アイドル田舎探訪~今晩泊めてください!~
リアクション公開中!

リアクション
~廃墟へGO!~
「家主が亡くなったなら取り壊してしまえば野生動物の害も減るはずなのに、十年近くも放置……。何かあるのかもね」
千夏 水希は独り言のように呟いた。
(何人住んでたかとか、家具や部屋の種類から家族構成とか、村の人に聞くのが一番かもだけどそこはロケだから? 謎解きが終わっちゃったら大した集客も期待できないかな?)
第二班ということで集合もお昼過ぎの出発となり余裕が出来ている。
長い時間バスに揺られて到着したこの村は、もう日が暮れかかっていた。
村長によって案内された屋敷は、かなり大きかった。
廃墟だけあって様々な箇所が壊れたり崩れかけたりしている。
(何故廃墟になっても放置されているのか、野生動物が住み着いてる理由や、幽霊屋敷になってる理由……この家の主について調べれば何かわかるかもしれない)
一つ紐解けば、推測を重ねつつ屋敷の中を歩けば、見えてくるものもある。
「まずは書斎を探してみよっか。探すべきものは、日記の類や原稿とか積み上げられてる本にざっと目を通してみるのもいいかな」
水希は周りの様子をうかがった。
ふと、村長にくってかかっているサイバネティック 天河が目に入ってきた。
「ここに来る前に村人に宿泊断られた! サイボーグっぽい人は泊められないとか言いやがる!」
「ははぁ、それは口実で知らない人を泊めるのはやはり躊躇してしまうからじゃないですかね」
「それならそう言ってくれれば良いだろう!」
「それは私に言われましても……」
「何を騒いでいるんだ?」
水希が声をかけると、聞いてくれよ!と天河が泣きついてきた。
声をかけるんじゃなかったと一瞬で後悔する水希だったが。
「ん?」
気付けば、天河のサイバーメイクの発光塗料に多数の虫が群がっていた。
そのあまりにもおぞましい光景に水希は驚愕する。
普段では決して出さないような声を出して、水希一目散に逃げ去った。
「蚊が! ちくしょう!」
自分が傍から見たらどんな状況か知る由も無い天河は、バタバタと腕を振り回し、必死に蚊と格闘を続けた。
屋敷の中に足を踏み入れると、天地 和が早速とばかりにスタッフに声をかけてきた。
「麻雀のジャラジャラする音は、中国では魔除けになるらしいのね。つまり……麻雀やってから寝ればお化け屋敷でも怖くない!」
妙に自信満々に和は答える。
「だから麻雀大会やるぞー! って……えっ、やる人いない? 中国では麻雀やるとお化け退治できるのに!?」
和はあたふたと周囲を見回した。
「スタッフさーん、一緒にいかがー?」
本当は高いとこの埃もハイジャンプではたいて、朝から真面目に部屋の片づけをして麻雀スペースを確保しようと思っていた。
しかし、時間帯をずらされて掃除も出来ない思わぬ事態に陥っている。
それでも麻雀のために必死に声をかける和だったが。
「えっ、お仕事中だからダメ!? そんな仕事中毒みたいな事言わないでさあさあ!」
いやぁ、ちょっと……と引き気味にスタッフは断ってくる。
その時。
「あ!」
目の前を華麗に通りすぎようとしていた筒見内 小明を捕まえて、和は必死に勧誘した。
「あかりん! 一緒に麻雀しない?」
「あか……あかりん?」
突然の声掛けやお誘いに目をぱちくりさせる小明。
「あ、あの、すみません和さん。動物さんを見つけたいので麻雀は……」
「ちぇ~そっかぁ、残念。じゃあまた今度ね!」
「はい、誘って下さってありがとうございます!」
突然あかりんと呼ばれたことにドキドキしながらも、小明はしっかりと前を向いて奥へと進んでいった。
「動物さんは日本家屋に住んでおられる先客さんですし、先ずはご挨拶から始めなきゃです。田舎の動物さんと話すのは初めてですが、心が通じれば、きっと対話出来ると思うんです」
