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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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◆仮面舞踏会(2)

「ブラウブルート卿。こたびは素晴らしい舞踏会にお招きいただき感謝いたします」
 椅子に腰かけているアリスの大叔父・ブラウブルート伯爵に挨拶したのは、男装したスピネル・サウザントサマーだった。
 彼女は長い金髪を大きな三つ編みにし、仮面をつけている。
 【英雄の品格】で堂々とした雰囲気を纏い、男性用【フェスタフォーマル】を着て、丁寧な男性口調で話しているが、残念ながら声は女性的だ。
 スピネルは、中性的な魅力を持った男性……少なくとも性別不明を目指して頑張った。

「しかし、随分と久しぶりですな、仮面舞踏会とは……アリス嬢もお年頃と思い出し馳せ参じましたが、いや、たまにはこういう趣も悪くはございませんな」
 スピネルは、仮面舞踏会など時代遅れだということを暗に含ませているが、伯爵には裏の意味まで通じていない様子だ。

「最近は神が二人に増えるなど、随分世界の在り様も変わってきております」
「それは儂も知っておる」
 スピネルは最近の情勢を語って時代が大きく変化したことを感じさせたかったのだが、知っていると言われたのでは仕方がない。
 それがどうしたと突っ込まれて窮地に立たされないうちに、さっさとその場を離れて、スピネルはダンスをすることにした。


 千夏 水希はスピネルから少し離れた壁際から、その様子を見ていた。
(……ふーん? 考えがあるとか言ってたから放っておいたけど、なるほど、スピネルも悪知恵働くな?
でも時代は変わっても、伝統を変える気はないかも知れないぞ? ま、そこはアリスがなんとかするしかないね)

 「マスター、おーどりーましょー」
 声を出さずに口の動きだけで言って、スピネルがニコニコと水希に近づく。

「あーはいはい、お客さんのふりね」
 もたれていた壁から離れると、水希の着ている華やかな【祝福のブルーミングドレス】の裾がひらりと揺れる。
 149cmの水希の前に立つ男装のスピネルは167cmで、本物の男女のカップルのように見え……ないこともない。

 スピネルは水希の前に恭しく跪いた。
「スピ……おま……」
 照れ笑いとも苦笑ともつかぬ微妙な笑いを浮かべる水希の表情に屈することなく、スピネルは男性になりきっている。
「お嬢さん、一曲踊っていただけませんでしょうか?」
「ふっ……気持ち悪っ」

 水希はちょっと楽しい気もしているが、口が悪いのはいつものこと。
 示しがつかないので一応、苦々しい顔を見せておく。
「協力はしてやるけど、知っての通り、私はダンスの授業はサボってるからな?」

 スピネルは澄ました顔で水希の手を取り、【パフォーミング】で真面目にダンスを始めた。
 水希は【巫所作】の佇まいで神秘的に見せて雰囲気で誤魔化し、【蛍火舞い】のスキルでスローワルツを誤魔化しきる。

「よし……乗り切った、じゃあ後はバルコニーにでも逃げ……あ?」
 スピネルは水希の手を離さず、その場を動こうとしない。
 その顔には無邪気な笑みを浮かべている。
「ほら退場……ちょっと次の曲始まるじゃん! タンゴとかわかるか!! どうす──」

 慌てる水希の腰を捉え、スピネルは素知らぬ顔で踊り始めた。
 見得を切るような独特の振りも完璧にこなし、スピネルは完全に主導権を握って水希を振り回している。
「おい。バカ。まじやめっ」
 小声で猛抗議した瞬間、激しく斜めに倒されて、水希は舌を噛みそうだ。

 情熱のタンゴがやっと終わって、息を激しくつきながら、膝に両手を付いて上目遣いで睨む水希。
「はあー……まじ……殺すぞスピ……」
 息が上がって死にそうになっているが、スピネルはまたもや水希の手を取り、腰を抱き寄せる。
 その顔には邪悪な笑顔が張り付いている。
「まて、早く逃げないと次が……。だからルンバなんて踊り方知らんわっ!!!!」
 踊り方知らんと言いながら、鳴り始めた曲のジャンルは分かってしまう水希だ。

