イラスト

シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

【伯爵令嬢アリスの憂鬱】逃避行(第3話/全4話)

リアクション公開中!
【伯爵令嬢アリスの憂鬱】逃避行(第3話/全4話)

リアクション

◆大コウモリの襲撃(1)

 ディムックの襲撃から逃れたアリスとラルフは先を急いだ。
 目指すはピノキエの街。
 しかし目的地はまだまだ遠く、日が暮れ、次第に夜も更けてきた。
 満月の光が煌々と照らしている。
 山道を走り通しの二人は、疲労の色が濃くなってきていた。

 少し眠ってから行くことにして荷台の干し草の中に二人でもぐりこみ、肩を寄せ合って眠りにつこうとした時、上から不気味な声が降ってきた。
「やっと見つけたぞ!」
 驚いて干し草の中から顔を出すと、大叔父様の使い魔の大コウモリたちが木の枝に止まってアリスたちを見下ろしていた。
「ご主人様の命令だ。アリス様を連れ出した罪により、その男を殺す!」
 大コウモリたちが一斉に襲い掛かってきた。
 
 武器になりそうなものは、干し草を移動させるときに使うピッチフォークしかない。
 アリスはラルフを守ろうと、唯一の武器を滅茶苦茶に振り回した。

 ***

 そこに飛び出してきたのは羽鳥 唯だった。
 実は唯は、自分の【コウモリくん】を使い魔の大コウモリたちの群れに紛れ込ませていたのだ。
 アリスの失踪を知って騒ぐ大コウモリを誤魔化そうとしたがだめだったので、アリスを探して追ってきた大コウモリたちに【コウモリくん】と共についてきていたのだった。

 唯は、ラルフに飛びかかろうとしている大コウモリを【パームカウンター】で受け流し、掌底で気絶させた。
 一瞬怯んだ大コウモリに、唯は【雄渾たる煽言】で高貴な雰囲気を纏いながら言った。
「まずは伯爵家の方たちに謝らなければならないことがあります」
 唯の威厳ある態度に圧倒され、使い魔たちは攻撃を一旦保留する。

「舞踏会の後で父上から聞いたのですが、私は他に跡取りがいないために男子として育てられていた女子だったようなのです。それともう一つ……」
 唯はゆっくりと歩いて、アリスとラルフを背に庇う位置まで移動した。

「私の友人を傷つけることは例え伯爵家の方でも許しませんから!」
 唯の言葉を宣戦布告と受け取ったのだろう、大コウモリたちは次々と襲い掛かってきた。
 しかし、伯爵家の大コウモリたちのこともアリスたちと同じく友人だと認めている唯は、【威嚇】を使って、大コウモリの攻撃をかわすだけの牽制と軽い攻撃に終始していた。
 牽制しているあいだに二人が逃げてくれればよいと願って……。

 ***

 唯が奮闘しているところへ、弥久 風花が駆け込んできた。
 風花は荷馬車に追いつこうと、走ってきたようだ。
 ぜーぜーはーはーと息を切らしている。
 持ってきた巨大な鎌【今際ノ夢鎌】が思いのほか重かったため、風花は「置いてくればよかったかしら?」と少々後悔していた。

 だが普段から色々と鍛えている風花は、体力には自信がある。
 すぐに呼吸を整えると、【≪戦礼≫猛禽獣葬】を発動した。
 たちまち現れた猛禽類や肉食獣の群れの幻影が、あろうことか風花を食らう。
 風花の美しい肌が猛禽類の爪に引き裂かれ、肉食獣の牙に噛みちぎられていく。

 トンデモな展開に、その場にいた誰もが目を疑った。
 しかし、それこそが風花の戦略。強い風花の血肉を食らわすことで、【≪戦礼≫猛禽獣葬】の幻影がより獰猛さを増すのだ。

 十分に食らわれ、もうこれ以上耐えられなくなった時、風花は幻影にGOサインを出した。
 荒ぶる獣は一斉に大コウモリに襲い掛かっていく。

 その間に風花は、【高速なる再生】で引き裂かれた肉と皮膚を高速で回復させる。
 まるで録画を逆再生したかのように、あっという間に元の美しい風花に回復完了である。

 大コウモリがアリスたちに近づかないように、風花は【弔意ノ香炉】を荷馬車の近くに置いた。
「あ、二人はそのまま藁の中に隠れてて」
 気楽な調子でそう言うと、苦労して持参した【今際ノ夢鎌】を構えて、風花は大コウモリたちに立ち向かった――。

 ***

 荷馬車の陰から靄願 椿がひょっこりと顔を出した。

 荷台を覗き込んで、ラルフの肩をちょいちょいと突っつく。
 驚いて警戒するラルフに椿はふんわりと微笑んで安心させる。
「お二方は逃げあそばされるのね。それならうんと遠くまで、行かなきゃね」

 その時、大コウモリが椿を発見し、敵と認めて襲い掛かってきた。
「おっと……」
 雅やかな物腰のわりに素早く身をかわし、攻撃を避ける椿。
「鬼さんこちら」
 とはやしたて【無慈悲なる霰弾】で気を引く。
 向かってくる大コウモリをからかうように「お上手、お上手」と手を叩き、迫ってきたところを【暴食の紅蜘蛛】でがぶりと捕らえる。
 【暴食の紅蜘蛛】の攻撃を逃れた大コウモリには【惨憺たる紅棺】で発生させた大量の蝙蝠が襲いかかり、圧殺。

 これらの凄まじい技を顔色一つ変えずに次々と行い、椿は尚も微笑んでいる。

「ね、らるふ様はいつまであの子と逃げあそばされるの?」
「いつまでって……それは……」
 言葉に詰まり、眼を逸らすラルフ。
「ふふ、少おし意地悪うございましたね。一生を逃避行に費やすお覚悟があらしゃるのならようございますが、それってとても苦しいこと」
 そう言って椿は遠い眼をして、独り言のように呟く。
「俺も、本当はお家で歌や踊りを習うよりもお外で遊ぶ方が好きでした。窮屈な籠のお外の景色は全てがきらきらしてはるから……」
 椿はラルフに視線を戻した。
「大叔父様ともう一度お話をされる気はない? こないな決断をおなごに任せるのは酷でございましょう。ふふ、貴方はよいお顔であらしゃるもの、きっと俺とは違う結末を迎えなさるはず」

 ミステリアスな笑みと言葉を残して、椿は現れた時と同様、唐突に姿を消した。
ページの先頭に戻る