小明はとりあえず鼠の鳴き声を真似て対話を試みてみた。
「チューチュー(訳:こんにちわ)」
「…………」
鼠の気配は感じられない……。
「村の皆さんは駆除の方向だと思いますが、動物さんも暮らしやすいお家で暮らしたいと思うんです。なので、『野生動物さんが暮らしているお家』という方向性で宣伝してみたら、この家も保存してくれるんじゃないでしょうか?」
怖さよりも動物の住処を奪うことに悲しさを覚える小明。
「私がお手伝いさせて頂いている介護施設でもアニマルセラピーを取り入れていて、動物さんと関わるというのはとてもリラックス効果が高くて、番組を見ている方にも興味を持ってもらえると思うんです」
カメラマンがいつの間にか、そんな強い意志を持つ小明にカメラを向けていた。
「自然だけでなく、野生動物とも関われる氷ノ川村……これでPR出来れば……」
とりあえず鼠の鳴き真似を繰り返しながら、廃墟をぐるぐる探検していく小明だった。
「ふむ。立派な旧い日本家屋か。ただ取材するのでは面白くない、驚かせて話題のスポットにしよう」
屋敷を眺めながら、ユーリ・ノアールが含む笑いを浮かべると、とアーヴェント・ゾネンウンターガングもニヤリと笑った。
「お化け屋敷……楽しそうだ。だが全ての魅力を伝えるために、もう一工夫必要か?」
ユーリとアーヴェントが密談を交わす。
「そうだな、素材、雰囲気は良いのだし、もう一つ手を加えようか」
顎に手を当てながら、考える仕草をユーリはした。
「うーん、俺は刀と紅演舞着を装備してフェイクブラッドを使い、血だらけの亡霊となる。これで他の取材に来たアイドルを脅かせば想定外の事態に演技ではない絵が撮れるのではないか?」
良いアイデアが浮かんだのか、ユーリが途端に饒舌になっていく。
「低い唸り声を上げて殺陣の動きを活かしてよりリアルに近づけば暗い場所ならバレはしないと思うが、必要以上に怯えさせたら血が滴ったままに『ドッキリ企画でした!』と」
「面白そうだな、廃墟に来た者を驚かせて、村の魅力を絶対に伝えて見せよう!」
アーヴェントは拳を前に出した。
それに合わせて同じようにユーリも拳を突き出す。
「サポートは俺にまかせてくれ、ユーリ! ドッキリ企画、さあ行ってみよう!」
拳を合わせて成功を誓いあった。
「じゃあアーヴェント、まずはこの血を思いっきりオレにかけてくれ」
「わかった、ではこれをだばっと……あ、すまない。」
「やりすぎだ。目が開けられん」
「だ、大丈夫か?」
「なんとかな。さてと、アイドルはどこにいるのか……」
動き始めたユーリを追って、いつの間にか自分に向けられていたテレビに対して、アーヴェント真正面から向かい合った。
アーヴェントは咳ばらいをすると、ナレーションを開始する。
ナレーションと言うよりは実況中継だ。
『えーっと……ここは氷ノ川村の外れにある古い日本家屋、一部のネット界隈ではお化け屋敷として密かな人気を誇っている場所らし……場所だ、じゃなくてです!
アーヴェントは額に汗を滲ませながら話し続ける。
『では早速、アイドル候補生達へドッキリを仕掛けていきます! ではなく行きましょう!』
(う……、こんなことするの初めてなんだ。だが番組はここから、素人魂魅せてやる!)
『そ、それで、気になるその内容は……』
しどろもどろになりながらも必死に続けるアーヴェント。
後日、映像を見た視聴者はその雄姿に涙を誘った。
……ぺちっ! ……ぺちっ!
「深夜の日本家屋にラップ音?」
天河は顔を上げて周囲を確認する。なんの変化もない。
周りには何人かの人がいる。だがこの音は誰も気づいていない。一体どういうことなんだ?
