沖縄旅行のある日!
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■沖縄観光を楽しんじゃおう!
「ユウ、買い物に付き合ってくれない?」
そう、友人の皆綾 聖那に誘いをかけられた月宮 ユウが、「私?」と言いたげな顔をする。
(どういう風の吹き回しかしら。誰かと行動したがるタイプじゃないでしょうに)
ユウの知る限り、聖那は一人で居るのに慣れている人間だ。となれば聖那は自分の為に誘いをかけているのだ、とユウは判断する。
「一人でも、構わないのに……。私に付き合うなんて、本当に物好きね」
気怠げに返すユウを見て、聖那は心の中で「やっぱりね」と呟く。
(こうやって一人になりたがる所あるのよねー。……ま、それは私にもあるから分からなくはないけど)
聖那から見たユウは、どこか人を寄せ付けない雰囲気を纏っていた。ただそれが本心からなのかどうかは分からないし、一旦付き合うとなれば普通に物事を楽しむ子だな、とは思っていた。
「はいはい、物好きならそれでいいわよ。で、どうなの?」
「……確かに、一人で回るよりは退屈しなさそうね。いいわよ」
ユウが了承の返事をすると、聖那は「そう、じゃあ行きましょ」と告げてくるり、と背を向ける。そのまま歩き出す聖那の背中を追うようにして、ユウも歩き出した。
国際通りに着いた二人は、手近な土産物屋に入り買い物を済ませる。この間二人の間に交わされた会話は、ここでロケが行われているということ、二人とも特に興味が無いという話くらいであった。
(聖那、こんなので本当に楽しんでいるのかしら。本当は別に行きたいところとかあったんじゃ……)
そんな事をユウが思い、あまり考えても仕方ないと小さく首を振って考えを打ち消す。
「さってと、買い物も終わったし。……ねえユウ、ここの近くに猫が集まるスポットがあるって聞いたんだけど、知ってる?」
と、ユウの目の前で足を止めた聖那が振り返り、ユウに尋ねてきた。
「……ええ、知ってるわ。結構有名みたいね」
何気ない風を装っているように見えるが、声がそれまでより少し上ずっていたのを聖那は聞き逃さなかった。
(やっぱり。猫好きそうなのに隠しちゃうんだから。ま、この調子なら大丈夫でしょ)
確信を得た聖那が次の言葉を発する。
「買い物ついでに寄ってみない? お土産選びで疲れちゃったし、休みたいかなって」
「……聖那がそう言うなら、付いてってもいいけど」
聖那の読み通り、誘いにユウが食い付いてきた。
(好きなら好きって言っても、別にいいと思うけど。……って、それをどうこう言っても仕方ないわね。とりあえず楽しんでくれりゃ私としてはいいか)
ちょっとした思いを手を払って追いやって、聖那がユウを連れて猫スポットへと向かった。
着いた場所では、複数の猫が思い思いにくつろいでいた。人馴れしているようでユウが近付いても逃げ出したりせず、チラッとユウを見るだけでその場に留まる。
(……ふふ。猫は可愛いわね。何というか、見ていて飽きないわ)
ユウがその場にしゃがんで、毛づくろいを始めた猫をそっと見守る。表情にはここまで見せてこなかった笑顔が少しだけ出ていた。
(いい顔してるわね。ま、ユウのあんな顔が見られただけでも良しとしますか)
そんなユウを少し離れた場所で見守りながら、聖那が柄でもないなぁと自分のことを笑っていた。しかしついそんな事を思ってしまうくらいには、猫と戯れるユウの姿は年相応というか、普通に可愛らしいものだった。
「聖那も来たら? 来たがってたじゃない」
ユウに呼ばれたので、聖那も腰を上げて猫の元へやって来る。
(猫ね……あんまり寄り付かれた事ないし、まさか襲われたりするわけでもないでしょ――)
そう思った聖那は、すぐに自分の考えが甘かったことを悟った。足元に五、六匹の猫が群がり、にゃあ、にゃあと鳴き出したからである。
「あら、良かったじゃない。すっかり人気者よ」
そう言うユウの声は、実に楽しそうだった。裏で密かに内通していたのでは、などと下らない考えが浮かぶほどに、楽しそうだった。
「……はぁ。ま、いいわ」
諦めたように、聖那がその場に腰を下ろして猫と戯れる。
(……そんな顔していたら、何も言えないっての)
聖那の視線の先、猫の頭を撫でるユウは本当に楽しそうにしていたから。
「わぁー! ここが国際通り? 賑やかなのだ!」
夢月 瑠衣が、道路の両脇に建物が建ち並ぶ光景に目を輝かせる。沖縄を訪れた観光客や、地元の部活帰りと思われる学生が買い物を思い思いに楽しんでいた。
