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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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◆仮面舞踏会開始前(1)

 大広間で、使用人役のアイドルたちはそれぞれの持ち場で準備をしていた。

 その中でもドレッグ・グロッシュラーは異色の存在だった。
 ディスカディア製犬型ディーヴァ。
 表向きは「こんな変わった使用人も雇えるんだぞ」というアピールができるという触れ込みだが、本当のところは、ネヴァーランドがどういった所か感じるために槍沢 兵一郎に頼んで連れて来てもらったのだ。
 そういう訳で、ドレッグは使用人として働くよりもアリスの屋敷内を見物したいと思っていた。
(後で頼めば見せてくれるかもしれない)
 しかし今は、使用人役に徹しようと思うドレッグだ。

 兵一郎も、ドレッグに頼まれたから一緒に来たものの、使用人役の経験がなく当惑している。
「フットマンってのもあるらしいが、身長はともかく顔がなァ……」
 目つきが悪いことを気にしている兵一郎である。
「どうやっても護衛の方に見えるだろ俺ェ……そっちなら得意なんだがなァ……」
 大広間の茨退治で大活躍した兵一郎も、やっつける敵がいない今回は活躍のしどころがない気がしている。
「ま、おとなしく給仕すっか、主に力の要りそうなモン運んどくさ。つーか、表に出るのは他の奴らに任せて俺ァ裏方中心に回した方がいいかもしれねぇなァ……」
 自慢の筋肉と傍らのドレッグを交互に見比べて兵一郎は呟いた。
「明らかに使用人としては色物枠だよなァ、俺等……」
 ポリポリと鼻の横をひっかいて、兵一郎はドレッグとペアになって運搬の仕事に従事することにした。

 ドレッグは背中に乗せて荷物を運び、兵一郎はその腕力を頼みに重いものを運ぶ。
 ブラウブルート伯爵の眼には留まらない裏方専門に徹していたら、皆に結構重宝された。
 どんな時でもどんな人でも、人の役に立つことはできるのである。

「ところでドグ。その【アンティークブース】に【シャンデリアフライヤー】つーライブ装備はなんで持ってきた?」
 兵一郎がドレッグの持ってきたアイテムに目を留めて訊くと、ドレッグが渋い声で答えた。
「念のためだ」
「念のため?」
「もし音楽の用意がないなら、録音してきた舞踏会用の音楽を流そうと思ってな」
「お、応」
「それを流し続ける魔法道具に私がなっても良いと思って準備してきた」
「そうか……。しかしディスカディアのモンだし、ここネヴァーランドでは出力下がるだろうがな」

 兵一郎の言った通り、それぞれ短時間しか使えなかった。
 しかしドレッグは、初めて来たネヴァーランドの空気を大いに楽しみ、満足したのだった。

 ***

 佐伯 ヴァイスは、ブラウブルート伯爵を玄関で出迎えた後、ウェイターとして大広間にいた。
 ライブでは、熱が入ると荒っぽくなってしまいがちなので、ウェイターをやる時も張り切り過ぎて面倒ごとを起こすような失敗はしないように心掛けている。
「平常心だ平常心」
 念仏のように口の中で唱えている。

 成年の客にはシャンパンやワインなどアルコールの入った飲み物を出すが、未成年のフェスタ生が扮した客には【ブラッディ・ショコラ・ワイン】を出す。
 演技とはいえ、皆、夜の仮面舞踏会の雰囲気を楽しみたいだろうから、赤い色の飲み物が吸血鬼の夜会にはピッタリだと思うヴァイスだ。
 
(アリスもこの甘酸っぱい飲み物を気に入ってくれるだろうか?)
 そう思ってヴァイスがアリスの方を見ると、なにやら伯爵に小言を言われているように見える。
 なんとか助け船を出したいと考えたヴァイスは【伏魔殿の晩餐】を使って伯爵の食欲に訴えかけ、関心を反らす策を実行した。
 効き目があったのかなかったのか、伯爵は料理には関心を向けなかったがアリスのことは解放したようだ。
「よかった……」
 ホッとしたら【伏魔殿の晩餐】の影響で、ヴァイス自身も空腹を感じた。
 ウェイター姿だけど、ヴァイスは隙を見てちょいちょい料理を摘まみ、空腹を紛らわせるのだった。

