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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

ヒロイックソングス・レジェンド!

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ヒロイックソングス・レジェンド!

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■3-1.閃く希望

 ノイズと闇に満ちた会場。そこで最期の――終焉のラスト・ヒロイック・ソングスが開幕しようとしていた。闇は一層の濃さを増し、その不安を形にしたかのように、会場には不気味な鎖がまとわりつく。

「昏い絶望よりも輝かしい希望がある」

 満ちたノイズはアンラの前で巨大な人型を形作り、そこから飛び出すようにうねる触手がモニターの先に居るであろう観客を舐め上げるように踊った。

「これは……私の演出じゃない!」

 アンラの声が響くと同時、会場にはいつの間にか、小型の人形型マイク――天導寺 紅の憑依するレゾナンスドールを侍らせた天導寺 朱が、堂々とした佇まいで降り立っていた。

「……俺達アイドルが皆の未来を照らし出してみせる!」

 高らかな宣言とともにきらめく光。レイ・アルパによって引かれたレールを奔るようにして放たれた光芒が不穏の巨人を引き裂いた。

 ――そして、あたしはそんな朱が全力で照らし出せるようにするだけなのよ……!

 朱の動きに合わせ、紅はユニゾンの深度を下げていく。それが深くなるにつれ朱もまた自分の世界へ入り込んでいく。未来へ立ち込める闇を払うが如く、鋭い振りつけでステップを踏んだ。

 ――パワーが足りない!? もっとあたしが力を振り絞って……!

 紅から放たれるハルモニアの光、数々のドローンから放たれるレーザービーム。それが朱のダンスと共鳴し合うことでより大きな光となって会場の闇を照らし出す。

「それでも世界は終わるのよ! いくら光で照らし出そうが、その先に見えるのは単なる荒野ってわけ!」

 しかし朱の演出に乗るようにして、アンラもまた対抗する。どこまでも続く“闇”に包まれていた会場は、そのノイズによって暗く陰鬱で荒れ果てたかのような幻を見せていた。

「荒れ果てた荒野? そんなの関係ない……俺たちはそんな場所でもアイドルなのぜ!」

 朱は毅然と立ち向かう。紅の嘆きを聞いてなお彼は笑い、強大な滅びへと立ち向かう。

 ――そうだ、朱だって集中してるんだ。だからあたしも焦らずにできることをやる……!

 堂々たる挑戦者に対し真っ向からそれを受け止めるアンラ。三人は世界の終末を賭けた最後のライブ、その口火を切ったのだった。

 暗黒の大地を思わせるステージに、新たに勇壮な音が響き渡った。それは多くの人々が知る国民的なロールプレイングゲーム……世界を闇に包んだ悪の魔王に立ち向かう勇者のテーマソングだ。

「そう。いつだって世界の危機は勇気ある者が救ってきた! だから私も仲間とともに立ち向かうよ!」

 老若男女に知られるこの歌とともに、クロティア・ライハナレッジ・ディア、そして村雲 いろはが姿を現した。

 そして、彼女たちの仲間は更にもうひとり。

「行こう……プライ!」

 クロティアはゲーム機の中に眠るもうひとりの自分――プライの力を引き出した。

「さあ、みんなに笑顔を届けましょう!」

「ゲーマーたちの絶望ぐらいだったら……私達で払ってやる!」

 彼女たちの言葉とともに光のステージがせり上がり荒れ果てた大地を彩っていく。ドローンから放たれる光が空を舞い、踊りながら触れる彼女たちの手により荘厳な音楽により鮮やかな音が付け足されていく。

――すごいノイズですね……でも、なんとか持たせなくちゃ……!