「ここでしか売ってないものとか、きっとあるよね! 探してみよう! お姉ちゃんやグループのみんなにお土産も買っていかないと!」
ウキウキとした表情で、瑠衣が早速お店を見て回る。観光客が多く訪れるだけあって、店の品揃えも観光客向けにカスタマイズされており、かつ沖縄以外ではなかなか見ないものも多く、瑠衣はあちこちに目を配りながらお土産の品を見定めようとする。
「何がいいかな~? 色々あって迷っちゃうな~」
そう言いつつも全然困っていないといった表情で、瑠衣は店を次から次へとはしごしていく。
――そんな瑠衣をひそかに警護する、一体のゆるキャラが居た。
(フェスタ生がどれほど知られているか完全には把握していませんが、アイドルである以上危険は付き物、でしょうからね。この姿なら警戒されることなく警護できるはずです)
シーサーのゆるキャラ『赤瓦まも』の着ぐるみを着た古川 玲河が、沖縄の名産品であるサトウキビ……のようなものをふりふりと振り、通行人に愛嬌を振りまきながら瑠衣の背中を遠巻きに追う。
「紅いもタルトにちんすこう、サーターアンダギー、シーサーの置物! うん、これだけ買えば十分だよね! ……はぁ、いっぱい歩いたらおなかすいちゃったな~」
お土産を買えて満足気な瑠衣が、空腹感を覚えて通りに目を向ければ、『沖縄そば』の看板が目に入る。
「沖縄そば? なんだか美味しそう! 入ってみようっと」
興味を惹かれた瑠衣がその看板を提げた店へ入り、沖縄そばを注文する。しばらくして目の前に置かれた沖縄そばから、和風だしの香ばしい香りが漂う。
「これが沖縄そばかー! それじゃ早速、いただきま~す!」
麺をつまみ、口に持っていく。
「……うん! 美味しい!」
口を満たすうまみに、瑠衣は満面の笑みを浮かべた。
(…………はぁ。やはり、暑いですね)
――一方その頃、玲河は倉庫のような建物で一時の休憩を得ていた。着ぐるみを脱ぐこと無くストローで飲み物を摂取する所に、彼女なりのプロ根性が垣間見えた気がした。
「ふぅ~、おなかいっぱい! 次はどこ行こうかな~」
店を出た瑠衣が通りに視線を向けると、道路の向こうから黒塗りの高級車がやって来て、ちょうど瑠衣の向かいで止まる。中から数名の、いかにもその道ですと言わんばかりの格好をした男性が降りてきて、車を止めた場所に建っている建物へと押しかける。
「オイコラァ! 今月のみかじめ料払えってんだゴラァ!」
「ヒイッ!? そ、そんなの聞いてな――ギャア!!」
応対した店長があっという間にボコされ、辺りが騒然となる。
「あわわ、大変なもの見ちゃった、どうしよう」
目撃者の一人となった瑠衣がどうしようかと迷っていると、そこへシーサーの着ぐるみがやって来た。『赤瓦まも』と書かれた名札を付けた着ぐるみは、瑠衣の前に立ち『早くこの場を離れろ』と言っているような素振りを見せた。
「……わかったよ! ありがとね、まもくん!」
お礼を言って瑠衣がその場を離れる。残った赤瓦まも……玲河は被害を拡大させつつあるチンピラ達がノイズに憑かれている可能性に至った。
(このまま放っておけば、アイドル達のロケにも影響しかねません……! なんとか目を覚まさせてあげないと)
そう覚悟を決めた玲河が、まずはなるべく穏便な方法で済むことを期待して行動を開始する。
「あぁん? なんだテメェは」
チンピラ達の前に立ち、サトウキビのようなものをぶんぶん、と振って愛嬌のあるところを見せ、周囲の注目を惹き付ける。これで少しでもチンピラが臆するなり、あるいは正気に戻ってくれればと玲河は期待を寄せたが、現実はそうそう甘くなかった。
「ワケわかんねぇ踊りしてんじゃねぇ! やっちまえ!」
チンピラは全く意に介さず、玲河を黙らせようとする。
(やっぱりこうなってしまいますか……あと一つだけ試してみましょう)
この時点で玲河は、ノイズに憑かれたチンピラくらいなら一撃で黙らせる必殺技を有していた。だがそれを解き放つととんでもない代償が来るのが分かっていたため、もう一つの方法に出る。
背中にベルトで斜掛けしていた大型の水鉄砲を構え、向かってくるチンピラへ勢い良く水を浴びせる。
「ぶはっ!? て、テメェ!! やりやがったな!!」
……残念ながら焼け石に水だった。激昂するチンピラを目の当たりにして、いよいよ玲河は覚悟を決める他なくなる。
(これをすれば明日筋肉痛になるのは必至……ですが、他に代えられません! アイドル達を護るため、玲河、行きます!)
