沖縄旅行のある日!
リアクション公開中!
リアクション
■『フェス旅!』ロケーション撮影
「ここが国際通りか。話に聞いてた通り、賑やかな場所だな」
「そうだね。……やっぱり、初めての場所ってちょっと、緊張するね」
春瀬 那智と日辻 瑶の二人が、今回の企画のロケ地である国際通りを訪れていた。那智も瑶も沖縄は初めてということもあってか、二人の表情はまだまだ硬い。
「ロケっていうのもあるよな。……でもさ、折角沖縄まで来たんだし、俺達も楽しむつもりでいこうぜ。
前にこういう旅番組見たことあるけどさ、観光客と同じ目線で自然なリアクション取ってるやつが見易いと俺は思った。それに、一色先生も言ってただろ? 「気を張らずに、気楽に挑んでみてほしい」ってさ。
俺達は沖縄初めてなんだし、だったら尚更、上手くやろうって考えずに自然にいこうぜ」
「俺達も楽しむ……そうだね、那智くんの言う通りだ。
ロケも沖縄もはじめての俺達が、気取ったコメントなんて言えない。でも、めいっぱい楽しむことはできる。俺達が楽しんでいる姿を見てもらうのが、一番いいのかな、って思ったよ。
気を張らずに、気楽に挑んで……うん、なんとなく、分かった気がする」
しかしそれも、通りを歩きながら話をしていく内に、自然と柔らかくなっていった。
「……ふふ。でもなんだかこれって、那智くんとデートしてるみたいだね」
「お、なんなら腕組んでもいいぜ? 人の通りも多いし、はぐれないようにな。お前が恥ずかしくねーなら、だけど――」
「そう? それじゃあ、遠慮なく」
那智がわざとらしく寄せた腕に、瑶がごく自然に腕を絡める。
「……あっ。那智くんとデートしてるって思ったら、どきどきしてきちゃった」
「瑶、お前――」
「ふふっ、なーんてね」
「ったく、これがロケだって忘れてんじゃねーのか?」
「そうだったね。でもいいんじゃないかな、那智くん格好良いし」
「そういう問題かっての」
窘めつつも腕を解こうとしない那智と、那智の腕に身体を預ける瑶。――二人の美形の仲睦まじいシーンは、放映時に数多の女性の注目をさらっていったのはまた後の話である。
「ここ、見ていかないか?」
「いいね、俺も気になってたんだ」
那智と瑶の足が、一軒の土産物屋へと向く。「めんそーれ」と店員に出迎えられて中へと入れば、沖縄の伝統工芸品や織物が目に飛び込んでくる。
「こっちが紅型の着物で、こっちが琉球ガラス、だよね。やっぱり直接見ると違うね」
「ああ、来る前に見ておいた時に受けた印象と、今間近で見た印象は全然違う。これは来てみないと分からなかったな」
画像で見る物と、実際に手に取って見る物の受ける印象の違いに二人が感動を覚える。
「ちなみに、さ。この中でだったら、俺に似合うのってどれだと思う?」
「そうだね……」
瑶が展示されている品の中から、一枚の浴衣を選んで那智の前に見せる。
「うん、これかな。華美すぎるものより、シンプルに良い物のほうが那智くんの魅力を出しそうかなって」
「どれどれ……おぉ、いいなこれ。瑶はセンスあるよな。
……うん? 芭蕉布、って聞いたことないな。瑶、知ってるか?」
浴衣を手に取り、自身にあてがって具合を確かめていた那智が、素材の『芭蕉布』という単語に首を傾げる。
「うん、古くからの歴史があって、工芸品として非常に価値の高いものだ、っていうのは見てきたけどね。那智くん、折角だからお店の人に話、聞いてみたらどうかな」
「そうだな。ちょうど今は俺達の他に人も居ないし、話を聞かせてもらおう」
――そして那智は、暫くの間店員と芭蕉布にまつわる話題に花を咲かせた。元となるイトバショウの栽培、収穫したイトバショウが糸になるまでの工程に携わる人の物語がそこにはあった。
「この一枚に、沢山の人の想いが込められているんですね。ありがとうございました」
笑みを浮かべて店員に礼を言い、那智が瑶の元へ戻ってくる。
「お疲れさま、那智くん。今のはいい紹介になったと思うよ」
「ああ、俺も手応えを感じられた。ただ商品を見ただけじゃ伝わらないモノを紹介できたと思うぜ。
