【伯爵令嬢アリスの憂鬱】逃避行(第3話/全4話)
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◆路上ライブ(2)
そこへやってきた空莉・ヴィルトール。
空莉はアリスとラルフのライブをサポートすると見せかけて、本当の目的はアリスとラルフをラブラブにすることだという、安定の策士ぶりだ。
「はいは~い、まずはこれを持ってね~」
【ウィスパーフォーカス】をアリスに渡す。
「このマイクを使って、二人でデュエットしてもらいます!」
「えぇ? 空莉さんは一緒に歌わないの?」
アリスに訊かれて、空莉はきっぱり否定した。
「私は歌わないんだ~。今日はバックダンサー担当なんだよ~♪」
ダンサーをアピールするようにその場でターンしてみせ、空莉は悪戯っぽくウインクした。
「ち・な・み・に、マイクは一つなので密着して使ってくださいね! 好きな人と何かを成し遂げる達成感をプレゼントです!」
ズバリ「好きな人」と言われてアリスは照れまくっているが、ラルフは素知らぬ表情と声を作った。
「じゃ、マイクはアリスが持ってて。僕は出来るだけ近寄って歌うから」
ぎこちなくくっつく二人を見て、空莉はとても楽しくなる。
(アリスちゃんとラルフくんが、お互いの声の近さでドキドキ! みたいな♪)
二人が歌い始めると、空莉はバックダンサーをしながら【リミット・キッス】で聴衆に働きかけ、二人の歌を応援するように細工した。
大きな反響が生まれれば、みんな頭がおかしくなってお金をたくさんくれるかもしれない。
(お財布ごとくれるかも!)
空莉の妄想は実現しなかったが、そこそこの投げ銭を得られたのはやはり、【リミット・キッス】の効き目があったからなのだろう。
「あっそうだそうだ、ラルフくんに素敵なアドバイスがあるのです♪」
ライブが終わってから、空莉は小悪魔的なスマイルを浮かべ、背伸びをしてラルフの耳元に口を近づける。
「2人の仲を認めて貰うには、既成事実を作っちゃうのもアリなんだよ……?」
「えっ!?」
秒で真っ赤になったラルフがアリスに理由を厳しく問い質された時、すでに空莉は姿を消していた。
***
「さぁさみなさん! 俺のライブは最後に全員参加のお楽しみを用意してるから、楽しんでいってねー!」
景気よく【雄渾たる煽言】で呼び込みをして注目を集めているのは深郷 由希菜だ。
視線が集まるとおもむろに、【鋼鉄樞翼】の翼型ユニットで空中に飛びあがった。
そうして【お菓子なサックス】で【楽譜】通りに曲を吹き始めた。
お腹が減っている観客は、【お菓子なサックス】の音色に気持ちがグッと掴まれる。
地面に降りてきた由希菜は演奏しながら【チェシャ猫の見た夢】を発動して、辺りを森のような空間にした。
植物たちのコーラスで由希菜の演奏は楽しく彩られる。
やがて演奏が終わり、植物たちが光となって消えたタイミングで、【ジングルシャイニー】の小さな光の粒を作り出した。
そして由希菜は、観衆に向かって期待を持たせるように予告した。
「さあ、お楽しみタイムの始まりだよ!」
由希菜が【ドロップ・ドロップス】で飴の雨を降らせると、大人も子供も歓声をあげて飴を受け取る。
「アメちゃん降ってきたのを取って、口に入れないと消えちゃうからすぐ食べてね! 俺も1つ」
お手本を見せるように、由希菜は飴を一つ口に放り込んだ。
「うまー♪ アリスちゃんたちおふたりさんも、ほら、取って取って! 一緒に楽しもうよ!」
由希菜のライブは目と耳と舌に楽しいライブなのだった。
***
天導寺 朱は、路銀を手っ取り早く集める方法を思いついた。
それは、お料理ライブ!
【ロットシュヴァインの霜降り 】を【オープングリル】で焼けば、肉の焼ける香ばしい匂いが辺りに広がって、行き交う人々の足を止めさせることができる。
そうして注目を集めたら【天涯総攬のエンパイア】で魅了し、【伏魔殿の晩餐】で美味しそうな肉に食欲をわかせる。
おいしく焼けた肉はもちろん販売するので、集金できること間違いなし!