玲河が腕を高く上げ、同時に身体を反らしながらジャンプし、手で自らの足をつか……めるはずもなく(着ぐるみだったので)、しかし回転し体当たりを見舞う。
「な、何だそりゃ――うわあああぁぁぁ!!」」
シーサーの顔が回転しながら迫る恐怖体験を最後に、チンピラ達が宙を舞った――。
その後瑠衣が講師やスタッフを連れて戻ってくると、ノイズから解放されたチンピラ達が自分達を救ってくれた(と思っている)赤瓦まも……玲河を介抱していた。
「シーサーに喝入れられて、目が覚めたッス!」
「すんませんでしたぁ!」
やはり沖縄ということで、シーサーはチンピラの間でも信仰されているようだった。
ともかく、街の平和は赤瓦まも、玲河によって守られたのであった。……なお玲河が懸念した通り、この後玲河は筋肉痛に苦しむこととなる。
「ユウ、買い物に付き合ってくれない?」
そう、友人の皆綾 聖那に誘いをかけられた月宮 ユウが、「私?」と言いたげな顔をする。
(どういう風の吹き回しかしら。誰かと行動したがるタイプじゃないでしょうに)
ユウの知る限り、聖那は一人で居るのに慣れている人間だ。となれば聖那は自分の為に誘いをかけているのだ、とユウは判断する。
「一人でも、構わないのに……。私に付き合うなんて、本当に物好きね」
気怠げに返すユウを見て、聖那は心の中で「やっぱりね」と呟く。
(こうやって一人になりたがる所あるのよねー。……ま、それは私にもあるから分からなくはないけど)
聖那から見たユウは、どこか人を寄せ付けない雰囲気を纏っていた。ただそれが本心からなのかどうかは分からないし、一旦付き合うとなれば普通に物事を楽しむ子だな、とは思っていた。
「はいはい、物好きならそれでいいわよ。で、どうなの?」
「……確かに、一人で回るよりは退屈しなさそうね。いいわよ」
ユウが了承の返事をすると、聖那は「そう、じゃあ行きましょ」と告げてくるり、と背を向ける。そのまま歩き出す聖那の背中を追うようにして、ユウも歩き出した。
国際通りに着いた二人は、手近な土産物屋に入り買い物を済ませる。この間二人の間に交わされた会話は、ここでロケが行われているということ、二人とも特に興味が無いという話くらいであった。
(聖那、こんなので本当に楽しんでいるのかしら。本当は別に行きたいところとかあったんじゃ……)
そんな事をユウが思い、あまり考えても仕方ないと小さく首を振って考えを打ち消す。
「さってと、買い物も終わったし。……ねえユウ、ここの近くに猫が集まるスポットがあるって聞いたんだけど、知ってる?」
と、ユウの目の前で足を止めた聖那が振り返り、ユウに尋ねてきた。
「……ええ、知ってるわ。結構有名みたいね」
何気ない風を装っているように見えるが、声がそれまでより少し上ずっていたのを聖那は聞き逃さなかった。
(やっぱり。猫好きそうなのに隠しちゃうんだから。ま、この調子なら大丈夫でしょ)
確信を得た聖那が次の言葉を発する。
「買い物ついでに寄ってみない? お土産選びで疲れちゃったし、休みたいかなって」
「……聖那がそう言うなら、付いてってもいいけど」
聖那の読み通り、誘いにユウが食い付いてきた。
(好きなら好きって言っても、別にいいと思うけど。……って、それをどうこう言っても仕方ないわね。とりあえず楽しんでくれりゃ私としてはいいか)
ちょっとした思いを手を払って追いやって、聖那がユウを連れて猫スポットへと向かった。
