沖縄旅行のある日!
リアクション公開中!
リアクション
「ええと、挨拶をした後は沖縄民謡の成り立ちについて質問して、それから……」
「んー? ハルキ、何見てるの?」
琉球民謡を体験できる場所へ向かう道の途中で、天海 夏緒が一生懸命にメモらしきものを見つめている天海 ハルキを覗き込む。
「ふーんなるほど、質問とか流れとか事前に考えてきた、ってわけだ。……はいボツー」
「ああっ!?」
メモを取り上げられたハルキが驚いた顔で夏緒を見ると、夏緒はメモをポケットに仕舞って言った。
「事前勉強も悪いとは言わないけど、そうするとハルキ、自分で考えた流れに誘導していこうとするからねぇ。ハルキはそれが楽なんだろうけど、番組を見る視聴者が面白いって思ってくれるかな?」
夏緒の指摘が的を得ていたのだろう、ハルキはぐ、と唸るだけで反論を紡ごうとしなかった。
「はーちゃん真面目だから、アドリブとか弱そうだもんね」
「そうだよ、だから考えてきたのに……」
真壁 くるみの言葉に、ハルキがはぁ、と肩を落とす。
「苦手だからやらないって言ってたら何時までたっても苦手なままさ。くるみちゃん、ハルキのサポートは任せたよ」
「夏緒さん、了解です。はーちゃん、がんばろ?」
「くぅ……ここまで来たら、やるしかないか……!」
覚悟を決めたハルキの視界に、目的の場所である建物が見えてきた――。
会員の方に案内され、一行は会員が練習場所にしているフロアへと入る。沖縄音楽の大きな特徴である沖縄音階や、琉球楽器、歌詞についての話題が交わされた後、実際に三線を演奏してみることとなる。
「弦を押さえて弾くのはギターと似てるけど、合、乙、老……?」
弾き方については理解を得たものの、独特の楽譜にハルキはなかなか思った音が出せずにいた。
「『ド』の音でなく、『合』の音と覚えるといいさー」
「む、難しい……」
明らかに苦戦している様子だったが、それでもめげずに根気よく繰り返し練習を続けた結果、なんとか練習曲を一曲弾き終えることに成功する。
「ハルキ、お疲れさま。あんなに無理だ、出来ないって言ってたけど、出来たじゃないか」
「はぁ~~疲れた……。前もって知っていても、実際に演奏すると全然違うな。どうかな……ちゃんと良さを伝えられてるかな」
「さあ、それはこれからのハルキとくるみちゃんの頑張り次第、かな」
夏緒の言葉にハルキが首を傾げていると、いつの間にか離れていたくるみが色鮮やかな紅型の打掛を羽織ってやって来た。
「鮮やかな色で綺麗ですよね。……どうかな、はーちゃん?」
くるり、とひと回りしてみせたくるみは、普段見ている彼女とは違った雰囲気を醸し出していた。
「ああ、似合ってる、と思うよ」
「ふふ、ありがと。はーちゃんも三線を持つ姿が様になってるよ」
ハルキとくるみが互いを褒め合ったところで、不敵な笑みを浮かべて夏緒が言葉を発する。
「さて二人とも、準備ができたところで……最後に琉球民謡と舞踊やってるところで締めようか」
その声に、ハルキとくるみは驚きつつもどこか予想していたような、そんな表情を浮かべた。
「それじゃ始めようか。……ほらほら二人とも、顔硬いよ。リラックスリラックス」
カメラが回る中、緊張した面持ちのハルキとくるみへ、夏緒の茶化すような声が飛んだ。
「はーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫なわけ無いだろ。……でも、こうして実際に触れてみて、沖縄民謡っていいな、って思うし、できればこれを見る人にも沖縄民謡の良さを伝えたい、って思うから……できるだけ、やってみるさ」
「……うん! 私も良さを伝えられるように、がんばるね!」
互いに頷き合って、そしてハルキが三線を構え、音楽を奏で始める。その音楽に合わせて、くるみが打掛をなびかせながらゆったりとした動作で舞う。
今日はたいみそーちー にふぇーでーびる
――そして、無事に一曲演じきったハルキとくるみへ、夏緒と会員の方々の温かな拍手が送られたのであった。
