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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】突然の手紙(第1話/全4話)

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【伯爵令嬢アリスの憂鬱】突然の手紙(第1話/全4話)

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◆バラの妖精を元気に(3)

 美しい色合いのドレス【祝咲フルブルームシルキィ】を着た合歓季 風華は、落ち着いた物腰のアーヴェント・ゾネンウンターガングにエスコートされて、優雅な足取りでバラの妖精の前に立った。
 二人の姿はまるで、おとぎ話から抜け出してきたお姫様と、姫に仕える忠実な騎士のようだ。

 風華はスカートの端を上品に摘まみ、この上なく優美なカーテシーをする。
 葉月の肩の上のバラの妖精も、風華のカーテシーに釣られて思わず返礼をした。

「ヴェントさんと共に、解放と目覚めのライブを。【第222使徒ネムキエル】参ります」

 アーヴェントが落ちていた枝をスマートに拾って指揮棒代わりに構えると、風華がヴァイオリン【母なる絨花樹のフィーデル】をふわりと構える。
 タクトが振り下ろされ、風華は弦に置いた弓を滑らかに引いた。

 豊かな音色が【真夜中のトロイメライ】の夢想的な曲を織り成してゆく。
 旋律は穏やかに、迷い子を導くようにリフレインする。
 【母なる絨花樹のフィーデル】は風華の使徒ナンバーにより、木洩れ日のような光を周囲に降らせ、その光はゆっくり温かく辺りを照らす。

 風華が【母なる絨花樹のフィーデル】を肩から下ろし、清らかな声で歌いだした。
 そして【フロートアロマ】でバラの香りを辺りに漂わせる。

 美しき花に宿る者 
 香気は芳し 花弁は艶やか その花の名は薔薇

 十分にバラの香りが広がったら【ブレーメンの奇跡】でたくさんの楽器による演奏の演出を入れ、演奏の幅を広げる。
 鮮やかな演奏は、バラの妖精の心にも鮮やかに響く。

(この想いが届いてバラの妖精が目覚めれば、在りし日のように夢の薔薇は咲き誇るだろう)
 とアーヴェントは想いを込めて、歌声を風華の声に重ねる。

 気高き花に宿る者
 香気は芳し 花弁は艶やか その花の名は薔薇

 二人のまろやかに溶け合った美しい声が、フィナーレを高らかに歌い上げた。


 熱い演奏を聴いていたバラの妖精の、しおれていた背中の羽根がピンと張りを取り戻している。
 バラの妖精は生気を取り戻しかけていた。

 ***

 頬にバラ色が差すようになったバラの妖精の前に、満を持して登場したのは、リーザベル・シュトレーネ
 赤い薔薇がモチーフの豪華なドレスに身を包んだ、妖しい魅力溢れる吸血鬼だ。

「薔薇は素敵な花、廃れたままなど許せません。わたくしがやれるだけはやりましょう」

 いつものやる気の無さはどこへ行ったのか、ノーラ・レツェル
「ベルちゃんがこんなにやる気なの初めて見た……」
 と言わしめる程、今はやる気を漲らせているリーザベルだ。

 リーザベルは「薔薇は愛でて美しくなる。女性と同じです」という信念に基づいて、早速行動を開始した。

 バラの妖精に向かって【雄渾たる煽言】で語りかける。
「貴方は美しい。うちに籠るなんて、らしくないですわ」

 ノーラに【おもちゃの舞踏会】で歌ってもらい、それに合わせて【コウモリくん】とノーラから借りた【ホワイトチョコラビット】にもバラの妖精を讃えるダンスを踊ってもらっている。

「薔薇は一番愛された花。どうかせめて五十本の花を咲かせてくださいませんこと?」
 【甘美なるユーフォリア】で色気と共に幸せな幻視をさせる魔力を振り撒く。

「薔薇は本数ごとに花言葉も違いますのよ。五十本の薔薇の花言葉は……」
 その続きをリーザベルはバラの妖精の耳元に唇を寄せて囁いた。

「恒久」

 恒久――永久に変わらないことを意味する花言葉を知り、バラの妖精は自らの存在の意味を完全に思い出した。

 葉月の肩から飛びたち、掃除され整備された庭の上をひらりひらりと踊るように飛び回る。
 バラの妖精の羽ばたきから光の粒が零れ落ちると共に、残っていたバラの枝が目に見えて成長し、つぼみを付け、つぼみはすぐに膨らんで見事な花を咲かせる。

 バラの妖精は、咲く音が聞こえるかと思われるほど瑞々しいバラを次々と咲かせていった。
 見事に咲き誇るバラで一杯のバラ園を勢いよく復活させてゆく様子を、庭にいたアイドルたちは魂を抜かれたように眺めていたのだった。
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