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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ヒートアップビギナー!

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【Chilled Stage】


「だから俺は――」
「それはそう言う事やないやろぉ!」
 橘 駿と村雲いろはの漫才は続けられている。場が冷めきっている事に気付いているのかいないのか。いや、表に立っている2人は絶対にこの場が冷めきっている事は分かっているだろう。ただ、その冷え切った場所をどうにかしないといけないという責任なのか、この――言ってしまえば面白くない――漫才を続けている。
 誰かが止めなければ2人はこの漫才を続けてしまうだろう。そう考えた何人かが動き始める。
 上手からうさぎの着ぐるみがゆっくりと近付き、下手からは弥久 風花がゆっくりと動きながらたまに止まって仁王立ちをして、人の目を一体何なのかと気付かせるようにして動く。
 うさぎの着ぐるみ――ウサミ 先輩はすっと上手の方を見て何か合図をすると、そこに突然BGMが会場内を包み込む。そして、その動きに合わせてウサミはビートフュージョンにてキレッキレの動きをしながら颯爽と2人の後ろまでやってくる。
 それを見ていた風花もこのタイミングを逃してはいけないと、手を振り上げながらすっと近づいていった。
「BGM……? これは一体……」
「ここでコントするとかないわ――」
 駿が何かを仕組んでいたと勘違いしたいろはは突っ込みをしようと片手を横に振るモーションに入る。そこに風花が間に入ると、突っ込みを2人にする。その叩いた音は会場に響くようにしてスパーン! と良い音がなる。それもまたBGMに沿うかのように、2人をリズミカルに1回ずつ叩いた。
 叩かれた事で後ろを振り向いた駿といろははそこで風花が居た事に気付く。そして、2人の前にウサミが滑り込むようにして出てくると会場の皆に可愛らしくも、流れているBGMに合う動きを見せている。
「2人とも何で……」
 そういう駿にウサミは客席側の方を見るように、という動きを見せる。そこでようやく我に返った2人は自分達がどれだけ会場を冷ややかにしてしまったのかに気付き、もう自分達じゃどうする事も出来ないと分かる。
「あはは……私の突っ込みも笑いには変えられなかったみたい」
 突っ込んだ事で多少何かを変えられればと思ったのだが、風花の突っ込みも会場の空気を変えるまでには至らなかったようだ。しかし、2人の行動によって観客が何か違う事が始まるのではないかという事には気付き始めているようだ。
 そして、ここからは2人の漫才ではないという事を分かってもらうためにウサミは駿、いろはの後ろへ回り込むと慰めるかのようにして2人の肩をぽんぽんと叩く。
 そこにタイミングを見計らったかのようにして、すすっと佐藤 七佳がステージへと出てきた。そして、大急ぎで漫才をしている時のセットを片付けていく。
 2人が使っていたマイクスタンド。漫才に合わせておいてあった小道具などなど。七佳自身は観客へ特にアピールをする事はないが、それがまた次の流れを作る為の布石へとなっていく。
「いやいや、それは雷が落ちそうだろう?」
 先程続けていた漫才に便乗するかのように、誰にも気付かれずに入ってきた阿部 慎太郎がそう2人へという。
 駿といろはが皆がステージに上がってくるまでしていた漫才の内容が「梅雨」というお題に入っており、そこから繋げるようにして慎太郎はボケを挟んで来たのだが、流石にこの場所で便乗をすると起きるのが冷え切っている観客たちの更なる冷え加減。それを加速するようにする。それは慎太郎が考えて事へと繋げる作戦でもあるのだ。
 そして風花とウサミは七佳のピカピカステージに便乗して、観客席側へと片付けが目立たない様に動いてくれている。そして、七佳は最後に――。
「……ん」
「どうしたん――」
「え? え? え!?」
「戻る、にゃ」