……ところで瑶、その置物は?」
那智が、瑶が両手に持っていたシーサーの置物を示すと、瑶はふふ、と笑って言った。
「おっきいのだと厳ついけど、このくらいのサイズだと、かわいいな、って。
これ、今日のお土産にしていこうか」
「いいと思うぜ。……その前に瑶、今はロケ中だからな。後で番組を見てくれる皆のために、そのシーサーの可愛さを紹介するんだぞ」
「あっ、そ、そうだね。……よしっ」
回されたカメラに向かって、瑶が覚悟を決めて――。
「がお~~~♪」
鳴き真似を披露した瑶が少し恥ずかしそうに那智の方を向くと、那智はグッ、と親指を立ててよくやった、と瑶を労った。
「それではこれより、琉球ガラス制作に挑戦します」
伝統工芸館の体験教室にて、クロティア・ライハが琉球ガラス作りに挑戦しようとしていた。常時手元にあるゲーム機を預け、長袖に厚軍手と装備もバッチリだ。
「今日は風鈴と、剣の形をしたアクセサリーを作りたいと思います。さあ、早速現場へ行ってみましょう」
講師を務める職人の方の案内で、まずガラスの原料を溶かす溶解窯へとやって来た。
「この中に、ガラスの元があるんですね。どうなっているんでしょう」
クロティアが見つめる前で、職人が溶解窯を開き、長い棒を突き刺してそこにガラスを巻き取っていく。
「おお……ガラスは強いが脆い、という印象でしたが……まるでスライムみたいですね」
普段見るのとは異なる形態を示すガラスの様子を、クロティアが目をキラキラさせて見守る。ある程度の大きさになったところで型に入れ、大まかな形を作った後で形成窯に入れ温めるところまで職人が手がけ、いよいよ形を整える作業をクロティアが担う。
「ここで黒猫の模様を入れていきたいと思います。手早くやらないと固まってしまいますから……」
渡された道具を用いて、模様入れに挑戦する。初めての作業ながら大きな失敗もなく模様を入れることに成功し、ガラスを掲げるクロティアの表情はどこか誇らしげだった。
「次も風鈴なのですが、今度はこの吹き竿で息を吹き込みながら作っていきたいと思います。
……うっかり吸い込んでしまうと火傷しますので、絶対に吸わないようにしましょう」
緊張した面持ちでクロティアが先端に赤く焼けたガラスの付いた吹き竿を持ち、息を吹き込む。
「思っていたよりも楽に膨らみますね。風船を膨らませているみたいです」
職人の指導を受けながら、何度か息を吹き込んで風鈴の大きさに仕上げていく。型に入れるやり方に比べれば歪んだりしているものの、それがかえって温かみを感じさせる仕上がりとなっていた。
「できました。次はここに、私がいま身につけている雷のアクセサリーと同じ模様を付けてみたいと思います。なんでも水の中にサッ、と入れるとキラキラしたひび模様が入るのだとか。やってみましょう」
用意された桶へ、クロティアがガラスを突っ込む。ジュッ、と音がして、引き上げたガラスには確かにキラキラとしたひび模様が刻まれていた。
「最後はアクセサリーです。このガラス棒を溶かして型に入れ形を作り、取り出してから形を整えていくそうです。ではやっていきましょう」
青色のガラス棒を選んだクロティアが、火の中にガラス棒を入れ溶かしていく。目を守る用のゴーグルを付け、じっとガラスが溶けていく様子を見守る。
「型に入れていきます。……垂れ落ちていくのを見ているのは、面白いですね」
型にガラスが満ち、形が出来上がったところで型から取り出し、形を整える作業に移る。柄の頭の部分に棒を予め通しておき、後でチェーンが通せるようにしておくのも忘れない。
「無事にやり遂げることができました……。慣れない作業ばかりで疲れましたが、良い体験になったと思います。以上、ガラスクラフトのコーナーでした」
締めの言葉を口にし、収録終了の合図を確認して、クロティアがふぅ、と息を吐く。下がった視線が首にかけられた剣の形をしたアクセサリーに注がれる。
「……ふふ」
そっと撫でるクロティアの顔には、笑顔があった。
「おぉー! キレイなガラスに着物……目を奪われるのだー」