と、ここまで完璧な戦略を立てた朱だったが、「もしかしたらこれ、ライブじゃない?」と不安になった。
けれどもすぐに「オーサカあたりならきっとギリギリライブ扱いのはず! へーきへーき、だいじょーぶ!」と気を取り直す。
【伏魔殿の晩餐】の効果で朱もお腹がすくので、ピットマスターの権限でちょっとずつつまみ食いしながら、どんどん【ロットシュヴァインの霜降り 】を焼いていく。
つまみ食いする朱を見たお客も釣られて食欲をそそられるので好都合だ。
大量の【ロットシュヴァインの霜降り 】を売り切って、お客が退けた後、朱はポケットに入れて持ってきた小箱をアリスに差し出した。
「これ、ゲストルームを掃除した時に拾ったんだけど、渡し忘れたのぜ」
「箱? 何が入ってるの?」
「さあ? 鍵がかかってるらしくて開かないのぜ」
アリスが小箱を振ってみると、微かに音がする。
「ほんとは、この前の仮面舞踏会の時に持って行ってたんだけど、楽し過ぎてすっかり忘れてたのぜ。ごめん」
「いいよ、そんなこと。あの時楽しかったんだったらそれでいいし、部屋も掃除してくれてありがと」
「へへへ、仮面舞踏会であの子とずっと一緒にいられたおかげ、という訳でもないけど、去年の年末には晴れてあの子と恋仲になれたし……」
「そうなんだ! よかったね、おめでとう!」
アリスに祝福されて、朱は改めて嬉しさが込み上げてくる。
照れながら「今日は俺がキューピッド役なのぜ!」と頭を掻いていた。
***
危険や困難を省みずアリスを連れ出したラルフと、立場や財産を捨ててラルフの手を取ったアリスの姿に胸を打たれた世良 延寿は、何としても二人の逃避行を手伝いたいと思った。
「路銀も必要だけど、これから二人で生きていくなら、料理もちゃんと覚えないとね!」
と延寿に言われたアリスとラルフ。
アリスは吸血鬼なので、今までは料理をする必要が無かったが、ラルフのためになるなら覚えてみようと思った。
延寿も朱に引き続きクッキングライブをするというので、二人は食材の下ごしらえをすることから教えてもらった。
延寿に言われるまま、見よう見まねで大きめに切った肉や野菜を串に刺していく。
調理は簡単なのに見映えは抜群のバーベキューを、延寿はパフォーマンス付きで見せるつもりなのだ。
下ごしらえが済むと、延寿は串を炎の上でジャグリングしながら、数本同時に焼く。
炎の上で何本もの串が舞い踊る見事なパフォーマンスに、お客さんは目が釘付けになっている。
肉や野菜に火が通っていくに従って香ばしい香りが辺りに漂い、その香りに釣られた人々も次々と足を止めて、延寿の技に見とれるのだった。
ジャグリングのパフォーマンス込みのお代でバーベキューを売ったお金を、延寿は「路銀にしてね」とアリスに差し出した。
そしてラルフに聞こえないように、アリスの耳元に囁いた。
「ラルフって男らしくて素敵じゃない! まったく……アリスは本当に幸せ者だね」
「ありがと、延寿さん。そうだよ、ラルフはすっごく素敵なの!」
アリスは臆面もなく囁き返す。
バーベキューと同じぐらいアツい二人に、延寿は(もう、火傷しちゃいそうだよ)と微笑ましく思ったのだった。
そこへやってきた空莉・ヴィルトール。
空莉はアリスとラルフのライブをサポートすると見せかけて、本当の目的はアリスとラルフをラブラブにすることだという、安定の策士ぶりだ。
「はいは~い、まずはこれを持ってね~」
【ウィスパーフォーカス】をアリスに渡す。
「このマイクを使って、二人でデュエットしてもらいます!」
「えぇ? 空莉さんは一緒に歌わないの?」
アリスに訊かれて、空莉はきっぱり否定した。
「私は歌わないんだ~。今日はバックダンサー担当なんだよ~♪」
ダンサーをアピールするようにその場でターンしてみせ、空莉は悪戯っぽくウインクした。
「ち・な・み・に、マイクは一つなので密着して使ってくださいね! 好きな人と何かを成し遂げる達成感をプレゼントです!」
ズバリ「好きな人」と言われてアリスは照れまくっているが、ラルフは素知らぬ表情と声を作った。
「じゃ、マイクはアリスが持ってて。僕は出来るだけ近寄って歌うから」
ぎこちなくくっつく二人を見て、空莉はとても楽しくなる。
(アリスちゃんとラルフくんが、お互いの声の近さでドキドキ! みたいな♪)
二人が歌い始めると、空莉はバックダンサーをしながら【リミット・キッス】で聴衆に働きかけ、二人の歌を応援するように細工した。
大きな反響が生まれれば、みんな頭がおかしくなってお金をたくさんくれるかもしれない。
(お財布ごとくれるかも!)
