◆序章　もうすぐお祭り◆

　秋も終わりかけの頃。
　五穀豊穣を祝う祭りである新嘗祭の日の朝。
　屋台の準備で慌ただしく動いている人も多い。
　八尋殿の内外でも、祭りのために多くの人が走り回っていた。
　祭りを楽しみに来た人々も八尋殿に集まり始め、大きな行事の始まる直前の独特な雰囲気が漂ってもいる。
　新嘗祭には帝も参加するため、八尋殿周辺には警備のための人員も見えた。
　中に入る際には、荷物の確認なども行われているようである。

　最近は地球から様々な文化が入ってきて、これまでになかったような屋台も増えている。
　舞芸でも影響を受けている部分は多い。
　今年の新嘗祭では、その地球からふぇすた座が祭りを盛り上げるためにやってきているので、それを目当てに地方から集まっている者も少なくない。
　そのせいか、宿はどこもいっぱいで普段より樹京全体が活気づいているように見える。

　祭りの前後で舞芸を披露することになっているふぇすた座の面々も、準備に余念がない。
　料理合戦に参加する者達は、持参した材料の確認などを行っているようだ。
　準備中の屋台を下見して回っている者もいた。
　樹京にいる人々は、それぞれが思い思いにこれからの祭りを心待ちにしている。
　これだけの規模で新嘗祭を開けるのは、今の樹ノ国はある程度落ち着いているという証明でもあるのだ。
　全ての問題が完璧に解決しているわけではないが、樹ノ国、ひいては華乱葦原の未来への期待もないとは言えないだろう。

　やがて八尋殿から祭りの始まりを知らせる太鼓の音が聞こえて来ると、まだ時間があるからと屋台を冷やかしていた人々も、慌てて八尋殿へ走って行った。