「奥先輩、甘いお菓子はお好きでしょうか? 奥先輩が宜しければ、私と一緒にスイーツリポートをしていただけないかと思いまして」
「うん、いいよ! 私もお菓子は好き! よろしくね!」
筒見内 小明の誘いを奥 莉緒が快諾し、二人は早速国際通りで美味しいと評判のお店へ向かうこととなった――。
「まずは『ぜんざい』です」
「あれ? ぜんざいってお汁粉のことだよね? でもどう見てもこれかき氷だよ」
目の前に置かれた『ぜんざい』を指して、莉緒が首をかしげる。
「沖縄ではこちらをぜんざい、と呼ぶのだそうです。奥先輩の想像しているのは『ホットぜんざい』と呼ぶそうですよ。黒糖のコクが出ていてそちらも美味しいと聞きます」
「へぇ~、場所が違えば呼び方も違うんだね! 暑い夏にピッタリだよ。
じゃあ早速、いただきま~す」
二人がスプーンを手に、ぜんざいをいただく。
「う~ん、冷たくて美味しい!」
「口の中でヒンヤリと溶ける氷に、甘い金時豆が口の中でふわっ、と広がります」
「あっ、小明ちゃんの今の、すごくリポートっぽい。私も何か言った方がいいのかな」
「奥先輩は笑顔が凄く素敵ですから、それで十分視聴者に伝わると思いますよ」
「えへへ、そっかな~」
「次は『ちんすこう』と『サーターアンダギー』です。どちらも特徴的な名前なので知っている人も多いと思います」
「うん、私も知ってるよ。こっちがちんすこうで、こっちがサーターアンダギーだね。ビスケットとドーナツみたい」
まずはちんすこうを手に取り、口へ持っていく。
「あっ、思ったより甘くない」
「そうですね、アイスクリームの口休めにも用いられているそうですよ。
サクッとした食感に、控えめな甘さ。お土産用に味のバリエーションも豊富ですし、花やシーサーをかたどったものもあります」
「私もお土産に買っていこうっと!」
次にサーターアンダギーを手に取り、口へ持っていく。
「これはかなり甘いね。コンペイトウをかじったみたい」
「『砂糖の油揚げ』という意味ですから、奥先輩のたとえは正しいと思いますよ。
外はサクサク、中はシットリ。食べ応えがあって満足感を得られますね。ちなみに同じものですが四角に揚げたものは、『サングァチグァーシ』と呼ばれるそうです」
「ひとつならいいけど、ふたつ以上はお腹いっぱいになっちゃいそう」
「こちらは『のー饅頭』です。さんぴん茶も用意してもらいました」
「『の』って書いてあるね! さんぴん茶はジャスミンティーのことだっけ?」
「はい、そうです。のー饅頭は『コーグヮーシ』や『マチカジ』と並んで沖縄では祝事の定番菓子なんですよ。お店によっては『寿』『祝』などの文字や、ハートマークを描いてくれるそうです」
饅頭を二つに割って、片方を口へ運ぶ。
「何かいいことあるかな?」
「柔らかくてふんわりとした皮に、具の餡がミッチリと入っていますね。サンニンの葉で包んで蒸していますので、香りでも楽しませてくれます」
「この他にも『タンナファクルー』『クンペン』『ちいるんこう』『花ボウル』といったお菓子があります」
「どれもなんだか面白い名前だね。……小明ちゃん、まだ食べるの?」
「ええ、食べ過ぎはよくありませんけど、ロケですので。お仕事ですので」
そろそろお腹いっぱいといった様子の莉緒に対し、小明はまだまだ余裕の表情で次のお菓子に手を出す。
「小明ちゃんは『甘い物は別腹』なんだね」
「……あっ、それで思い出しました。昔同級生の方に、体重を増やさない秘訣を聞かれたんです。で、その時も同じことを言われたんです」
「あっ、ふ、ふーん……そ、そうなんだー」
莉緒があくまで笑みを浮かべたまま、心の中で小明の別腹どころか別次元っぷりを羨ましがるのであった。
「ふふ、美味しいスイーツは別腹、ですー♪」
そしてそんな莉緒の思いを知ること無く、小明は満面の笑みを浮かべるのであった。
「こんにちは。リポーターの鈴木太郎です。
今日はここ沖縄に居るという『炎を吐くシーサー』の真相を突き止めたいと思います」
