【異世界カフェ・番外編】猫祭り
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◆猫祭りを楽しむ(2)
迫水 晶とノーラ・レツェルは連れ立って、猫祭りでにぎわう葦原の街を散策している。
「ふむ、猫祭りの名の通り、猫のデザインがそこかしこに……これもまた、興味深い祭りだな」
羊羹やどら焼きに猫のデザインが施されているのを目にすると、晶はプロデューサー視点で思考し始めてしまう。
(なるほど、見ても楽しめるし話のタネにもなる)
つい癖でそんな風に分析している自分を、心の中で苦笑と共に窘める。
(……いけないな。ノーラくんと一緒に来ている猫祭り、今は純粋に楽しむ時間だ)
ノーラに猫祭りに誘われて嬉しく、楽しみにして来たことを、いま一度肝に銘じる晶だ。
「んー……見るとこいっぱいで悩んじゃうねぇ」
のんびりした口調の中にもワクワク感いっぱいで、ノーラは呟いた。
どこを見ても猫、猫、猫、目が猫で溢れている。この街の様子はノーラにとって至福の光景だった。
ノーラは猫の気まぐれな感じがとても好きだ。あの自由な生き方にとても憧れている。
「可愛い小物が多いし、今日は奮発していろいろ買おうかなぁ……悩むなぁ……」
幸せな悩みを味わいながらノーラはウインドウショッピングを楽しんでいる。
「食べ物に小物に服に、猫がいっぱい……猫は広く親しまれているんだと実感するよぉ」
ノーラが色々なものに目移りしながら歩いていると不意に、晶に「はい」と掌サイズの紙包みを手渡された。
「あ、ありがとう」と思わず受け取ったのは、どら焼き。食べ歩き用だ。
それはまだ温かく、うっすらと湯気も立っている。
包み紙を大きく開いてみると、どら焼きの真ん中に猫が笑った顔の焼き印が押してあった。
焼きたてのどら焼きは、生地がふわっふわで柔らかく格別の味。外で歩きながら食べればなお美味しい。
猫の刻印を食べてしまうのはもったいなかったが、二人でふはふは言って食べればお腹も心も、猫の笑顔をもらったように幸せになった。
次に二人の目を引いたのは、ぬいぐるみを売る店だ。
今日はとりわけ猫のぬいぐるみを前面に出して陳列しているようだ。
その中からノーラが特に気に入ったのは、枕を抱いた猫の大きなぬいぐるみだった。
晶は一目見て(ノーラくんが好きそうなデザインだ)と見抜いていた。
「猫は寝ている姿が多くて、眠りを推進する立場としては良いイメージをもたらしてくれる存在なんだけど……もしかしたら眠りの先駆者なのかも?」
ノーラが安くはない眠り猫の大型ぬいぐるみを買おうかどうしようかと思案している間に、晶は横の露店で売っているものに目を留めていた。
「うむ、あれは……?」
ノーラは、日向ぼっこして寝ているように見える猫のぬいぐるみを見ているうち、一緒に寝たくなってしまった。
大きすぎるぬいぐるみを買って帰るのは諦めて、晶を婉曲にお昼寝に誘ってみた。
「晶くんは疲れてない?」
「ああ、まあ、少しは……」
二人は何処か静かな場所で少し休むことにした。
ノーラは静かでお昼寝できそうなスポットを、すんなり見つけた。
こういう事には素晴らしく勘が働くのだ。
川べりの、短く柔らかい草が生えている場所に、二人で並んで仰向けに寝転んだ。
気持ちの良い風がそよぎ、小鳥の声が瞼を重くする。
…………
……
どれくらい時間が経ったのか、ノーラが目覚めた時、晶は起きて横に座っていた。
「おはよう、ノーラくん。お目覚めかい?」
「んー……よく寝た。今日は一日付き合ってくれてありがとうだねぇ」
ノーラが伸びをして体を起こした。
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。嬉しかったよ。これは今日のお礼に、プレゼント」
晶がノーラに猫の模様が付いた紙袋を差し出した。
「……え? プレゼント? ありがとう……」
開けてみると、中には小さな袋に入ったお香が入っていた。
「それは安眠に良いということで、さっきぬいぐるみ屋の横の露店でこっそり買っておいたんだ」
「わぁ、ありがとう……僕、なにも用意してなくてごめんねぇ……!」
取り出したお香に鼻を近付けて、くんくんと香りを嗅いでいるノーラに、晶は遠慮がちに言った。
「それと、その、もう一つその袋に入っているんだが……」
え? とノーラがもう一度袋を覗き込むと、安眠のお香の袋の下になっていたらしい一回り小さな袋が見えた。
「別の香りのお香?」
ノーラが取り出すと、中に入っているものが小さく固い輪っかであることが、袋の外から触れて判った。
「これ……」
「そう、……指輪。あらかじめ用意しておいたんだ」
「!?」
なんで? と焦るノーラの頬が見る見る赤く染まっていく。