工芸館に展示されていた琉球ガラスや紅型の着物に飛び付くように見入っていたエステル・エルウィングが、ハッとして本来の目的を思い出す。
「違う違う、今日はつぼややきをしにきたのだ。……そーいえば、ここでロケやるって聞いたなー。ロケをやった方がいいのか?」
エステルがうーん、と考えていると、視界に早見 迅の姿を発見する。他に複数の人と挨拶をして離れていくところを見るに、どうやらロケが一区切り付いたところのようだ。
「迅ー! 私とつぼややきしにいこー!」
これはチャンス、とばかりに早速エステルが迅に誘いをかける。
「つぼややき……あぁ、壺屋焼のことね。いいよ、ちょうど時間空いたところだし、俺も興味あったしね」
「おー、さすがじじいしゅみ! それじゃよろしくなのだー」
「……爺趣味、ねぇ」
何ともいえない顔を浮かべる迅をよそに、エステルは壺屋焼の体験教室へと向かっていった――。
「何か作りたいものはあるのかい?」
エステルに迅が尋ねれば、待ってましたとばかりに持参したスケッチブックを開いて絵を見せる。
「こーちょーせんせー! じょーずに描けてるでしょ!」
「……確かに、校長先生だね。うん、雰囲気出てると思うよ」
迅の評価にエステルがどやぁ、と誇らしげな表情を見せる。
「先生、ぞうけいが単純だからきっと作れると思うの。つぼややきは土をコネコネして色々作れるって聞いたから。花をハイビスカスにしてなー、服装もりゅーきゅーっぽくしたいの」
生徒が沖縄旅行を楽しむ中、フェスタに残っている木 馬太郎にも沖縄感を味わってもらいたい、そんな話を聞いた迅はエステルに協力を約束する。
「『ひねり』って手法なら、エステルの作りたい造形も出来るってさ。挑戦するかい?」
「もちろんだー!」
迅の提案にエステルが即決し、早速粘土を捏ね上げていく。『ひねり』は紐状の粘土を積み重ねることで目的の形を作り上げる手法であり、迅が粘土を紐状にするのを担当し、エステルがそれを使って校長を成形するのを担当する。
「粘土で遊んでるみたいで楽しーなーこれ。ほらほら、私みたいな慣れてない人でもカンタンに作れちゃうよ!」
回されたカメラに向かって、エステルがかんたんアピールをする。もちろんそこに迅の姿は映っていないので、積み重ねるだけなら確かに簡単に見えるだろう。
「うーん……しかし、ただ土を弄るだけというのもアイドル的にまずいのか?」
「いや、いいんじゃないかな。俺が見た番組ではアイドルが真剣にろくろを回してたよ」
「なるほどなー、アイドルにも色々居るのだなー。
……♪~~♪~~」
成形の傍ら、エステルが旋律を口ずさむ。それはここに来るまでに流れていた沖縄の民謡の一節だった。
(これはこれで、悪くない映像なんじゃないかな)
そんなことを思いながら迅がカメラマンに視線を向けると、カメラマンも同じことを思っていたのかコクコク、と頷いた。
「迅もなんか歌ってー」
すると、エステルからいきなりの要望が飛んでくる。
「ウルレイの! ちょっといいとこ、見てみたい! 私もコーラスしちゃるさー」
「……はは、なるほど、これが君のスタイルってことかな」
面白そうに笑った迅が一息ついて、即興の歌を披露する――。
「でーきーたー! キミとボクでハイタッチ! いぇーい!」
ついに沖縄感溢れる校長の成形が完了し、エステルが迅とハイタッチを交わす。
「後は職人にお任せだ。焼き上がりまで一ヶ月くらいかな」
「そっかー、じゃあお届け先を校長先生にしておくな。
せんせー、楽しみにしててな!」
カメラに向かって成形した校長を見せ、満面の笑みを浮かべたところでロケ終了となった。
「迅、付き合ってくれてありがとな!」
「ああ、俺も普段出来ない経験が出来たよ」
迅に手を振って別れようとしたエステルが、何かを思い出したようにバッグの中から、蒼く澄んだ貝殻を取り出すと迅へ差し出す。
「これあげる! きのう海で拾ったいっちゃんキレーな貝殻!」
「はは、ありがとう」
快く受け取り、今度こそ手を振っていくエステルを見送って、迅はもらった貝殻を見つめ微笑を浮かべると、丁寧にそれを仕舞った。