 まるで洗濯機の中の洗濯物のようにいいように振り回され、強引に引き寄せられたと思ったら「腕伸ばして」と小声で指示されて、放り投げるように離れられる。
 最早、右も左もわからない状態の水希の耳に、スピネルの悪ふざけで吐息交じりの囁きが流れ込む。
「はいターン」
 言われるままターンをすると、スピネルはぶつかりそうなぐらい顔を近づける。
 緊張感をあざ笑うようにスピネルはフッと【慈しみの吐息】を吹きかけて、爽やかな風を起こす。

「もうやめてスピ……」
 水希は珍しくぐったぐたにされているが、スピネルは超楽しんでいる。
「ディーヴァの体力なめんなよー? 特訓だ。ストレス発散、仕返しだー☆ てか久々に踊るとたのしー」


 後で聞くところによると、二人のダンスはだいぶ怪しいことになっていて、伯爵に不審がられていたそうだ。
 しかしそれもスピネルの作戦で、宴会は多くても舞踏会は少ないから慣れてない人もいるよというアピールだったらしい。

 今回は、何もかもスピネルにやられっぱなしの千夏さんだったとさ。

 ***

 芹沢 葉月辿 左右左は十一歳も歳が離れている友人同士だ。
 そこで二人は歳の差カップルを演じて、ブラウブルート伯爵に時代は進んだということを示そうと考えて仮面舞踏会にやって来た。

「わーい、舞踏会! 憧れますよねっ」
 金髪のツインテールを揺らして葉月はウキウキしている。
「さすが左右左さん、衣装も仮面も決まってますねー!」
 葉月は眩しそうに左右左の顔を見上げる。

 歳の差もさることながら、身長の差も20cm以上あるこの二人は、まるで親子のように見えなくもない。
「俺たちがカップルだなんて、絵面が犯罪っぽいんじゃないだろうか」
 左右左が二人のツーショットを心の中で描いてみてためらう。
「今時歳の差なんて当たり前ですよっ! 見た目ほど大きい差じゃありませんし!」
「だといいんだが……」
「まあ仮面つけてても分かるぐらい凸凹な二人が混じってれば、何となく大叔父様に時代が変わったんだって意識させられますかね」
「そう願いたいものだな」
 和を以て貴しと為すの精神で、今回も穏便に運びたいと左右左は思った。

「さあ、今日は踊って食べて飲みますよー! もちろんお上品に!」
 その場で弾むようにくるりと回ってみせる葉月の若いエネルギーに、左右左は若干押され気味だ。
 しかし左右左は、【冷燃のクロスコード】を纏っているのでどんな状況変化にも耐えられるはずだ、と自分で自分を鼓舞するのだった。

「踊り方とかテーブルマナーとかは詳しくないですけど、背景的な役割ですし優雅な雰囲気で誤魔化していけば大丈夫ですよね!」
 それに……と葉月は少しはにかんで上目遣いで左右左を見上げる。
「左右左さんが素敵にエスコートしてくれますよね! えへへっ」
 コケティッシュでいてキュートな葉月にそう言われると、嬉しいような照れくさいような甘酸っぱい感情が湧き上がってくる。
 それを悟られたくなくて、左右左はわざと大人っぽく冷静な発言をしてみる。
「てか……葉月ちょっとはしゃぎすきじゃないか?」
 それでもまぁ、精一杯恋人役としてエスコートしてやろうと、改めて思う左右左だ。

 肝心のダンスは二人共、見よう見まねの適当。
 しかし葉月はこの仮面舞踏会を心から楽しんでいる。
 着ているショートドレスの裾が、ターンする度にとても綺麗に広がる。
 それも楽しくて、葉月は訳もなくくるくる回ってみるのだった。

 普段のライブで行うようなアクロバティックな動きも、左右左との体格差があるので今日は余裕を持ってできそうだ。
 思わず行動に移そうと左右左の腕に手をかけた時、葉月はハッとして思いとどまった。
「はっ、ついアイドルライブ脳になってしまいました、お上品お上品……」
 お上品を繰り返しブツブツ唱えて自分を戒めている。

 そんな葉月を優しい眼で見守る左右左は、ふと妹の顔が頭をよぎって表情が曇った。
(……これ見つかったら凄い機嫌を損ねないか?)
 左右左の妹は兄のことが大好き過ぎて、左右左は困っているのだ。
(まぁその辺は兄の力でどうとでもなるか)
 ここに妹はいないことだし、今日は葉月にとことん付き合って、自分も思い切り仮面舞踏会を楽しもうと、気持ちを切り替える左右左だった。
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