【シアターオルト】食神都市オーサカ
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リアクション
【第二幕】おいしくな~れ!(6)
何でも小器用にこなす橘 樹だが、今回は演劇なので敢えて危なっかしく調理する演技をすることにした。
設定は「やる気だけはあるが料理の腕には不安がある男」。
美味しく作れた時の「達成感」を伝えるには、「苦労の末、成功した」的なストーリーがあった方がわかりやすい。
という訳で作る料理も王道のメニュー、ズバリ【鮭おにぎり】。
今回は鮭をドラゴンサーモンに置き換える。
「おじいさんのために頑張ろう! ええと、まずドラゴンサーモンの切り身を焼いて……」
調理台の前に立った樹は、早くも演技を始めている。
【薫香七輪】の木炭に火を点けようとして苦戦していたが、
「ひっ!」
うっかり火で手を火傷しそうになった演技をする。
本当はとっくに火が点いているのに、樹は細かい演技を入れる。
なんとか準備を整えて、ドラゴンサーモンを【薫香七輪】に乗せ、【オープングリル】で焼き上げた。
焼いたドラゴンサーモンをおにぎりの具にするために骨と皮を取ってほぐすのだが、これまた熱いとか皮が身からうまく剥がれないとか、すったもんだやってみせる。
ようやくおにぎりを握るところまで漕ぎつけた。
ご飯を手に取り、ほぐしたドラゴンサーモンを真ん中に入れて、ひとまず丸くまとめる。
「ご飯に塩を……」
手にしたのは、わかりやすく「さとう」と書いた容器。
「っと、危ない危ない!」
慌てて「しお」の容器に取り換えた。
もちろん演技だが、ここまで最大限に不器用さを表現してきたので、観客はいつしか樹を応援する気持ちになっている。
無事、丸めたご飯の表面に塩を振りかけることができ、ホッとして鼻歌交じりでしっかりとご飯を握る樹。
ぱっと手を開けると、そこには謎の形をしたおにぎりがいた。
これは……ナマコ?
「三角形って何だっけ……?」
しばらく考え込んでいた樹だが、素早く口にナマコ型おにぎりを放り込み、食べて消滅させた。
「もう一度挑戦!」
あざとく同じ手順で砂糖と塩を間違えかけてみせ、今度はきれいな三角形のおにぎりを作った。
基本、演技なので品質に影響がでるようなミスは絶対にしないのだ。
「できた! すごい、ちゃんとおにぎりだ!」
ハラハラして見守っていた観客から拍手が起こった。
おにぎり一つでここまで感動させる役者は、そうはいないだろう。
樹は拍手に照れたふりをしてから、残ったご飯を全部おにぎりにしてしまった。
その手つきは、中庸を極める樹らしく極めて普通だった。
***
樹とは対照的に、綺麗な形のおにぎりをハイスピードで量産しているのが天導寺 朱。
朱は、入学当初から好きな食べ物は鮭おにぎりだと明記している。
オーサカではおにぎりを極める為に頑張ってきているし、ドラゴンサーモンは鮭ではないけれども似たようなものだし、ここでドラゴンサーモンのおにぎりを作らない訳がないのだ。
朱は【薫香七輪】でドラゴンサーモンを焼いてから、【オルトシルフィード】に風の流れを作ってもらい、香ばしい香りを会場中に届ける。
それを嗅いだ観客のお腹がぐぅぅと鳴った。
ドラゴンサーモンが焼き上がるそばから、朱は骨が入らないように注意しつつ手早く身をほぐし、それをご飯の中心に入れて【お米マスタリー】でおにぎりを握っていく。
シュラインに来ている観客は多く、今回試食できる人数は限られている。
それでも朱は、できるだけ多くの人にドラゴンサーモンのおにぎりを食べてほしいと願う。
オーサカの食の使いを知ってもらうというのももちろんだが、単純に美味しいおにぎりを、ドラゴンサーモンの具で味わってもらいたいのだ。
朱は、ドラゴンサーモンを焼いてはほぐし、ほぐしてはおにぎりを握り、を繰り返している。
おにぎりを並べたフードバットは、見る間に一杯になっていく。
どんどん握っても、外はしっかり中はふっくらの品質は落とさない。大きさや形も均一。
「おにぎり職人の意地を見せてやるのぜ」
ご飯の熱で手が赤く腫れてしまうまで、朱はおにぎりを握り続けた。
***
樹と朱のご飯が全ておにぎりになったところで、司会者がマイクを持つ。
「さあ、それではドラゴンサーモンのおにぎりを試食していただきましょう! お手元のチケットが黄色の方、舞台の方へどうぞ!