(これってもしかして……)
晶はそんなノーラの様子を、黙って微笑んで見つめていた――。
迫水 晶とノーラ・レツェルは連れ立って、猫祭りでにぎわう葦原の街を散策している。
「ふむ、猫祭りの名の通り、猫のデザインがそこかしこに……これもまた、興味深い祭りだな」
羊羹やどら焼きに猫のデザインが施されているのを目にすると、晶はプロデューサー視点で思考し始めてしまう。
(なるほど、見ても楽しめるし話のタネにもなる)
つい癖でそんな風に分析している自分を、心の中で苦笑と共に窘める。
(……いけないな。ノーラくんと一緒に来ている猫祭り、今は純粋に楽しむ時間だ)
ノーラに猫祭りに誘われて嬉しく、楽しみにして来たことを、いま一度肝に銘じる晶だ。
「んー……見るとこいっぱいで悩んじゃうねぇ」
のんびりした口調の中にもワクワク感いっぱいで、ノーラは呟いた。
どこを見ても猫、猫、猫、目が猫で溢れている。この街の様子はノーラにとって至福の光景だった。
ノーラは猫の気まぐれな感じがとても好きだ。あの自由な生き方にとても憧れている。
「可愛い小物が多いし、今日は奮発していろいろ買おうかなぁ……悩むなぁ……」
幸せな悩みを味わいながらノーラはウインドウショッピングを楽しんでいる。
「食べ物に小物に服に、猫がいっぱい……猫は広く親しまれているんだと実感するよぉ」
ノーラが色々なものに目移りしながら歩いていると不意に、晶に「はい」と掌サイズの紙包みを手渡された。
「あ、ありがとう」と思わず受け取ったのは、どら焼き。食べ歩き用だ。
それはまだ温かく、うっすらと湯気も立っている。
包み紙を大きく開いてみると、どら焼きの真ん中に猫が笑った顔の焼き印が押してあった。
焼きたてのどら焼きは、生地がふわっふわで柔らかく格別の味。外で歩きながら食べればなお美味しい。
猫の刻印を食べてしまうのはもったいなかったが、二人でふはふは言って食べればお腹も心も、猫の笑顔をもらったように幸せになった。
次に二人の目を引いたのは、ぬいぐるみを売る店だ。
今日はとりわけ猫のぬいぐるみを前面に出して陳列しているようだ。
その中からノーラが特に気に入ったのは、枕を抱いた猫の大きなぬいぐるみだった。
晶は一目見て(ノーラくんが好きそうなデザインだ)と見抜いていた。
「猫は寝ている姿が多くて、眠りを推進する立場としては良いイメージをもたらしてくれる存在なんだけど……もしかしたら眠りの先駆者なのかも?」
ノーラが安くはない眠り猫の大型ぬいぐるみを買おうかどうしようかと思案している間に、晶は横の露店で売っているものに目を留めていた。
「うむ、あれは……?」
ノーラは、日向ぼっこして寝ているように見える猫のぬいぐるみを見ているうち、一緒に寝たくなってしまった。
大きすぎるぬいぐるみを買って帰るのは諦めて、晶を婉曲にお昼寝に誘ってみた。
「晶くんは疲れてない?」
「ああ、まあ、少しは……」
二人は何処か静かな場所で少し休むことにした。
ノーラは静かでお昼寝できそうなスポットを、すんなり見つけた。
こういう事には素晴らしく勘が働くのだ。
川べりの、短く柔らかい草が生えている場所に、二人で並んで仰向けに寝転んだ。
気持ちの良い風がそよぎ、小鳥の声が瞼を重くする。
…………
……
どれくらい時間が経ったのか、ノーラが目覚めた時、晶は起きて横に座っていた。
「おはよう、ノーラくん。お目覚めかい?」
「んー……よく寝た。今日は一日付き合ってくれてありがとうだねぇ」
ノーラが伸びをして体を起こした。
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。嬉しかったよ。これは今日のお礼に、プレゼント」
晶がノーラに猫の模様が付いた紙袋を差し出した。
「……え? プレゼント? ありがとう……」
開けてみると、中には小さな袋に入ったお香が入っていた。
「それは安眠に良いということで、さっきぬいぐるみ屋の横の露店でこっそり買っておいたんだ」
「わぁ、ありがとう……僕、なにも用意してなくてごめんねぇ……!」
取り出したお香に鼻を近付けて、くんくんと香りを嗅いでいるノーラに、晶は遠慮がちに言った。
「それと、その、もう一つその袋に入っているんだが……」
え? とノーラがもう一度袋を覗き込むと、安眠のお香の袋の下になっていたらしい一回り小さな袋が見えた。
「別の香りのお香?」
ノーラが取り出すと、中に入っているものが小さく固い輪っかであることが、袋の外から触れて判った。
「これ……」
「そう、……指輪。あらかじめ用意しておいたんだ」
「!?」
なんで? と焦るノーラの頬が見る見る赤く染まっていく。
(これってもしかして……)
晶はそんなノーラの様子を、黙って微笑んで見つめていた――。