【伯爵令嬢アリスの憂鬱】逃避行(第3話/全4話)
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◆大コウモリの襲撃(4)
アリスが振り回しているピッチフォークでは、何とも心許ないと感じた緑青 木賊は、アリスが存分に戦えるよう【武者殺しの月光刀】を貸した。
「農具よりはましかと。自分は【十二使徒の制裁】で剣を扱える故、お気使いなく」
銀色に鈍く光る刀身を持つ【武者殺しの月光刀】は、アリスの手にはずしりと重かった。
だがこれを使って大コウモリを撃退することはできなくても、いかにも強そうな武器は持っているだけで威嚇になりそうだ。
アリスはありがたく借りることにした。
ふと思いついてそれをラルフに預けた。
襲われる心配のない自分が持っているよりも、ラルフが持っている方が有効だろうと考えたのだった。
木賊は【群雄割拠行進曲】を口ずさんで攻撃力を上昇させた。
迫りくる大コウモリからアリスとラルフを【サンクチュアリ・ウィング】で庇い、機会を捉えて【十二使徒の制裁】で牽制する。
アイドルたちの奮闘によって、大コウモリもだいぶん数が減ってきていた。
敵も勝ち目がないと判断すれば撤退し、きっと主人である大叔父様の元に戻るに違いない。
そう考えた木賊は弱った大コウモリを一匹捕まえて、暴れて逃れようとするのを押さえこみ、アリスに大声で呼びかけた。
「ありす氏、こやつの足に手紙を括りつけて帰せば、ありす氏のお言葉を大叔父上殿にお伝え出来るっすよ! この際、全力で仰られるっす!」
「えっ!? そんなこと言ったって急に思いつかないよう!」
アリスは焦って、眉を下げる。
今日一日でこれまでにない経験をし、身も心も疲れ切っていてあまり頭が回らなくなっているのだ。
大叔父様に言いたいことはたくさんあるはずだが、短時間で上手く手紙を書けそうになかった。
そこで木賊は、アリスの代わりに【メッセージカード】を書くことにした。
『かへ常連の神様の天罰がきっと落ちるぞー』
ついでに“あっかんべー”の絵も描き入れておく。
木賊は押さえこんだ大コウモリの足に封筒に入れた【メッセージカード】を括りつけて放した。
大コウモリは、闇に紛れて行ってしまった。
だがその大コウモリは屋敷に帰ることなく、途中で力尽き果ててしまったのだった。
***
リーザベル・シュトレーネはアリスの行動を苦々しく思っていた。
誇り高き吸血鬼であるリーザベルは、
「吸血鬼たるもの意に沿わない方と婚姻を結ぶのも仕方のない事ですわ」
と考えているからだ。
アリスが当主として務めを立派に果たす覚悟があるというなら、上に立つ者の仕事を手伝うことも厭わないつもりだが、今の状況ではそうはいかないようだ。
今回はアリスたちに加勢して大コウモリと戦っているよう装い、大コウモリが近づいたタイミングで手紙を渡してブラウブルート伯爵に手紙を届けさせることにしようと、計略を巡らすリーザベルだった。
大コウモリたちはすでに数が減っていたため、リーザベルはしたくもない攻撃をそれほどしなくても済んだ。
申し訳程度に【無慈悲なる霰弾】を発射し、【惨憺たる紅棺】で無数の蝙蝠を飛ばせてみる。
たまにこちらに向かってくる大コウモリには【転瞬の拒絶】を使って、攻撃されるのを防ぐ。
のらりくらりと立ち回りながら、リーザベルは大コウモリに手紙を渡すチャンスをうかがっていた。
木賊が大コウモリを押さえつけて、その足に【メッセージ】を括りつけているのを見て、リーザベルも見倣うことにした。
手近な所にいた負傷して弱った大コウモリを捕えて、手紙を足に括りつける。
「さあ、お前、ご主人様の所にこれを持ってお行き」
大コウモリは、はたはたと弱々しく闇の中に飛び去った。
手紙にはこう書いてあった。
『以前メイドとして接した者です
わたくしをコマとして使ってみませんか?
