全力エスケープ・ナウ!
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リアクション
【残り 1:22】
檻付近では仲間を救出しようとする者と黒服との攻防戦が繰り広げられ、そこにはTV番組としても見逃せない展開が待っていた。
撮影スタッフが参加者や黒服の姿を追って走り回る中、その様子を遠巻きに見ている色付き眼鏡に白スーツ姿の男がいた。
阿部 慎太郎である。
エキストラとして参加した慎太郎はイクスピナ内を歩き回りながら、のんびりとアイドル鑑賞を楽しんでいた。
「おや? 面白そうな奴らがいるな。彼らは一体どういう作戦を考えているのであろうか……ここからならよく見えそうだな」
慎太郎はイクスピナ2階にあるカフェのテラス席に座り、手すりにもたれながら双眼鏡を覗き込んだ。
そこには、Ultra Rayの桐島 泰河、早見 迅とともに行動する堀田 小十郎と睡蓮寺 陽介の姿があった。
「ライブ? 陽介、それはどういう作戦なんだ?」
「まぁ、見てろよ泰河。今回俺は仲間を逃がすプロとして在ろうと決めたんだ。要はこの番組でやってるのは『ドロケイ』なわけだろ? ここは『逃がしの陽介』と呼ばれていた俺の出番ってわけさ!」
「いつ呼ばれてたんだ。聞いたことないぞ陽介」
傍らを歩くの小十郎は変な顔をしていたが、陽介は笑って「まぁまぁ」と言った。
「小十郎をはじめ、囮役を担うやつらは派手なライブ(逃走)になるだろうからな。囮をしつつ観客からハートの宝石を集められるなら一石二鳥……」
陽介がそう言いかけた時だった。
1人の黒服が目の前に現れた。
長い黒髪を1つに束ねた女・黒服、千夏 水希である。
「早見 迅……あんたのカチューシャは私がもらう」
「ええっ? お、俺ぇ?!」
「あんたみたいな、なんでも器用にこなす奴って、私みたいな不器用な人間から見たら腹立つんよね……天の贈り物(ギフト)っていうの?」
迅はきょとんとしていたが、水希は何故か個人的に迅への恨みがあるらしい。
水希は迅1人を睨みつけていた。
「私は才能のない凡人で不器用でも、執念と修練で天才に勝てると証明したいの。あんたには……絶対に負けない!」
「うわわわわ! ちょ、待って待って! 本気?! 本気で俺狙い~!!?」
泰河や他の者たちがポカーンと見ている中、水希は猛然と迅を追いかけ始めた。
迅は訳がわからないまま「タンマタンマ!」と叫びながら逃げ回る。
しかし、これはTV的にはなかなか面白い展開である。
撮影スタッフは2人の後を追い、配信画面には「迅くんを狙う謎の美少女黒服現る!」という文字が踊っていた。
「逃がさない……!」
「うわっ! 危ないってば~!」
水希は放ったダークネスの鞭をひょいと飛び越え、投げつけられたシャープエッジタリスをカフェの看板を盾にかわしながら逃げ回る迅。
その逃亡はかなり「火事場の馬鹿力」的な要素が手伝っていたが、全く攻撃を命中させない迅の態度は水希の神経を更に逆撫でした。
「ほんと、なんでもできるね、腹立つ……! たまには本気の本気出すって? 舐めすぎじゃない?」
「ちっ、違うって! 落ち着いて! 一回話し合おうよ! ねっ?!」
「そんな半端なヤツには、ここで無様に負けてもらう!」
「だ、だから何で俺ぇええええ!!」
水希はよほど迅に私怨があるのか、更に何か大技を繰り出そうという様子を見せた。
だが、その時何かが水希に向かって飛んだ。
陽介の投げた手裏剣が水希の服をかすめていた。
「迅、今のうちに逃げろ」
「あんた何を……!」
「悪いが、ここは突破させてもらう!」
ナイフディーリングで投擲された手裏剣が水希に向かって飛ぶ。
突然の奇襲に、水希は思わず目を瞑った。
しかし手裏剣は水希には当たらず、目を開けると迅や陽介の姿はそこにはなかった。
「あの音……あっちか!」
水希はすぐにその場から走り出したが、それは迅達のいる檻の方向とは違っていた。
陽介のかけた「忍法猫騙し」により、水希は反対方向へ誘導されてしまったのだ。
「あれも黒服を欺くためのパフォーマンスか……素晴らしい策ではないか」
