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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

全力エスケープ・ナウ!

リアクション公開中!
全力エスケープ・ナウ!

リアクション

【残り 0:16】

 残り時間あと僅かになり、番組終了までのカウントダウンが始まっていた。
 配信画面には「残り0:16」の赤表示が現れ、気が緩み始めた参加者たちを黒服が猛然と追いかける姿が映し出された。
「何だか周囲が騒がしくなってきたな……そろそろ、吾輩もここも離れるべきであろうか」
 ネズミ耳を付けた色造 空はかんざし飴を舐めながらテラスでスケッチしていた。
 ふと見下ろすと、下を走っていく者たちが見えた。
 Ultra Ray橘 駿が黒服に追われているのだ。
「おや、あそこで追われているのはウルレイの……あのままでは逃げられまいな。どれ、手を貸してやるとするか。色造流忍術、色彩変化……!」
 空は画材を片付けると、隠れ身の術で物陰に身を潜めながら駿の進行方向に回り込んだ。
 そして、駿に迫っていた黒服の影にめがけ、針を投げた。
「仕留めた! よし、次は!」
 空は影縫いで先頭の1人を足止めすると、続くもう1人にも同様に針を投げ縫いとめる。
 そして、黒服を足止めしているうちに駿を安全な方に誘導した。
「こっちだ! 今のうちに逃げるぞ!」
「すまない、空! 礼を言う!」
「良いのだ! ここで捕まったら面白くないだろう。せっかくなら最後まで残ってもらわなくてはな!」
 空はホークアイで黒服の動きを読みながら、駿を檻の近くまで誘導した。
 運良く、檻の近くには黒服が少なくなっていた。
「もう大丈夫だ、空! ここから先は1人で行く!」
「うむ、では健闘を祈る!」
「ああ、空もどうか最後まで逃げ切ってくれ!
 空と別れた駿は物陰に身を隠しながら慎重に檻へと近づいていった。
 そのすぐ近くでは、黒豹の耳をつけたユーリ・ノアールが何人もの黒服の間をすり抜け、派手な動きで逃げ回っている。
 ユーリは黒服の男達相手にギリギリの闘争、いや、逃走を楽しんでいるようだ。
「残りは10分ほどか! 最後までこの企画を盛り上げなくてはな!」
 黒服にわざと捕まりそうな距離で逃げ回っては、キンコンダッシュの加速で既のところをかわし、セキュリティブロックで間合いを取り、また前に回り込まれれば手慣れたパンチで押し通る。
 大柄な体を活かして腕の長さを使って押しのける様は、アメフトの技のようにも見えた。
「むっ、カメラがいるな! 見ろ! これが……鎧ダッシュだ!」
 ユーリは撮影スタッフを見つけると、ダイレクトマーケティングでダッシュ力を誇張し、さらに派手な逃走劇を演じた。
 その姿は否が応でも黒服を引きつけ、追手はどんどん増えていった。
 すると、いつの間にやらユーリの体は汗だく……ではなく、血まみれになっていた。
「何という厳しい戦いだ……オレはこのまま、この戦場生き残れるのだろうか……!」
 ハァハァと息を切らしながら苦しそうにスマイルウォーターを飲むユーリ。
 よく見ると、大怪我をしたように見せかけて……フェイクブラッドである。
 配信画面の字幕には「※黒服は誰も手を出していません。演出ですのでご安心ください」という注意書きが表示されていた。

