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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

童話の世界へようこそ

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童話の世界へようこそ

リアクション

~プロローグ~
 
「だんだん霧が濃くなってきたよ……」

 天地 和は震える声で呟いた。
 山の中にそびえ立つ世界樹ユグドラシル──
 そこから少し離れた森の中に足を踏み入れた生徒たちは、視界の悪さに恐怖を感じていた。

「真っ白だ……」

 和の言葉に、睡蓮寺 小夜はごくりと唾を呑んだ。

(童話の世界かぁ……本当に入れるなら素敵な事だけど…
 とっても疲れて危ないらしいから、近づかない方が本当はいい、よね…?)
 
 自分は演技なんて出来ないし危ないのではないかと思っていた小夜だったが、実際やって来てしまった。
 
「え…もう霧がこんなに…? あ、えと…! こ、心の準備が…! こ、これからどうなっちゃうんだろう。本当にみんな行くの?」

 少々パニくりながら栗村 かたりに声をかける。
 
「ん? 楽しそうだよ? わたしは女の子だけどヘンゼル、さよちゃんはグレーテルちゃんになってお菓子の家を探そうね」

「え…ここって赤ずきんの世界じゃ…? 同じグリム童話だからOK…? OK、かな…? そ…そっかぁ」

 童話云々以前に、不安を拭いされない小夜。
 だが、かたりの笑顔に少しずつ緊張がほぐれていく。

「あ、うん…じゃあ、じゃあわたしがグレーテル、かな…? かたりちゃん…ヘンゼルちゃんについていくよ」

「うん! お願いね」

 ニコニコ顔のかたりに、精一杯の笑顔を向ける小夜。

「えっと…グレーテルは、泣いたふりをすれば、いいのかな…だ、大丈夫だよね…演技だから、危なくない、よね…?」

(うぅ…やっぱり怖い…え、演技どころじゃないよ…で、でも…迷惑はかけられない…
 一生懸命、かたりちゃんのやる事を手伝おう…)

 半泣き状態の小夜に反して、かたりは夢見心地で思いを語る。

「いつもグレーテルちゃんと食べてる素朴なクッキーを出すね。みんなで食べながら、色んなお話したいな♪」

 既に童話の世界へと思いを馳せるかたり。
 お菓子の家を見つけることを夢見ながら、自然と歌を口ずさんでいた。
 その楽しげなかたりの歌声を聴きながら、夢月 瑠衣は前を見据えて言った。

「霧の濃い森ねぇ…入るのを禁止されると興味が湧いてきちゃうね! 演技力も鍛えられるなんて、一石二鳥じゃないかな?」

「進む度にどんどん霧が濃くなっていく…少し怖いわね。こっちも歌を歌いましょう」

 夢月 瑠亜は、双子の妹の瑠衣に誘われ森にやってきたが、演技力の向上に関しては半信半疑だった。

「赤ずきんの世界って言ってたけど、私達に似ている姉妹の『しらゆきとべにばら』をやりたい!
 私はべにばらで、お姉ちゃんはしらゆきよ!」

「しらゆき……彼女は静かで大人しい少女なのよね……」

 瑠亜は瑠衣の提案を受け入れる。
 どこまでやれるかは分からないけど頑張ろう、と姉妹は目を見合わせて笑った。
 
 
 
「……童話の世界に入れるなんて、とっても素敵です。私は『不思議の国のアリス』に登場する『帽子屋』を演じたいです。
 好きな童話。好きなお茶会。演じれるのがとっても嬉しいです♪」

 筒見内 小明が満面の笑みで希望を語っているのに対し、ルカ・コトリャロフは不安そうな表情を浮かべていた。

「何となく面白そうなので森に入ってみましたが、本当に童話の世界へ入るんでしょうか? ……一体どうやって?」

「素敵で美味しいお茶会、ルカさんもぜひ参加してくださいね」

 小明が微笑みながら言うと、ルカも慌てて付け足した。

「あ、ルカもお茶と茶菓子を持参してきました。他の方のぶんもいくらかありますので、これも合わせて下さい」

「うわぁ♪ すごく美味しそうですね! ハイ! 一緒にお茶会を成功させましょう!」

「あ、でもお母さん役……」

「ん?」

 小首を傾げる小明に、ルカは首を横に振って「なんでもありません。楽しいお茶会にしましょうね」と言った。
 
「……ボクも、お菓子、もらえるの、かな?」

 小明とルカの様子を、陰からこっそり見ていた榊 捺がポツリと呟いた。

「いっぱい……食べたい」

 その横で、笠 早秋が常に持ち歩いているお菓子を取り出し、捺にそっと渡した。

「今はこれで我慢してください。童話の世界へ入ったらどうなるかは分かりませんが、きっと素敵なお菓子が待ってますよ」

「そう、かな」

 こっそりオオカミを希望して、脅せばお菓子が貰えるんじゃないかと捺は思っていた。
 ただ、アルビノで普通の人よりも小さい捺。周りからは可愛い子犬くらいにしか思われないのではないだろうか。
 返り討ちに合わないことを願うばかりである……。

(僕は、赤ずきんちゃんを見送るお母さん役になれますでしょうか?)