必ず役に立ちますわ』
しかし、その大コウモリはあまりにも弱っていたので途中で力尽きてしまい、手紙がブラウブルート伯爵の元に届くことはなかった。
***
その頃、アリスがいなくなった屋敷にブラウブルート伯爵を訪ねて小鈴木 あえかが来ていた。
「何の用だ」
不機嫌そうに応対するブラウブルート伯爵に僅かに怯んだものの、あえかは自分を信じて励まし、背筋を伸ばして挨拶をする。
「はじめまして、伯爵。わたしはアリスさんの友達で小鈴木あえかといいます」
何気ない振りを装って薄茶の髪を耳に掛け、【血族の矜持】を示す。
あえかは吸血鬼ではないが、この【血族の矜持】を付けていることで、気難しい伯爵もある程度は認めてくれるだろうと計算した行動だった。
「百年前より伝え聞くブラウブルート伯爵のご活躍を、是非ご本人よりお聞きしたくて参りました」
伯爵の目がキラリと光ったように見えた。
「なぜ儂がお前なぞにそんな話をせねばならん」
「あ、いえ、アリスさんが大叔父様は偉大なお方だと言っていたので、興味がありまして……」
(ほんとは全然そんなこと言ってないけどね)
心の声が突っこみを入れたが、あえか自身は、この伯爵が色々頑張っているのに報われないのは可哀想だと思っていた。
しかし伯爵はあえかの追従に一切表情を崩さず、あえかをジッと見据えている。
居心地が悪くなったあえかは、コホンとひとつ咳ばらいをし、本題に移った。
「えっと、実はアリスさんに頼まれたことがありまして、こちらに他家の伯爵ご令息様がおいでになるようですが、ブラウブルート伯爵家当主が近侍も置かずに他家の者と相対するのは問題ですし、その方のお相手をする人が必要だということで、わたしが参りました」
あえかは「アリスは大叔父様のことが心配だと思っている」ように伝えればアリスに対する評価も上がり、結果としてアリスの恋を応援することになると踏んでいたが、そう上手くことは運ばなかった。
伯爵は一層険しい表情になると、バッサリと切り捨てた。
「あのろくでもない娘に、そのような思慮があるとは到底思えん。お前、嘘を言っているな。目的は何だ」
詰め寄られて、あえかは返事に窮した。
「…………」
そこへ一匹の大コウモリが、今にも落ちそうになりながらフラフラと飛んで入ってきた。
「ご主人様。ご命令に従い、アリス様を連れ戻そうとしましたが、返り打ちに遭い味方は全滅。生き残ったのは私だけでございます」
「なにッ! 失敗したのか!」
報告を終えた大コウモリはバタリと床に落ち、動かなくなってしまった。
アリスが振り回しているピッチフォークでは、何とも心許ないと感じた緑青 木賊は、アリスが存分に戦えるよう【武者殺しの月光刀】を貸した。
「農具よりはましかと。自分は【十二使徒の制裁】で剣を扱える故、お気使いなく」
銀色に鈍く光る刀身を持つ【武者殺しの月光刀】は、アリスの手にはずしりと重かった。
だがこれを使って大コウモリを撃退することはできなくても、いかにも強そうな武器は持っているだけで威嚇になりそうだ。
アリスはありがたく借りることにした。
ふと思いついてそれをラルフに預けた。
襲われる心配のない自分が持っているよりも、ラルフが持っている方が有効だろうと考えたのだった。
木賊は【群雄割拠行進曲】を口ずさんで攻撃力を上昇させた。
迫りくる大コウモリからアリスとラルフを【サンクチュアリ・ウィング】で庇い、機会を捉えて【十二使徒の制裁】で牽制する。
アイドルたちの奮闘によって、大コウモリもだいぶん数が減ってきていた。
敵も勝ち目がないと判断すれば撤退し、きっと主人である大叔父様の元に戻るに違いない。
そう考えた木賊は弱った大コウモリを一匹捕まえて、暴れて逃れようとするのを押さえこみ、アリスに大声で呼びかけた。
「ありす氏、こやつの足に手紙を括りつけて帰せば、ありす氏のお言葉を大叔父上殿にお伝え出来るっすよ! この際、全力で仰られるっす!」
「えっ!? そんなこと言ったって急に思いつかないよう!」
アリスは焦って、眉を下げる。
今日一日でこれまでにない経験をし、身も心も疲れ切っていてあまり頭が回らなくなっているのだ。
大叔父様に言いたいことはたくさんあるはずだが、短時間で上手く手紙を書けそうになかった。
そこで木賊は、アリスの代わりに【メッセージカード】を書くことにした。
『かへ常連の神様の天罰がきっと落ちるぞー』
