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【異世界カフェ・番外編】猫祭り

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  • 【異世界カフェ・番外編】猫祭り

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◆猫祭りを楽しむ(1)

 猫祭りでは、街中に猫グッズが溢れる――
 そんな情報を得た世良 延寿は、猫姫に選ばれた藍と茜を応援するために、猫をデザインに取り入れた応援グッズを作って販売しようと閃いた。

「アイドルの応援グッズといえば……やっぱり定番はこれだよね!」
 応援グッズにも数々の種類があるが、延寿が目を付けたのはタオル。
 よくライブ会場で売っているような、そのアイドルのテーマカラーでプリントされたタオルだ。
 ロゴや似顔絵やイラストが描かれていて、汗を拭いてよし、推しに向けて振ってよし。
 趣味と実用を兼ね備えたスグレモノだ。

 しかし延寿ははたと気が付いた。
 華乱葦原にタオルは無い、と。
 だが、タオルはなくても手ぬぐいならある。
 早速延寿は大量の白無地の手ぬぐいを手配し、染物屋に頼んで「延寿特製・猫祭り限定手ぬぐい」を染めてもらうことにした。

 藍と茜、それぞれをイメージした色の手ぬぐいに、可愛い猫のマークを白抜きで描く。
 もちろん猫のマークは延寿が考案したデザインだ。
 葦原の優秀な染物職人の手によって、シックな色合いの使いやすい手ぬぐいに仕上がった。

 延寿はそれを「葦原かふぇ」の店頭で販売した。
「今日はこの手ぬぐいを買ってくれた人に、特製の白玉ぜんざいをサービスするよ!」
 サービスというには微妙な値段だったが、延寿もお客も損をしない納得できる価格設定だったので、猫好きの人たちは気前よく買ってくれた。
 藍と茜にちなんだ二種類の手ぬぐいを作ったことが功を奏し、二本とも買う人が大半だったので延寿は儲かった。

「猫姫の山車が通ったら、この手ぬぐいを振って応援してね!」
 一言添えた延寿の呼びかけに応えて、手ぬぐいを買った客はパレードの沿道から藍色と茜色の手ぬぐいを振って、パレードを盛り上げてくれた。
 もちろん延寿も彼らと一緒に二色の手ぬぐいを両手に持って振って、藍と茜に声援を送る。
「藍、茜、がんばって!」
「延寿ちゃ~ん! 素敵な応援ありがとう~!」
 山車の上から手を振って応える猫姫たちは、延寿と見物人たちの手ぬぐいの波を見て大感激していた。

 ***

 猫祭り見物で、橘 樹宇津塚 夢佳は奇怪事研究倶楽部の部活兼デートを楽しんでいる。

 既存の店舗や猫祭り特設屋台で、あらゆる猫関連商品がこの時とばかり並べられている。
 それを二人で眺めたり手に取ってみたりして、あれこれ感想をおしゃべりしながら歩く。
 これだけでも十分に幸せな二人だ。

「ああ、あれは面白そうな……」
 夢佳が目を留めた先には、たくさんの和綴じの本が店先の平台に並べられていた。
 猫祭りにちなんで、それらの本は全部なにかしら猫に絡んだ読み物だった。
 表紙の和紙に猫の模様が箔押しされた豪華な装丁のものまである。

「夢佳さん、ここ凄いね。猫絡みの本ばかりだよ。猫絡みだとちょっと怖い話もあるんじゃないかな?」
 樹は重なっている本を一冊ずつ退けて、下になっている本の題名を読みあげていく。 

 夢佳は気になる一冊を取り上げて、中をパラパラと見てみた。
「樹様、この本、人間と妖怪の恋愛模様を描いた物語のようでございますよ」
 挿絵を見ている夢佳の横から、樹が覗き込んだ。
「へえ、猫が人に化けて人間の男と結婚する話か~。異種婚姻譚だね。面白そう」

 興味をそそられた樹はこの本を購入することにした。
「どこか落ち着ける場所で一緒に読みましょう」
「じゃあ、折角だし葦原かふぇにでも寄って一緒に読もう」

 樹と夢佳が葦原かふぇに到着した時には、もうすでに延寿が「限定手ぬぐい」を売りつくした後だった。
 人波が一段落した店内で二人は並んで座り、飲み物を注文してから二人の間に本を広げると、肩を寄せ合って一緒に読み始めた。

 ストーリーはこうだ。
 主人公の猫が恩人の男を慕って、人間の女に化けて嫁となり尽くしていたが、男が出来心で裏切ったせいで猫嫁は豹変。
 深い愛が憎しみに変わり、男を祟り殺してしまう。
 事切れた男の首には猫に引っかかれたような痕が残っていた――。

「……なかなか過激な結末だね」
「なにやら、鶴の恩返しの猫版のようなものでございましたねえ」
 読み終えた二人は本を閉じ、しみじみと感想を述べて同じ動作で温かい飲み物を飲む。

「それはそれとして……実際に異類婚姻が行われてますのかどうか、そこは少々気になります」
「葦原だったら本当にあるんじゃないかなあ……でも、裏切ったら殺すってぐらい強く愛してもらえるのは幸せなことだよね。裏切らなきゃいい話だし」
「わたくしは、裏切られたら祟りますというところには、大変共感を覚えてしまいます」
「じゃあ、万が一にもないことだけど、僕が夢佳さんを裏切ったら、夢佳さんも僕を祟る?」

 軽い気持ちで聞いた樹に夢佳は昏く燃える眼差しを向け、一言低く「はい」と言った。
「えっ……」
 夢佳の視線の熱に絡め取られ、樹は目を離すことができない。
 ぞくりとした一瞬の後、胸に広がるのは甘い悦び。

「……えへへ、その気持ちが嬉しいって思っちゃうのは、僕もだいぶキてるのかな」
 照れ笑いで誤魔化して、樹は視線を外す。
 夢佳も元の柔和な微笑みを取り戻し、手に持った湯飲みに視線を移した。
「わたくしが祟るのが嬉しいだなんて、樹様が思ってくださることすら嬉しいと思ってしまいますのは、きっとわたくしもどうかしてますのでしょう」

 どうかしている程深く想い合っている二人の猫祭りデートは、この後も続く。
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