着いた場所では、複数の猫が思い思いにくつろいでいた。人馴れしているようでユウが近付いても逃げ出したりせず、チラッとユウを見るだけでその場に留まる。
(……ふふ。猫は可愛いわね。何というか、見ていて飽きないわ)
ユウがその場にしゃがんで、毛づくろいを始めた猫をそっと見守る。表情にはここまで見せてこなかった笑顔が少しだけ出ていた。
(いい顔してるわね。ま、ユウのあんな顔が見られただけでも良しとしますか)
そんなユウを少し離れた場所で見守りながら、聖那が柄でもないなぁと自分のことを笑っていた。しかしついそんな事を思ってしまうくらいには、猫と戯れるユウの姿は年相応というか、普通に可愛らしいものだった。
「聖那も来たら? 来たがってたじゃない」
ユウに呼ばれたので、聖那も腰を上げて猫の元へやって来る。
(猫ね……あんまり寄り付かれた事ないし、まさか襲われたりするわけでもないでしょ――)
そう思った聖那は、すぐに自分の考えが甘かったことを悟った。足元に五、六匹の猫が群がり、にゃあ、にゃあと鳴き出したからである。
「あら、良かったじゃない。すっかり人気者よ」
そう言うユウの声は、実に楽しそうだった。裏で密かに内通していたのでは、などと下らない考えが浮かぶほどに、楽しそうだった。
「……はぁ。ま、いいわ」
諦めたように、聖那がその場に腰を下ろして猫と戯れる。
(……そんな顔していたら、何も言えないっての)
聖那の視線の先、猫の頭を撫でるユウは本当に楽しそうにしていたから。
「わぁー! ここが国際通り? 賑やかなのだ!」
夢月 瑠衣が、道路の両脇に建物が建ち並ぶ光景に目を輝かせる。沖縄を訪れた観光客や、地元の部活帰りと思われる学生が買い物を思い思いに楽しんでいた。
「ここでしか売ってないものとか、きっとあるよね! 探してみよう! お姉ちゃんやグループのみんなにお土産も買っていかないと!」
ウキウキとした表情で、瑠衣が早速お店を見て回る。観光客が多く訪れるだけあって、店の品揃えも観光客向けにカスタマイズされており、かつ沖縄以外ではなかなか見ないものも多く、瑠衣はあちこちに目を配りながらお土産の品を見定めようとする。
「何がいいかな~? 色々あって迷っちゃうな~」
そう言いつつも全然困っていないといった表情で、瑠衣は店を次から次へとはしごしていく。
――そんな瑠衣をひそかに警護する、一体のゆるキャラが居た。
(フェスタ生がどれほど知られているか完全には把握していませんが、アイドルである以上危険は付き物、でしょうからね。この姿なら警戒されることなく警護できるはずです)
シーサーのゆるキャラ『赤瓦まも』の着ぐるみを着た古川 玲河が、沖縄の名産品であるサトウキビ……のようなものをふりふりと振り、通行人に愛嬌を振りまきながら瑠衣の背中を遠巻きに追う。
「紅いもタルトにちんすこう、サーターアンダギー、シーサーの置物! うん、これだけ買えば十分だよね! ……はぁ、いっぱい歩いたらおなかすいちゃったな~」
お土産を買えて満足気な瑠衣が、空腹感を覚えて通りに目を向ければ、『沖縄そば』の看板が目に入る。
「沖縄そば? なんだか美味しそう! 入ってみようっと」
興味を惹かれた瑠衣がその看板を提げた店へ入り、沖縄そばを注文する。しばらくして目の前に置かれた沖縄そばから、和風だしの香ばしい香りが漂う。
「これが沖縄そばかー! それじゃ早速、いただきま~す!」
麺をつまみ、口に持っていく。
「……うん! 美味しい!」
口を満たすうまみに、瑠衣は満面の笑みを浮かべた。