ついでに“あっかんべー”の絵も描き入れておく。
木賊は押さえこんだ大コウモリの足に封筒に入れた【メッセージカード】を括りつけて放した。
大コウモリは、闇に紛れて行ってしまった。
だがその大コウモリは屋敷に帰ることなく、途中で力尽き果ててしまったのだった。
***
リーザベル・シュトレーネはアリスの行動を苦々しく思っていた。
誇り高き吸血鬼であるリーザベルは、
「吸血鬼たるもの意に沿わない方と婚姻を結ぶのも仕方のない事ですわ」
と考えているからだ。
アリスが当主として務めを立派に果たす覚悟があるというなら、上に立つ者の仕事を手伝うことも厭わないつもりだが、今の状況ではそうはいかないようだ。
今回はアリスたちに加勢して大コウモリと戦っているよう装い、大コウモリが近づいたタイミングで手紙を渡してブラウブルート伯爵に手紙を届けさせることにしようと、計略を巡らすリーザベルだった。
大コウモリたちはすでに数が減っていたため、リーザベルはしたくもない攻撃をそれほどしなくても済んだ。
申し訳程度に【無慈悲なる霰弾】を発射し、【惨憺たる紅棺】で無数の蝙蝠を飛ばせてみる。
たまにこちらに向かってくる大コウモリには【転瞬の拒絶】を使って、攻撃されるのを防ぐ。
のらりくらりと立ち回りながら、リーザベルは大コウモリに手紙を渡すチャンスをうかがっていた。
木賊が大コウモリを押さえつけて、その足に【メッセージ】を括りつけているのを見て、リーザベルも見倣うことにした。
手近な所にいた負傷して弱った大コウモリを捕えて、手紙を足に括りつける。
「さあ、お前、ご主人様の所にこれを持ってお行き」
大コウモリは、はたはたと弱々しく闇の中に飛び去った。
手紙にはこう書いてあった。
『以前メイドとして接した者です
わたくしをコマとして使ってみませんか?
必ず役に立ちますわ』
しかし、その大コウモリはあまりにも弱っていたので途中で力尽きてしまい、手紙がブラウブルート伯爵の元に届くことはなかった。
***
その頃、アリスがいなくなった屋敷にブラウブルート伯爵を訪ねて小鈴木 あえかが来ていた。
「何の用だ」
不機嫌そうに応対するブラウブルート伯爵に僅かに怯んだものの、あえかは自分を信じて励まし、背筋を伸ばして挨拶をする。
「はじめまして、伯爵。わたしはアリスさんの友達で小鈴木あえかといいます」
何気ない振りを装って薄茶の髪を耳に掛け、【血族の矜持】を示す。
あえかは吸血鬼ではないが、この【血族の矜持】を付けていることで、気難しい伯爵もある程度は認めてくれるだろうと計算した行動だった。
「百年前より伝え聞くブラウブルート伯爵のご活躍を、是非ご本人よりお聞きしたくて参りました」
伯爵の目がキラリと光ったように見えた。
「なぜ儂がお前なぞにそんな話をせねばならん」
「あ、いえ、アリスさんが大叔父様は偉大なお方だと言っていたので、興味がありまして……」
(ほんとは全然そんなこと言ってないけどね)
心の声が突っこみを入れたが、あえか自身は、この伯爵が色々頑張っているのに報われないのは可哀想だと思っていた。
しかし伯爵はあえかの追従に一切表情を崩さず、あえかをジッと見据えている。
居心地が悪くなったあえかは、コホンとひとつ咳ばらいをし、本題に移った。
「えっと、実はアリスさんに頼まれたことがありまして、こちらに他家の伯爵ご令息様がおいでになるようですが、ブラウブルート伯爵家当主が近侍も置かずに他家の者と相対するのは問題ですし、その方のお相手をする人が必要だということで、わたしが参りました」
あえかは「アリスは大叔父様のことが心配だと思っている」ように伝えればアリスに対する評価も上がり、結果としてアリスの恋を応援することになると踏んでいたが、そう上手くことは運ばなかった。
伯爵は一層険しい表情になると、バッサリと切り捨てた。
「あのろくでもない娘に、そのような思慮があるとは到底思えん。お前、嘘を言っているな。目的は何だ」
詰め寄られて、あえかは返事に窮した。
「…………」
そこへ一匹の大コウモリが、今にも落ちそうになりながらフラフラと飛んで入ってきた。
「ご主人様。ご命令に従い、アリス様を連れ戻そうとしましたが、返り打ちに遭い味方は全滅。生き残ったのは私だけでございます」
「なにッ! 失敗したのか!」
報告を終えた大コウモリはバタリと床に落ち、動かなくなってしまった。