国際通りに設置されているシーサーと並んだ鈴木 太郎が緊迫感のある表情でそう口にすると、リュートをボローン、と響かせた。
「『炎を吐くシーサー』とは一体、如何なる存在なのでしょう。まずは街の人に聞き込みをしてみましょう。……ちょうど目の前に沢山のシーサーが置かれた店がありますね。行ってみましょう」
国際通りから細い路地へと入った太郎が、所狭しとシーサーや沖縄の工芸品が置かれた店へと向かう。
「すみません、お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」
店の者に『炎を吐くシーサー』の事について尋ねると、老婆はあぁ、と頷きながら話をしてくれた。なんでも地元の者にはよく知られた存在であるらしい。
「大和から来たんなら、一回は会っておくとええさー」
「分かりました。情報提供、ありがとうございます。
……『炎を吐くシーサー』はやはり実在するようです。危険を伴うかもしれません……ここで役に立つ物があるか探してみましょう」
そして太郎が、店に展示されている商品を自身の知識を交えて紹介していく。ここにある品は表通りにある物に比べると輝きでは劣っているように見えるが、その分人の手がしっかりと入った、とてもあたたかみのある商品であるように見えた。
「どれも心の通った一品ですね。……これは逆に、これから向かう場所に持っていくには勿体無い気がします。無事に『炎を吐くシーサー』との邂逅を果たした暁には、再度寄らせてもらうことにしましょう」
太郎が老婆に礼をして、目的の場所へと向かう。
「いよいよ『炎を吐くシーサー』との対面です。……どうやら向こうに見えるのが『炎を吐くシーサー』のようですが――!」
太郎が、自身の正面に居る一体のシーサーを見つめた瞬間、素晴らしい反射神経でもって横に飛び退く。
「見えましたでしょうか!? 今、炎による攻撃を受けました! 本当に炎を吐くシーサーです!」
叫びながらなおも二度、三度と左右に回避行動を取り、シーサーへと接近する。
「背後に回ることができれば――!」
決死の覚悟を固め、太郎が地面を蹴ってシーサーを飛び越え、背後に身を隠すように伏せる。
「…………。行きましょう」
ゆっくりと身を起こし、シーサーを背後から見つめた太郎は、頭に何か筒状のものが入りそうな穴が空いているのを発見する。よく見るとそのシーサーにはいくつか削り取られたような痕が残っていた。
「ここに説明がありますね。『このシーサーは大戦時に弾除けとして使われていた』……」
そこまで読んだところで、太郎は事の真相に気付く。このシーサーは沖縄が戦争の舞台となった時、弾除けとして使われ、また頭の穴の部分から銃の先端を通され、攻撃の起点としても使われていたのだと。
「……なるほど。このような過去があったからこそ、彼は炎を吐けるようになったのでしょう。
彼は歴史の犠牲者なのかもしれません。それでも彼は今、沖縄の平和を護る存在として人々に親しまれています」
そのように締め、太郎がシーサーに向かってゆっくりと手を合わせ、一礼する。
冒頭で弾いたリュートを再び取り出し、シーサーに捧げるように音楽を奏でた――。
「麻雀アイドルのご当地雀荘訪問コーナー!
説明しよう! このコーナーは、未来のカリスマ麻雀アイドル天地 和が、ご当地の雀荘に突撃して、麻雀しながらトークするだけのコーナーなのだー!」
タイトルコールをバッチリ決めた天地 和だが、反応がまったく返ってこなかった。いつもなら拍手の一つくらいは返ってくるのに、と首を傾げながら視線を向けた先、明らかにヤバいオーラを放つ三人の打ち手と目が合ってしまった。
(あの三人がここの雰囲気を悪くしてしまっているのね! このままにしていたら、そのうち大金やら指やら賭けられてしまうわ!)
原因が彼ら――彼らはノイズに憑かれていた――にあると気付いた和が、意を決して三人に勝負を挑む。
(麻雀アイドルの使命は健全な麻雀を広めることだからね! お金や命を賭けなくても麻雀は楽しいってことをみんなに教えないと!)