「ここが国際通りか。話に聞いてた通り、賑やかな場所だな」
「そうだね。……やっぱり、初めての場所ってちょっと、緊張するね」
春瀬 那智と日辻 瑶の二人が、今回の企画のロケ地である国際通りを訪れていた。那智も瑶も沖縄は初めてということもあってか、二人の表情はまだまだ硬い。
「ロケっていうのもあるよな。……でもさ、折角沖縄まで来たんだし、俺達も楽しむつもりでいこうぜ。
前にこういう旅番組見たことあるけどさ、観光客と同じ目線で自然なリアクション取ってるやつが見易いと俺は思った。それに、一色先生も言ってただろ? 「気を張らずに、気楽に挑んでみてほしい」ってさ。
俺達は沖縄初めてなんだし、だったら尚更、上手くやろうって考えずに自然にいこうぜ」
「俺達も楽しむ……そうだね、那智くんの言う通りだ。
ロケも沖縄もはじめての俺達が、気取ったコメントなんて言えない。でも、めいっぱい楽しむことはできる。俺達が楽しんでいる姿を見てもらうのが、一番いいのかな、って思ったよ。
気を張らずに、気楽に挑んで……うん、なんとなく、分かった気がする」
しかしそれも、通りを歩きながら話をしていく内に、自然と柔らかくなっていった。
「……ふふ。でもなんだかこれって、那智くんとデートしてるみたいだね」
「お、なんなら腕組んでもいいぜ? 人の通りも多いし、はぐれないようにな。お前が恥ずかしくねーなら、だけど――」
「そう? それじゃあ、遠慮なく」
那智がわざとらしく寄せた腕に、瑶がごく自然に腕を絡める。
「……あっ。那智くんとデートしてるって思ったら、どきどきしてきちゃった」
「瑶、お前――」
「ふふっ、なーんてね」
「ったく、これがロケだって忘れてんじゃねーのか?」
「そうだったね。でもいいんじゃないかな、那智くん格好良いし」
「そういう問題かっての」
窘めつつも腕を解こうとしない那智と、那智の腕に身体を預ける瑶。――二人の美形の仲睦まじいシーンは、放映時に数多の女性の注目をさらっていったのはまた後の話である。
「ここ、見ていかないか?」
「いいね、俺も気になってたんだ」
那智と瑶の足が、一軒の土産物屋へと向く。「めんそーれ」と店員に出迎えられて中へと入れば、沖縄の伝統工芸品や織物が目に飛び込んでくる。
「こっちが紅型の着物で、こっちが琉球ガラス、だよね。やっぱり直接見ると違うね」
「ああ、来る前に見ておいた時に受けた印象と、今間近で見た印象は全然違う。これは来てみないと分からなかったな」
画像で見る物と、実際に手に取って見る物の受ける印象の違いに二人が感動を覚える。
「ちなみに、さ。この中でだったら、俺に似合うのってどれだと思う?」
「そうだね……」
瑶が展示されている品の中から、一枚の浴衣を選んで那智の前に見せる。
「うん、これかな。華美すぎるものより、シンプルに良い物のほうが那智くんの魅力を出しそうかなって」
「どれどれ……おぉ、いいなこれ。瑶はセンスあるよな。
……うん? 芭蕉布、って聞いたことないな。瑶、知ってるか?」
浴衣を手に取り、自身にあてがって具合を確かめていた那智が、素材の『芭蕉布』という単語に首を傾げる。
「うん、古くからの歴史があって、工芸品として非常に価値の高いものだ、っていうのは見てきたけどね。那智くん、折角だからお店の人に話、聞いてみたらどうかな」
「そうだな。ちょうど今は俺達の他に人も居ないし、話を聞かせてもらおう」
――そして那智は、暫くの間店員と芭蕉布にまつわる話題に花を咲かせた。元となるイトバショウの栽培、収穫したイトバショウが糸になるまでの工程に携わる人の物語がそこにはあった。
「この一枚に、沢山の人の想いが込められているんですね。ありがとうございました」
笑みを浮かべて店員に礼を言い、那智が瑶の元へ戻ってくる。
「お疲れさま、那智くん。今のはいい紹介になったと思うよ」
「ああ、俺も手応えを感じられた。ただ商品を見ただけじゃ伝わらないモノを紹介できたと思うぜ。
……ところで瑶、その置物は?」
