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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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◆仮面舞踏会(1)

「面白そうじゃねぇか……そんなもん参加するに決まってんだろ!」
 睡蓮寺 陽介は仮面舞踏会に張り切ってやってきた。
 妹の睡蓮寺 小夜と共に『兄妹で呼ばれたアリスの友人兼お抱えスター』という役どころで仮面舞踏会のオープニングを大いに盛り上げるつもりだ。

 ………………
 …………

 屋敷の大広間では、集まった客たちが、そこここで互いに挨拶したり笑い合ったりして、仮面舞踏会が始まるのを待っている。

 小夜は人々の様子をそっと見て、感慨に耽った。
(仮面かぁ……昔はこれがないと人前で歌えなかったなぁ……)
 フェスタに入学し、様々な経験を積んで小夜はようやく、仮面がなくても人前で歌えるようになったのだ。
(な、何だか逆に緊張してきた……)
 こんなとき、側に兄さんでなく彼が居てくれたら安心できるのに……
 
 「……一緒に踊れたらよかったのにな」
 ぼそっと口から零れ落ちた言葉を、耳聡い兄は聞き逃さなかった。
「おめぇそんなの……」
 小夜の頭を優しく撫でる陽介の手で急に我に返った小夜は慌てた。
「あ……いや、その……あ、アリスさん!」
 秘めた気持ちを誤魔化すようにアリスに呼びかける。
「皆で舞踏会、成功させましょう……! 兄さんもほら……エスコート、お願い、ね……?」

 あわあわと焦る妹を、陽介は温かい眼で見て頷いた。
 そして、傍らにいたアリスの肩を叩いて陽気に言った。
「まかせな、アリスの嬢ちゃん。俺達で盛大に舞踏会を盛り上げてやるぜ!」
「ありがとう、陽介さん。小夜さんもよろしくね」
 アリスに笑顔で送り出され、陽介と小夜は大広間の中央に進んでいった。


「Ladies and gentlemen……此度も始まる仮面舞踏会、始まりを告げるは毎度お馴染み睡蓮寺兄妹が務めます」
 陽介がピエロ風仮面をつけ、道化王子(自称)の本領発揮とばかりにおどけた仕草でお辞儀をした。
 『此度も』という言葉を入れて、さも普段からオープニングライブ付きの舞踏会を開いている感じを匂わせておく。
 続いて小夜も口上を述べる。
「嘆きよりも笑顔を……舞踏夜会、始まります……」

 小夜は脇に抱えていた【ウィングリュラ―】を奏で、【≪慰霊≫舞踏夜会葬】で仮面の亡霊を踊らせて、幻想的な雰囲気で会場を満たす。
 そして心を晴らすような【箱庭行進曲】を歌い始めた。
 陽介は、小夜の演奏と仮面の亡霊に合わせて【酒鬼乱舞】を披露する。
 陽介も小夜に合わせて【箱庭行進曲】を口ずさみ、【ブレーメンの奇跡】で音楽隊が演奏しているような曲にブラッシュアップして盛り上げた。


 陽介と小夜のパフォーマンスが終わると仮面の亡霊たちも消え、仮面舞踏会の賓客たちは拍手を送った。
「では紳士淑女の皆様……酔い、踊り、一時の逢瀬をお楽しみくださいませ!」
 真面目なもの言いもここまで。
 陽介は普段のくだけた口調に戻って言った。
「素面(しらふ)じゃ恋の熱も盛り上がらないってな! ま、皆で楽しもうぜ!」
 最初と同じようにコミカルなお辞儀をした後、陽介は急に真顔に戻って付け足した。
「あ、小夜に手出すやつはぶちのめすからよろしく」


 その後は会場の端に下がって、小夜は【アンプ・コーラス】でその美しい歌声を演出し、舞踏会の素敵な時間に彩りを添えた。

 ***

 天導寺 朱は吸血鬼の正装【奇禍星夜】を着こなし、勇ましいデザインの【レリクスマスク】を付けて、仮面舞踏会会場の大広間へとやってきた。
 ポケットには客間を掃除した時に拾った小箱が入っている。
 うっかりアリスに渡しそびれていたので、渡さないといけないと思って仮面舞踏会に参加した。
 ……いや、本当は好きな子と堂々と密着できるから仮面舞踏会に参加したのだ。

