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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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◆アリスとダンス(1)

ウサミ 先輩のターン≫

 後輩思いで面倒見のよいウサミ先輩は気付いた。
「女性同士だし、男が相手よりは彼女も気楽にやれるんじゃないかな」

 ウサミ先輩は、常に「ウサミ先輩」を演じている役者だ。演じることに関しては誰にも負けない。
「任せておきたまえ。世界をも騙す私の演技を見るがいい!」
 アーハッハッハと高笑いしそうな勢いである。

 演技力は十分あるとしても、男装は難題である。
 ウサミ先輩の中の人こと宇佐見響子は、ダイナマイトバディの持ち主だ。
(本人は気付いていないが、ついこの間ダイナマイトバディが全国にライブビューイングで披露されたばかりである)
 特に問題なのは105cm・Jカップのバストだ。
 豊満な胸は、着ぐるみを着ているときには問題ないのだが、男装には非常に邪魔なシロモノなのだ。

 仕方がないのでウサミ先輩はコルセットとサラシを使って締め上げてダブルガードした。
 さらに腹や腰には詰め物をして、可能な限り女性らしい凹凸を消して男性用スーツを着込む。
 最後に【特殊メイクセット】で吸血鬼の若い男性っぽい顔を作って、準備完了だ。

 完璧に変装出来て悦に入るウサミ先輩こと宇佐見響子。
 見た目で女性とバレる心配がなくなったおかげで、演技に集中できるというものだ。
 冷静かつ大胆に、堂々とした紳士的な振る舞いを心掛けていざ本番へ。

 ………………
 …………

 偶然、ウサミ先輩は婚約者候補としてアリスと一番初めにダンスをする流れになった。
「ではアリス、最初に私と踊ってくれるかな?」
「はい」
 アリスの手を取って、ウサミ先輩は内心思った。
(このウサミ先輩が最初のお相手になるとはアリスも運が良い。女性同士で気楽に踊ればダンスに慣れることができるだろうからね)

 ウサミ先輩は【ロールアクト】を使ってアリスを巻き込み、仲の良い貴公子と令嬢の雰囲気を醸し出す。
 そして【ワールドアクト】も使って仮面舞踏会会場の全員にそれが本物だと信じさせる。

 演技がそれほど得意ではないアリスも、ウサミ先輩の演技力とスキルの力を大いに借りて、見事に仲睦まじいカップルを演じ切ったのだった。


ジュヌヴィエーヴ・イリア・スフォルツァのターン≫

(アリス様のお気持ち、とてもよくわかりますわ。結婚は、本当に好きな方としたいですわよね)
 庭掃除を頑張って手伝ったジュヌヴィエーヴは見目麗しいお嬢様なのに、なぜか男装してアリスの婚約者候補役として行くことにした。
「わたくしも、できる限りお手伝いさせていただきますわ!」
 意気込みを見せるジュヌヴィエーヴだが、たおやかな女性一人で乗り込むのは心細く、恩人の騎士様(春瀬 那智)に頼んで一緒に来てもらった。

「ジュネが助けてくれって言うから、何かと思ったけど……」
「いきなりでお気を悪くされていないでしょうか……」
「いい経験になりそうだし、俺は構わねーよ」
 気さくに引き受けてくれる那智に、ジュヌヴィエーヴはますます心を惹かれる。
 
「騎士様はいつも優しくて、堂々とされておりますから、きっとアリス様も心強いと思うのです」
 とジュヌヴィエーヴは言うが、アリスよりジュヌヴィエーヴの方がよっぽど心強く思っているというのが実際のところだろう。

 那智が支度を始めたので、ジュヌヴィエーヴも男性に見えるように準備をする。
 髪を束ね、胸にはコルセットを巻いて膨らみを押さえつける……。
 男物の夜会服を着て鏡の前に立ち、前から横から映してみる。
「これで男の人に見えるでしょうか」
 鏡の中には、貴公子というより美しい少年がいた。

 ………………
 …………

「わた……僕はジュヌヴィ――いえ、『ヴィー』と申します。よろしくお願いいたします」
 外見の変装も難しかったが、口調を変えるのも難しい。
 ジュヌヴィエーヴは、慣れない口調を怪しまれないように、伯爵への挨拶は控えめにした。
 それでも不安になって那智の方を窺い見ると、微笑んで頷いてくれたので大丈夫だったのだろうと安心した。

 いざ、アリスと組んでダンスを踊る。
 ダンスが得意ではないというアリスだが、男性役のジュヌヴィエーヴにリードされているフリが上手い。
(これが吸血鬼の貴族のお嬢様なんだわ……!)

 ジュヌヴィエーヴはアリスを抱き留めたり、優しく微笑みかけたりして踊っているうちに、言いようのない感情が胸の内に湧いてくるのを感じた。
(……あら? なぜでしょう、胸がもやもやしてしまいます……)

 もやもやが何だったのかわからないうちにダンスは終了。

 アリスと離れて、那智の元に駆け寄ったジュヌヴィエーヴは、やっと一息ついて言った。
「き、緊張しましたわ……! 何か粗相はなかったでしょうか……!」
「大丈夫。ジュネは上手くやれてたよ」

 騎士様に褒められて、ホッとするジュヌヴィエーヴだった。


春瀬 那智のターン≫

 那智はジュヌヴィエーヴの頼みを聞いて快く承諾し、すぐさま準備に取り掛かった。

 雑誌モデルも務める那智が、【三日月夜の夜会服】を着て【不死鳥のマント】を羽織り、【パール・ファング】の美しい付け牙を装着すれば、立派な吸血鬼の貴公子の出来上がりだ。
 【ファストアクト】で役に入り込んだ那智は、取り出した赤いバラを一輪、スマートな仕草で香りを嗅いてから胸に挿した。

 ………………
 …………

 伯爵の前に進み出て、胸に手を当て一礼する那智の姿は堂々として自信に溢れている。

「お初にお目にかかります、伯爵。お会いできて光栄です」
 那智の一挙手一投足に目が釘付けになっている女性たちのため息が、辺りから漏れ聞こえる。
 しかし婚約者候補役になりきっている那智は気にも留めず、まっすぐにアリスの方へ向かった。

「俺とも一曲、お相手願えますか?」
 恭しく跪いて手を差し出す那智に、アリスは手を重ねて応じる。
「ええ、よろしくてよ」

「力抜いて、気楽にな? ちゃんとフォローしてやるから」
 那智は小声で言うと、重ねられた手の甲に口づけるフリをして、アリスにウインクした。
(これで少しは緊張が解れるといいんだけどな。事情はわかるけど、気を張ってばっかじゃ余計にバレそうだ)

 二人が組んでステップを踏み始めると、那智の洗練されたリードによって、キラキラと音が聞こえそうなくらい美しく優雅な動きになる。
 当然、そこだけスポットライトが当たったように注目を集めた。

「きゃっ!」
「おっと、危ない」
 アリスが転びそうになっても慌てず騒がず、那智はグッと抱き寄せて支えた。
「あ、ありがとう」
 恥ずかしさで真っ赤になっているアリスの顔が人々に見られないように、那智はターンの動きに合わせて自分の体で隠してやる。


 那智が、ふと伯爵の方を見ると、目を眇めて見ているのに気が付いた。
 那智のことを怪しんでいるのだろうか……。
 そこで那智は自信たっぷりに笑いかけて見せる。
 真っ白な歯がこぼれる口元で、【パール・ファング】が真珠のように輝いた。
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