東一局 親番:塊
塊 25000
鷺巣 25000
咲紀 25000
和 25000
和の配牌:一三五②②⑤⑦345東南南
ここから和は、場に捨てられた南を「ポン!」と哭く。
(そう、これがわたしの打ち方! 『とにかくカッコよく哭く』! いかに芸術的な牌捌きで見てる人を魅せるかがわたしの麻雀スタイル!)
自分が信じる打ち方のままに、和は華麗な牌捌きで続けて⑥をチーする。
(そう、効率だけが麻雀じゃない! もっと楽しい打ち方があるんだよ!)
……しかし、同卓の三名はその程度では響かなかった。和が役なしテンパイなのを瞬時に見切り、手役作りに励む。真剣勝負では和が太刀打ちできるわけもなく――。
「ロンです。立直一発三色ドラ2、18000です」
「ぐわー!?」
「ロォン! 清一色一通、24000じゃ、カカカ」
「ぎゃあー!?」
「ツモ。嶺上開花三暗刻三槓子ドラ8、8000・16000」
「うわぁぁぁ!?」
――散々アガられた結果、南三局時点で
塊 48000
鷺巣 48000
咲紀 56000
和 52000-
と、大差を付けられてしまった(箱下ありルール)。トビっぱなしの和も既に満身創痍だった。
(どうしよう……このままノイズを祓えなかったらわたし、簀巻きにされて沖縄の海に沈められちゃう……)
負けてしまったら、という想像が和を蝕んでいく。さらにそこへ追い打ちをかけるように、
「リーチです」
二三四③④23467888
「リーチじゃ! カカカ」
一一二二三三七七八九九中中
「リーチ」
①①①⑥⑦⑧⑨⑨⑨北北北西
三人がこんな手配で一巡目リーチをかけてきた。
(うぅ……みんな、麻雀は勝ち負けじゃないんだよ……? 思い出してよ、ねぇ……)
泣きそうになりながら和が自分の手牌を開くと。
五五六六②②1199東東白
(ポン材がいっぱい……だけど哭けない……もうダメかも……)
絶望に支配されかけた和が、はたと自分の手牌の異変に気付きもう一度よく見直す。
(これって……テンパってる!?)
そう、彼女の手牌は既に聴牌。ここでもし白をツモれば、『地和』。役満である。
「…………」
と同時に、テンパっていた和の頭も徐々に冷静になっていく。――カッコよく哭く麻雀が悪いとは言わない。だけど時には勝ちにいくことも必要なのではないか、と。
(麻雀は勝ち負けじゃない、けど……)
和の指先が、自分の次のツモ牌をしっかりと掴む。
(勝って伝えられることがあるのなら――この一打で世界を変えられるのなら、わたしは変えてみせる!)
『――――』
静かに、しかし強烈な圧力をもって置かれた和のツモ牌は。
白
「……地和。8000・16000!」
見事地和をアガり、三人のアガリも阻止する。
南四局 親番:和
塊 39000
鷺巣 39000
咲紀 39000
和 17000-
依然、点数では大きく差を付けられていた。しかし和は先程の一打で世界が変わったこと、自身の勝利を確信していた。
(わたしの気持ち……みんなに伝われ!)
和が配牌を開く――。
三四五七八九③③③234東東
「麻雀って、楽しいよね!」
「「「うわあああぁぁぁぁぁ!!」」
「……う、うーん……ハッ! お、俺たちは一体……」
眠りから覚めたように辺りを見回す三人。どうやらノイズから解放されたようだった。
「なんか、すごく疲れる夢を見ていた気がするわ」
「そうじゃ、暗く、辛い夢じゃった。じゃがそこに羽を持った……おぉ! おぬしが夢の中の天使様ではないか!」
「へ? わ、わたしが?」
自分を指差して首をかしげる和の前で、三人が口々に「そうそう、天使様が私たちを助けてくださったのよ」などと口にしていた。どうやら彼らの夢ではそんな事が起きていたらしい。
「うーん、ま、いっか! みんな元通りになったみたいだし!