 早秋はぼんやり考えていた。
 赤ずきんのことが心配で後ろからこっそり着いていく、心配性のお母さん。

(でも配役はランダムに決まるとも言ってたし。僕はどんな役になるんでしょう?)

 早秋は隣でもぐもぐお菓子を食べている捺を見ながら、ほぉっと吐息を漏らした。
 
 
 
「──とうとう足を踏み入れてしまったか」

 サイバネティック 天河は霧ががってきた景色を見ながら言った。

「俺様は一体何の役になるんだろうか? 出来ればお婆さんの……そして……、おっといけない」

 天河は慌てて口を閉じた。

(これ以上口にしては面白みが無くなる。この先の展開……楽しみだぜ)

 ぐふふふふ…と笑う天河を、和が無表情で見つめていた。

(……何か良からぬことを考えている?)

 だが和はそれ以上、天河のことを考えるのをやめた。

「わたしは山で木を切って高級麻雀セットを作るの職人になるのだ!
 今日も斧をかついで山へ材料の木を探しに! でも、山には狼が出て危険だから、狼も倒さなくてはいけないのだ!」

 この霧の中にずっといたら自分がどうなってしまうのか。
 未知の世界で不安ではあるけれど、楽しみでもある。

(実はわたし、狩人がなんで狼と戦うのか知らないんだけど、たぶんそんな感じっぽいよね?)

 うんうんと自分自身を納得させる和。

「狩人は山の男だから、わたしも山の男らしく演技しないとね! 事あるごとに『えっほっほ!』って掛け声も忘れずにしなきゃ!」

 これから起こるであろうことを予測して、和は胸を高鳴らせるのだった。
 
 
 
「……ウサミが変装して赤ずきん」

 装備しているラビットパーカーを赤く染め、ウサミ 先輩は兎耳付き頭巾と言い張り、既に赤ずきんに扮していた。

(いや、違うな。この私こそ兎(ウサ)ずきん。真のアイドルの伝説はこの兎ずきんより始まるのだ!)

 ウサミは、原作通りにお婆さんを見舞いに行き、原作通りに話を進めようと思っていた。
 狼が襲い掛かってきたら満を持して、決め台詞と共に《パームカウンター》で迎撃し、
 カウンターに成功したら《手慣れたパンチ》で容赦なく追撃する。

「これぞウサミ神拳。私の邪魔をする狼は指先一つでダウンさ!」

 この決め台詞だけは言いたい……思わず笑みが漏れる。これからは、ヒロインも強くなくてはいけない。

(とりあえず襲ってくる相手とか邪魔する奴とか目の前に現れた奴は、全員狼認定してぶっとばす!)

 物騒なことを考えながら、ウサミは両腕をぶんぶん振り回して戦闘の準備を開始した。

「狼少女がいれば……その狼がガラスの靴ピッタリであれば、最後に狼を退場させるに良いと我は思う。
 そもそも銃殺とか溺死とかとんでもない」

 ウサミの横で、阿部 慎太郎は憤りを感じていた。
 
「我はシンデレラの王子の従者。赤ずきんやお婆さんなどの女性役に、とにかくガラスの靴を履かせようと挑戦したい。
 狼が天使のような美しい少女なら狼相手にもガラスの靴を履かせてみようではないか」

(そして可愛い狼を守ってみせる)

 設定は完璧。眼鏡やマントは必需品で、手にはガラスの靴を持っている。
 既に精神を乗っ取られる前に、自分から進んで童話の世界に飛び込んでいる慎太郎だった。
 
『かような霧深き森が我が王国にも存在していたとは盲点であった』

 最初の台詞はこれで行こう──慎太郎は眼鏡を持ち上げながら頷いた。

「うわぁ……」

 リーニャ・クラフレットが慎太郎を見ながら感嘆の声を漏らした。
 
「凄い……設定の準備が万端だ。天使らしくないって言われる理由は演技力のせいだと思うから鍛えに行こうとここまで来たけど、
 既に身も心も役に徹している。森の中は危険とか言ってる場合じゃない、私も頑張らなきゃ!」
 
 リーニャは固く心に誓った。

「小さいし、狼じゃなくて犬って思われるの悲しいからお婆さんたちを食べて強い狼ってことを証明するの!」

 どこまで狼の心情に近づけるか分からないけど、努力は身を結ぶはず──
 真っすぐ前を向くと、リーニャは早く童話の世界へ行きたいと思うのだった。
 
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