怖い…怖すぎる……
(あれ? む、尿意が……)
天河はトイレに向かって歩き出した。
「……こっそりここのトイレ借りよう。うぉ、汲み取り式か」
ドアが半壊しているそこは、特有の臭いを放っていた。
あまりの臭いにトイレを全開にし、さてどうしようかと悩む天河。
「村長の家に戻るのも面倒だし、ここで用を足させてもらうか……って、でっかいカマドウマ!」
視線を外すことが出来ず、しばらく見ていると──目があった。
「こっち来るなよ、来るなよ…来る…く…」
「うひゃ!」
よけようとするが体制を崩し、トイレに片足が落下しかけたその時。
「あぶないっ!!」
さっきの失態を謝ろうと戻ってきた水希が引っ張り起こしてくれた。
「大丈夫か?」
「た、助かった。ありがとう」
慌てて片足を便器の中に落とすところだった。こんな所に落ちてしまっては、臭いが取れるのに何日かかるか…
天河はぞっとした。
ぞっとはしたが尿意は消えない。
天河は今度は藪に向かってチャックを下げた。背に腹は代えられない。こんな所で用を足す俺様を許してくれ。
「ん? この気配……覗き? って猪!?」
ズボン半脱ぎ状態で【ブロッキング】を発動させる。
「待て! ズボンぐらい上げさせ…あっー!」」
猪にパンツ脱がされている様を、小明がじっと眺めていた。
そして。
「動物さん、みつけました~」
満面の笑みで駆け寄ってくる。
「え、ちょっ……! こっちに来ないで!」
「? 何を言ってるんですか? そばにいかなきゃ動物さんと話せませんよ」
「おれ、俺様の格好を見て分からないのか! パンツが……! パン……、脱げ、るっ!!」
「あ、え? あぁ、それは大変です! 『キュッ、グゥ(訳:その下着を離してあげてはくれませんか?)』
「…………」
『グゥゥ、キュウゥ(訳:お願いです。それはきっと美味しくありませんよ?)』
小明が何度が猪の鳴き真似をしていると、猪がくわえていた天河の下着をそっと離した。
そして暗い闇の中へと静かに消えていく。
「ふぅ。なんとかわかってもらえたようです」
「な、なんだかよく分からないが助かったよ……ありがとう」
下着半落ち状態で小明に礼を告げる天河を、アーヴェントはどうしたら良いものやらと見つめていた。
ユーリは隣で刀と紅演舞着を装備してフェイクブラッドを使い、血だらけの亡霊となっている。
だがそれよりも今の光景の方が驚きだ。
『こ、これはどういうことでしょう? 今目の前でパンツを半分下げた天河と、それを微笑んでみている小明がいます。自分はこれをどうお伝えすればよいのでしょうか?』
「……え、ん?? う、うわっ、録るなー!!」
天河はぴょんぴょんと飛び跳ねながらパンツを上げつつその場から逃げ去っていった。
「本当に一体何が起きていたんだろうな、ユーリ?」
「さぁなぁ……というかアイドルはどこだ? 人がいないのだが。これじゃ亡霊に扮装した俺の立場が……ん?」
気付くと、水希と小明がじっとユーリを見つめている。
「あ、えっと……」
狼狽するユーリを、アーヴェントは固唾をのんで見守る。
「……あぁ、なーんだ、驚いた。お化けに変身していたのか」
「血が出てますけど偽物ですよね? 大丈夫ですか?」
怖がりもせず水希と小明に真面目に返されて、ユーリは顔が熱くなった。
(は、恥ずかしい。こんなに一生懸命化けたって言うのに!)
