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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】突然の手紙(第1話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】突然の手紙(第1話/全4話)

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◆大広間をきれいにする 茨退治(2)

 ついに茨の根元まで到達したアイドルたちは、【ある日の変身譚】を解いてリスから元の姿に戻った睡蓮寺陽介と合流した。
 陽介は既に【赤魔女の大鎌】を茨の根元に振り下ろしている。
「俺も助太刀しよう」
 辿左右左も茨の根元に駆け寄って、【ナゲキノ大鎌】を振り上げる。
 
 それを見たノルテ・イヴェールは、手に持つ【gentian blue】を見て思った。
(正直、この弓であの巨大な根元を切り裂けるとは思えない……)

 ならば陽介と左右左の助けになるようにと、茨の根元に【悪意の北風】で冷たい突風を浴びせかけた。
 急激な温度変化は植物の天敵。大鎌で傷つけられた所に吹きつければ、きっとダメージも大きいだろう。

 相変わらず攻撃してくる茨の枝は、槍沢兵一郎町田花儀がかわしてくれている。

「早めに決着をつけた方が良さそうだ。【≪戦礼≫火葬】で一気に焼き払おう」
 そう言って行坂貫が構えると、左右左が止めた。
「ちょっと待ってくれ。【≪戦礼≫火葬】では大広間全体を焼いてしまうかもしれない」
「しかし大鎌で斬っていては時間がかかって、こちらが茨の攻撃に持ちこたえられない」

「それじゃ、私にやらせて」
 と、世良延寿が【ファラリスの爛刑】を纏わせた【≪聖具≫聖剣エクスネヴァー】を取り出した。
 灼熱を帯びた聖剣なら、焼きながら切ることが可能になる。
 優しい延寿の心を反映して輝きを増す聖剣を見て、貫と左右左の二人は納得して頷いた。

 大役を任された延寿はにっこり微笑むと、真剣な表情に戻って茨に向き直り根元に狙いを定めた。
 殺気を感じるのか偶然なのか、茨の枝が延寿めがけて飛んでくる。
 それを【トリッキーラッシュ】の素早い身のこなしでかわし、そのままの勢いで茨の根元に斬りつけた。

 ジュゥゥゥゥ!!!

 聖剣は大鎌で切り込みを入れられていた部分に見事にヒットし、【ファラリスの爛刑】による灼熱はじわじわと太い根元を焼いて斬り進んで行く。

 聖剣が完全に反対側まで到達して、とうとう茨は根元から切り離されてしまった。
 とたんに茨の攻撃は止まり、辺りは急に静かになった。
 茨の魔物は死んで、ただの大きな茨の枯れ木になってしまったようだった。

 防衛に専心していた兵一郎が、「あれ?」という表情で辺りを見回す。

「ネズミも茨もいなくなったけど、大広間のお掃除はまだ終わりじゃないよね」
 いつの間にかヴァイオリンをバケツとモップに持ち替えたノルテが、静寂を破った。

「最後にみんなで掃除をしようか」
 緊張を解いてほっと息を吐いた貫が、巨大な枯れ木にげんなりしながら言った。

 ***

 大広間にいるアイドルたちは、手分けして片付けることにした。
 大きくて密集している茨の枝を細かく切って、部屋の外にひたすら運び出していく。
 それはもう、ネズミや茨を退治するのと同じぐらい大仕事だった。

 みんなへとへとになって、茨の枝を全部外に運び出したあとに残ったのは、依然として埃だらけの床。
 大広間の床のほとんどに花儀とケルルのモップが届かなかったのだ。

 そこへ意気揚々とやって来たのはスピネル・サウザントサマー
 後ろにはネズミの行列を従えている。
 スピネルは、一番初めにお菓子に釣られて外へ出たネズミたちを買収したのだった。

 買収はまず、ケーキを食べつくしてもなお食べ足りないネズミたちに、【高揚する一番星】で注目を集めてから【ガナッシュチョコレート】を見せびらかすことから始めた。
 その美味しそうな匂いにざわつくネズミたちに、1カケラ与えてスピネルは命じた。

「さあ風呂に入るのだっー! 綺麗になったらまたご褒美チョコを上げます」
 予め用意された水の入った桶に飛び込み、体を洗ったネズミたちは、鼠色ではなく白や茶色になって見た目も良くなった。
 きれいになったネズミたちに、スピネルはさらに命じる。
「アタシに付いてきな」

 そしてやって来た大広間の入り口で、スピネルはネズミたちに叫んだ。
「まだチョコレートがほしいなら、働かざるもの喰うべからず! さあネズミサイズの雑巾を持って走れー!」
「チュー!」

 ネズミたちがちょろちょろ走り回って雑巾を掛ける横を、スピネルはモップを掛ける。
 バラのエッセンス入りの洗剤を使って拭くと、優雅な香りで埃の匂いも消えていく。

「拭くと気持ちいいくらい色が違うね。モップ無双はじまるよー」
 思わず【ハミングソング】や【ネイティブ・コラール】で歌が出る。

 ケルル・ルーや花儀、ノルテも一緒に歌いながらモップを掛け、ようやく大広間はきれいな空間になったのだった。


 掃除を手伝ったネズミたちはスピネルにお礼をたっぷりもらって、先に行った仲間の後を追ってネズミが住みやすい野山へと去っていった。


 何もなくなって、がらんとした大広間に佇んでノルテは呟いた。
「ラルフに会ってみたかったのに……ラルフはどこ?」
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