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【異世界カフェ・番外編】猫祭り

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【異世界カフェ・番外編】猫祭り
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リアクション

◆猫まきの危機を救う!

 行坂 貫は猫まきの櫓に上がる梯子段の途中に留まり、頭だけ出して櫓の中の様子を窺っていた。
 【隠形の術】を使っているので、櫓を占拠している四人の悪党どもに見つかる心配はない。
 猫まきをする本来の担当者は三人で、猿ぐつわをされ縄で縛られて床に転がされている。
 狭い床には、まくための猫形菓子が入った大袋が数個と、素焼きの猫形陶器が縁まで入れられた背負い籠が一つ、置かれていた。
(まああれぐらいの人数ならなんとかなるだろ)

 貫は音もなく残りの梯子段を駆け上り、一番近くにいた悪党に【天舞刃扇】の刀を突き付けて言った。
「お前たち、憂さ晴らしの相手なら俺がするから、折角の祭りぶち壊すのはやめてくれないか」
 一分の隙もない貫の立ち姿と、腰に下がっている黒漆の印籠【【芸格】名題越】を見て、ケチな悪党でも相手が手練れだと理解できたようだ。
「な、なんだ、お前は!」
 驚いた悪党たちは貫から一番遠くなるよう位置取りをし、櫓の手すりに背を預けて睨み付けているが完全に腰が引けている。
「お前たちに名乗るような名はない。しかしここで騒ぎを起こして猫まきが台無しになるのは俺の本意ではない。場所を移して皆の迷惑にならない所でなら、存分にお相手しよう」

 貫がずいっと一歩前に踏み出すと、狭い櫓の上のこと、逃げ場がないと切羽詰まった悪党どもは、
「うるせえ!」
「やっちまえ!」
 小者感溢れる罵声を浴びせて貫に斬りかかってきた。

 貫は落ち着いて悪党どもの最初の一撃をうち払い、悪党が一瞬怯んだ隙を突いて【天舞刃扇】を鋭く振り下ろして鎌鼬を発生させた。
 鎌鼬は目にも止まらぬ速さで、縛られて怯えている人たちの縄を切った。
「早く、ここから降りろ!」

 貫は解放された人たちを背に庇うように梯子段までの道を作り、悪党どもには油断なく【天舞刃扇】を突き付け視線は外さない。
 三人は転げ落ちるように逃げていった。


 貫と悪党どもの間で緊張が再び高まり、耐えきれなくなった悪党が再び斬りかかろうとしたその時、貫は素焼きの陶器が入った籠の背負い紐をさっと掴んで、櫓の上から飛び降りた!
 あっ! と悪党が驚いて貫が飛び降りた所に駆け寄り、手すりから身を乗り出すと、美しい妖獣【麒麟】がタイミングを合わせたように貫を受け止めて、飛び去るのが見えたのだった。

「お前らなんか俺に敵うものかー! 悔しかったら追って来ーい!」

 貫の挑発に地団駄を踏んだ悪党どもは、我先に梯子段を降りて【麒麟】を追いかけて行った。

 …………
 ……

 貫が降り立った場所は、上月 馨が借りた空き店舗の前だった。
「貫、待ってたで。うまいこといったんか?」
「人質は解放したし、素焼きの猫は、ほらこの通りだ」
 貫は少し体を傾けて背負っている駕籠を見せた。

「意外とようけあるやん。へ~、かいらしいかっこに拵えたぁるなあ」
 馨は猫形陶器をひとつ摘まみ上げ、しげしげと眺めた。

 そうこうしている所へ、悪党どもが息を切らして追いついた。
「貴様ぁ、よくもナメやがって!」
 どこまでもザコ丸出しの台詞しか言えない悪党である。

 それを聞いて馨も「はぁ~」とため息を吐く。
「あんたらなあ、そういうの、もう止めたら?」
 馨の腰に下がっている【【芸格】相中】に気付いた悪党は、やや怯んだ。
 
「ほんまはあんたらも猫祭りに興味あるんやろ? 興味あるもんに毎回嫌がらせするってなんやねん。男子小学生か」
 馨のまったりとした関西弁の語り口に、攻撃するきっかけを見いだせない悪党どもは、刀を構えつつもその場から動けないでいる。
「あんな、うちから素敵な提案があるねんけど、よぉ聞いてや?」
 悪党どもは、自分から手を出さない限り馨も貫も攻撃してこないようだと察して、大人しく馨の話に耳を傾けた。

「この素焼きの猫形陶器使って『憂さ晴らし屋』やらへん? 素焼きの陶器って食べ物盛るには向かんけど、割れ易いからストレス発散で壊すのに丁度ええねんよ。案外ウケると思うんよね」
「あんた、俺らに商売せえっちゅうんか?」
「せや。お客に物壊してもうて、お金儲けできるって、あんたら向きの商売やろ?」
 馨は人を食ったような笑みを浮かべて失礼なことを言っているのだが、悪党どもは馨の提案に心を奪われて戦意喪失しているようだった。

 そんな彼らの心情の変化を読み取った馨は、大阪のオバチャンみたいな人懐っこさを装って、
「ほな、こっち来ぃ。おいらがこの商売のやり方教えたるし」
 強引に店内に誘導する。

 その後、悪党どもは馨の話術にすっかり嵌って、素直にレクチャーを受けたのだった。

 …………
 ……

 猫まきは予定通り行われて無事終了した。
 何も知らない人々は、いつも通り投げられるお菓子の猫を無邪気に受け取って楽しんだ。


 どこの世界にもストレスを溜めた人は多いようで、馨の読み通り「憂さ晴らし屋」は繁盛した。
 
 そしてこの年を境に、悪党が猫祭りを妨害することはなくなったという。
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