えは無い。
(ここで攻めていかなきゃ、オレの立場が無いっしょ! 目立つだけがギターじゃないって言ったけど、目立つ時にめいっぱい目立つのがギターってやつ! オレの全力全開、見せてやっから見逃すんじゃねーぞ!?)
混乱したチームを立て直し、ひとつにまとめる陽のソロ演奏で、確かにチームは混乱から脱し再び演奏を軌道に乗せる。そして盛り上がりは先程以上に熱の入ったものとなっていった。
(……ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど。ニューフェイスの力でなんとかなりそうね。
ちょうどいいわ、あれだけ派手な炎を見たのだから、これからの『炎』はより違った魅力として見えることでしょう。いい、シャロ。炎にはこういう使い方もあるのよ)
アスティノアが呪文を唱え、周囲に青い光を放つランタンを複数生み出す。そのランタンがそっと光を放てば、会場はまるで水没したかのように姿を変える。観客が幻想的な光景に目を奪われる間にアスティノアは箒を使って上空へ移動していた。
(仕込みを気付かせないのが、一流の演出家よ)
そこから氷の粒と小さな魔法石の欠片を降らせる。舞い散る氷とスターダスト、それらが今もなお燃え続ける演者と触れ合い、満天の星空が再現される。大噴火を経て飛び散った灼熱の岩石が、メンバー自身の力によってまたひとつの舞台に揃った瞬間でもあった。
(このまま最後まで、突っ走ってくぜ! 最高の、仲間と共にッ!)
ラストは再び、陽が歌音と藤のアシストに回る。シャーロットと莉花がベースラインを弾き、一晴とアスティノアが演出を維持し、最後の最後まで最高のライブとするべく奔走する。
(私たちの音楽が、届いてほしい――ううん、違う。届かせるから、聴いててよね?)
藤が歌音に視線を向け、歌音が藤に頷いて、二人ともに最高最強のパフォーマンスでもって、声の限りに叫ぶ――。
We are HI・NU・KAN VALCANO!!
全ての参加者の演奏が終了し、審査の結果、『宜野湾ギターコンテスト』優勝および特別賞受賞者は以下となった。
【優勝】
藤原 陽・虹村 歌音・氷堂 藤・シャーロット・フルール・梓弓 莉花・アスティノア・シエスタリア・木戸 一晴 【ヒヌカンヴォルケイノ】
【特別賞】
サイバネティック 天河・ヲトメコンダクター アリア
最後にコンテストに参加した参加者がステージに立ち、彼らに対して観客が温かな拍手を送り、コンテストは無事に終了となった――。