バレンタイン・ブライド!
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リアクション
◆成就した想い
緑青 木賊と白川 郷太郎は互いに想いが通じ合っている仲だ。
木賊は家の事情で、ずっと男子として振る舞ってきた。
そんな健気な木賊だからこそ大切に思っている郷太郎だったが、女性としての木賊と結婚したいというのも本音だった。
木賊の方も愛する郷太郎の気持ちを知って、彼の願いを叶えたいと思っていた。
そんな折、新生マリパラでの模擬結婚式の話が耳に入り、一も二もなく参加することにしたのだ。
模擬と言えども木賊の事情により、おおっぴらに結婚式を挙げるわけにはいかない。
だとすると終日人の出入りが激しそうなチャペルはまずいかもしれない。
そこで二人はチャペルの控室を借りて、参列者もなくひっそりと結婚式を行うことにした。
イドラ教団員の郷太郎は、式の進行役をイドラの女王に頼んだ。
イドラの女王は意外とまともで、なんだかんだ言っても口が堅そうだから木賊の秘密も守ってくれるだろう。
「拙者のような末端教団員が頼めるのかな……」
遠慮しいしい郷太郎が頼んでみると、イドラの女王は快く引き受けてくれたのだった。
それなのに当日、木賊はもういっぱいいっぱいで、イドラの女王に失礼なことを口走る。
「な、なれど。このような事を知られぬ為、その、目を閉じて後ろ向いて頂きたく。ほら、お決まりの進行とお言葉だけ口にしていただければ良いっすから」
イドラの女王は、初めは胡乱げに木賊を見ていたが、よっぽどシャイなんだろうとひとり納得して了承してくれた。
「で、何を言えばいいの」
「あ……えっと、何か誓う言葉とか! 指輪の交換とか! 誓いの口づ……そ、それはかっとで! 初めてが人前は難易度が凄まじ過ぎる! いや見ておられぬといえ……!」
木賊は赤くなったり青くなったりしている。
郷太郎はそんな木賊の背中をそっと押して、ついたての方へと促した。
「さあ、時間も無いことだし、もうウェディングドレスに着替えるでござるよ」
ほどなく、純白のウェディングドレスに着替えた木賊が慣れないスカートを持て余しながら、ついたての奥から顔を覗かせた。
「あの……郷太郎氏……」
木賊は消え入りそうになりながら声を掛ける。
「おう、早くこちらへ。イドラの女王がお待ちでござるよ」
「あ、郷太郎氏も……み、見ないで。目を閉じて。んむ。自分も郷太郎氏の正装なお姿が眩しくて直視できない故に、お互い様ということで、どうか」
「わかったでござる。拙者、目を瞑っているから、安心してこっちに来るでござるよ」
木賊のテンパりを思いやって優しく接してくれる郷太郎に申し訳なく、けれど羞恥心の方が上回る木賊である。
後ろを向いて盛大にため息をついたイドラの女王が言った。
「用意ができたんなら、さっさと始めるわよ。私も忙しいんだから」
郷太郎の横に木賊が並び、二人揃ってイドラの女王の背中に向かって背筋を伸ばす。
「汝、白川郷太郎はいつでもいつまでも緑青木賊を愛すると誓いますか?」
「誓うでござる」
「汝、緑青木賊はいつでもいつまでも白川郷太郎を愛すると誓いますか?」
「ち、誓うっす」
「では、指輪の交換ね」
二人は目を閉じたまま向き合った。
ポケットを探って郷太郎は【指輪】を取り出す。
木賊の手を取るため、郷太郎は木賊にバレないように半目でチラッと見た。
恥じらいに身を縮めるようにして立っている木賊は、どこの世界の姫かと見紛う程に美しい。
「綺麗でござる」
思わず小声で呟いたセリフが、木賊の耳に届いたかどうかは判らない。
俯いた木賊の表情は、郷太郎からは見えなかったから。
けれども郷太郎に【指輪】を嵌めようとしている木賊の耳が真っ赤になったのは、はっきりと見えたのだった。
「えーと、指輪交換はしたのね? 次、誓いのキス……は無し、なんだよね? じゃあ、誓いの抱擁でもやっとく?」
イドラの女王の提案に思わず二人共目を見開いて、互いに見つめ合ってしまう。
目を開けたことを木賊が咎めるより早く、郷太郎が木賊を抱きしめてしまった。
「結婚したいという拙者のわがままを叶えてくれて嬉しいよ。木賊、寂しい思いはもう、させない。だから、これからもずっと一緒に居たい」
突然のことに驚きうろたえ、反射的に身を引こうとした木賊であったが、郷太郎の温かい声に体のこわばりが解ける。
(自分はただでさえ、緑青のおのことしては未熟者で半端者である自覚はあるところ。うえでんぐどれすを浮かれて身に纏うなど、尚のこと論外な姿であるっす)
それでも、今だけ、今宵だけ……と木賊は震える心で思う。
(無い喉仏も、潰した胸も、弱さを表す鼻先の大きな傷も。全部隠すことはやめて。嘘も隠し事もしたくない)
「ただの木賊として置いて頂けたなら。……郷太郎、さん……の、隣で」
二人は初めて唇を重ねた。