「莉花っちはどこにいるかな」
 好きな子――梓弓 莉花を探して広い大広間を見回す。
 二人はあらかじめ、お互いの仮面の特徴を伝えておいて、会場内で落ち合うことにしていた。

「あっ、莉花っち、見っけ」
 仮面をつけて、その綺麗な赤い眼を隠してはいても一目で彼女とわかる。
 薄いプラチナブロンドの髪をふんわりと結って夜色のドレスを身に纏った美しい人は、【硝子の靴】を履いて人待ち顔で立っている。
 普段の彼女とは全く違う魅力に朱は心を鷲掴みにされ、思わず息を呑んでその場で莉花に見とれていた――。


 莉花は大勢の人の中で一人、朱を待っていた。
 身長が平均より低めの莉花は、朱の恋人として釣り合ってないかもしれないと悩んでいる。
 不釣り合いな恋、という点では自分たちとアリスたちは似ていると思う。

「大丈夫、普段通りに落ち着いていれば見つけてもらえるはず……」
 緊張でついドレスの裾を握りしめてしまう手の先が冷たくなっている。
 朱が見つめているのに気付かない莉花は、心細い思いで佇んでいた。

 朱が内心のドキドキを隠して平静を装い、身に付けると積極的になれる【レリクスマスク】の力を借りて足を前に踏み出した時、見知らぬ仮面の男が一足先に莉花に声をかけた。
「お嬢さん、私と一曲踊らないかい?」
 いかにもキザな物腰で莉花を誘う様子を見て、朱は頭に血が登る音を聞いた。

「えっ!? いや、あたしは、えっと、その、ま、待ち合わせを……」
 しどろもどろに答える莉花。
 朱は矢のように素早く飛んできて、男と莉花の間に割り込んで莉花の肩を強引に抱き寄せた。
「彼女は俺のものですよ」
「朱さん!」
 ホッとして表情を緩めた莉花の眼には、朱がとてもカッコよく映っている。
 朱の剣幕に鼻白んだ男は、しらけたように首をすくめて無言で離れていった。

 去っていく男の後ろ姿が人波に紛れて見えなくなってから、二人は互いに顔を見合わせ、安心してクスクスと笑い合った。
「今夜は魔法が解けるまで俺に付き合って頂けますか、仮面のシンデレラさん?」
 改めて朱が莉花にダンスを申し込む。
 【ロイヤルエスコート】で紳士的な振る舞いで恭しく莉花の手を取る朱は、【永遠なる美貌】の効果で普段よりも大人っぽくスマートに見える。
「はい。喜んで」
 恥じらった微笑で一礼した仮面のシンデレラは、優雅に手を差し伸べた。
 二人の手は離れないように、離されないようにしっかりと握られた――。


 初めのダンスはワルツ。
 朱が莉花を引き立てるように上手にリードする。
 朱は彼女をこの仮面舞踏会の華にしたいのだ。
 莉花は音楽と朱に身を任せ、【バレエシャッセ】を意識してゆったりとスカートを揺らせる。

 しばらく踊り続けた後、莉花は【トッカータの我儘】でほんの少しテンポアップし、【ジングルシャイニー】で光の粒をばらまいて趣向を変えた。
 辺りに漂う光の粒が莉花の指先に触れられて、澄んだ鈴の音を鳴らす。
「一、二、三……」
 数えながら十と二回、シンデレラの魔法が解ける時間の数だけ涼やかな音を鳴らしたら、花が散ってしまうように手を離して、莉花は不安な面持ちで朱を見つめる。
 一瞬の間が永遠にも感じられる不思議な時間、静寂が支配する……。

 朱が迷いのない優しい笑顔で莉花に手を差し出して、音が戻ってきた。
 雲が晴れるように莉花の心に光が差し、朱の手に手を合わせてその温もりを感じる。
 ギュっと握られた手に引き寄せられ、さっきよりももっと近づいた気がして莉花は幸せに包まれた。

 朱はそんな莉花の胸の内を知る由もなく、この愛しい人と手を繋いだまま舞踏会の最後まで一緒にいられることだけを願っていた。
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