「ユ、ユーリ……大丈夫か?」
今回はユーリのサポートをしようと意気込んでいたが、これを助けるすべは自分には無い。
(すまない、ユーリ)
心の中で謝罪して、アーヴェントはユーリの背中を二人に気付かれないよう、優しくさすった。
「みんなー、ちょっと来てほしいんだけどー!」
和が大きな声でみんなを呼んだ。
「なんだ? 麻雀ならやらないぞー」
書斎で探し物をしている最中に勧誘されて一度断っていた水希は、苦笑交じりに返事をする。
「自分も無理だ! 今回はドッキリ企画を成功させるために力を尽くして──」
アーヴェントも他のメンバーも麻雀不参加を唱えながら向かう。
探索班全員が和のもとに集まると、和は目の前にある日本家屋らしからぬ扉の前で待っていた。
「え? なんだこれ??」
水希が素っ頓狂な声をあげた。
「この奥に部屋があるのか?」
ユーリが訝し気に呟く。身体はいまだ亡霊に変身したままだ。
「動物さんが中で寝ているのかもしれないです」
小明が楽しそうに言った。
「いや、うん……そうだったら良いんだけど、なんか不気味でさ。開けられなかったんだよね」
そういう和の後ろでカメラマンが扉を映していた。
中に一体何があるんだろう。
「だ、誰が開ける?」
和が皆を見回すと、アーヴェントと目が合った。
(げふっ!?)
逃れられないと判断したアーヴェントは、トラブルが起きたら、フェスタ流護身術で魅せるように急いでキンコンダッシュで飛び出しルミマルブザーとピコピコハンマーで場を収めようと誓った。
(視聴者には、トラブルだとは悟らせないように意識しなくては)
自分の身の危険よりも視聴者を思うプロ意識。
緊張で手先が冷たくなる。
重い鉄の扉を力の限り押し開いた。
湿気た空気が部屋の中からあふれ出てくる。
「うわっ、くっさ……」
アーヴェントが鼻をつまむのと同時に、ユーリも顔をしかめた。
「動物さ~ん、出てきてくださ~い!」
一人だけ恐怖を感じていない小明は、天然さを発揮して部屋の中を覗き込んだ。
真っ暗だが広い部屋。
カメラマンが付属のライトを照らすと──
さすがの小明もその光景に絶句した。
大きな部屋の壁という壁に、日本人形がびっしりと飾られている。
その目玉が、一斉にこちらに向いた。
「ひっ……!」
和が思わず悲鳴をこぼした。
それを最後に、そこにいる全員の意識が、飛んだ……
「家主が亡くなったなら取り壊してしまえば野生動物の害も減るはずなのに、十年近くも放置……。何かあるのかもね」
千夏 水希は独り言のように呟いた。
(何人住んでたかとか、家具や部屋の種類から家族構成とか、村の人に聞くのが一番かもだけどそこはロケだから? 謎解きが終わっちゃったら大した集客も期待できないかな?)
第二班ということで集合もお昼過ぎの出発となり余裕が出来ている。
長い時間バスに揺られて到着したこの村は、もう日が暮れかかっていた。
村長によって案内された屋敷は、かなり大きかった。
廃墟だけあって様々な箇所が壊れたり崩れかけたりしている。
(何故廃墟になっても放置されているのか、野生動物が住み着いてる理由や、幽霊屋敷になってる理由……この家の主について調べれば何かわかるかもしれない)
一つ紐解けば、推測を重ねつつ屋敷の中を歩けば、見えてくるものもある。
「まずは書斎を探してみよっか。探すべきものは、日記の類や原稿とか積み上げられてる本にざっと目を通してみるのもいいかな」
水希は周りの様子をうかがった。
ふと、村長にくってかかっているサイバネティック 天河が目に入ってきた。
「ここに来る前に村人に宿泊断られた! サイボーグっぽい人は泊められないとか言いやがる!」
「ははぁ、それは口実で知らない人を泊めるのはやはり躊躇してしまうからじゃないですかね」
「それならそう言ってくれれば良いだろう!」
「それは私に言われましても……」
「何を騒いでいるんだ?」
水希が声をかけると、聞いてくれよ!と天河が泣きついてきた。
声をかけるんじゃなかったと一瞬で後悔する水希だったが。
「ん?」
気付けば、天河のサイバーメイクの発光塗料に多数の虫が群がっていた。
そのあまりにもおぞましい光景に水希は驚愕する。
「ひぃいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
普段では決して出さないような声を出して、水希一目散に逃げ去った。
「蚊が! ちくしょう!」
自分が傍から見たらどんな状況か知る由も無い天河は、バタバタと腕を振り回し、必死に蚊と格闘を続けた。
屋敷の中に足を踏み入れると、天地 和が早速とばかりにスタッフに声をかけてきた。
