プロローグ

　小さな街の闘技場は多くの民衆で埋め尽くされ、観客達は今か今かと祭りの開催を待ち侘びている。
　遠目に殷賑な光景を一瞥してフィアナ・リードは控室で待機しているアイドル達に向き直った。

「この度は急な申し出にも関わらず助力して頂き、感謝の念に堪えません」

　闘技会の取り止めも止むを得ない状況の中で不意に現れた救世主に深々と頭を下げた。
　彼等が居なければ折角集まってくれた民衆に中止を告げてがっかりさせていたことだろう。
　フィアナを騎士団長の座から引き摺り下ろす部下の策略、裏切り行為は事実だ。
　自身が疎まれ、騎士団員を御し切れず、騎士団長として至らなかった点をフィアナは素直に受け止めていた。
　しかしながら期待に満ちている民衆を落胆させたくは無い。
　この際騎士団長の席次、裏切り者への弾劾などはフィアナにとって二の次であり、全ての意識は闘技会の開催、成功に向かっている。

「もしかすると妨害工作はまだあるのかもしれません。皆様には特に、観客の安全を第一にどうかお願い致します」
　アイドル達は気合も十分に各々が頷き合い、フィアナの助けになると覚悟を決めた顔付でいる。
「では、私は開会の宣言に」

　再び頭を下げてからフィアナは控室を後にした。
　会場へと向かう道中湧き上がる様々な感情を心の奥底へ追いやり、ゆっくりと歩みを進めて闘技場のど真ん中へと躍り出る。

「うおおおおおおおおお！」

　姿を現した騎士団長を見て観客は一斉に沸き上がっる。
　軽く手を挙げて歓声に応えるとフィアナは大きく息を吸って堂々たる表情で会場全体を見渡した。

「皆様、長らくお待たせ致しました。これよりアロフィア騎士団主催の闘技会を開催します！」

　仰々しく手を振り翳し、指先で観客の視線をアイドルが立つステージへと誘導した。