空莉の妄想は実現しなかったが、そこそこの投げ銭を得られたのはやはり、【リミット・キッス】の効き目があったからなのだろう。
「あっそうだそうだ、ラルフくんに素敵なアドバイスがあるのです♪」
ライブが終わってから、空莉は小悪魔的なスマイルを浮かべ、背伸びをしてラルフの耳元に口を近づける。
「2人の仲を認めて貰うには、既成事実を作っちゃうのもアリなんだよ……?」
「えっ!?」
秒で真っ赤になったラルフがアリスに理由を厳しく問い質された時、すでに空莉は姿を消していた。
***
「さぁさみなさん! 俺のライブは最後に全員参加のお楽しみを用意してるから、楽しんでいってねー!」
景気よく【雄渾たる煽言】で呼び込みをして注目を集めているのは深郷 由希菜だ。
視線が集まるとおもむろに、【鋼鉄樞翼】の翼型ユニットで空中に飛びあがった。
そうして【お菓子なサックス】で【楽譜】通りに曲を吹き始めた。
お腹が減っている観客は、【お菓子なサックス】の音色に気持ちがグッと掴まれる。
地面に降りてきた由希菜は演奏しながら【チェシャ猫の見た夢】を発動して、辺りを森のような空間にした。
植物たちのコーラスで由希菜の演奏は楽しく彩られる。
やがて演奏が終わり、植物たちが光となって消えたタイミングで、【ジングルシャイニー】の小さな光の粒を作り出した。
そして由希菜は、観衆に向かって期待を持たせるように予告した。
「さあ、お楽しみタイムの始まりだよ!」
由希菜が【ドロップ・ドロップス】で飴の雨を降らせると、大人も子供も歓声をあげて飴を受け取る。
「アメちゃん降ってきたのを取って、口に入れないと消えちゃうからすぐ食べてね! 俺も1つ」
お手本を見せるように、由希菜は飴を一つ口に放り込んだ。
「うまー♪ アリスちゃんたちおふたりさんも、ほら、取って取って! 一緒に楽しもうよ!」
由希菜のライブは目と耳と舌に楽しいライブなのだった。
***
天導寺 朱は、路銀を手っ取り早く集める方法を思いついた。
それは、お料理ライブ!
【ロットシュヴァインの霜降り 】を【オープングリル】で焼けば、肉の焼ける香ばしい匂いが辺りに広がって、行き交う人々の足を止めさせることができる。
そうして注目を集めたら【天涯総攬のエンパイア】で魅了し、【伏魔殿の晩餐】で美味しそうな肉に食欲をわかせる。
おいしく焼けた肉はもちろん販売するので、集金できること間違いなし!
と、ここまで完璧な戦略を立てた朱だったが、「もしかしたらこれ、ライブじゃない?」と不安になった。
けれどもすぐに「オーサカあたりならきっとギリギリライブ扱いのはず! へーきへーき、だいじょーぶ!」と気を取り直す。
【伏魔殿の晩餐】の効果で朱もお腹がすくので、ピットマスターの権限でちょっとずつつまみ食いしながら、どんどん【ロットシュヴァインの霜降り 】を焼いていく。
つまみ食いする朱を見たお客も釣られて食欲をそそられるので好都合だ。
大量の【ロットシュヴァインの霜降り 】を売り切って、お客が退けた後、朱はポケットに入れて持ってきた小箱をアリスに差し出した。
「これ、ゲストルームを掃除した時に拾ったんだけど、渡し忘れたのぜ」
「箱? 何が入ってるの?」
「さあ? 鍵がかかってるらしくて開かないのぜ」
アリスが小箱を振ってみると、微かに音がする。
「ほんとは、この前の仮面舞踏会の時に持って行ってたんだけど、楽し過ぎてすっかり忘れてたのぜ。ごめん」
「いいよ、そんなこと。あの時楽しかったんだったらそれでいいし、部屋も掃除してくれてありがと」
「へへへ、仮面舞踏会であの子とずっと一緒にいられたおかげ、という訳でもないけど、去年の年末には晴れてあの子と恋仲になれたし……」
「そうなんだ! よかったね、おめでとう!」
アリスに祝福されて、朱は改めて嬉しさが込み上げてくる。
照れながら「今日は俺がキューピッド役なのぜ!」と頭を掻いていた。
***
危険や困難を省みずアリスを連れ出したラルフと、立場や財産を捨ててラルフの手を取ったアリスの姿に胸を打たれた世良 延寿は、何としても二人の逃避行を手伝いたいと思った。
「路銀も必要だけど、これから二人で生きていくなら、料理もちゃんと覚えないとね!」
と延寿に言われたアリスとラルフ。
アリスは吸血鬼なので、今までは料理をする必要が無かったが、ラルフのためになるなら覚えてみようと思った。
延寿も朱に引き続きクッキングライブをするというので、二人は食材の下ごしらえをすることから教えてもらった。
延寿に言われるまま、見よう見まねで大きめに切った肉や野菜を串に刺していく。
調理は簡単なのに見映えは抜群のバーベキューを、延寿はパフォーマンス付きで見せるつもりなのだ。
下ごしらえが済むと、延寿は串を炎の上でジャグリングしながら、数本同時に焼く。
炎の上で何本もの串が舞い踊る見事なパフォーマンスに、お客さんは目が釘付けになっている。
肉や野菜に火が通っていくに従って香ばしい香りが辺りに漂い、その香りに釣られた人々も次々と足を止めて、延寿の技に見とれるのだった。
ジャグリングのパフォーマンス込みのお代でバーベキューを売ったお金を、延寿は「路銀にしてね」とアリスに差し出した。
そしてラルフに聞こえないように、アリスの耳元に囁いた。
「ラルフって男らしくて素敵じゃない! まったく……アリスは本当に幸せ者だね」
「ありがと、延寿さん。そうだよ、ラルフはすっごく素敵なの!」
アリスは臆面もなく囁き返す。
バーベキューと同じぐらいアツい二人に、延寿は(もう、火傷しちゃいそうだよ)と微笑ましく思ったのだった。