 ***

 ヴァイスが摘まんでいた料理は、緑青 木賊がネヴァーギブアップ・カフェから取り寄せておいた軽食だった。
 ネヴァーギブアップ・カフェは、木賊がかつて、素晴らしく手の込んだスイーツメニューを考案して提供した縁(ゆかり)のあるカフェである。
 そこからお取り寄せしたカジュアルな軽食は、木賊が施した【盛り付けテクニック】と【プレミアムディッシュ】によって、見た目も華やかなパーティー仕様に変化している。
 高級感が出れば、仮面舞踏会の場がより一層それらしくなるから、という木賊の心遣いだ。

「ありす氏の大叔父殿は武道会によって婚姻相手を見定めると……」
 舞踏会を武道会と聞き間違ったままここに来ている木賊である。
「……な、何やら自分の父上が仰られていた事と似たものを感じたり」
 木賊は尊敬する父の言葉を思い出して懐かしい思いに駆られる。

「とはいえ、何故だか様々な演技や踊り等を求められ、一見武道の気配を感じぬのは……ねばーらんど故っす???」
 自分が想像してきたのと全く違う景色が繰り広げられている状況の中、木賊の頭の中は疑問符で一杯だが、一度やると決めたことはやり切るのが、木賊の考える立派な“おのこ”である。
 分からなくてもうろたえず、【風雅のクロスコード】で気配りのできる給仕係を演じるだけだ。

 木賊は伯爵に、現在のネヴァーランドにはこれほど素晴らしい料理がある、と実物を示しながら説明した。
 長い眠りから目覚めた今、伯爵はさぞ驚き感心して喜んでくれるだろうと期待してのことだった。
 しかし、伯爵は一言、
「人間の食べ物などくだらん!」
 と吐き捨てるように言い放ち、折角美味しそうに盛り付けられた料理に目もくれないのであった。


 アリスは木賊に申し訳なくて、後で伯爵のいない所でこっそり詫びた。
「木賊さん、ごめんなさい。大叔父様は頭が古くて階級意識が高いので吸血鬼貴族以外認めてないの。どうか気を悪くしないで」
 日頃から武道で心身を鍛錬している木賊は、これぐらいのことで凹んだりしていない。
 反対にアリスを気遣って、
「自分は全然気にしてないっすよ。ありす氏がそんなに謝らなくても大丈夫っす。ありす氏こそ気にしないでほしいっす」
 と励ましたのだった。

 ***

 木賊が紹介した素晴らしい料理を、ブラウブルート伯爵はバッサリと否定した。
 木賊に申し訳なくてその場で凍りついていたアリスに世良 延寿
「大丈夫だよアリス、ここは私に任せて!」
 と笑顔で請け負った。
 
 延寿はメイドとしてこの場にいるが、先に厨房で料理を作っておいていた。
 伯爵に喜んでもらえる料理を作ることができる優秀な使用人をアリスは雇っている、とアピールするためだ。
 
 吸血鬼の伯爵に喜んでもらえる料理――。
 それは、豚の血に調味料を加えて豆腐を煮込んだ台湾の豆腐料理「臭豆腐」。
 血を糧とする吸血鬼なら、血を使った料理には食指が動くはず。
 見た目は豆腐の面影を残しているが強烈な臭いを放つ臭豆腐は、作るのにも骨が折れたが、延寿はアリスのためだと思って頑張って作った。
 出来上がった臭豆腐に【プレミアムディッシュ】で美味しそうな光沢を与えて伯爵の元へ運ぶ。
「血のお料理はいかがですか?」

 ネヴァーギブアップ・カフェの料理には目もくれなかった伯爵だが、血の匂いにはほんのちょっとだけ反応して臭豆腐を見た。
 しかし「血は新鮮なものに限る!」と言って、器を押しのけてしまった。
 アリスが延寿に目でしきりに謝っている。
 それに気づいた延寿はアリスの心中を思いやり、ニコリと微笑み返した。

 折角思い付いたアイディアだったが、ウケないときもある。
 カラリとした性格の延寿は気持ちをさっさと切り替え、メイドの仕事に戻ったのだった。
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