 駿といろはの襟首を七佳は掴むと、掃除をするかのようにして引っ張って袖へと引っ込ませていく。いきなり引っ張られた事で2人は困惑するが、この場所で自分達が今出来る事はないと分かり、素直に従って襟を掴まれたまま退場をしていく。これを合図として慎太郎も一緒に舞台袖へと一緒に付いていった。
 2人がいなくなった所でBGMも終わりが近付いてくる。ウサミと風花は観客席側へと頭を下げてお辞儀をすると、そのまま2人もステージから退場をしていった。
 そして、舞台袖へと戻った慎太郎はかけているメガネをくいっと中指で上げると、バッ! と手を挙げる。それに合わせてステージは真っ暗になり、中心へとスポットライトが当たる。これこそがこの場所の流れを変えるきっかけになればと、メガネを光らせながら「フッ」と慎太郎は笑う。
「まてぇぇぇい!」
 突然会場内へ響く声。そして、スポットライトが当たる場所へ突然現れたのはワイヤーアクションで搭乗したのはヒーロースーツを着たどこかのヒーローだった。
「この会場をこれ以上氷の世界へと追いやる怪人はどこへ行ったぁ!?」
 ヒーロー――涼音 蒼は左右へとポーズを取りながら敵を探すかのようなアクションをする。
「むっ! 向こうか!」
 着ているスーツに合わせた色のトゲトゲボールを取り出すと、それをただ投げるのではなく、ヒーローのようなカッコいい動きを加えながら振りかぶる。
「食らえ怪人! このステージの平和は俺が守る!」
 ボールを投げつける逆側を向いて、駿といろはがはけていった方向へと向きを変えると、腰につけていたピコピコハンマーを取り出すとそれを右手に持ち、ハンマーの逆につけていた紙ハリセンを左手で持つ。
「てやぁ! さあ、お前達もこれで終わりだ!」
 ピコピコハンマーとハリセンの乱舞を行いながら彼もまたステージ袖へと戻っていく。突然始まったヒーローショーに観客たちも驚きを隠せなかったが、その驚きで漫才の印象が薄れていったようにも見えた。
 そして、続いて会場内へと響いたのはノリの良い、こんな空気でなければ誰もが熱狂するであろう曲が始まる。そして、ステージからは炎が上がり会場はその熱気の赤へと明かりが広がる。
 ステージ中央へとライトがパッとつくと、そこへ立っていたのは自身のギター――雷を持った早乙女 モルルの姿。そして、自身の即興の楽曲「Dragon Breath」を歌い――いや、それは歌というよりもステージでも燃え滾っている炎のようなシャウト。歌詞という言葉は出てこない。その叫びはステージを熱くさせるそんな声。
 炎へ向けて送風機にて風が吹き、さらに燃え上がって行く。ライトは様々な色へと変わり、観客席側にもライトは向けられる。
「――――!!」
 モルルの言葉なき歌が観客を飲み込んでいくようにして、誰もが分かるかのように空気が変わりつつあるのが分かる。そして最後のシャウトの後に曲が終わると、客席から声が上がるのは分かる。しかし――冷え切った会場を完全に熱くするのには至らなかったようだ。ただ、モルルの演奏が変えたのは自身でも分かった。
 ここで一度ステージは暗転。一瞬の静寂が訪れる。しかし、これも先程の演奏で次に何をやるのか。どう楽しませてくれるのかという期待をここにきている観客の皆はし始めていた。
 上手の方へとライトが当たる。そこから出てきたのはバニーボーイ[褌]を着た清水谷 原三だった。腰には太刀を携えて、堂々とした歩みでステージの中心へと歩いていく。
「すぅ……」
 原三は息を思い切り吸い込む。そして――。
「ぬんっ!」
 自身の士道の知識。抜刀一閃での居合抜き。その迫力は凄まじい。そこから切り上げ、振り下ろし。横薙ぎ。侍としての力強さをアピールしていく。
「ちこくちこくー! なのー!」
 その時下手の方から声が聞こえて、そちらにもライトが向けられる。
 下手から片手にはフェイスパン。もう片手には丈夫なカバンを持った十和戌 光が走ってきた。しかし、光は原三が太刀にて圧倒するかの勢いで立ち回りをしているのを見ずに走っていく。
「きゃっ!」
「うお……!」
