【伯爵令嬢アリスの憂鬱】突然の手紙(第1話/全4話)
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◆大広間をきれいにする 茨退治(1)
ネズミの追放で、モウモウと立つ埃に咳き込みながら、千夏水希は【≪慰霊≫風葬】で風を通して空気の入れ替えを試みる。
【想イノ坩堝】のバックコーラスに乗って流れる風は、どこか懐かしさを感じさせ温かい。
醜く魔女殺しの魔女になり果てた茨姫の水希は、茨に親近感を持ち茨の気持ちに想いを馳せていた――。
(そもそも茨に悪意は無くただ守ろうとしているだけ。
その結果として幸にも不幸にもなるけれど、私の茨姫の物語みたいに、館もろとも焼くわけにはいかないんだろ?)
水希は失明した右目に無意識のうちに触れていた。
(ならこの茨には部屋の外に移動してもらおう……そして屋敷を守る茨になれば、貴族の力を見せつける役に立つんじゃないか?)
そのために。
水希は茨の心を動かすライブをする。
同じ闇の世界で生きるものとして。
哀しみの中から僅かな希望を掬い取り、水希は温かい風を起こし続ける。
十分に風が通ったら【想イノ坩堝】を【音ヲ泳グ魚】に持ち替え、空中に金魚のオーナメントを泳がせる。
金魚は水希に触れられて澄んだ涼やかな音を鳴らした。
さらに水希が【≪慰霊≫舞踏夜会葬】で亡霊たちを出現させると、亡霊たちは永久の別れを嘆かれることを望まない死者=茨姫の想いに応えるように動き出す。
ある者は歌い踊り、ある者は勢いだけを頼りに茨を退けようとし、ある者は茨に追い返される……。
幻想的な亡霊がゆらめく中、低重力状態の月面を移動するようなふわふわした足取りで、水希は複雑に伸びた茨の枝を上手に掻い潜りながら中心近くに進んでいく。
そうして【≪慰霊≫月葬】で茨の天蓋に月の幻影を出現させ、茨全体を柔らかな月光で明るく照らした。
水希はぶっきらぼうを装い、しかし心を込めて茨に頼んだ。
「館の主人がこの大広間を必要としてるから移動してくれないか? ここではなく館の外堀を守ってほしい。太陽も月も風も雨も外の世界にはある」
けれども茨はなんの反応も見せず、ただ静かに佇んでいるだけだ。
やがて亡霊たちも金魚も月光も、みんな跡形もなく消えてしまった……。
***
茨が自分で動いて退いてくれたらいいのに、と思ったのは水希だけではなく睡蓮寺陽介も同様だった。
「これがあの眠り姫の茨ってんなら、姫様や王子が来たらどいてくんねぇかな?」
陽介の脳内では、姫様はアリスで王子はラルフの設定だ。
アリス姫とラルフ王子はここにはいないが、『道化王子』の自分ならここにいるではないか!
「王子は王子でも、なんちゃって道化王子じゃどいてくれねぇか」
自分で自分の発想にツッコミを入れて、陽介は現実を見る。
「ともかく、この茨の魔物に意識や攻撃する意思があるかはわからねぇが、ネズミが住めるくらいの隙間があるのはわかってんだ」
そう言うやいなや、陽介は素早く【ある日の変身譚】でネズミと同じ位の大きさのリスに変身し、茨の根元を目指して走り出した――。
***
茨には心を揺さぶるライブは通じない、とアイドルたちは理解した。
「出来れば殺生は避けたいが……話し合いの出来ない相手なら仕方ないだろうな」
辿左右左は【≪戦礼≫花葬】を茨に打ち込んで攻撃する。
植物には植物で対抗するという訳だ。
茨に命中した【≪戦礼≫花葬】の種は見る見る成長したが、茨はあまりにも大きく【≪戦礼≫花葬】が少しぐらい枝を覆っても全体にダメージはないようだった。
しかし攻撃を受けたことは分かるようで、枝を大きくうねらせて反撃してくる。
しかも悪いことに、茨の上に茂った植物も大広間の空間をさらに圧迫して視界を狭くしている。
思わぬ方向から茨の攻撃が飛んできて、アイドルたちは悲鳴を上げて逃げ惑った。
その時、槍沢 兵一郎が【セイントシールド】を構えて仲間を後ろに庇うようにして前へ出た。
【ジャンヌの誓い】を乗せていつもの宣言をする。
「己が盾に不倒を誓えッ! ってなァ!」
次々とムチのように繰り出される茨の攻撃を兵一郎は【智者のサーベル】で【ブロッキング】。
そのまま【ディフェンシブストローク】で防御の体制を保って枝を切り払いつつ、茨の根元に向かってじっくりと制圧前進する。
ネヴァーランドには全く慣れていない兵一郎だったが、いつも通りの戦い方で十二分に成果を上げているのだった。