「麻雀のジャラジャラする音は、中国では魔除けになるらしいのね。つまり……麻雀やってから寝ればお化け屋敷でも怖くない!」
妙に自信満々に和は答える。
「だから麻雀大会やるぞー! って……えっ、やる人いない? 中国では麻雀やるとお化け退治できるのに!?」
和はあたふたと周囲を見回した。
「スタッフさーん、一緒にいかがー?」
本当は高いとこの埃もハイジャンプではたいて、朝から真面目に部屋の片づけをして麻雀スペースを確保しようと思っていた。
しかし、時間帯をずらされて掃除も出来ない思わぬ事態に陥っている。
それでも麻雀のために必死に声をかける和だったが。
「えっ、お仕事中だからダメ!? そんな仕事中毒みたいな事言わないでさあさあ!」
いやぁ、ちょっと……と引き気味にスタッフは断ってくる。
その時。
「あ!」
目の前を華麗に通りすぎようとしていた筒見内 小明を捕まえて、和は必死に勧誘した。
「あかりん! 一緒に麻雀しない?」
「あか……あかりん?」
突然の声掛けやお誘いに目をぱちくりさせる小明。
「あ、あの、すみません和さん。動物さんを見つけたいので麻雀は……」
「ちぇ~そっかぁ、残念。じゃあまた今度ね!」
「はい、誘って下さってありがとうございます!」
突然あかりんと呼ばれたことにドキドキしながらも、小明はしっかりと前を向いて奥へと進んでいった。
「動物さんは日本家屋に住んでおられる先客さんですし、先ずはご挨拶から始めなきゃです。田舎の動物さんと話すのは初めてですが、心が通じれば、きっと対話出来ると思うんです」
小明はとりあえず鼠の鳴き声を真似て対話を試みてみた。
「チューチュー(訳:こんにちわ)」
「…………」
鼠の気配は感じられない……。
「村の皆さんは駆除の方向だと思いますが、動物さんも暮らしやすいお家で暮らしたいと思うんです。なので、『野生動物さんが暮らしているお家』という方向性で宣伝してみたら、この家も保存してくれるんじゃないでしょうか?」
怖さよりも動物の住処を奪うことに悲しさを覚える小明。
「私がお手伝いさせて頂いている介護施設でもアニマルセラピーを取り入れていて、動物さんと関わるというのはとてもリラックス効果が高くて、番組を見ている方にも興味を持ってもらえると思うんです」
カメラマンがいつの間にか、そんな強い意志を持つ小明にカメラを向けていた。
「自然だけでなく、野生動物とも関われる氷ノ川村……これでPR出来れば……」
とりあえず鼠の鳴き真似を繰り返しながら、廃墟をぐるぐる探検していく小明だった。
「ふむ。立派な旧い日本家屋か。ただ取材するのでは面白くない、驚かせて話題のスポットにしよう」
屋敷を眺めながら、ユーリ・ノアールが含む笑いを浮かべると、とアーヴェント・ゾネンウンターガングもニヤリと笑った。
「お化け屋敷……楽しそうだ。だが全ての魅力を伝えるために、もう一工夫必要か?」
ユーリとアーヴェントが密談を交わす。
「そうだな、素材、雰囲気は良いのだし、もう一つ手を加えようか」
顎に手を当てながら、考える仕草をユーリはした。
「うーん、俺は刀と紅演舞着を装備してフェイクブラッドを使い、血だらけの亡霊となる。これで他の取材に来たアイドルを脅かせば想定外の事態に演技ではない絵が撮れるのではないか?」
良いアイデアが浮かんだのか、ユーリが途端に饒舌になっていく。
「低い唸り声を上げて殺陣の動きを活かしてよりリアルに近づけば暗い場所ならバレはしないと思うが、必要以上に怯えさせたら血が滴ったままに『ドッキリ企画でした!』と」
「面白そうだな、廃墟に来た者を驚かせて、村の魅力を絶対に伝えて見せよう!」
アーヴェントは拳を前に出した。
それに合わせて同じようにユーリも拳を突き出す。
「サポートは俺にまかせてくれ、ユーリ! ドッキリ企画、さあ行ってみよう!」
拳を合わせて成功を誓いあった。
「じゃあアーヴェント、まずはこの血を思いっきりオレにかけてくれ」
「わかった、ではこれをだばっと……あ、すまない。」
「やりすぎだ。目が開けられん」
「だ、大丈夫か?」
「なんとかな。さてと、アイドルはどこにいるのか……」
動き始めたユーリを追って、いつの間にか自分に向けられていたテレビに対して、アーヴェント真正面から向かい合った。
アーヴェントは咳ばらいをすると、ナレーションを開始する。
ナレーションと言うよりは実況中継だ。
『えーっと……ここは氷ノ川村の外れにある古い日本家屋、一部のネット界隈ではお化け屋敷として密かな人気を誇っている場所らし……場所だ、じゃなくてです!