那智が、瑶が両手に持っていたシーサーの置物を示すと、瑶はふふ、と笑って言った。
「おっきいのだと厳ついけど、このくらいのサイズだと、かわいいな、って。
これ、今日のお土産にしていこうか」
「いいと思うぜ。……その前に瑶、今はロケ中だからな。後で番組を見てくれる皆のために、そのシーサーの可愛さを紹介するんだぞ」
「あっ、そ、そうだね。……よしっ」
回されたカメラに向かって、瑶が覚悟を決めて――。
「がお~~~♪」
鳴き真似を披露した瑶が少し恥ずかしそうに那智の方を向くと、那智はグッ、と親指を立ててよくやった、と瑶を労った。
「それではこれより、琉球ガラス制作に挑戦します」
伝統工芸館の体験教室にて、クロティア・ライハが琉球ガラス作りに挑戦しようとしていた。常時手元にあるゲーム機を預け、長袖に厚軍手と装備もバッチリだ。
「今日は風鈴と、剣の形をしたアクセサリーを作りたいと思います。さあ、早速現場へ行ってみましょう」
講師を務める職人の方の案内で、まずガラスの原料を溶かす溶解窯へとやって来た。
「この中に、ガラスの元があるんですね。どうなっているんでしょう」
クロティアが見つめる前で、職人が溶解窯を開き、長い棒を突き刺してそこにガラスを巻き取っていく。
「おお……ガラスは強いが脆い、という印象でしたが……まるでスライムみたいですね」
普段見るのとは異なる形態を示すガラスの様子を、クロティアが目をキラキラさせて見守る。ある程度の大きさになったところで型に入れ、大まかな形を作った後で形成窯に入れ温めるところまで職人が手がけ、いよいよ形を整える作業をクロティアが担う。
「ここで黒猫の模様を入れていきたいと思います。手早くやらないと固まってしまいますから……」
渡された道具を用いて、模様入れに挑戦する。初めての作業ながら大きな失敗もなく模様を入れることに成功し、ガラスを掲げるクロティアの表情はどこか誇らしげだった。
「次も風鈴なのですが、今度はこの吹き竿で息を吹き込みながら作っていきたいと思います。
……うっかり吸い込んでしまうと火傷しますので、絶対に吸わないようにしましょう」
緊張した面持ちでクロティアが先端に赤く焼けたガラスの付いた吹き竿を持ち、息を吹き込む。
「思っていたよりも楽に膨らみますね。風船を膨らませているみたいです」
職人の指導を受けながら、何度か息を吹き込んで風鈴の大きさに仕上げていく。型に入れるやり方に比べれば歪んだりしているものの、それがかえって温かみを感じさせる仕上がりとなっていた。
「できました。次はここに、私がいま身につけている雷のアクセサリーと同じ模様を付けてみたいと思います。なんでも水の中にサッ、と入れるとキラキラしたひび模様が入るのだとか。やってみましょう」
用意された桶へ、クロティアがガラスを突っ込む。ジュッ、と音がして、引き上げたガラスには確かにキラキラとしたひび模様が刻まれていた。
「最後はアクセサリーです。このガラス棒を溶かして型に入れ形を作り、取り出してから形を整えていくそうです。ではやっていきましょう」
青色のガラス棒を選んだクロティアが、火の中にガラス棒を入れ溶かしていく。目を守る用のゴーグルを付け、じっとガラスが溶けていく様子を見守る。
「型に入れていきます。……垂れ落ちていくのを見ているのは、面白いですね」
型にガラスが満ち、形が出来上がったところで型から取り出し、形を整える作業に移る。柄の頭の部分に棒を予め通しておき、後でチェーンが通せるようにしておくのも忘れない。
「無事にやり遂げることができました……。慣れない作業ばかりで疲れましたが、良い体験になったと思います。以上、ガラスクラフトのコーナーでした」
締めの言葉を口にし、収録終了の合図を確認して、クロティアがふぅ、と息を吐く。下がった視線が首にかけられた剣の形をしたアクセサリーに注がれる。
「……ふふ」
そっと撫でるクロティアの顔には、笑顔があった。
「おぉー! キレイなガラスに着物……目を奪われるのだー」
