【異世界カフェ】ようこそ! もふもふカフェ・ミルクホール
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◆最後だからこそお手伝いしますよ!
料理が完成し、料理班のアイドルたちに休んでもらっている間、藍と茜は顔を洗ってカフェの開店準備にかかった。
これまでのカフェ開店に毎回協力してくれた三人のアイドルが、今日もスタッフとして手伝うと申し出てくれて、双子は感謝の気持ちで一杯だ。
「はーい! 今回もお手伝いに参りましたわ―!」
蔵樹院 紅玉が黒猫のびーすとになって、手を振る。
紅玉の隣で微笑みを浮かべているのは同じく黒猫の蔵樹院 蒼玉。
「ふふっ、毎度おなじみの双玉夜光のお手伝いですわぁ」
「……もはやお手伝いというより店員となっている気がしますが、それはそれ」
「茜さんや藍さんとも、それなりに長い付き合いになりましたわねぇ」
長い尻尾を動かしながら、紅玉と蒼玉の二人は感慨深そうだ。
「紅玉さん、蒼玉さん。これまで全部のカフェに協力してくれて、本当にありがとうございます!」
茜が深い感謝の気持ちを伝えると、藍がそれに続く。
「今日だってカフェでのんびりしてもらっても良かったのに、こうしてスタッフとして手伝ってくれるなんて、良い人過ぎますよお」
同じ色の蒼玉にむぎゅぅぅぅっと抱き着く藍である。
蒼玉は藍の親愛の深さに(主には抱きしめられた力の強さに)、息苦しいほどの嬉しさを感じながら
「まあ、雑用を中心に行う事で皆さんにカフェを楽しんでもらうと同時に、今のスタイルでの行動に慣れる事が私達の目的ですわぁ」
と、照れ隠しに言ってみる。
「そう、私たちはビーストラリアに来るのは初めてなので、今日はスタイルに慣れるという目的もありますわっ」
紅玉に言われて改めて少し離れた所から紅玉と蒼玉を見ると、猫耳も猫尻尾も動きがどこかぎこちない。
「変身してみましたのですけど……私達、まさかの黒猫ですわっ!」
「ふふっ……黒猫になるとは思いませんでしたが、私達のアイドルとしてのイメージからも助かりますわぁ」
双子の悪役令嬢風コンビとして奮闘している紅玉と蒼玉のイメージに、黒猫はなるほどピッタリだ。
かつて「葦原かふぇ」を開店した時、紅玉と蒼玉は藍と茜とお揃いの衣装になるよう、自分たちの大切なライブ衣装の予備を改造して貸してくれたことがあった。
この時は、猫耳を付けた蔵樹院姉妹と、猫耳はないけれど元々猫の妖である藍と茜、色違いの揃いの衣装を着た双子の美少女が二組という最強に可愛いスタッフになったのだった。
その時の付け耳の影響か、藍と茜と仲良しになった縁なのか、蔵樹院姉妹のびーすと姿は黒猫になった。
「……しかしなかなか……慣れれば身軽に動けそうで良いのですけど……今まで、耳や尻尾には縁がなかったのですよねぇ……」
蒼玉が自分の動く尻尾を見つめて呟く。
紅玉が気持ちを切り替えるようにパンッと手を打った。
「さあ、早速この姿に慣れるべく、行動を開始いたしましょう」
さっさと仕事を開始した紅玉に続いて蒼玉も、取り皿やコップをセットしたり、出来上がった料理を運んだり、忙しく立ち働き始めた。
美少女双子が二組という圧倒的な雰囲気に、やや押され気味に立っていたのは兎多園 詩籠だ。
紳士的に振る舞う詩籠は、双子同士の邂逅が終わるまでじっと黙って待っていたのだ。
というのも、カフェスタッフの仕事を始める前に、藍と茜にどうしても伝えたい事があったから。
「藍ちゃん、茜ちゃん」
シェトランドポニーのびーすとになった詩籠が二人に歩み寄る。
「前に僕の歌で喜んでくれたでしょ。ありがとう! 二人が喜んでくれたと知って、僕もとっても嬉しかったよ!」
「詩籠さん! あの時は私たちの歌を作ってくれて感激しました!」
「それに今までの全部のカフェに協力してくれて、今日もウエイターをやってくれるなんて、本当に感謝しています!
けど、いいんですか? のんびりしてくれてもいいんですよ?」
藍と茜が左右から詩籠の手を取って気持ちを伝える。
「いや、いつも沢山の人を楽しませようしてる藍ちゃん茜ちゃんの発想や行動力に、僕は尊敬しながら今まで協力してきたんだ。
だから今回も、いつもと同じように君たちの力になりたいと思ってるんだよ。貴重な経験を積めた事の恩返しだと思ってよ」
思いがけず褒められて、詩籠の優しさにも触れて、再び双子の目から涙が零れ落ちた。
女の子の涙に強い男はそういない。
詩籠は慌てて目を逸らした先に、自分のポニーの尻尾がある事に気が付いた。
「……尻尾、もふもふしてみる?」
もう十歳ぐらい齢を重ねたら、もっと気の利いた慰め方を習得しているかもしれない。
しかし十六歳の詩籠は、こう言うのが精一杯だった。
ポニーをイメージして、白シャツ以外はリボンタイ、ベスト、パンツ、シューズが茶褐色のウェイター姿の詩籠。
パンツの後ろから出した白い尻尾をふさふさと振ってみせる。
気を引くように魅力的に揺れるふさふさ尻尾に眼を奪われ、藍と茜の涙は引っ込んだ。
「尻尾はぎゅっと握ってはいけない」ことをもう知っている双子は、詩籠の尻尾にそっと手を伸ばす。
触れるか触れないかのところで、尻尾が急に大きく揺れ、ファサッと双子の手に当たった。
「「!!」」
驚いて手を引いたとたん笑いがこみ上げ、双子は声を立てて笑う。
(良かった……笑ってくれた)
藍と茜の笑い声に、テーブルを拭いていた紅玉と蒼玉もこちらを振り返って楽しそうに笑っている。
これまで胸にしまっていた想いを伝え、女の子たちを笑顔にして、詩籠はすっきりした気持ちで仕事に取り掛かった。
まずソファーを動かし、適当な通路を作って通りやすいようにした。
それから床を掃いて掃除し、ソファーに付いたホコリは粘着シートで丁寧に取る。
最後に、地球から持参した小さなホワイトボードに、セルフサービスの説明を書いてサイドテーブルの横に置いた。
こうしておけば、いちいち説明しなくてもわかってもらえるから、スタッフが少ない今回のような場合とても有用だ。
「詩籠さん、なかなかやりますわね」
などと紅玉に褒められながら、みんなで協力して準備を進めた。
のんびり楽しむのもいいが、こうして準備するのも楽しいとそれぞれが感じていた。