「セシリア、見ろ。Ultra Rayの橘 駿がいるぞ。どうやら、仲間を助けようとしているようだな」
「……檻の中には桐島さん、早見さん、神谷さん……Ultra Rayの仲間が全員……これは面白いかもしれない」
 天宮 奏楽セシリア・フォルトゥーナは檻へと近づくUltra Ray橘 駿を見つけ、その動きを観察していた。
 檻の中の桐島 泰河早見 迅神谷 春人の3人、そして黒服もまだそれには気づいていないらしい。
 果たして、駿はうまく仲間を助けることができるのか。
 奏楽とセシリアは店で購入したミルクレープを食べながら、2階のテラス席で経過を見守ろうとしていた。
「あと、10分を切ったな……だが、勝利条件は3時間逃げ切ること、行動等は指定なし。あそこで狙っているということは、駿はいくつか1人限定復活キーを入手したということだろう。まだ勝機はあるぞ」
「……それはそうと天宮、この指示書は? 『黒服きたらよろしく』とはいっても……作戦内容がこれとはどうなのかと……」
「まぁまぁ、来なかったらしなくて良いのだから楽だろう?」
「だったら……最初からエキストラで参加すべきです。こんなところでミルクレープ食べてるだけなら……わざわざイベントに参加する必要はないんですから」
「エキストラで参加したらこの臨場感を味わえないだろう?」
「……まぁいいです。メロンソーダどうぞ」
「おっ、動いたな」
 駿は植え込みに隠れながら、檻の周囲をぐるぐる回って黒服の隙を伺っている。
 そろそろ、行動に出るのだろうか。
 奏楽とセシリアも身を乗り出す。
 しかし、その時だった。
「……! しまった、いつの間に!」
 2人の背後には、黒服が迫っていた。
 奏楽は咄嗟に、「セシリア、作戦!」と叫んだ。
「こ、怖い顔しないで……私を、どうするの……?」
 セシリアは自分の体を両腕で抱きしめるような仕草をし、煽情的に俯いて上目使いで黒服を見上げる。
 こんな時のための指示書であった。
 お色気作戦を展開され、目の前の黒服の手が止まった。
「逃してくれないの……? だったらお願い……優しくして」
 潤んだ瞳で見上げられ、このまま黒服は退散……かと思われた。
 しかしその時、背後から2つの手が奏楽とセシリアのカチューシャを掴んだ。
「あ……」
 振り返ると、黒服がわざとらしく肩をすくめていた。
 敵は前から来るだけとは限らなかったようだ。
「あと……5分ですね! ここまで来たら、絶対に捕まる訳にはいきませんね!」
 キツネ耳のカチューシャを付けた雛咲 歩は金属バットを手にすると、トゲトゲボールをノックのようにして飛ばした。
 ボールが当たり、歩を追っていた黒服が転倒する。
 歩は小さく「ごめんなさい!」と言うと、アクロスケボに乗り、小さな障害物をうまく避けながら黒服を巻いて逃げ出した。
「おにさんこちら! です! 負けませんよ!」
 残り時間は4分を切った。
 このまま逃げ切れば歩の勝利である。
 しかし、残り時間が短くなり、ラストスパートのかかった黒服達の追撃は執拗だった。
 あわや追い込まれそうになった歩はアクロスケボを飛び降り、追いすがる黒服にアクロバットキックを食らわせた。
「あんまり痛いことしたくないので、これくらいで諦めてくださいね!」
 そんな中、歩の目には檻に接近するタイミングを伺う駿の姿が映った。
 残り時間が少ない中、まだ諦めずに仲間の救出を図っているようだ。
「駿さん! 今なら黒服いません!」
 歩は駿の意図を察知すると、ラウドボイスでそう怒鳴った。
「鍵持ってるなら、今です! 行ってください!」
 その声に反応し、駿は意を決して走り出した。
 そして、檻の鍵を開け、仲間を復活させた。
1人限定復活キーは2本だ! 泰河、迅、来い!」
 駿の呼びかけに、2人が急いで檻から走り出る。
 するとそこへ、気がついた黒服達が一斉に集まってきた。
 しかし――。

ピ、ピ、ピ……ビビーッ!!

 けたたましいブザー音とともに、イクスピナ中に音楽が流れ出した。
 そして一斉に黒服達の動きが止まる。
 配信画面上のカウントダウンも「0:00」で停止していた。
「終わりですね……! 良かった、逃げ切ったぁ……!」
 終了の合図と悟った歩がその場でガッツポーズをする。
 しかし、Ultra Rayのメンバーは「あ゛ー!!」と言いながらその場に崩れ落ちていた。
「春人ごめん……! 時間切れになっちゃったぁ……!」
「あははは、いいよじいじ! 3人出られただけでも十分頑張ったって!」
「おい、駿……あと1本どうにかなんなかったのか?」
「……見てわかるだろう泰河……俺はもう限か……」
「しゅ、駿!? おい、駿! しっかりしろ! 死ぬなー!!」
 すっかり気が抜けてしまった駿はぐったりと泰河に寄りかかり、その様子が撮影スタッフのカメラに納められた。
 配信画面は視聴者からの「参加者の皆、お疲れ様!」「すごく楽しかった!」「感動したよ―!」というメッセージで溢れていた。
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