それじゃ改めて……麻雀アイドルのご当地雀荘訪問コーナー、はじめまーす!」
こうして、とある雀荘の危機は和によって救われたのであった。
「んー? ハルキ、何見てるの?」
琉球民謡を体験できる場所へ向かう道の途中で、天海 夏緒が一生懸命にメモらしきものを見つめている天海 ハルキを覗き込む。
「ふーんなるほど、質問とか流れとか事前に考えてきた、ってわけだ。……はいボツー」
「ああっ!?」
メモを取り上げられたハルキが驚いた顔で夏緒を見ると、夏緒はメモをポケットに仕舞って言った。
「事前勉強も悪いとは言わないけど、そうするとハルキ、自分で考えた流れに誘導していこうとするからねぇ。ハルキはそれが楽なんだろうけど、番組を見る視聴者が面白いって思ってくれるかな?」
夏緒の指摘が的を得ていたのだろう、ハルキはぐ、と唸るだけで反論を紡ごうとしなかった。
「はーちゃん真面目だから、アドリブとか弱そうだもんね」
「そうだよ、だから考えてきたのに……」
真壁 くるみの言葉に、ハルキがはぁ、と肩を落とす。
「苦手だからやらないって言ってたら何時までたっても苦手なままさ。くるみちゃん、ハルキのサポートは任せたよ」
「夏緒さん、了解です。はーちゃん、がんばろ?」
「くぅ……ここまで来たら、やるしかないか……!」
覚悟を決めたハルキの視界に、目的の場所である建物が見えてきた――。
会員の方に案内され、一行は会員が練習場所にしているフロアへと入る。沖縄音楽の大きな特徴である沖縄音階や、琉球楽器、歌詞についての話題が交わされた後、実際に三線を演奏してみることとなる。
「弦を押さえて弾くのはギターと似てるけど、合、乙、老……?」
弾き方については理解を得たものの、独特の楽譜にハルキはなかなか思った音が出せずにいた。
「『ド』の音でなく、『合』の音と覚えるといいさー」
「む、難しい……」
明らかに苦戦している様子だったが、それでもめげずに根気よく繰り返し練習を続けた結果、なんとか練習曲を一曲弾き終えることに成功する。
「ハルキ、お疲れさま。あんなに無理だ、出来ないって言ってたけど、出来たじゃないか」
「はぁ~~疲れた……。前もって知っていても、実際に演奏すると全然違うな。どうかな……ちゃんと良さを伝えられてるかな」
「さあ、それはこれからのハルキとくるみちゃんの頑張り次第、かな」
夏緒の言葉にハルキが首を傾げていると、いつの間にか離れていたくるみが色鮮やかな紅型の打掛を羽織ってやって来た。
「鮮やかな色で綺麗ですよね。……どうかな、はーちゃん?」
くるり、とひと回りしてみせたくるみは、普段見ている彼女とは違った雰囲気を醸し出していた。
「ああ、似合ってる、と思うよ」
「ふふ、ありがと。はーちゃんも三線を持つ姿が様になってるよ」
ハルキとくるみが互いを褒め合ったところで、不敵な笑みを浮かべて夏緒が言葉を発する。
「さて二人とも、準備ができたところで……最後に琉球民謡と舞踊やってるところで締めようか」
その声に、ハルキとくるみは驚きつつもどこか予想していたような、そんな表情を浮かべた。
「それじゃ始めようか。……ほらほら二人とも、顔硬いよ。リラックスリラックス」
カメラが回る中、緊張した面持ちのハルキとくるみへ、夏緒の茶化すような声が飛んだ。
「はーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫なわけ無いだろ。……でも、こうして実際に触れてみて、沖縄民謡っていいな、って思うし、できればこれを見る人にも沖縄民謡の良さを伝えたい、って思うから……できるだけ、やってみるさ」
「……うん! 私も良さを伝えられるように、がんばるね!」
互いに頷き合って、そしてハルキが三線を構え、音楽を奏で始める。その音楽に合わせて、くるみが打掛をなびかせながらゆったりとした動作で舞う。
今日はたいみそーちー にふぇーでーびる
――そして、無事に一曲演じきったハルキとくるみへ、夏緒と会員の方々の温かな拍手が送られたのであった。