テラス席の慎太郎はコーヒーを飲みながら陽介に小さく拍手を贈った。
「さて、しかし……檻の前にいる2人はもっと強そうだ。次はどうするのであろうな……?」
檻の前には槍沢 兵一郎そして鈴木 太郎がいた。
2人は仲間の救出にやってくるであろう参加者たちを待ち構えていた。
「鈴木、来たぜ……あいつらこっち見てやがる」
「男か。じゃあ、僕も本気で行くよ槍沢さん! カメラも回ってるし、筋肉パフォーマンスで盛り上げないとね!」
檻に向かって、まずやって来たのは小十郎だった。
それに気づいた兵一郎と太郎は檻を背に、その前に立ちはだかった。
「何だその武器は? 実力行使で来ようってか?」
兵一郎が小十郎の手元をじろりと見た。
そこには日本刀らしきものがあった。
「そいつはこっちも見逃せねェなぁ。仲間の黒服に怪我させるわけにはいかねェし、番組的にも成功させちゃならねェ……本気で行くぜ?」
「私の命(犬耳カチューシャ)尽きるが先か、そちらの気力が尽きるが先か……根競べといこう」
小十郎が抜いたのは妖刀・村正を模した模造刀であったが、兵一郎にはそうは見えていない。
刀を抜いて向かっていく小十郎に対し、兵一郎は体を張ったセキュリティブロックで迎え撃った。
「行くぜ、ライブ開始だ!」
陽介がアクロバーニングの炎を弾けさせ、この救出劇の幕開けをド派手に演出した。
周囲に多くのエキストラが集まる中、小十郎と兵一郎が組み合い、攻防戦を繰り広げる。
小十郎は巧みな剣さばきで兵一郎を傷つけぬように牽制し、さらには殺陣の華麗な動きを交えて立ち回り、場を大いに盛り上げた。
「迅、今のうちに行くぞ!」
「そうだね! 泰河……いたよ! 駿と春人だ!」
檻の中には橘 駿、そして神谷 春人の姿が見えた。
泰河と迅は小十郎が立ち回り場を盛り上げている間に檻への接近を図った。
「おや……勝負に出たな。これは見ものだ」
デッキの上の慎太郎は泰河と迅の姿を見てそう呟いた。
だが、その目に映る「チャンス」は同時に「ピンチ」と見えていた。
「危ないな……来るぞ!」
素早く檻の前に駆け込む泰河と迅。
しかしそこに、太郎と数人の黒服が立ちはだかった。
「簡単には通さないよ! 筋肉勝負だ!」
「こ、こんなにいたのかよ……!」
泰河と迅は不意を突かれ、黒服達に囲まれてしまった。
2人はどうにか抵抗しようとするも、多勢に無勢である。
「覚悟しろよ、おらぁ!」
「うわっ!」
太郎のアクロバットキックが迅に襲いかかる。
しかし、それは怯ませるための牽制だった。
迅が怯んだ隙に太郎は頭上のカチューシャへと手を伸ばした。
「もらった……! みんな、もう1人も頼むよ!」
「くっ、これまでか……!」
太郎の声で、黒服達は一気に泰河へと手を伸ばす。
その時だった。
「させないぜ! 仲間はこっちにもいるんだよ!」
隠れ身の術で気配を消して接近していた陽介が手裏剣を投げ、黒服を牽制し遠ざけた。
するとそれを見た泰河が咄嗟に何かを陽介に投げた。
「檻の鍵だ! 駿を助けてやってくれ!」
「分かった!」
陽介は檻へ駆け寄ると、素早く台座に1人限定復活キーを差し込み、駿を助け出した。
しかしその間に泰河は 黒服にカチューシャを取られ、リタイアとなってしまった。
「まだ時間はある! 頑張ってくれ!」
泰河は駿に向かって叫んだ。
駿は逃げながら、「すまない」と返した。
「必ず戻る! 待っていろ!」
檻から離れ、駿は陽介とともにエキストラに紛れて逃げ始めた。
それを見た小十郎も刀を納め、その場を引く。
「良い試合いだった……機会があればまたやろう」
駿を庇いながら、小十郎と陽介は人混みの中へと走っていった。
すると2人がテラスの下を通り抜けようとした時、誰かが上から小十郎を呼んだ。
見上げると、そこには手を振る慎太郎の姿があった。
「君達の事をずっと見ていた。良き『ライブ』を見せてもらった!」
「私達を……?」
「受け取り給え!」
慎太郎は小十郎の方に何かを投げた。
その顔は心から満足した様子だった。
「黒服の猛追に耐えて、ライブをよく頑張った! 感動した!!」
ハートの宝石はキラリと光り、小十郎の手の中に落ちた。
