【クロスハーモニクス】機奏と箱庭の大決戦!
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■過去と未来を繋いで、崩壊する世界を安定させよう! 3
完全な心を持つ命 確かに生まれた世界
不完全だろうと間違いなのかと 種を蒔いて育った軌跡
天使の歌 神の声 水となり潤す
日が沈み 今は過去となる
それでも箱舟に乗って 回り続ける
二神の決別の波に 揺られ続ける
アーヴェント・ゾネンウンターガングの繊細に紡ぎ上げた黄昏の歌が、観客に切なさを呼び起こす。少し前まで当たり前だった、死を知らないネヴァーランドを綴ったバラードソングが、劇場に染み込んでいく。
(世界を救うなどという大層な想いではない。ただ、もう争って欲しくない。だから世界の為、歌って魅せなければならないんだ)
『……貴様の言うことは難しい。だが悲しんで欲しいわけではない、それは我も理解した。
過去を忘れず、そして未来を恐れず。……そうだな、見る限り、観客は悲観しきっているわけではなさそうだぞ』
アーヴェントの弾くギターにユニゾンしているアウロラ・メタモルフォーゼスが、観客の様子を見たままに告げる。ここでただ嘆き悲しむだけならアーヴェントを窘めるつもりだったが、そうではない様子なのでアーヴェントへの協力を続け、やがて歌が終わり、夢月 瑠亜と空染 水花が並んでステージに上がり、アーヴェントの元へやって来る。
「さあ、次は君達の番だ」『任せたぞ、小娘達!』
アーヴェント(とアウロラ)と瑠亜、水花の手が固く結ばれ、離れる。過去の想いを託された二人がこくり、と頷き合い、未来へ繋がる歌を創る。
心が死んでいく物語は 漸く終わりを迎える
あの時の痛みを糧にして 今先へと進もう
(たくさんの笑顔を守るために……さぁ夢見る力よ、未来へ羽ばたけ!)
白地に藍薔薇の刺繍を加えた清涼感を感じさせる衣装を纏い、白磁のヴァイオリンを演奏する瑠亜の周りでは、弦楽器隊の幻影が伴奏を行ってくれていた。
ハジマリの空へと日が昇る
何にも負けない 純粋な光が 剣先を照らしていく
歌がサビに差し掛かったところで、空から一筋の光明が降る。その道筋を辿るように、水花が掌から炎の柱を生み出し、空へと高く伸ばす。
(未来はこっち、こっちだよ)
続いて花束を空に向かって投げ、輝く光球で観客の視線を誘導する。瑠亜が花束に干渉すると、ごく一部で散ったはずの花弁が劇場の観客全員に対し、自分の頭上で散ったように見えるようになる。
『私達は一人、でも、独りになることはない』
そんなメッセージが込められた花弁に包まれた観客の身体が、ふわり、と宙に浮き上がった。そしてやって来た瑠亜と楽しげにハイタッチを交わすことで、観客もまた未来に向かって羽ばたくことを夢見るようになる。
――過去を経て、未来へと繋がる――。
それを強く感じた観客は盛大な拍手と歓声をステージの演者へ送り、そして劇場には多くの光の粒が生まれることとなった。
(神様が“永遠の死”がない世界を作ったのは……神様がこの世界の皆が大好きだったから、ずっと一緒に居られるようにしたかったんじゃねーかな)
空に赤い月が光り、もう一度強く光ったと思うと、ステージにギターを携えた春瀬 那智が現れる。突然現れたように見えた彼へ視線が集まり、その間に劇場へ広まった霧状の魔力によって、観客はうっとりとしながら彼の演奏に聞き入る。
(……でも、死のない世界は間違ってる。いつか死ぬ事を知っているから、生きている今を大事にできる。亡くなった人を想って悲しむことができる。
だから――俺らの音楽で終わらせようぜ、“永遠”を)
Cum Si autem abierunt.(もしもあなたがいなくなってしまったら)
Et dilexit mundum dilexit me et vos.(あなたが愛した世界を私も愛しましょう)
Fiat mihi carmen etiam cantare hummed tibi.(あなたが口ずさんだ歌を私も歌いましょう)
那智の演奏に続いて、ジュヌヴィエーヴ・イリア・スフォルツァが光を帯びたオルガンを演奏し、透き通るような歌声を劇場へ届ける。
(これは、“死”を歌った歌。ネヴァーランドの皆様に、死という“過去”の悲しみを、尊さを知っていただくために歌う歌ですわ。
誰かの死を見るだけではなく、死を理解して、そしてあるべき姿へ……)
そしてジュヌヴィエーヴの歌に、ユースティティア・ディアマンテと彼女の持つ壺の主たちがコーラスを添える。
(死は、“永遠の眠り”。死のない世界は、ずっとお休みできない、辛い世界。
でも、だからこそ、無理矢理じゃなく……皆が、一人一人、受け止めて理解しないといけないこと。神様は死なせない、†タナトス†に殺させたりもしないわ)
ユースティティアが歩いた後には、死者への手向けの花が咲く。観客がそれを摘んで大切な人へ想いを馳せていると、劇場が小さな星を散りばめた黒い霧で覆われる。高らかに歌われる鎮魂歌を耳にしながら、観客は星のひとつひとつを墓標と思い、そこへそっと花を捧げた――。
「神様神様、成功して平和になったら、俺、お願いしたいことがあるんだ!」
「ん~なにかな~? いいよ叶えてあげる、神様だからね」
ライブ直前、神様の元にやって来た深郷 由希菜が希望を口にする。
「俺にも俺だけの使徒名、ほしいな!!」
「う~んそれかぁ。アレは僕なりに真剣に考えて付けてあげてるからね~。僕を面白がらせてくれたら考えてあげるよ」
「わかった! よーし、俺、頑張っちゃうよ!」
「いってらっしゃ~い」
神様に見送られて、由希菜がステージに立つ。前のライブが“負”なので、“正”のライブが有効だ。
「それじゃ、この歌で!」
チューブ状の鐘をピアノの鍵盤のように並べて吊るした楽器を鳴らしながら、明るく元気を伝えるゴスペルを歌い上げる。
一括りに未来と言ったって いろんなものがあるでしょう
中にはちょっと落ち込んじゃうような そんなものもあるのでしょう
でもだからって悲観になるのは よくないんだから
さぁ前を向いて足を踏み出せば きっと楽しいことが待ってる!
