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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】仮面舞踏会(第2話/全4話)

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◆大叔父様到着

「「いらっしゃいませ。伯爵様」」

 玄関ホールに、アリスと使用人役のアイドルたちがずらりと並んでブラウブルート伯爵を出迎える。
 屋敷を大急ぎで整えてもらってから数日後、とうとう厳格な当主にしてアリスの大叔父、ブラウブルート伯爵がやって来たのだ。
 彼が現れた瞬間、使用人役のアイドルたちとアリスの緊張感が高まった。

 伯爵が到着する直前に、アーヴェント・ゾネンウンターガングが段差のチェックを兼ねて改めて軽く掃除しておいたので、玄関ホールはどこもかしこもピカピカである。
 執事服に身を包んだアーヴェントは吸血鬼として参加しているが、普段のナイトの立ち居振る舞いが執事としての動作にも反映され、キビキビとした印象を与えて清々しい。
 伯爵の上着を受け取る動作もスマートだ。
 
 そのアーヴェントの横では、メイド役としてやって来た合歓季 風華が、【エレガンスアティチュード】で文句のつけようのない美しいカーテシーをしていた。
 身に纏ったヴィクトリア調の質素なメイド服も、風華が着ると上等なドレスのようだ。
 ドアを開けた時に吹き抜けた温かな風は、風華の【≪慰霊≫風葬】によるもの。
 伯爵が自分の屋敷として心地よく滞在できれば、アリスの心証も良くなるだろうという風華の演出だった。

 アリスが一歩前に進み出て女主人らしく挨拶をする。
「ようこそお越しくださいました、大叔父様。お待ちしておりましたわ」
「うむ」
 出迎えの一同の様子を再度じろりと見て、伯爵は頷いた。
 小言が出ないのは、ひとまず及第点を貰えたということだろう。
 アイドルたちとアリスは、ホッと息をつく。

「さあ、こちらへどうぞ」
 メイド役のクロティア・ライハが伯爵を促す。
 
 クロティアは【ネヴァーランド知識】で、知識を装備して伯爵の話に対応できるよう備えてきた。
 そして腰には庭の手入れで使っていた剣を装備している。
 庭はクロティアのこだわりにより、伯爵到着までに完璧に仕上がっていることは言うまでもない。
 この剣で、戦うことも当然できるので、「いつでも荒事もできますわ」という雰囲気を醸し出す。
 メイドは出来る限り万能感があった方がいいと考えているからだ。
 
 クロティアは伯爵に近い壁に、【グルービィグラフティ】でプロジェクションマッピングのように屋敷内の見取り図を映し出した。
「ほう、これは……魔法かね?」
「まあ、そのようなものですわ、旦那様」
 返答してから、見取り図の中の一部屋を指し示す。
「こちらが旦那様に使っていただくお部屋でございます」

 貴族の屋敷で働くメイド感を出した方が良さそうだと直感で感じ取ったクロティアは、普段の口調より丁寧な言葉遣いで話している。
 これもまたゲームの一種だと思えば難無く対応できるクロティアだ。
 反射神経は日ごろから鍛えているから全く問題ない。
 
 伯爵が【グルービィグラフティ】に感心しているようなので、後で仮面舞踏会会場の大広間まで床に矢印を書いて案内しようと思い、クロティアはちょっと楽しくなった。

 執事服風の【夜色ゴシック】を着た兎多園 詩籠は、伯爵の荷物を受け取った時、ふと見た階段の板が割れているのを発見した。
 古い屋敷のことなので当然そういった事もあるだろうが、伯爵に見つかったら怒られるかもしれないと思うと、気が気ではない。
 幸い伯爵の視力はまだ回復しきってないとの情報があったため、詩籠はなんとか自分の体で隠して伯爵を客間まで案内しようと考えた。
 目が合ったクロティアに目配せで階段板が割れていることを知らせると、『任せて』とブロックサインが返ってきた。
 【グルービィグラフティ】で、壊れていないように偽装してくれるらしい。

 ひと安心した詩籠だが、そこを伯爵が踏んでしまったらバレてしまうことに気がついた。
 いや、バレる以前に踏み抜いて落ちたら危険だ。
 そこで詩籠は、伯爵の手を引いてそこを避けるようにして客間へ誘導することにした。
「旦那様、ここは段差もありますので、お手をどうぞ」
 一瞬、伯爵はムッとして詩籠を睨んだが何も言わず、素直に詩籠の手を掴んだ。
 吸血鬼の爪が少し痛い。
 それでも何事にも勉強熱心な詩籠は「これも良い経験になるかも」と心のメモに書き留める。