(縁が回りに回ってあまり来たことのねぇネヴァーランドまで、人手が足りねェ掃除の手伝いに来たんだが、まさか荒事だったのかよ。
まぁ仕方ねェ、コレも新たな縁って事だな)
心中でぼやきながらも、兵一郎は楽しそうだ。
茨は容赦なく、上下左右から攻撃を仕掛けてくる。
しかし兵一郎の善戦によって彼の後ろに安全地帯ができ、他のアイドルたちの安全が確保されていた。
ある程度広い場所を兵一郎に確保してもらって、世良延寿は落ち着いて茨に攻撃を開始することができた。
静かに精神統一して神に祈りを捧げ、【十二使徒の制裁】を発動させて12本の輝く光の剣を出現させる。
延寿は光の剣の1本を手に取り、残りの11本は自律させ、打ちつけてくる茨の枝を次々と薙ぎ払う。
行坂貫もルビーを嵌め込んで炎を纏わせた【氷炎の爪】で茨を切り裂き、合間に【惨憺たる紅棺】や【無慈悲なる霰弾】を駆使して茨へ反撃を続けている。
【十二使徒の制裁】と【氷炎の爪】の力は非常に強力に茨を退けたし、兵一郎の【セイントシールド】にも守られているので、アイドルたちはずんずん前進して茨の根元に近づいていった。
ノルテ・イヴェールは、「戦いの中でも、音楽はともにある」と愛用のヴァイオリンを【gentian blue】の弓で勇ましい曲を奏で、アイドルたちを鼓舞している。
「花儀、俺の足引っ張らないでよ?」
町田花儀を信頼して背中を預けているくせに憎まれ口を叩くノルテに、花儀も黙ってはいない。
ノルテに襲い掛かった茨をモップで「うるぁっ!」と叩き落してから
「キミこそ足引っ張ってるんじゃないの」
と言い返す。
そんな花儀もノルテに背中を預け、心の奥底では信頼しているのだ。
その証拠に花儀はノルテの音楽に合わせて【≪星獣≫ピッコロフェニックス】に乗せた【≪星獣≫キュウ】を歌わせ、戦うアイドルたちを癒して応援いる。
こうして一行は、ついに茨の根元まで辿り着いた。
ネズミの追放で、モウモウと立つ埃に咳き込みながら、千夏水希は【≪慰霊≫風葬】で風を通して空気の入れ替えを試みる。
【想イノ坩堝】のバックコーラスに乗って流れる風は、どこか懐かしさを感じさせ温かい。
醜く魔女殺しの魔女になり果てた茨姫の水希は、茨に親近感を持ち茨の気持ちに想いを馳せていた――。
(そもそも茨に悪意は無くただ守ろうとしているだけ。
その結果として幸にも不幸にもなるけれど、私の茨姫の物語みたいに、館もろとも焼くわけにはいかないんだろ?)
水希は失明した右目に無意識のうちに触れていた。
(ならこの茨には部屋の外に移動してもらおう……そして屋敷を守る茨になれば、貴族の力を見せつける役に立つんじゃないか?)
そのために。
水希は茨の心を動かすライブをする。
同じ闇の世界で生きるものとして。
哀しみの中から僅かな希望を掬い取り、水希は温かい風を起こし続ける。
十分に風が通ったら【想イノ坩堝】を【音ヲ泳グ魚】に持ち替え、空中に金魚のオーナメントを泳がせる。
金魚は水希に触れられて澄んだ涼やかな音を鳴らした。
さらに水希が【≪慰霊≫舞踏夜会葬】で亡霊たちを出現させると、亡霊たちは永久の別れを嘆かれることを望まない死者=茨姫の想いに応えるように動き出す。
ある者は歌い踊り、ある者は勢いだけを頼りに茨を退けようとし、ある者は茨に追い返される……。
幻想的な亡霊がゆらめく中、低重力状態の月面を移動するようなふわふわした足取りで、水希は複雑に伸びた茨の枝を上手に掻い潜りながら中心近くに進んでいく。
そうして【≪慰霊≫月葬】で茨の天蓋に月の幻影を出現させ、茨全体を柔らかな月光で明るく照らした。
水希はぶっきらぼうを装い、しかし心を込めて茨に頼んだ。
「館の主人がこの大広間を必要としてるから移動してくれないか? ここではなく館の外堀を守ってほしい。太陽も月も風も雨も外の世界にはある」
けれども茨はなんの反応も見せず、ただ静かに佇んでいるだけだ。
やがて亡霊たちも金魚も月光も、みんな跡形もなく消えてしまった……。
***
茨が自分で動いて退いてくれたらいいのに、と思ったのは水希だけではなく睡蓮寺陽介も同様だった。
「これがあの眠り姫の茨ってんなら、姫様や王子が来たらどいてくんねぇかな?」
陽介の脳内では、姫様はアリスで王子はラルフの設定だ。
アリス姫とラルフ王子はここにはいないが、『道化王子』の自分ならここにいるではないか!
