真夜中に出没する扉
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■扉の向こう(3)
千夏 水希は、目を覚ました。まず視界に入ってきたのは洋風の天井だった。なぜか見覚えがあるような気がした。そういえば横になっているこのソファの感触も、覚えがあるように感じる。
「ここは……?」
起き上がって判ったが、そこは広い洋室だった。カーテンが開いたままの大きな窓はまばゆい光が満ちており、外の景色がよく見えない。
部屋はたくさんの「もの」であふれかえっていた。壁に敷き詰められた本棚にはたくさんの本。中には鋼鉄の背表紙の本もある。杖、ハープやリュートの楽器、魔女のローブに謎の植物たち、魔具なのかガラクタなのか区別のつかない古びたアクセサリー、液体の入った試験管やランプ……
「あれは錬金術の道具? 意味不明の機械もたくさん! なんてカオス空間?」
水希の目は輝いている。なにもかもが己の趣向にぴったりハマっていた。
「そうだ。私、扉を開けたんだ」
私の妄想? 幻想? 魔術士の工房? なぜこんなに、懐かしいの?
突然背後から、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
*
振り返ると、室内には数人の人がいた。みな当たり前のようにその空間におり、息をして、話をして、動いている。
銀髪のメイドがそこにいる面々に、お茶の時間だと声をかけている。足元には、彼女のかわいがっているひよこがぴよぴよしている。少し距離をとった場所にいた金髪の女性が、水希に膝枕をしてと言ってきた。そんな突然も申し出も、不思議といやな感じがしない。ソファでは黒髪で赤目の男性が、鮮やかな緑の液体の入った試験管を揺らして遊んでいる。
まるで、いちまいの絵の中に飛び込んだような気分だった。
こんなに懐かしいのだから、楽しそうなのだから、暖かいのだからあそこにまざっていいじゃないかという気持ちと、扉の調査中なのだという冷静なきもちが、水希のなかで、せめぎあう。