それから天導寺朱さんが非常に頑張って予定より多くおにぎりを作ってくれましたので、最前列の方で何も試食していない方も、お越しください」
前から2列目の端っこの席で、小学生の子供たち数人のグループがうらやましそうに見ているのを発見した樹は、こっそり声を掛けた。
「そこの皆さんもよかったらどうぞ!」
喜々としておにぎりにかぶりつく子供たちを見て、樹は思った。
(これも王道だな……)
***
アイドルたちの調理が全て終わり、舞台に残って試食をしている人も少なくなってきた。
そこへ日下部 穂波が【イケてる輝き】で周りをキラキラさせながら元気よく登場した。
「みなさんこんにちはー! 料理の味はどうだったかなー!」
観客から「美味しかったー」、「もっと食べたーい」などの声が上がる。
「じゃあ、ちょっとみんなに聞いてみよう!」
一番近いところにいた観客に、穂波は【支給マイク】を向けて尋ねてみた。
「君は、なにを試食したの?」
「あ、僕は鮭とキャベツのミルフィ風を食べました。美味しかったです」
「それじゃあ、君! この料理の気に入ったところとか、良いところ。君の思うまま、答えてくれるかな?」
「えっと、そうですね……。ドラゴンサーモンの出汁が旨味たっぷりで、キャベツとの組み合わせが良くて、なんかすごく美味しかったです」
「ありがとう! とにかく美味しいことは、すごくよく分かるよ!」
会場に笑いが広がる。
穂波はこのように気さくな態度で料理の感想を聞いていった。
アイドルとして、また劇団の団長としてこれまで培った技能を活用し、観客の懐に飛び込む気持ちで次々と試食の感想を引き出していく。
ドラゴンサーモンの感動的なおいしさの影響もあり、マイクを向けられた観客は一生懸命ドラゴンサーモンの魅力を語った。
この穂波のインタビューのお陰で、全国のライブビューイングで見ている人たちにも、ドラゴンサーモンがいかに素晴らしい食材かということが、よりよく伝わったのだった。
何でも小器用にこなす橘 樹だが、今回は演劇なので敢えて危なっかしく調理する演技をすることにした。
設定は「やる気だけはあるが料理の腕には不安がある男」。
美味しく作れた時の「達成感」を伝えるには、「苦労の末、成功した」的なストーリーがあった方がわかりやすい。
という訳で作る料理も王道のメニュー、ズバリ【鮭おにぎり】。
今回は鮭をドラゴンサーモンに置き換える。
「おじいさんのために頑張ろう! ええと、まずドラゴンサーモンの切り身を焼いて……」
調理台の前に立った樹は、早くも演技を始めている。
【薫香七輪】の木炭に火を点けようとして苦戦していたが、
「ひっ!」
うっかり火で手を火傷しそうになった演技をする。
本当はとっくに火が点いているのに、樹は細かい演技を入れる。
なんとか準備を整えて、ドラゴンサーモンを【薫香七輪】に乗せ、【オープングリル】で焼き上げた。
焼いたドラゴンサーモンをおにぎりの具にするために骨と皮を取ってほぐすのだが、これまた熱いとか皮が身からうまく剥がれないとか、すったもんだやってみせる。
ようやくおにぎりを握るところまで漕ぎつけた。
ご飯を手に取り、ほぐしたドラゴンサーモンを真ん中に入れて、ひとまず丸くまとめる。
「ご飯に塩を……」
手にしたのは、わかりやすく「さとう」と書いた容器。
「っと、危ない危ない!」
慌てて「しお」の容器に取り換えた。
もちろん演技だが、ここまで最大限に不器用さを表現してきたので、観客はいつしか樹を応援する気持ちになっている。
無事、丸めたご飯の表面に塩を振りかけることができ、ホッとして鼻歌交じりでしっかりとご飯を握る樹。
ぱっと手を開けると、そこには謎の形をしたおにぎりがいた。
これは……ナマコ?