 後ろで控えるナレッジは逐一踊りと周囲の様子を見てはドローンの位置を調整する。一層白熱していく踊りをよそに、ぽつりぽつりと光が浮かび上がった。これをモニター越しに眺める観客達の心にもとうとう、火が灯りだしたのだろう。

「勇者のもたらす希望の光なんて押しつぶしてあげるわ!」

 相手がゲーム音楽であるのなら――それをアレンジして“ラスボス風”にアレンジしてしまおうと、アンラは指を振るって弦をかき鳴らし、威圧的なコーラスを開始した。

 反転攻勢、絶望感を煽るような音楽へと乗っ取られていく恐怖。それでも希望は無くなってなんかいない。勇者が何度でも立ち上がるように、絶望の闇の中でも光は輝くものだ。

「天より堕ちし堕天使カイト。皆の絶望を、消してしまいましょう」

 絶望に絶望を重ねるような冷たい殺気。カイト・クラフレットの放つそれはその場に居るもの、そして観客たちにそら恐ろしい血の幻覚を見せる。それは絶望に華を添えるものであったが、しかし同時に反撃の合図でもある。

 辺りを包む不安、恐怖――それらがカイトの身体に集まっていき、そして氷の結晶となって散っていく。氷粒は荒れ果てた大地を装飾するように光を反射し煌めいた。

「! けど、依然として闇は私のもとにあるわ!」

「本当に? 上を見上げてみればいいのでは」

 カイトの言葉に思わず上を向いたアンラは、もうひとつの影を捉えた。

「天より落ちし天使リーニャ! 皆が絶望から抜け出せるようなライブを!」

 空から舞い降りるかのように登場したリーニャ・クラフレットと共に、ライブ会場に多くのアンサンブルたちが飛び散った。彼女たちが紡ぐのは“キラメキイリュージョン”。この日のために書き上げたリーニャの歌だ。

『ほら見て!世界はこんなに輝いてるの!』

『ずっと、暗闇の中にいたら…素敵なことにも、気づけなくなっちゃいますよ』

 リーニャが両手を振り上げると、アンサンブルたちの演奏とともに闇を吹き抜け、キラキラと輝く風船たちやまるで星のような輝きが降り落ちる。

 アンサンブルたちと共に歌も盛り上がりを迎え、リーニャたちは満面の笑みを浮かべながらアンラへと手を伸ばす。

『『ほら、この手を取って! 一緒にライブをしよう!』』

 無邪気な手。嫌味もない善意の手。アンラはそれを見て頭を抑えると、

「――――断るわ。私、そういう気分ではないの」

 目をしかめ、大きく息を吐いて。ゆっくりと力強く否定した。

「まだ想いは通じませんか」

「ノイズがジャマをしてるのかも! まずはこの暗いのをもっと明るくしたほうがいいのかな?」

「ならば、まず状況を対等に持っていく必要がありますねぇ」

「……校長!」

 この一件を見過ごすことのできなかった木 馬太郎。そして、彼に背中を押されるようにしてDEMがステージへと足を踏み入れた。

「DEM!」

 忌々しいと思う気持ちを隠さずにアンラが声を荒げると、DEMはどこか揺れる瞳を彼女へ向ける。視線が交錯しぶつかりあい、アンラが拳を握りしめた瞬間、闇の帳に不安の鎖が絡みついた。

「……また、想定していない演出ね!」

 アンラの言葉と共に放たれたノイズ。だが、白刃と炎雷が閃き鎖ごとノイズを弾き飛ばす。

「さあ、お前らの不安も怒りもなにもかも!」

「皆の想い、武の極地にて受け止めよう」

 そう言ってステージへ乱入してきたのは堀田 小十郎睡蓮寺 陽介の二人だ。邪な炎にも負けぬ勢いで炎を放つ陽介と、その一つひとつを切り裂き花の如く散らせていく小十郎。

 それを彩るのは、鳥の星獣による美しいさえずりと、静かに響く歌。睡蓮寺 小夜による優しい歌声があたりにシンと染み込むように響き渡る。

 打ち合わせ済みだったのか、馬太郎はいつものような笑みを浮かべてDEMの肩を叩いてみせる。小夜が微笑めば、DEMも揺れる瞳を落ち着けるようにして小夜の横へと立った。

