共奏のオルトアース~ファイナルステージ~
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■4-3.そして、空に願いを
『……そんな、嘘よ! この、このわたくしが!』
スターフォールの中心。追い詰められた玲花は空へと吼える。その歌声はハコダテ全体へと響き渡ったが、力の源となっていた爪や翼はもう無い。その上、星獣たちもまた正気を取り戻したことで彼女はまさに“すべて”を喪ったと言えた。
「僕たちはひとりぼっちなんかじゃない――そう言ったはずだよ、玲花。みんなの心とウタが、君というトップアイドルを追い落とした」
はくまはこのハコダテで沸き起こる暖かな空気を確かに感じ取っていた。自然に滲むその笑みをかき消そうと玲花は顔を覆い隠す。
『戯言を! 最高のアイドルとは常に一人、絶対的な力で君臨するもの……だから、わたくしはこうやってここまで……!』
最後に残った角が抵抗を示して光を放つ。そのまばゆさはすべてを薙ぎ払う力であると同時に、見るものすべてを眩ませる力を持つ。星獣もなにもかも平等に魅了するのは、彼女の実力が確かである証拠だ。
だが。
「今のあれを見ても歪むだけだ。……ひょうじゅう、霞ませて」
それが仲間たちに届く前、麦倉 淳とその相棒、ひょうじゅうによる涼しい霧があたりを包み込む。光の威力を減衰することはできないものの、それでも、魅了の力を減じさせるには十分だ。
「まことおにーさん、ありがとうなの! ……星獣さんたちを痛めつけた悪い人は、わたしがやっつけるの!」
その援護を受けて飛び出したのは栗村 かたり。瞳に怒りを湛えた彼女は、相棒たるそうせきと共に闇を駆けた。そうせきの首から吹き出た炎は一振りの剣となり玲花を切り裂き、とうとうその痛みに彼女は絶叫する。耳をつんざく音と共に、最後の足掻きとも言える光が一面に吐き出された。
「痛むだろう、玲花。だが、もう少し私達に付き合ってもらう……!」
「そういうことだ。誰もお前の手で傷つけさせはしねえよ!」
そのラストダンス。それに立ちふさがったのは堀田 小十郎と睡蓮寺 陽介の二人だった。
陽介は虚空に魔法陣を描く。あたりへ撒き散らされようとしていた玲花の光は、陽介の描く魔法陣へ吸い込まれた。
「……今がチャンス……!」
切り札すら受け止められた玲花の無防備な身体へ更なる追撃を加えようと手を振り上げるかたり。しかし、
「もういい、栗村! 後は俺たちに任せろ!」
「!? 邪魔しないで……っ」
玲花の懐深くへ潜り込もうとしたところで、陽介の作り出した落とし穴で姿勢を崩すかたり。その頭上を、窮鼠猫を噛む――というには強すぎる光線が過ぎ去っていく。
「っ……。かたり、陽介の言う通りだ。おまえがやられたら、さよちゃんも、一番星の星獣だって悲しむよ」
口惜しそうに陽介を見つめるかたりであったが、淳と、そして、
「ごめんなさい、かたりちゃん。どうしても、伝えたいことがあるの」
睡蓮寺 小夜が、星々の光を放ちながら陽介たちの背後から現れる。彼女の姿を見てかたりは押し黙るように、否、見守るようにして後ろへ下がる。
『あなたがわたくしに、何を伝えると……!?』
小夜に戦意はない。その事実に心をざわつかせた玲花の一撃を小十郎が受け止める。痛々しく折れた爪、それでも人を貫くには十分な威力は残っている。これを誰の身体に触れさせるわけにもいかないと、彼は力を振るう。目的はただ玲花を止めるため、そして、小夜の願いをかなえるために。
「ここが踏ん張りどころだ、はくま! 小夜たちのウタ、俺たちで響かせてやろうぜ!」
「ああ。……そうとも、僕たちは独りじゃない。僕たちの想いを誰かが代弁してくれることだって……ある!」
空には歌声が響いている。それは星獣たちを想うアイドルたちの歌声だ。穏やかで澄みきったその歌声は、このスターフォールの闇の中でさえ一等輝いて見える。
小夜たちはその歌声を聞きながらこのスターフォールの中心へと走ってきた。否、中心の、玲花の元へと走ってきた。
それはこの場で独り戦い続けたはくまのためだけではない。暴走し痛みを訴える星獣たちのためだけではない。
――独りで歌う天歌院さんに、このウタを届けます……。
「星獣都市に響け……笑顔のアンサンブル……!」
小夜の選んだ歌は、一番星の星獣が遺した“百万光年のアンサンブル”。みんなで歌う喜びを共有し合う曲。
「わたくし……は……」
ただ独り覇権を目指し続けてきた玲花。彼女の自信、象徴たるすべては打ち砕かれ、付き従う星獣たちも居ない。だが、それでも。
「それでも、あなたたちはわたくしと歌いたいと、言うのね――」