それを見届けると、慎太郎はまたのんびりとアイドル鑑賞に戻っていったのであった。
檻付近では仲間を救出しようとする者と黒服との攻防戦が繰り広げられ、そこにはTV番組としても見逃せない展開が待っていた。
撮影スタッフが参加者や黒服の姿を追って走り回る中、その様子を遠巻きに見ている色付き眼鏡に白スーツ姿の男がいた。
阿部 慎太郎である。
エキストラとして参加した慎太郎はイクスピナ内を歩き回りながら、のんびりとアイドル鑑賞を楽しんでいた。
「おや? 面白そうな奴らがいるな。彼らは一体どういう作戦を考えているのであろうか……ここからならよく見えそうだな」
慎太郎はイクスピナ2階にあるカフェのテラス席に座り、手すりにもたれながら双眼鏡を覗き込んだ。
そこには、Ultra Rayの桐島 泰河、早見 迅とともに行動する堀田 小十郎と睡蓮寺 陽介の姿があった。
「ライブ? 陽介、それはどういう作戦なんだ?」
「まぁ、見てろよ泰河。今回俺は仲間を逃がすプロとして在ろうと決めたんだ。要はこの番組でやってるのは『ドロケイ』なわけだろ? ここは『逃がしの陽介』と呼ばれていた俺の出番ってわけさ!」
「いつ呼ばれてたんだ。聞いたことないぞ陽介」
傍らを歩くの小十郎は変な顔をしていたが、陽介は笑って「まぁまぁ」と言った。
「小十郎をはじめ、囮役を担うやつらは派手なライブ(逃走)になるだろうからな。囮をしつつ観客からハートの宝石を集められるなら一石二鳥……」
陽介がそう言いかけた時だった。
1人の黒服が目の前に現れた。
長い黒髪を1つに束ねた女・黒服、千夏 水希である。
「早見 迅……あんたのカチューシャは私がもらう」
「ええっ? お、俺ぇ?!」
「あんたみたいな、なんでも器用にこなす奴って、私みたいな不器用な人間から見たら腹立つんよね……天の贈り物(ギフト)っていうの?」
迅はきょとんとしていたが、水希は何故か個人的に迅への恨みがあるらしい。
水希は迅1人を睨みつけていた。
「私は才能のない凡人で不器用でも、執念と修練で天才に勝てると証明したいの。あんたには……絶対に負けない!」
「うわわわわ! ちょ、待って待って! 本気?! 本気で俺狙い~!!?」
泰河や他の者たちがポカーンと見ている中、水希は猛然と迅を追いかけ始めた。
迅は訳がわからないまま「タンマタンマ!」と叫びながら逃げ回る。
しかし、これはTV的にはなかなか面白い展開である。
撮影スタッフは2人の後を追い、配信画面には「迅くんを狙う謎の美少女黒服現る!」という文字が踊っていた。
「逃がさない……!」
「うわっ! 危ないってば~!」
水希は放ったダークネスの鞭をひょいと飛び越え、投げつけられたシャープエッジタリスをカフェの看板を盾にかわしながら逃げ回る迅。
その逃亡はかなり「火事場の馬鹿力」的な要素が手伝っていたが、全く攻撃を命中させない迅の態度は水希の神経を更に逆撫でした。
「ほんと、なんでもできるね、腹立つ……! たまには本気の本気出すって? 舐めすぎじゃない?」
「ちっ、違うって! 落ち着いて! 一回話し合おうよ! ねっ?!」
「そんな半端なヤツには、ここで無様に負けてもらう!」
「だ、だから何で俺ぇええええ!!」
水希はよほど迅に私怨があるのか、更に何か大技を繰り出そうという様子を見せた。
だが、その時何かが水希に向かって飛んだ。
陽介の投げた手裏剣が水希の服をかすめていた。
「迅、今のうちに逃げろ」
「あんた何を……!」
「悪いが、ここは突破させてもらう!」
ナイフディーリングで投擲された手裏剣が水希に向かって飛ぶ。
突然の奇襲に、水希は思わず目を瞑った。
しかし手裏剣は水希には当たらず、目を開けると迅や陽介の姿はそこにはなかった。
「あの音……あっちか!」
水希はすぐにその場から走り出したが、それは迅達のいる檻の方向とは違っていた。
陽介のかけた「忍法猫騙し」により、水希は反対方向へ誘導されてしまったのだ。
「あれも黒服を欺くためのパフォーマンスか……素晴らしい策ではないか」
テラス席の慎太郎はコーヒーを飲みながら陽介に小さく拍手を贈った。