もはや人前かどうかなど気にかけている余裕はなく、イドラの女王の存在も忘れている二人だったが、幸いなことに忙しいイドラの女王はさっさと退室した後だった。
緑青 木賊と白川 郷太郎は互いに想いが通じ合っている仲だ。
木賊は家の事情で、ずっと男子として振る舞ってきた。
そんな健気な木賊だからこそ大切に思っている郷太郎だったが、女性としての木賊と結婚したいというのも本音だった。
木賊の方も愛する郷太郎の気持ちを知って、彼の願いを叶えたいと思っていた。
そんな折、新生マリパラでの模擬結婚式の話が耳に入り、一も二もなく参加することにしたのだ。
模擬と言えども木賊の事情により、おおっぴらに結婚式を挙げるわけにはいかない。
だとすると終日人の出入りが激しそうなチャペルはまずいかもしれない。
そこで二人はチャペルの控室を借りて、参列者もなくひっそりと結婚式を行うことにした。
イドラ教団員の郷太郎は、式の進行役をイドラの女王に頼んだ。
イドラの女王は意外とまともで、なんだかんだ言っても口が堅そうだから木賊の秘密も守ってくれるだろう。
「拙者のような末端教団員が頼めるのかな……」
遠慮しいしい郷太郎が頼んでみると、イドラの女王は快く引き受けてくれたのだった。
それなのに当日、木賊はもういっぱいいっぱいで、イドラの女王に失礼なことを口走る。
「な、なれど。このような事を知られぬ為、その、目を閉じて後ろ向いて頂きたく。ほら、お決まりの進行とお言葉だけ口にしていただければ良いっすから」
イドラの女王は、初めは胡乱げに木賊を見ていたが、よっぽどシャイなんだろうとひとり納得して了承してくれた。
「で、何を言えばいいの」
「あ……えっと、何か誓う言葉とか! 指輪の交換とか! 誓いの口づ……そ、それはかっとで! 初めてが人前は難易度が凄まじ過ぎる! いや見ておられぬといえ……!」
木賊は赤くなったり青くなったりしている。
郷太郎はそんな木賊の背中をそっと押して、ついたての方へと促した。
「さあ、時間も無いことだし、もうウェディングドレスに着替えるでござるよ」
ほどなく、純白のウェディングドレスに着替えた木賊が慣れないスカートを持て余しながら、ついたての奥から顔を覗かせた。
「あの……郷太郎氏……」
木賊は消え入りそうになりながら声を掛ける。
「おう、早くこちらへ。イドラの女王がお待ちでござるよ」
「あ、郷太郎氏も……み、見ないで。目を閉じて。んむ。自分も郷太郎氏の正装なお姿が眩しくて直視できない故に、お互い様ということで、どうか」
「わかったでござる。拙者、目を瞑っているから、安心してこっちに来るでござるよ」
木賊のテンパりを思いやって優しく接してくれる郷太郎に申し訳なく、けれど羞恥心の方が上回る木賊である。
後ろを向いて盛大にため息をついたイドラの女王が言った。
「用意ができたんなら、さっさと始めるわよ。私も忙しいんだから」
郷太郎の横に木賊が並び、二人揃ってイドラの女王の背中に向かって背筋を伸ばす。
「汝、白川郷太郎はいつでもいつまでも緑青木賊を愛すると誓いますか?」
「誓うでござる」
「汝、緑青木賊はいつでもいつまでも白川郷太郎を愛すると誓いますか?」
「ち、誓うっす」
「では、指輪の交換ね」
二人は目を閉じたまま向き合った。
ポケットを探って郷太郎は【指輪】を取り出す。
木賊の手を取るため、郷太郎は木賊にバレないように半目でチラッと見た。
恥じらいに身を縮めるようにして立っている木賊は、どこの世界の姫かと見紛う程に美しい。
「綺麗でござる」
思わず小声で呟いたセリフが、木賊の耳に届いたかどうかは判らない。
俯いた木賊の表情は、郷太郎からは見えなかったから。
けれども郷太郎に【指輪】を嵌めようとしている木賊の耳が真っ赤になったのは、はっきりと見えたのだった。
「えーと、指輪交換はしたのね? 次、誓いのキス……は無し、なんだよね? じゃあ、誓いの抱擁でもやっとく?」
イドラの女王の提案に思わず二人共目を見開いて、互いに見つめ合ってしまう。
目を開けたことを木賊が咎めるより早く、郷太郎が木賊を抱きしめてしまった。
「結婚したいという拙者のわがままを叶えてくれて嬉しいよ。木賊、寂しい思いはもう、させない。だから、これからもずっと一緒に居たい」
突然のことに驚きうろたえ、反射的に身を引こうとした木賊であったが、郷太郎の温かい声に体のこわばりが解ける。
(自分はただでさえ、緑青のおのことしては未熟者で半端者である自覚はあるところ。うえでんぐどれすを浮かれて身に纏うなど、尚のこと論外な姿であるっす)
それでも、今だけ、今宵だけ……と木賊は震える心で思う。
(無い喉仏も、潰した胸も、弱さを表す鼻先の大きな傷も。全部隠すことはやめて。嘘も隠し事もしたくない)
「ただの木賊として置いて頂けたなら。……郷太郎、さん……の、隣で」
二人は初めて唇を重ねた。
もはや人前かどうかなど気にかけている余裕はなく、イドラの女王の存在も忘れている二人だったが、幸いなことに忙しいイドラの女王はさっさと退室した後だった。