「奥先輩、甘いお菓子はお好きでしょうか? 奥先輩が宜しければ、私と一緒にスイーツリポートをしていただけないかと思いまして」
「うん、いいよ! 私もお菓子は好き! よろしくね!」
筒見内 小明の誘いを奥 莉緒が快諾し、二人は早速国際通りで美味しいと評判のお店へ向かうこととなった――。
「まずは『ぜんざい』です」
「あれ? ぜんざいってお汁粉のことだよね? でもどう見てもこれかき氷だよ」
目の前に置かれた『ぜんざい』を指して、莉緒が首をかしげる。
「沖縄ではこちらをぜんざい、と呼ぶのだそうです。奥先輩の想像しているのは『ホットぜんざい』と呼ぶそうですよ。黒糖のコクが出ていてそちらも美味しいと聞きます」
「へぇ~、場所が違えば呼び方も違うんだね! 暑い夏にピッタリだよ。
じゃあ早速、いただきま~す」
二人がスプーンを手に、ぜんざいをいただく。
「う~ん、冷たくて美味しい!」
「口の中でヒンヤリと溶ける氷に、甘い金時豆が口の中でふわっ、と広がります」
「あっ、小明ちゃんの今の、すごくリポートっぽい。私も何か言った方がいいのかな」
「奥先輩は笑顔が凄く素敵ですから、それで十分視聴者に伝わると思いますよ」
「えへへ、そっかな~」
「次は『ちんすこう』と『サーターアンダギー』です。どちらも特徴的な名前なので知っている人も多いと思います」
「うん、私も知ってるよ。こっちがちんすこうで、こっちがサーターアンダギーだね。ビスケットとドーナツみたい」
まずはちんすこうを手に取り、口へ持っていく。
「あっ、思ったより甘くない」
「そうですね、アイスクリームの口休めにも用いられているそうですよ。
サクッとした食感に、控えめな甘さ。お土産用に味のバリエーションも豊富ですし、花やシーサーをかたどったものもあります」
「私もお土産に買っていこうっと!」
次にサーターアンダギーを手に取り、口へ持っていく。
「これはかなり甘いね。コンペイトウをかじったみたい」
「『砂糖の油揚げ』という意味ですから、奥先輩のたとえは正しいと思いますよ。
外はサクサク、中はシットリ。食べ応えがあって満足感を得られますね。ちなみに同じものですが四角に揚げたものは、『サングァチグァーシ』と呼ばれるそうです」
「ひとつならいいけど、ふたつ以上はお腹いっぱいになっちゃいそう」
「こちらは『のー饅頭』です。さんぴん茶も用意してもらいました」
「『の』って書いてあるね! さんぴん茶はジャスミンティーのことだっけ?」
「はい、そうです。のー饅頭は『コーグヮーシ』や『マチカジ』と並んで沖縄では祝事の定番菓子なんですよ。お店によっては『寿』『祝』などの文字や、ハートマークを描いてくれるそうです」
饅頭を二つに割って、片方を口へ運ぶ。
「何かいいことあるかな?」
「柔らかくてふんわりとした皮に、具の餡がミッチリと入っていますね。サンニンの葉で包んで蒸していますので、香りでも楽しませてくれます」
「この他にも『タンナファクルー』『クンペン』『ちいるんこう』『花ボウル』といったお菓子があります」
「どれもなんだか面白い名前だね。……小明ちゃん、まだ食べるの?」
「ええ、食べ過ぎはよくありませんけど、ロケですので。お仕事ですので」
そろそろお腹いっぱいといった様子の莉緒に対し、小明はまだまだ余裕の表情で次のお菓子に手を出す。
「小明ちゃんは『甘い物は別腹』なんだね」
「……あっ、それで思い出しました。昔同級生の方に、体重を増やさない秘訣を聞かれたんです。で、その時も同じことを言われたんです」
「あっ、ふ、ふーん……そ、そうなんだー」
莉緒があくまで笑みを浮かべたまま、心の中で小明の別腹どころか別次元っぷりを羨ましがるのであった。
「ふふ、美味しいスイーツは別腹、ですー♪」
そしてそんな莉緒の思いを知ること無く、小明は満面の笑みを浮かべるのであった。
「こんにちは。リポーターの鈴木太郎です。
今日はここ沖縄に居るという『炎を吐くシーサー』の真相を突き止めたいと思います」