 そして、2人はぶつかってしまい、光は持っていたパンを落としてしまう。
「あたしのごはんが!?」
「お嬢さん、お怪我は――」
 落ちたパンを見ながら光は悲しそうな表情を浮かべる。それを助け起こそうと原三は手を差し伸べる――。
「パンが……パンが……。おじーちゃ…じゃなかった、みしらぬ人! たべもののうらみ! はたさせてもらうなのー!」
「――って殺気ッ!?」
 光はカバンの中に入っていた缶ジュースを手に取るとそれを原三に向けて投げつける。
 これは2人によって行われている演目だ。突然始まったかのように見えるが、元々こういう流れというのを2人で決めているので缶ジュースも実は中身が入っていないので、スタッフが云々という事は無い様にしてある。
 投げられた缶を原三は太刀で弾き返すが、それを牽制として光は大きくジャンプをして原三へとキックを繰り出す。それをどうにか原三はバックステップをして距離を開けることで避けた。
「なかなかやりおるの」
「それだけたべもののうらみはおおきなものなの!」
 大きく動きをつけて戦う――殺陣を2人で観客へと見せつける。その戦いは一進一退の攻防を繰り広げ、見ている者達を魅了させ、熱くさせていく。
 そして、一足一刀の間合いへとじりじり近づいていき、勝負が決まるかと思った時。
「ハッ! こんなことしてるばーいじゃないなの!」
 光の大きな声が会場へと響く。
「ど、どうしたのじゃ?」
「ちこく! ちこくなのー!」
 そう、光は学校に行こうとしていた――という設定――のだ。
「お急ぎかのう? ならばワシに乗っていくといいのじゃよ」
 そう言って原三が手を出すと、それに光は笑顔で握りしめる。そして、光は原三へおんぶされると、そのまま2人でステージから去っていった。
 続けてアップテンポのBGMが鳴り始める。そこへ音楽に乗って大きな動きをしつつも、ファイアボールを上手く扱いつつ鈴木 太郎が出てくる。
 ライトは消えファイアボールだけの明かりの中に浮かぶ太郎の姿。そして、服は着ているが趣味の筋トレで鍛え抜かれたその肉体はそれだけで分かるほどだった。
 観客の中の女性もそうだが、男性の中でもそういった良い筋肉だという事で盛り上がっている人もいる。
 太郎はただ動きをつけて自身を魅せるだけではない。そこに即興で入れ込んだ、軽い身のこなしも加えていく。
 そして、ファイアボールを手に取ると指先も使って巧みにボールを操りジャグリングをしていく。そして、最後に――。
「よっと!」
 大きく上に投げるとその明かりだけで見えていた太郎の姿は消え、ボールが落ちてくるその下には永見 音萌香かりゆし くるるの2人がマイクスタンドの前に立っていた。
 先程までの太郎の演技とこれから行われる事の違いによって観客の期待は大きくなる。
 スポットライトが2人へと当たると――。
「みーんなー! ねっもねっもりーん☆」
 音萌香がそう言うと、ありすぎるギャップに観客は声を出せずにいた。そこへ出囃子がなると、今度は再び漫才が始まる事に気付く。
「「どうもー!ふたり合わせて、みんなくるくる、みんくる☆」」
「ねもりんでーす!」
「くるるんでーす!」
 そう言って音萌香とくるるは手を挙げる。
 しかし、最初に駿といろはがやっていた漫才があそこまで酷かった為に、これから2人で行おうとしている漫才の反応がどうなるかは未知数だ。ただ、ここまでで会場を温めてくれた人達がいる。それに加えて、自分達もこれ以上に熱くさせなくてはならない、という意気込みがあった。
「いやー、最近わたし、ヒップホップダンスが出来るようになったにゃよ」
 そう音萌香がくるるへとそういう。
「熱くッ、なるんやぁぁぁッ!」
「ホップ!」
 くるるの言葉を聞いていないのか音萌香はそのままダンスを始めてしまう。
「よしッ! ネタの前に熱い感じの言葉で気分をあっためてくでぇッ! まずは私からッ――」
「ステップ!」
 タンタンタンと音萌香はステップを踏んでいく。ここまで来るとくるるの言葉が聞こえていないのは分かるが、これもネタなのだと観客の人達は分かっていない。ただ、それにくるるも気付いていないようにも見える。