 この場を支配しているのは依然としてアンラだ。だが、彼女たちの様子は端的に言って嫌な予感をアンラに懐かせていた。

「何を……ッ!」

 介入の方法を思案する一瞬の隙。小夜たちが歌を再開するのと同時、小十郎の鋭い眼光が世界を射抜く。

「世界は闇に非ず。この一刀で道を繋ごう」

 薄明と名付けられた刃が一閃されれば、音を立てて闇が“引き裂かれて”いく。白紙の世界、闇も荒れ果てた幻もすべてを消し去った。

「そうだ。世界はまだ絶望になんて染まっちゃいねえ! 必要なのは、闇の只中で踏み出すたった一歩。その一歩で、世界は闇以外の色が生まれるもんだ!」

 陽介の言葉に応えるように、小夜は楽器を取り出した。世界樹から切り出された一本のギター、その弦を爪弾く度に世界に花が咲いていく。

 背後ではそのギターの大本となった世界樹――校長も感動に打ち震えオタ芸の如き奇妙なステップを踏んでいたが、彼がコーラスのように歌声を響かせるたび、こころなし、花も一層力強く咲き誇るようにみえた。

 ――どんな絶望でも、皆の心に消えぬ幻想(ユメ)が咲けば……。

 小夜の願いに応えるかのように、色とりどりの“光の花”が咲き乱れる。何度闇に呑まれようとそれを押し返した朱やクロティア、カイト……彼らの不屈のウタが、この白紙の世界で実を結ぶ。

「熱い、熱いぜ……なあ、そうだろうアンラ! おめえも熱い感情があるんだろう!」

「知ったことじゃあないわ! 私は――この世界を滅ぼすと決めたのだから!」

 色とりどりの光の花は白紙の世界を飾る。いつの間にかアンラの手の中に生まれた“爆弾”を、気づかず、彼女は陽介へと投げつけていた。

「――君の想い、確かに受け取った」

 そして、小十郎は一太刀で爆弾を切り裂いた。

 まばゆいばかりの光とともに白紙の世界は終わる。しかし、明らかに闇は薄れ邪炎の勢いもまた弱まっていたのは誰の目にも明らかであった。絶望を雪がれたことで、会場も本来の姿を取り戻し始めていた。

「想いを繋ぎ人々の行く先を照らす光、それがアイドル! この子たちが居る限り、世界は終わったりはしませんとも!」

 興奮した様子で熱の籠もった声をあげる校長。明るさを取り戻しつつある会場の中で、殊更彼の笑顔は艶めいて見える。

「そうだ! なめんじゃねえよ、人はそんなに……弱くなんかねえ!」

 力強く校長の言葉に賛同する叫び。春夏秋冬 遥の一喝が響き渡った。勢いよくステージへ飛び出した彼女は、手を振り上げて観客たちへと迸る熱情をぶつけた。

「示せ! 自分たちの気概を
 退けろ! アンラの絶望を」

 彼女はまだ鍛錬中の身。このライブで自分は未熟な方だと自覚していた。だがそれでも、観客たちの心はこの押し付けられた絶望をはねのけるだけの力があると、そう信じていた。

「そして、信じろよ。……自分自身を!」

 だから彼女は最後に彼女は満面の笑みを浮かべ、

「生きようぜ……みんなで」

 カメラに向けて、否、観客たちに向けて投げキッスを送り激励した。しかしまだまだ恥ずかしいのか急いで舞台袖へと捌けていく。次のアイドルにステージを託し、舞台裏からハイタッチの甲高い音が響き渡った。

「そうだ、俺たちで絶望に立ち向かおうッ!」

 そして、この波に乗って畳み掛けんと更なる声が会場を揺らす。恐ろしい獣の幻や闇に潜む幽体が大地から噴出するかのように現れ、同時に、ユニット【ドライ・リヒト】のエンブレムを見せつけるように大きな旗が打ち立てられてたなびくように風に揺れた。