(…………はぁ。やはり、暑いですね)
――一方その頃、玲河は倉庫のような建物で一時の休憩を得ていた。着ぐるみを脱ぐこと無くストローで飲み物を摂取する所に、彼女なりのプロ根性が垣間見えた気がした。
「ふぅ~、おなかいっぱい! 次はどこ行こうかな~」
店を出た瑠衣が通りに視線を向けると、道路の向こうから黒塗りの高級車がやって来て、ちょうど瑠衣の向かいで止まる。中から数名の、いかにもその道ですと言わんばかりの格好をした男性が降りてきて、車を止めた場所に建っている建物へと押しかける。
「オイコラァ! 今月のみかじめ料払えってんだゴラァ!」
「ヒイッ!? そ、そんなの聞いてな――ギャア!!」
応対した店長があっという間にボコされ、辺りが騒然となる。
「あわわ、大変なもの見ちゃった、どうしよう」
目撃者の一人となった瑠衣がどうしようかと迷っていると、そこへシーサーの着ぐるみがやって来た。『赤瓦まも』と書かれた名札を付けた着ぐるみは、瑠衣の前に立ち『早くこの場を離れろ』と言っているような素振りを見せた。
「……わかったよ! ありがとね、まもくん!」
お礼を言って瑠衣がその場を離れる。残った赤瓦まも……玲河は被害を拡大させつつあるチンピラ達がノイズに憑かれている可能性に至った。
(このまま放っておけば、アイドル達のロケにも影響しかねません……! なんとか目を覚まさせてあげないと)
そう覚悟を決めた玲河が、まずはなるべく穏便な方法で済むことを期待して行動を開始する。
「あぁん? なんだテメェは」
チンピラ達の前に立ち、サトウキビのようなものをぶんぶん、と振って愛嬌のあるところを見せ、周囲の注目を惹き付ける。これで少しでもチンピラが臆するなり、あるいは正気に戻ってくれればと玲河は期待を寄せたが、現実はそうそう甘くなかった。
「ワケわかんねぇ踊りしてんじゃねぇ! やっちまえ!」
チンピラは全く意に介さず、玲河を黙らせようとする。
(やっぱりこうなってしまいますか……あと一つだけ試してみましょう)
この時点で玲河は、ノイズに憑かれたチンピラくらいなら一撃で黙らせる必殺技を有していた。だがそれを解き放つととんでもない代償が来るのが分かっていたため、もう一つの方法に出る。
背中にベルトで斜掛けしていた大型の水鉄砲を構え、向かってくるチンピラへ勢い良く水を浴びせる。
「ぶはっ!? て、テメェ!! やりやがったな!!」
……残念ながら焼け石に水だった。激昂するチンピラを目の当たりにして、いよいよ玲河は覚悟を決める他なくなる。
(これをすれば明日筋肉痛になるのは必至……ですが、他に代えられません! アイドル達を護るため、玲河、行きます!)
玲河が腕を高く上げ、同時に身体を反らしながらジャンプし、手で自らの足をつか……めるはずもなく(着ぐるみだったので)、しかし回転し体当たりを見舞う。
「な、何だそりゃ――うわあああぁぁぁ!!」」
シーサーの顔が回転しながら迫る恐怖体験を最後に、チンピラ達が宙を舞った――。
その後瑠衣が講師やスタッフを連れて戻ってくると、ノイズから解放されたチンピラ達が自分達を救ってくれた(と思っている)赤瓦まも……玲河を介抱していた。
「シーサーに喝入れられて、目が覚めたッス!」
「すんませんでしたぁ!」
やはり沖縄ということで、シーサーはチンピラの間でも信仰されているようだった。
ともかく、街の平和は赤瓦まも、玲河によって守られたのであった。……なお玲河が懸念した通り、この後玲河は筋肉痛に苦しむこととなる。