「って、私からって言ったやないかっ! なんでやねぇぇんッ!」
 と持っているハリセンを使って景気よく叩こうとしたが、大きく空振りをしてしまう。
「ジャーンプ!」
 空振りの理由は音萌香がハイジャンプをしたせいでその場にいなかったからのようだ。それを見て観客たちも笑ってくれている。
「なんッ……やてッ……!」
 くるるの大きなリアクションに大きな笑いが起こる。ただ、ネタではなく、くるるは空振りをしたことに普通に驚いていたというのは秘密だ。
「いやぁ、避けるなんて流石やね! ほな始めましょか!」
「ステッ――」
「お、ステーキ! じゅわじゅわするでぇぇ!」
「アンドターン!」
「タン! タンもええね! 塩に柑橘系! あとわさびもええなッ!」
 くるるは親指と人差し指でL字を作るとそれを音萌香へと向ける。ただし、音萌香は今までたた踊っているだけである。
「キック!」
「おぉ…確かにつけすぎるとキいて――」
「ハイジャンプ!」
「食べ方になっとるやないかぁぁいッ!」
 と、同時にくるるもハイジャンプをしてハリセンを振る。また空振りかと思いきや、会場にはスパーン! という言い音が鳴り響く。
「アイタッ!」
(あ、当たった……!)
 くるるは当たった事に驚く。そして、突っ込みによってダンスから引き戻された音萌香。何だかんだでここまで漫才になっていたという事実に気付いたのは音萌香とくるるだけ。
 そして、漫才を最後まで続けて締めに2人でデュエットを行う。
 舞台袖では漫才をしていた駿といろはがその様子を見ていた。ここまで会場を盛り上げてくれた人達のお陰でここまで取り戻す事は出来たが、やはり自分達が場を盛り上げられなかった事がやはり気になっている。
「どうしたんだ? ここで終わりか?」
 そこへ岩倉 竜未が近付いてくる。
「ここでもう1回漫才しないか? 今度は俺も交えてトリオでさ」
「三人寄れば……という事か」
「それと、突っ込みは俺がやるよ」
 その言葉に駿といろはは少し驚くが、ここは竜未の意見を取り入れてみる事にする。もちろんそれは、自分達の漫才ではダメだったという事があるからだ。
 こうして、竜未を入れた3人で音萌香とくるるが退場したステージへと上がって行く。
 竜未から言われたのは一言だけ。先ほどの漫才をしてくれればいい。後は自分がどうにか持っていくという事だった。
 そうなればと先程途中までやっていたネタを2人は始める。そして――。
「ボケる前に突っ込んだら突っ込みじゃないだろ!」
 と、キレキレ突っ込みを竜未が行う。
 そう、駿といろはが行っていたのは客観的に見れば互いがボケの立場で行っている事なのだ。ここでしっかりとした突っ込み役――竜未を入れる事できちんとした漫才を成立させる事が出来る。
「いやぁ、盛り上がってるやないの!」
 そこへ乱入してきたのは本場の関西人である五条 克也
「その突っ込み最高や! でもな、ボケがまだまだ甘いなぁ」
 人差し指を立てて「チッチッチ」と克也が駿といろはへと向ける。
「ボケというのはなぁ……こういうものを言うんや!」
 そう言って始めた克也のギャグは親父ギャグと言われるもの。しかも克也の口からはそういった親父ギャグがいくつも出てくる。それにステージにいた3人も驚くくらいだ。しかし、それが受けているかと言えば――。
「くっ! この自分のボケが通じひんとは……!」
 そう言って克也は膝をつく。
「ボケというか親父ギャグを連発しているだけで、漫才になってないじゃないか!」
 竜未によって克也に行われる突っ込みで止まった時間が笑いによって動き始める。
「き、今日はこのくらいにしといたるわ!」
「また親父ギャグを連発しに来るつもりかっ」
「ほな、またな!」
 そう言って克也は用意していたビニールシートを敷くと、そこにミネラルウォーターを撒いてそこを滑りながらステージからはけていった。
 皆のお陰でここまで観客の熱気も盛り返してきた。しかし、ここまでヒートアップしたフェスは終わらない。
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