アーヴェントは額に汗を滲ませながら話し続ける。
『では早速、アイドル候補生達へドッキリを仕掛けていきます! ではなく行きましょう!』
(う……、こんなことするの初めてなんだ。だが番組はここから、素人魂魅せてやる!)
『そ、それで、気になるその内容は……』
しどろもどろになりながらも必死に続けるアーヴェント。
後日、映像を見た視聴者はその雄姿に涙を誘った。
……ぺちっ! ……ぺちっ!
「深夜の日本家屋にラップ音?」
天河は顔を上げて周囲を確認する。なんの変化もない。
周りには何人かの人がいる。だがこの音は誰も気づいていない。一体どういうことなんだ?
怖い…怖すぎる……
(あれ? む、尿意が……)
天河はトイレに向かって歩き出した。
「……こっそりここのトイレ借りよう。うぉ、汲み取り式か」
ドアが半壊しているそこは、特有の臭いを放っていた。
あまりの臭いにトイレを全開にし、さてどうしようかと悩む天河。
「村長の家に戻るのも面倒だし、ここで用を足させてもらうか……って、でっかいカマドウマ!」
視線を外すことが出来ず、しばらく見ていると──目があった。
「こっち来るなよ、来るなよ…来る…く…」
ビョーン!
「うひゃ!」
よけようとするが体制を崩し、トイレに片足が落下しかけたその時。
「あぶないっ!!」
さっきの失態を謝ろうと戻ってきた水希が引っ張り起こしてくれた。
「大丈夫か?」
「た、助かった。ありがとう」
慌てて片足を便器の中に落とすところだった。こんな所に落ちてしまっては、臭いが取れるのに何日かかるか…
天河はぞっとした。
ぞっとはしたが尿意は消えない。
天河は今度は藪に向かってチャックを下げた。背に腹は代えられない。こんな所で用を足す俺様を許してくれ。
「ん? この気配……覗き? って猪!?」
ズボン半脱ぎ状態で【ブロッキング】を発動させる。
「待て! ズボンぐらい上げさせ…あっー!」」
猪にパンツ脱がされている様を、小明がじっと眺めていた。
そして。
「動物さん、みつけました~」
満面の笑みで駆け寄ってくる。
「え、ちょっ……! こっちに来ないで!」
「? 何を言ってるんですか? そばにいかなきゃ動物さんと話せませんよ」
「おれ、俺様の格好を見て分からないのか! パンツが……! パン……、脱げ、るっ!!」
「あ、え? あぁ、それは大変です! 『キュッ、グゥ(訳:その下着を離してあげてはくれませんか?)』
「…………」
『グゥゥ、キュウゥ(訳:お願いです。それはきっと美味しくありませんよ?)』
小明が何度が猪の鳴き真似をしていると、猪がくわえていた天河の下着をそっと離した。
そして暗い闇の中へと静かに消えていく。
「ふぅ。なんとかわかってもらえたようです」
「な、なんだかよく分からないが助かったよ……ありがとう」
下着半落ち状態で小明に礼を告げる天河を、アーヴェントはどうしたら良いものやらと見つめていた。
ユーリは隣で刀と紅演舞着を装備してフェイクブラッドを使い、血だらけの亡霊となっている。
だがそれよりも今の光景の方が驚きだ。
『こ、これはどういうことでしょう? 今目の前でパンツを半分下げた天河と、それを微笑んでみている小明がいます。自分はこれをどうお伝えすればよいのでしょうか?』