工芸館に展示されていた琉球ガラスや紅型の着物に飛び付くように見入っていたエステル・エルウィングが、ハッとして本来の目的を思い出す。
「違う違う、今日はつぼややきをしにきたのだ。……そーいえば、ここでロケやるって聞いたなー。ロケをやった方がいいのか?」
エステルがうーん、と考えていると、視界に早見 迅の姿を発見する。他に複数の人と挨拶をして離れていくところを見るに、どうやらロケが一区切り付いたところのようだ。
「迅ー! 私とつぼややきしにいこー!」
これはチャンス、とばかりに早速エステルが迅に誘いをかける。
「つぼややき……あぁ、壺屋焼のことね。いいよ、ちょうど時間空いたところだし、俺も興味あったしね」
「おー、さすがじじいしゅみ! それじゃよろしくなのだー」
「……爺趣味、ねぇ」
何ともいえない顔を浮かべる迅をよそに、エステルは壺屋焼の体験教室へと向かっていった――。
「何か作りたいものはあるのかい?」
エステルに迅が尋ねれば、待ってましたとばかりに持参したスケッチブックを開いて絵を見せる。
「こーちょーせんせー! じょーずに描けてるでしょ!」
「……確かに、校長先生だね。うん、雰囲気出てると思うよ」
迅の評価にエステルがどやぁ、と誇らしげな表情を見せる。
「先生、ぞうけいが単純だからきっと作れると思うの。つぼややきは土をコネコネして色々作れるって聞いたから。花をハイビスカスにしてなー、服装もりゅーきゅーっぽくしたいの」
生徒が沖縄旅行を楽しむ中、フェスタに残っている木 馬太郎にも沖縄感を味わってもらいたい、そんな話を聞いた迅はエステルに協力を約束する。
「『ひねり』って手法なら、エステルの作りたい造形も出来るってさ。挑戦するかい?」
「もちろんだー!」
迅の提案にエステルが即決し、早速粘土を捏ね上げていく。『ひねり』は紐状の粘土を積み重ねることで目的の形を作り上げる手法であり、迅が粘土を紐状にするのを担当し、エステルがそれを使って校長を成形するのを担当する。
「粘土で遊んでるみたいで楽しーなーこれ。ほらほら、私みたいな慣れてない人でもカンタンに作れちゃうよ!」
回されたカメラに向かって、エステルがかんたんアピールをする。もちろんそこに迅の姿は映っていないので、積み重ねるだけなら確かに簡単に見えるだろう。
「うーん……しかし、ただ土を弄るだけというのもアイドル的にまずいのか?」
「いや、いいんじゃないかな。俺が見た番組ではアイドルが真剣にろくろを回してたよ」
「なるほどなー、アイドルにも色々居るのだなー。
……♪~~♪~~」
成形の傍ら、エステルが旋律を口ずさむ。それはここに来るまでに流れていた沖縄の民謡の一節だった。
(これはこれで、悪くない映像なんじゃないかな)
そんなことを思いながら迅がカメラマンに視線を向けると、カメラマンも同じことを思っていたのかコクコク、と頷いた。
「迅もなんか歌ってー」
すると、エステルからいきなりの要望が飛んでくる。
「ウルレイの! ちょっといいとこ、見てみたい! 私もコーラスしちゃるさー」
「……はは、なるほど、これが君のスタイルってことかな」
面白そうに笑った迅が一息ついて、即興の歌を披露する――。
「でーきーたー! キミとボクでハイタッチ! いぇーい!」
ついに沖縄感溢れる校長の成形が完了し、エステルが迅とハイタッチを交わす。
「後は職人にお任せだ。焼き上がりまで一ヶ月くらいかな」
「そっかー、じゃあお届け先を校長先生にしておくな。
せんせー、楽しみにしててな!」
カメラに向かって成形した校長を見せ、満面の笑みを浮かべたところでロケ終了となった。
「迅、付き合ってくれてありがとな!」
「ああ、俺も普段出来ない経験が出来たよ」
迅に手を振って別れようとしたエステルが、何かを思い出したようにバッグの中から、蒼く澄んだ貝殻を取り出すと迅へ差し出す。
「これあげる! きのう海で拾ったいっちゃんキレーな貝殻!」
「はは、ありがとう」
快く受け取り、今度こそ手を振っていくエステルを見送って、迅はもらった貝殻を見つめ微笑を浮かべると、丁寧にそれを仕舞った。