 客間に着いて伯爵の荷物を下ろしている詩籠に、意外なことに伯爵が労いの言葉をかけた。
「ありがとう、助かった」

 伯爵の顔は相変わらず怖かったが、詩籠は思い切って言ってみた。
「アリス様のお優しさが、僕のような使用人にも影響しているのだと思います。僕は雇われてまだ日が浅いのでよく知らないけれど、アリス様はいつもしっかりとしていて使用人や村人にも優しい方です」

 伯爵の返事はなく、片眉を上げただけだったためどう思ったのかわからない。
 少なくとも気分を害してはいないようだ。
 これ以上長居してボロが出るといけないので、詩籠は早々に退散した。

 ***

 リーザベル・シュトレーネが伯爵のいる客間に顔を覗かせたのは、詩籠が退室してしばらく経ってからだった。

「間もなく仮面舞踏会が始まりますので、大広間までご案内いたします」

 リーザベルの声掛けに、うむ、と立ち上がったブラウブルート伯爵は舞踏会用の正装に着替えている。
 リーザベルは、一緒にやって来た黒柳 達樹と共に先導して伯爵を案内した。

 プロディーサーの達樹は今回、後学の糧にするため吸血鬼の流儀や哲学を学びたいと思って来ていた。
 そのため、使用人の役割をそれほど積極的にこなそうとは思っていない。
 何かをするというよりは、気配りと気遣いをするというスタンスだ。
 アイドルのサポートで自然と身に着けた【観察眼】を使えば、伯爵のコンディションを把握することは造作もない。
 してほしいことを簡単に推測できるだろう。

 まあ、【観察眼】を使うまでもなく、歩いている途中に注意するべき段差があれば声ぐらいかけるし、荷物があれば持ってやる。
 広い屋敷内を歩いて移動するストレス軽減のために、【ここだけの話】でネヴァーランドにおけるフェスタ生の活躍を伝承のように語って聞かせるくらいのおもてなしはしてもいい、と思っている。

 しかし、伯爵の人柄や哲学を知りたいとワクワクしてやってきたリーザベルにインタビューは任せるつもりだ。
 達樹は適当な相槌を打つだけにとどめ、会話に割って入るようなことはせずに一歩引いたところから黙って聞いていることにした。

 リーザベルは、初めは足音を立てないよう気を付けてゆっくり歩いていた。
 しかし高貴な吸血鬼貴族のブラウブルート伯爵に、いつ話を切り出そうかと思うと、気もそぞろになってくる。
 楽しみすぎてそのことばかり考えているので、曲がり角で壁にぶつかりそうになってしまった。
「危ない」
 日頃からアイドルのサポートに慣れている達樹が、リーザベルと壁の間に素早く腕を差し入れてガードした。
「あら、ごめんなさい」
 謝るリーザベルに微笑を返す達樹は、大人の態度で落ち着き払っている。
(黒柳様は所作に迷いがなくて流石ですわね)
 わたくしもしっかりしなくてはと、リーザベルは意を決して伯爵に切り出した。

「アリス様の大叔父様、本日はお越しくださりありがとう存じます。お聞きしたいことがありまして、少しお時間よろしいでしょうか?」
 メイドから急に『アリス様の大叔父様』などと呼びかけられ、不機嫌を露にする伯爵が言葉を発する前にリーザベルは弁明する。
「わたくし、本来のメイドではないので、無作法はお許しを」
「なら、お前は何なのだ」
「わたくしはリーザベル・シュトレーネ。誇り高き吸血鬼ですわ」
 伯爵は疑わしそうに眼を眇めたが、リーザベルが付けている【パール・ファング】と【血族の矜持】を見てようやく納得したらしい。
「ほう。……それで聞きたい事とは何だね。あまり時間はないと思うが少しだけなら聞いてやる」
 少しだけと言われてリーザベルは困ってしまった。
 聞きたいことは数多あるのだ。
 吸血鬼は今後どうあるべきかとか、昔との差異とか、吸血鬼としての誇りとか……。

 リーザベルは僅かな時間躊躇したが、やはり誇りに関してが一番聞きたい事だと強く思った。
「わたくしとしては信条をノブレス・オブリージュの事も踏まえて語り合えましたら」
「我々は特権階級だ。特権にはそれに見合った義務が伴うだけのこと。当たり前のことの何を語り合うというのか」
 伯爵は一喝して、目前まで来ていた大広間に入っていってしまった。
 その後ろ姿を見送ったリーザベルは本物の貴族を見た気がして、もっともっと伯爵と話したくなったのだった。
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