国際通りに設置されているシーサーと並んだ鈴木 太郎が緊迫感のある表情でそう口にすると、リュートをボローン、と響かせた。
「『炎を吐くシーサー』とは一体、如何なる存在なのでしょう。まずは街の人に聞き込みをしてみましょう。……ちょうど目の前に沢山のシーサーが置かれた店がありますね。行ってみましょう」
国際通りから細い路地へと入った太郎が、所狭しとシーサーや沖縄の工芸品が置かれた店へと向かう。
「すみません、お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」
店の者に『炎を吐くシーサー』の事について尋ねると、老婆はあぁ、と頷きながら話をしてくれた。なんでも地元の者にはよく知られた存在であるらしい。
「大和から来たんなら、一回は会っておくとええさー」
「分かりました。情報提供、ありがとうございます。
……『炎を吐くシーサー』はやはり実在するようです。危険を伴うかもしれません……ここで役に立つ物があるか探してみましょう」
そして太郎が、店に展示されている商品を自身の知識を交えて紹介していく。ここにある品は表通りにある物に比べると輝きでは劣っているように見えるが、その分人の手がしっかりと入った、とてもあたたかみのある商品であるように見えた。
「どれも心の通った一品ですね。……これは逆に、これから向かう場所に持っていくには勿体無い気がします。無事に『炎を吐くシーサー』との邂逅を果たした暁には、再度寄らせてもらうことにしましょう」
太郎が老婆に礼をして、目的の場所へと向かう。
「いよいよ『炎を吐くシーサー』との対面です。……どうやら向こうに見えるのが『炎を吐くシーサー』のようですが――!」
太郎が、自身の正面に居る一体のシーサーを見つめた瞬間、素晴らしい反射神経でもって横に飛び退く。
「見えましたでしょうか!? 今、炎による攻撃を受けました! 本当に炎を吐くシーサーです!」
叫びながらなおも二度、三度と左右に回避行動を取り、シーサーへと接近する。
「背後に回ることができれば――!」
決死の覚悟を固め、太郎が地面を蹴ってシーサーを飛び越え、背後に身を隠すように伏せる。
「…………。行きましょう」
ゆっくりと身を起こし、シーサーを背後から見つめた太郎は、頭に何か筒状のものが入りそうな穴が空いているのを発見する。よく見るとそのシーサーにはいくつか削り取られたような痕が残っていた。
「ここに説明がありますね。『このシーサーは大戦時に弾除けとして使われていた』……」
そこまで読んだところで、太郎は事の真相に気付く。このシーサーは沖縄が戦争の舞台となった時、弾除けとして使われ、また頭の穴の部分から銃の先端を通され、攻撃の起点としても使われていたのだと。
「……なるほど。このような過去があったからこそ、彼は炎を吐けるようになったのでしょう。
彼は歴史の犠牲者なのかもしれません。それでも彼は今、沖縄の平和を護る存在として人々に親しまれています」
そのように締め、太郎がシーサーに向かってゆっくりと手を合わせ、一礼する。
冒頭で弾いたリュートを再び取り出し、シーサーに捧げるように音楽を奏でた――。
「麻雀アイドルのご当地雀荘訪問コーナー!
説明しよう! このコーナーは、未来のカリスマ麻雀アイドル天地 和が、ご当地の雀荘に突撃して、麻雀しながらトークするだけのコーナーなのだー!」
タイトルコールをバッチリ決めた天地 和だが、反応がまったく返ってこなかった。いつもなら拍手の一つくらいは返ってくるのに、と首を傾げながら視線を向けた先、明らかにヤバいオーラを放つ三人の打ち手と目が合ってしまった。
(あの三人がここの雰囲気を悪くしてしまっているのね! このままにしていたら、そのうち大金やら指やら賭けられてしまうわ!)
原因が彼ら――彼らはノイズに憑かれていた――にあると気付いた和が、意を決して三人に勝負を挑む。
(麻雀アイドルの使命は健全な麻雀を広めることだからね! お金や命を賭けなくても麻雀は楽しいってことをみんなに教えないと!)
