【異世界カフェ・番外編】夏祭り 出張かふぇ
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◆ならず者がやって来た
出張かふぇの店先を掃除しながら、アカペラで【『ようこそカフェへ!』】を歌っているのは兎多園 詩籠だ。
詩籠は白地に朝顔の模様が付いた涼しげな浴衣を着て、夏祭りらしさに彩りを添えていた。
彼は、店先で待っている客に陽気に話しかけて浴衣を褒めたり、リクエストに応じて即興のラップを披露したりして、賑やかに接客している。
こうして出張かふぇの周りで男性が働いている姿をアピールして、悪意のある奴らを牽制しているのだった。
そんな詩籠の牽制をものともせずに、一目でそれと判る“ならず者”が一人、出張かふぇの客を装ってやって来た。
近づいてくる男に詩籠は友好的に挨拶をし、普通の客のように扱った。
そして注文を取るフリをして、うるさいぐらい雑談をしかけて男の気勢を削ぐことに努める。
ついに、男がキレた。
「るっせえんだよ!」
因縁を付けられたらこっちのもの。詩籠の策に嵌ったも同然だ。
「本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げて謝る詩籠は、顔を伏せて舌を出していた。
「あの、申し訳ありません。ごめんなさい。すみませんでした」
相手がうんざりするほど、詩籠は何度も何度もしつこく謝り続ける。
「お詫びに無料で飲み物をさあびすするのでご勘弁を」
そう言って、納得する寸前までもっていった直後、
「ダメなら後日お詫びに伺いますので」
と住所氏名を尋ねて、身元を知られたくない悪人にとっての嫌がらせをする。
【目覚めのクロスコード】の風格で決して卑屈に感じさせないので、この男は嵩にかかって罵倒することができないのだ。
しかも詩籠が首に下げている【【芸格】二ツ目】も見えるので、余計に調子が出せないでいる。
だんだん形勢が思わしくなくなってきた男が逃げ腰になってきた。
「今ここではお詫びのしようがありません。どうかどうかご住所とお名前を」
重ねて詩籠が詰め寄り、とうとう男は「うるせえ!」と捨て台詞を残して、逃げ帰ってしまった。
「お客様~!」
呼びかける詩籠の声に、含み笑いが混じっている。
「穏便に守る」という詩籠の目的は、こうして見事に達成されたのだった。
***
次にやってきたならず者は、先ほどの男よりも屈強な大男。
筋骨隆々の肉体は、腕力だけで出張かふぇを破壊できそうだ。
店の中からいち早くこの大男を発見した世良 延寿は、いつものエンジェルスマイルを浮かべて近付いた。
延寿に対して何の警戒もしていないこの男に、すれ違いざまにこっそり【仕込み毒針】を放って痺れ毒状態にした。
この大男が現れる直前、延寿は、藍と茜がみんなに頼ってばかりいて申し訳ないと思っていることを知って
「みんなフェスタの仲間なんだから、困ったときは遠慮なく頼っていいんだよ!」
と優しく励ましたところだった。
早速、自らの技が双子のために活かせて、嬉しさが胸に広がっていく。
痺れて動けなくなった大男に、延寿は自分の仕業だとバレないよう素知らぬ顔で言った。
「暑さで体調を崩したのかな……。それじゃ、こっちに来て、ゆっくり休んでね」
店の裏の休憩スペースに大男を搬送して、冷たくて美味しい飲み物を飲ませてやる。
延寿の優しさは、仲間だけに向けられるものではないのだ。
だんだん回復して、大男は表情を緩めた。
「せっかくのお祭りなんだから、みんなが嫌がるようなことはやめて、一緒に楽しもうよ。ねっ?」
とびっきりの笑顔に抵抗できる程の悪人はなかなかいない。
この大男もまた、延寿の笑顔に負けて、かふぇを妨害することなく引き上げていったのだった。
***
延寿の笑顔に懐柔された大男に代わってやって来たのは、この悪だくみの元締め、ならず者たちの頭領だ。
隙の無い身のこなしに冷酷な面構えを併せ持つ頭領は、さながらラスボスといったところだろう。
彼が現れただけで場の空気が凍り、出張かふぇの店内に居た藍と茜は緊張で身を縮めた。
店から少し離れた場所で、双子の様子を見守っていた月宮 紫音は異変に気付くとすぐに行動を開始した。
「お兄さん、ちょっと……」
後ろから声を掛けてきたチャイナ服の少女が、手練れの祟咬だなどと誰が予想するだろう。
やや警戒を緩めて「あぁ?」と振り返った頭領に、後ろ手に組んだ紫音は笑顔で身を預けるように倒れ込んだ。
これを受け止めるべきか退くべきか迷った一瞬の隙が、彼の命取りになった。
紫音は拳に【不浄ナル奔流】の重さを伴うほどに凝縮した黄泉の瘴気を乗せて、頭領の鳩尾に激流のように撃ち放った。
この一撃をまともに受けた頭領は、体勢を整えることもできずに怯む。
すかさず紫音は【禍心獣身】で黄泉の瘴気を四肢に滾らせ、【紫爪】を装着した両手で猛獣の如く連続攻撃を繰り出し、頭領が倒れるまでニコニコと笑顔で殴り続けた。
連続攻撃を受けた頭領は、反撃のチャンスもなく敢え無く倒れてしまった。
頭領が完全に倒れたのを確認した紫音は、彼を店の裏に引きずって持って行き、踏んでそのまま座って動きを封じたのだった。
ならず者の頭領を倒した今、今日のところはライバル店の嫌がらせはもうないと思っても良いだろう。
後は貴族の手下が来なければ、護衛のミッションは終了なのだが……。