「希望とは未来にあるのさ。だから、俺達と共に未来に歩み、希望を掴み取ろう!」

 人々の注目が集まる中現れたのは龍崎 宗麟を筆頭とした三人。色造 空狩屋 恋歌の二人が見守る中、宗麟は闇晴れた空へ向けて腕を振り上げ、手に持った扇を投げ上げる。

「絶望という名の困難を乗り越えた先に『有る』のは……」

 宗麟の身体から放出された熱波を纏った鳳凰が獣や幽体を吹き飛ばすかのようにして空へと目指して駆け抜けていく。

「仲間の存在だ。共に歩む仲間達に『有り難う』!」

 宙空で太陽の如き輝きを放つ扇に食らいつくようにして飛び上がった宗麟を契機に、残った二人もまた演奏を開始する。

 恋歌の指揮するアンサンブルたちが楽しげに演奏を始めるとあたりに草花が芽吹き、穏やかな情景が広がっていく。

「そう、ウタとは……いや、ライブとは、皆で創っていくもの。だからこそ、皆も我輩たちに協力してほしい」

 モニターに映る世界中の人々に呼びかけてから、空は手に持ったペンを奔らせる。イドラの状況、アンラの態度、観客達の感情――それらも考慮して最高のステージを仕上げることが役目だと彼は感じていた。調和を目指し、イドラの炎を庭園のような風景になじませるように、更に鮮やかな花々を重ねていく。

 驚くべきは演奏と演出を踊りながらこなしていること。希望のために全身を使って踊る彼の姿は、非常に生き生きとしたものだ。彼らが一丸となって立ち向かうから、彼が孤独ではないからこそ生きる芸当である。

『Shine of ALL 独りじゃないから
 進もう 行こう 夢と あの夜を越えて
 進もう 描こう キミと あの未来(さき)を越えて』

 それは恋歌の紡ぐ歌の通りで、仲間や誰かと共にあることで前へと進むということだ。そして、かつてのヒロイックソングス――あの伝説を超えるという挑戦に胸を震わせ、このステージを楽しんでいた。

 恋歌がカメラへ向かって手を伸ばせば、空の描く虹の橋が伸びていく。三人が目を合わせると宗麟がふわりと天に向けて飛び上がった。

 引っ張り上げられるかのように、恋歌たちも浮き上がる。宗麟によって重力という鎖から解き放たれた三人は、笑みを浮かべながら虹の橋へと手をかける。

「さあ、みんな一緒に!」

 色とりどりの光で表現されたその橋の上を恋歌たちが歩むことで、イドラの炎を覆い隠すように人々へ届けられ観客たちに笑顔が浮かぶ。

「観客達が一体感を取り戻しつつある」

 それはつまり人々の心に再び希望の光が灯り始めたということである。すべてを絶望に落とし込むことを目的としたアンラにとっては忌々しいことだ。

「想定より力が出ない……歯車が狂いだしたということかしら」

 人々の心が繋がることでアイドルたちはこれからますます力を増していくことだろう……そう思わせるだけの力がアイドルたちにはあった。

 だがそれでもアンラに焦りはなかった。まったくなかったといえば嘘にはなるが、それ以上に胸の奥では高揚が湧き上がっていたのだった。

「アンラ・マンユ。お前の心に希望はあるか?」

 唐突な言葉とともにステージへと乱入した死 雲人。その腕が振り下ろされると、辺りから演奏が鳴り響き、彼の率いるアンサンブルの楽団が辺りを盛り上げ始めた。

「俺にはある。それは……大切な人間への、愛だ」

「……はぁ?」

 雲人の唐突な言葉に面食らうアンラであったが、男はマイペースに両手を広げ、モニターに向かって振り向いた。

「これは、彩とイドラの女王に捧ぐ歌。――観客共、俺に力を貸せ。お前たちの心も一緒に伝えよう!」

 高らかな宣言と共に雲人は愛を込めた熱情を歌い上げる。彼のスタンスはいつだって変わらない。そのブレることのないパフォーマンスと想いの熱量に呑まれた観客達も、二人への愛をエールとして送っていた。

 雲人を追うカメラもステージの奥で出番を控える彩に視点を変え、満更でもない笑みで恥ずかしげに投げキッスをカメラへ送る姿を捉えたことで、観客と雲人の熱狂は一層高まっていく。

 ――ライブの演出だから彩も乗ってあげてるけど……いや、演出よね?

 イドラの女王の戸惑いも裏腹に、会場の空気は一層の熱気と希望に溢れるのだった。
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