「さて、しかし……檻の前にいる2人はもっと強そうだ。次はどうするのであろうな……?」
檻の前には槍沢 兵一郎そして鈴木 太郎がいた。
2人は仲間の救出にやってくるであろう参加者たちを待ち構えていた。
「鈴木、来たぜ……あいつらこっち見てやがる」
「男か。じゃあ、僕も本気で行くよ槍沢さん! カメラも回ってるし、筋肉パフォーマンスで盛り上げないとね!」
檻に向かって、まずやって来たのは小十郎だった。
それに気づいた兵一郎と太郎は檻を背に、その前に立ちはだかった。
「何だその武器は? 実力行使で来ようってか?」
兵一郎が小十郎の手元をじろりと見た。
そこには日本刀らしきものがあった。
「そいつはこっちも見逃せねェなぁ。仲間の黒服に怪我させるわけにはいかねェし、番組的にも成功させちゃならねェ……本気で行くぜ?」
「私の命(犬耳カチューシャ)尽きるが先か、そちらの気力が尽きるが先か……根競べといこう」
小十郎が抜いたのは妖刀・村正を模した模造刀であったが、兵一郎にはそうは見えていない。
刀を抜いて向かっていく小十郎に対し、兵一郎は体を張ったセキュリティブロックで迎え撃った。
「行くぜ、ライブ開始だ!」
陽介がアクロバーニングの炎を弾けさせ、この救出劇の幕開けをド派手に演出した。
周囲に多くのエキストラが集まる中、小十郎と兵一郎が組み合い、攻防戦を繰り広げる。
小十郎は巧みな剣さばきで兵一郎を傷つけぬように牽制し、さらには殺陣の華麗な動きを交えて立ち回り、場を大いに盛り上げた。
「迅、今のうちに行くぞ!」
「そうだね! 泰河……いたよ! 駿と春人だ!」
檻の中には橘 駿、そして神谷 春人の姿が見えた。
泰河と迅は小十郎が立ち回り場を盛り上げている間に檻への接近を図った。
「おや……勝負に出たな。これは見ものだ」
デッキの上の慎太郎は泰河と迅の姿を見てそう呟いた。
だが、その目に映る「チャンス」は同時に「ピンチ」と見えていた。
「危ないな……来るぞ!」
素早く檻の前に駆け込む泰河と迅。
しかしそこに、太郎と数人の黒服が立ちはだかった。
「簡単には通さないよ! 筋肉勝負だ!」
「こ、こんなにいたのかよ……!」
泰河と迅は不意を突かれ、黒服達に囲まれてしまった。
2人はどうにか抵抗しようとするも、多勢に無勢である。
「覚悟しろよ、おらぁ!」
「うわっ!」
太郎のアクロバットキックが迅に襲いかかる。
しかし、それは怯ませるための牽制だった。
迅が怯んだ隙に太郎は頭上のカチューシャへと手を伸ばした。
「もらった……! みんな、もう1人も頼むよ!」
「くっ、これまでか……!」
太郎の声で、黒服達は一気に泰河へと手を伸ばす。
その時だった。
「させないぜ! 仲間はこっちにもいるんだよ!」
隠れ身の術で気配を消して接近していた陽介が手裏剣を投げ、黒服を牽制し遠ざけた。
するとそれを見た泰河が咄嗟に何かを陽介に投げた。
「檻の鍵だ! 駿を助けてやってくれ!」
「分かった!」
陽介は檻へ駆け寄ると、素早く台座に1人限定復活キーを差し込み、駿を助け出した。
しかしその間に泰河は 黒服にカチューシャを取られ、リタイアとなってしまった。
「まだ時間はある! 頑張ってくれ!」
泰河は駿に向かって叫んだ。
駿は逃げながら、「すまない」と返した。
「必ず戻る! 待っていろ!」
檻から離れ、駿は陽介とともにエキストラに紛れて逃げ始めた。
それを見た小十郎も刀を納め、その場を引く。
「良い試合いだった……機会があればまたやろう」
駿を庇いながら、小十郎と陽介は人混みの中へと走っていった。
すると2人がテラスの下を通り抜けようとした時、誰かが上から小十郎を呼んだ。
見上げると、そこには手を振る慎太郎の姿があった。
「君達の事をずっと見ていた。良き『ライブ』を見せてもらった!」
「私達を……?」
「受け取り給え!」
慎太郎は小十郎の方に何かを投げた。
その顔は心から満足した様子だった。
「黒服の猛追に耐えて、ライブをよく頑張った! 感動した!!」
ハートの宝石はキラリと光り、小十郎の手の中に落ちた。
それを見届けると、慎太郎はまたのんびりとアイドル鑑賞に戻っていったのであった。