「……え、ん?? う、うわっ、録るなー!!」
天河はぴょんぴょんと飛び跳ねながらパンツを上げつつその場から逃げ去っていった。
「本当に一体何が起きていたんだろうな、ユーリ?」
「さぁなぁ……というかアイドルはどこだ? 人がいないのだが。これじゃ亡霊に扮装した俺の立場が……ん?」
気付くと、水希と小明がじっとユーリを見つめている。
「あ、えっと……」
狼狽するユーリを、アーヴェントは固唾をのんで見守る。
「……あぁ、なーんだ、驚いた。お化けに変身していたのか」
「血が出てますけど偽物ですよね? 大丈夫ですか?」
怖がりもせず水希と小明に真面目に返されて、ユーリは顔が熱くなった。
(は、恥ずかしい。こんなに一生懸命化けたって言うのに!)
「ユ、ユーリ……大丈夫か?」
今回はユーリのサポートをしようと意気込んでいたが、これを助けるすべは自分には無い。
(すまない、ユーリ)
心の中で謝罪して、アーヴェントはユーリの背中を二人に気付かれないよう、優しくさすった。
「みんなー、ちょっと来てほしいんだけどー!」
和が大きな声でみんなを呼んだ。
「なんだ? 麻雀ならやらないぞー」
書斎で探し物をしている最中に勧誘されて一度断っていた水希は、苦笑交じりに返事をする。
「自分も無理だ! 今回はドッキリ企画を成功させるために力を尽くして──」
アーヴェントも他のメンバーも麻雀不参加を唱えながら向かう。
探索班全員が和のもとに集まると、和は目の前にある日本家屋らしからぬ扉の前で待っていた。
「え? なんだこれ??」
水希が素っ頓狂な声をあげた。
「この奥に部屋があるのか?」
ユーリが訝し気に呟く。身体はいまだ亡霊に変身したままだ。
「動物さんが中で寝ているのかもしれないです」
小明が楽しそうに言った。
「いや、うん……そうだったら良いんだけど、なんか不気味でさ。開けられなかったんだよね」
そういう和の後ろでカメラマンが扉を映していた。
中に一体何があるんだろう。
「だ、誰が開ける?」
和が皆を見回すと、アーヴェントと目が合った。
(げふっ!?)
逃れられないと判断したアーヴェントは、トラブルが起きたら、フェスタ流護身術で魅せるように急いでキンコンダッシュで飛び出しルミマルブザーとピコピコハンマーで場を収めようと誓った。
(視聴者には、トラブルだとは悟らせないように意識しなくては)
自分の身の危険よりも視聴者を思うプロ意識。
緊張で手先が冷たくなる。
重い鉄の扉を力の限り押し開いた。
湿気た空気が部屋の中からあふれ出てくる。
「うわっ、くっさ……」
アーヴェントが鼻をつまむのと同時に、ユーリも顔をしかめた。
「動物さ~ん、出てきてくださ~い!」
一人だけ恐怖を感じていない小明は、天然さを発揮して部屋の中を覗き込んだ。
真っ暗だが広い部屋。
カメラマンが付属のライトを照らすと──
さすがの小明もその光景に絶句した。
大きな部屋の壁という壁に、日本人形がびっしりと飾られている。
その目玉が、一斉にこちらに向いた。
「ひっ……!」
和が思わず悲鳴をこぼした。
それを最後に、そこにいる全員の意識が、飛んだ……