東一局 親番:塊
塊 25000
鷺巣 25000
咲紀 25000
和 25000
和の配牌:一三五②②⑤⑦345東南南
ここから和は、場に捨てられた南を「ポン!」と哭く。
(そう、これがわたしの打ち方! 『とにかくカッコよく哭く』! いかに芸術的な牌捌きで見てる人を魅せるかがわたしの麻雀スタイル!)
自分が信じる打ち方のままに、和は華麗な牌捌きで続けて⑥をチーする。
(そう、効率だけが麻雀じゃない! もっと楽しい打ち方があるんだよ!)
……しかし、同卓の三名はその程度では響かなかった。和が役なしテンパイなのを瞬時に見切り、手役作りに励む。真剣勝負では和が太刀打ちできるわけもなく――。
「ロンです。立直一発三色ドラ2、18000です」
「ぐわー!?」
「ロォン! 清一色一通、24000じゃ、カカカ」
「ぎゃあー!?」
「ツモ。嶺上開花三暗刻三槓子ドラ8、8000・16000」
「うわぁぁぁ!?」
――散々アガられた結果、南三局時点で
塊 48000
鷺巣 48000
咲紀 56000
和 52000-
と、大差を付けられてしまった(箱下ありルール)。トビっぱなしの和も既に満身創痍だった。
(どうしよう……このままノイズを祓えなかったらわたし、簀巻きにされて沖縄の海に沈められちゃう……)
負けてしまったら、という想像が和を蝕んでいく。さらにそこへ追い打ちをかけるように、
「リーチです」
二三四③④23467888
「リーチじゃ! カカカ」
一一二二三三七七八九九中中
「リーチ」
①①①⑥⑦⑧⑨⑨⑨北北北西
三人がこんな手配で一巡目リーチをかけてきた。
(うぅ……みんな、麻雀は勝ち負けじゃないんだよ……? 思い出してよ、ねぇ……)
泣きそうになりながら和が自分の手牌を開くと。
五五六六②②1199東東白
(ポン材がいっぱい……だけど哭けない……もうダメかも……)
絶望に支配されかけた和が、はたと自分の手牌の異変に気付きもう一度よく見直す。
(これって……テンパってる!?)
そう、彼女の手牌は既に聴牌。ここでもし白をツモれば、『地和』。役満である。
「…………」
と同時に、テンパっていた和の頭も徐々に冷静になっていく。――カッコよく哭く麻雀が悪いとは言わない。だけど時には勝ちにいくことも必要なのではないか、と。
(麻雀は勝ち負けじゃない、けど……)
和の指先が、自分の次のツモ牌をしっかりと掴む。
(勝って伝えられることがあるのなら――この一打で世界を変えられるのなら、わたしは変えてみせる!)
『――――』
静かに、しかし強烈な圧力をもって置かれた和のツモ牌は。
白
「……地和。8000・16000!」
見事地和をアガり、三人のアガリも阻止する。
南四局 親番:和
塊 39000
鷺巣 39000
咲紀 39000
和 17000-
依然、点数では大きく差を付けられていた。しかし和は先程の一打で世界が変わったこと、自身の勝利を確信していた。
(わたしの気持ち……みんなに伝われ!)
和が配牌を開く――。
三四五七八九③③③234東東
「麻雀って、楽しいよね!」
「「「うわあああぁぁぁぁぁ!!」」
「……う、うーん……ハッ! お、俺たちは一体……」
眠りから覚めたように辺りを見回す三人。どうやらノイズから解放されたようだった。
「なんか、すごく疲れる夢を見ていた気がするわ」
「そうじゃ、暗く、辛い夢じゃった。じゃがそこに羽を持った……おぉ! おぬしが夢の中の天使様ではないか!」
「へ? わ、わたしが?」
自分を指差して首をかしげる和の前で、三人が口々に「そうそう、天使様が私たちを助けてくださったのよ」などと口にしていた。どうやら彼らの夢ではそんな事が起きていたらしい。
「うーん、ま、いっか! みんな元通りになったみたいだし!
それじゃ改めて……麻雀アイドルのご当地雀荘訪問コーナー、はじめまーす!」
こうして、とある雀荘の危機は和によって救われたのであった。