星の光が降り注ぐ中、ゆっくりと玲花は消えていく。一筋の、流れ星のような涙をこぼしながら。
『……そんな、嘘よ! この、このわたくしが!』
スターフォールの中心。追い詰められた玲花は空へと吼える。その歌声はハコダテ全体へと響き渡ったが、力の源となっていた爪や翼はもう無い。その上、星獣たちもまた正気を取り戻したことで彼女はまさに“すべて”を喪ったと言えた。
「僕たちはひとりぼっちなんかじゃない――そう言ったはずだよ、玲花。みんなの心とウタが、君というトップアイドルを追い落とした」
はくまはこのハコダテで沸き起こる暖かな空気を確かに感じ取っていた。自然に滲むその笑みをかき消そうと玲花は顔を覆い隠す。
『戯言を! 最高のアイドルとは常に一人、絶対的な力で君臨するもの……だから、わたくしはこうやってここまで……!』
最後に残った角が抵抗を示して光を放つ。そのまばゆさはすべてを薙ぎ払う力であると同時に、見るものすべてを眩ませる力を持つ。星獣もなにもかも平等に魅了するのは、彼女の実力が確かである証拠だ。
だが。
「今のあれを見ても歪むだけだ。……ひょうじゅう、霞ませて」
それが仲間たちに届く前、麦倉 淳とその相棒、ひょうじゅうによる涼しい霧があたりを包み込む。光の威力を減衰することはできないものの、それでも、魅了の力を減じさせるには十分だ。
「まことおにーさん、ありがとうなの! ……星獣さんたちを痛めつけた悪い人は、わたしがやっつけるの!」
その援護を受けて飛び出したのは栗村 かたり。瞳に怒りを湛えた彼女は、相棒たるそうせきと共に闇を駆けた。そうせきの首から吹き出た炎は一振りの剣となり玲花を切り裂き、とうとうその痛みに彼女は絶叫する。耳をつんざく音と共に、最後の足掻きとも言える光が一面に吐き出された。
「痛むだろう、玲花。だが、もう少し私達に付き合ってもらう……!」
「そういうことだ。誰もお前の手で傷つけさせはしねえよ!」
そのラストダンス。それに立ちふさがったのは堀田 小十郎と睡蓮寺 陽介の二人だった。
陽介は虚空に魔法陣を描く。あたりへ撒き散らされようとしていた玲花の光は、陽介の描く魔法陣へ吸い込まれた。
「……今がチャンス……!」
切り札すら受け止められた玲花の無防備な身体へ更なる追撃を加えようと手を振り上げるかたり。しかし、
「もういい、栗村! 後は俺たちに任せろ!」
「!? 邪魔しないで……っ」
玲花の懐深くへ潜り込もうとしたところで、陽介の作り出した落とし穴で姿勢を崩すかたり。その頭上を、窮鼠猫を噛む――というには強すぎる光線が過ぎ去っていく。
「っ……。かたり、陽介の言う通りだ。おまえがやられたら、さよちゃんも、一番星の星獣だって悲しむよ」
口惜しそうに陽介を見つめるかたりであったが、淳と、そして、
「ごめんなさい、かたりちゃん。どうしても、伝えたいことがあるの」
睡蓮寺 小夜が、星々の光を放ちながら陽介たちの背後から現れる。彼女の姿を見てかたりは押し黙るように、否、見守るようにして後ろへ下がる。
『あなたがわたくしに、何を伝えると……!?』
小夜に戦意はない。その事実に心をざわつかせた玲花の一撃を小十郎が受け止める。痛々しく折れた爪、それでも人を貫くには十分な威力は残っている。これを誰の身体に触れさせるわけにもいかないと、彼は力を振るう。目的はただ玲花を止めるため、そして、小夜の願いをかなえるために。
「ここが踏ん張りどころだ、はくま! 小夜たちのウタ、俺たちで響かせてやろうぜ!」
「ああ。……そうとも、僕たちは独りじゃない。僕たちの想いを誰かが代弁してくれることだって……ある!」
空には歌声が響いている。それは星獣たちを想うアイドルたちの歌声だ。穏やかで澄みきったその歌声は、このスターフォールの闇の中でさえ一等輝いて見える。
小夜たちはその歌声を聞きながらこのスターフォールの中心へと走ってきた。否、中心の、玲花の元へと走ってきた。
それはこの場で独り戦い続けたはくまのためだけではない。暴走し痛みを訴える星獣たちのためだけではない。
――独りで歌う天歌院さんに、このウタを届けます……。
「星獣都市に響け……笑顔のアンサンブル……!」
小夜の選んだ歌は、一番星の星獣が遺した“百万光年のアンサンブル”。みんなで歌う喜びを共有し合う曲。
「わたくし……は……」
ただ独り覇権を目指し続けてきた玲花。彼女の自信、象徴たるすべては打ち砕かれ、付き従う星獣たちも居ない。だが、それでも。
「それでも、あなたたちはわたくしと歌いたいと、言うのね――」
星の光が降り注ぐ中、ゆっくりと玲花は消えていく。一筋の、流れ星のような涙をこぼしながら。