「三角形って何だっけ……?」
しばらく考え込んでいた樹だが、素早く口にナマコ型おにぎりを放り込み、食べて消滅させた。
「もう一度挑戦!」
あざとく同じ手順で砂糖と塩を間違えかけてみせ、今度はきれいな三角形のおにぎりを作った。
基本、演技なので品質に影響がでるようなミスは絶対にしないのだ。
「できた! すごい、ちゃんとおにぎりだ!」
ハラハラして見守っていた観客から拍手が起こった。
おにぎり一つでここまで感動させる役者は、そうはいないだろう。
樹は拍手に照れたふりをしてから、残ったご飯を全部おにぎりにしてしまった。
その手つきは、中庸を極める樹らしく極めて普通だった。
***
樹とは対照的に、綺麗な形のおにぎりをハイスピードで量産しているのが天導寺 朱。
朱は、入学当初から好きな食べ物は鮭おにぎりだと明記している。
オーサカではおにぎりを極める為に頑張ってきているし、ドラゴンサーモンは鮭ではないけれども似たようなものだし、ここでドラゴンサーモンのおにぎりを作らない訳がないのだ。
朱は【薫香七輪】でドラゴンサーモンを焼いてから、【オルトシルフィード】に風の流れを作ってもらい、香ばしい香りを会場中に届ける。
それを嗅いだ観客のお腹がぐぅぅと鳴った。
ドラゴンサーモンが焼き上がるそばから、朱は骨が入らないように注意しつつ手早く身をほぐし、それをご飯の中心に入れて【お米マスタリー】でおにぎりを握っていく。
シュラインに来ている観客は多く、今回試食できる人数は限られている。
それでも朱は、できるだけ多くの人にドラゴンサーモンのおにぎりを食べてほしいと願う。
オーサカの食の使いを知ってもらうというのももちろんだが、単純に美味しいおにぎりを、ドラゴンサーモンの具で味わってもらいたいのだ。
朱は、ドラゴンサーモンを焼いてはほぐし、ほぐしてはおにぎりを握り、を繰り返している。
おにぎりを並べたフードバットは、見る間に一杯になっていく。
どんどん握っても、外はしっかり中はふっくらの品質は落とさない。大きさや形も均一。
「おにぎり職人の意地を見せてやるのぜ」
ご飯の熱で手が赤く腫れてしまうまで、朱はおにぎりを握り続けた。
***
樹と朱のご飯が全ておにぎりになったところで、司会者がマイクを持つ。
「さあ、それではドラゴンサーモンのおにぎりを試食していただきましょう! お手元のチケットが黄色の方、舞台の方へどうぞ!
それから天導寺朱さんが非常に頑張って予定より多くおにぎりを作ってくれましたので、最前列の方で何も試食していない方も、お越しください」
前から2列目の端っこの席で、小学生の子供たち数人のグループがうらやましそうに見ているのを発見した樹は、こっそり声を掛けた。
「そこの皆さんもよかったらどうぞ!」
喜々としておにぎりにかぶりつく子供たちを見て、樹は思った。
(これも王道だな……)
***
アイドルたちの調理が全て終わり、舞台に残って試食をしている人も少なくなってきた。
そこへ日下部 穂波が【イケてる輝き】で周りをキラキラさせながら元気よく登場した。
「みなさんこんにちはー! 料理の味はどうだったかなー!」
観客から「美味しかったー」、「もっと食べたーい」などの声が上がる。
「じゃあ、ちょっとみんなに聞いてみよう!」
一番近いところにいた観客に、穂波は【支給マイク】を向けて尋ねてみた。
「君は、なにを試食したの?」
「あ、僕は鮭とキャベツのミルフィ風を食べました。美味しかったです」
「それじゃあ、君! この料理の気に入ったところとか、良いところ。君の思うまま、答えてくれるかな?」
「えっと、そうですね……。ドラゴンサーモンの出汁が旨味たっぷりで、キャベツとの組み合わせが良くて、なんかすごく美味しかったです」
「ありがとう! とにかく美味しいことは、すごくよく分かるよ!」
会場に笑いが広がる。
穂波はこのように気さくな態度で料理の感想を聞いていった。
アイドルとして、また劇団の団長としてこれまで培った技能を活用し、観客の懐に飛び込む気持ちで次々と試食の感想を引き出していく。
ドラゴンサーモンの感動的なおいしさの影響もあり、マイクを向けられた観客は一生懸命ドラゴンサーモンの魅力を語った。
この穂波のインタビューのお陰で、全国のライブビューイングで見ている人たちにも、ドラゴンサーモンがいかに素晴らしい食材かということが、よりよく伝わったのだった。