「王子は王子でも、なんちゃって道化王子じゃどいてくれねぇか」
自分で自分の発想にツッコミを入れて、陽介は現実を見る。
「ともかく、この茨の魔物に意識や攻撃する意思があるかはわからねぇが、ネズミが住めるくらいの隙間があるのはわかってんだ」
そう言うやいなや、陽介は素早く【ある日の変身譚】でネズミと同じ位の大きさのリスに変身し、茨の根元を目指して走り出した――。
***
茨には心を揺さぶるライブは通じない、とアイドルたちは理解した。
「出来れば殺生は避けたいが……話し合いの出来ない相手なら仕方ないだろうな」
辿左右左は【≪戦礼≫花葬】を茨に打ち込んで攻撃する。
植物には植物で対抗するという訳だ。
茨に命中した【≪戦礼≫花葬】の種は見る見る成長したが、茨はあまりにも大きく【≪戦礼≫花葬】が少しぐらい枝を覆っても全体にダメージはないようだった。
しかし攻撃を受けたことは分かるようで、枝を大きくうねらせて反撃してくる。
しかも悪いことに、茨の上に茂った植物も大広間の空間をさらに圧迫して視界を狭くしている。
思わぬ方向から茨の攻撃が飛んできて、アイドルたちは悲鳴を上げて逃げ惑った。
その時、槍沢 兵一郎が【セイントシールド】を構えて仲間を後ろに庇うようにして前へ出た。
【ジャンヌの誓い】を乗せていつもの宣言をする。
「己が盾に不倒を誓えッ! ってなァ!」
次々とムチのように繰り出される茨の攻撃を兵一郎は【智者のサーベル】で【ブロッキング】。
そのまま【ディフェンシブストローク】で防御の体制を保って枝を切り払いつつ、茨の根元に向かってじっくりと制圧前進する。
ネヴァーランドには全く慣れていない兵一郎だったが、いつも通りの戦い方で十二分に成果を上げているのだった。
(縁が回りに回ってあまり来たことのねぇネヴァーランドまで、人手が足りねェ掃除の手伝いに来たんだが、まさか荒事だったのかよ。
まぁ仕方ねェ、コレも新たな縁って事だな)
心中でぼやきながらも、兵一郎は楽しそうだ。
茨は容赦なく、上下左右から攻撃を仕掛けてくる。
しかし兵一郎の善戦によって彼の後ろに安全地帯ができ、他のアイドルたちの安全が確保されていた。
ある程度広い場所を兵一郎に確保してもらって、世良延寿は落ち着いて茨に攻撃を開始することができた。
静かに精神統一して神に祈りを捧げ、【十二使徒の制裁】を発動させて12本の輝く光の剣を出現させる。
延寿は光の剣の1本を手に取り、残りの11本は自律させ、打ちつけてくる茨の枝を次々と薙ぎ払う。
行坂貫もルビーを嵌め込んで炎を纏わせた【氷炎の爪】で茨を切り裂き、合間に【惨憺たる紅棺】や【無慈悲なる霰弾】を駆使して茨へ反撃を続けている。
【十二使徒の制裁】と【氷炎の爪】の力は非常に強力に茨を退けたし、兵一郎の【セイントシールド】にも守られているので、アイドルたちはずんずん前進して茨の根元に近づいていった。
ノルテ・イヴェールは、「戦いの中でも、音楽はともにある」と愛用のヴァイオリンを【gentian blue】の弓で勇ましい曲を奏で、アイドルたちを鼓舞している。
「花儀、俺の足引っ張らないでよ?」
町田花儀を信頼して背中を預けているくせに憎まれ口を叩くノルテに、花儀も黙ってはいない。
ノルテに襲い掛かった茨をモップで「うるぁっ!」と叩き落してから
「キミこそ足引っ張ってるんじゃないの」
と言い返す。
そんな花儀もノルテに背中を預け、心の奥底では信頼しているのだ。
その証拠に花儀はノルテの音楽に合わせて【≪星獣≫ピッコロフェニックス】に乗せた【≪星獣≫キュウ】を歌わせ、戦うアイドルたちを癒して応援いる。
こうして一行は、ついに茨の根元まで辿り着いた。