笑顔でいよう! 楽しい毎日が送れるかは
君と僕次第さ 明るくいこうよ!
clap your hands! 一緒にならば奇跡も起こるから
君の僕の違う道 歩いて進もうよ!
聖具の力が解放され、由希菜の歌が空中を旋回する白の十字架を通じて、劇場全体に広まっていく。深く心を打たれた観客が盛大な拍手を送り、二つのライブがぶつかることで生み出された光の粒が劇場を満たしていく――。
「ラファエル、よろしくね」
「心得ました。貴方様と共に」
恭しく一礼したラファエルに頷いて、楢宮 六花が高らかに声を発し、劇場からざわめきを取り除く。鳥が羽ばたき、やがて包み込むような清らかな声のゴスペルが劇場に広がっていく。
祈りを歌い踊る善き日に 今日の恵みと明日の幸いを願う
民らの歌声 天へ昇りて 善き声はまこと 神さえ癒す
傷つける者は来るがいい 病める者は来るがいい
心疲れて割れようと 私の元へと来るがよい
曲の盛り上がりに合わせ、六花の背後には輝く光の翼が現れ、その羽でもって宙を飛びながら、同じく空に浮き上がったラファエルとカランコエの花を観客へ撒く。
祈りを(祈りを)歌を(歌を) 癒しを(癒しを)救いを(救いを)
私はもたらす 私は与える 癒しの歌を天へ捧げて
と、その時ラファエルがある方向を見てハッと口を覆った。
六花がそちらを向くと……
「……間に合ったか。俺たちにも、歌わせてほしい」
戦場から帰還したウリエルとガブリエルが――どこかばつが悪そうではあるが――ラファエルと六花の撒いたカランコエの花を拾い上げたのだ。
「き、貴様ら――遅すぎるぞ! ……ああ、ずいぶん遅くなってしまった……えんじぇりっく☆カルテットの復活が!」
感極まったように珍しく瞳を潤ませるミカエルも加わり、六花の『天へ捧げるゴスペル』のコーラスがさらに厚く、美しくなった。
祷り歌いた遠い善き日は 揺籃の夢と等しくとも
歌った調べは消えることなく 幽けくとも歌い続ける
「よかったね、ラファエル」
「ええ。貴方も、いつも私を励ましてくれて――」
涙目で幸せそうに笑うラファエルと、六花は柔らかいハイタッチを決めるのだった。
「力を合わせていこう、レイニィ!」
「もちろんよ。レイニィの力、示してあげるんだから」
力強く頷いたレイニィが、スポットライトのような光を発し、ステージに上がった青井 星一郎を照らす。
「颯爽登場! 蒼星美少年!」
明るい色合いの、派手に花が飾られたタキシードを纏った星一郎が自身を鼓舞する意味も含めてそう宣言すると、光の影響もあって観客の視線が一気に集められる。その注目を離さないように、星一郎がミラーボールのように輝く光球を作り出して打ち上げ、先程の合図と共に飛び出した小さな魔物たちのオーケストラの中、ここにいる今の自分が出会ってきた人々に向ける、感謝と祝福の曲を歌い上げる。
「さあ、こっちよ」
さらに、レイニィが用意した人形やぬいぐるみに星一郎が命を宿らせ、ステージを盛り上げる役者として振る舞わせる。子供のおもちゃ箱のような楽しげなライブに、観客から笑顔が絶えることはなかった。
(愛と勇気と平和と皆の笑顔を守るのがアイドルのお仕事です。ネヴァーランドの崩壊なんて絶対させません! さあ、いきますよ!)
意気込みを胸に、雨宮 いつきがまずは輝く光球をステージに打ち上げ、さながらダンス会場を演出する。アップテンポなダンスミュージックを演奏し、その音楽が周りの人形やぬいぐるみに命を宿らせ、彼らは音楽に合わせて陽気に踊り始める。
「皆さんも一緒に、さあ!」
観客の頭上にも光球を打ち上げ、観客を主演であるかのように照らす。陽気なナンバーとスポットライトにアゲられた観客は思い思いに踊り始め、その輪が徐々に劇場全体へと広がっていった。
“正”陣営のライブが終わりを迎えた直後、そこに被さるように音楽が流れ始める。次いでステージに姿を見せたループゼロ・ペアがもう一度イントロをリピートし、自分に注目を集める。自然と身体が動いてしまうようなミュージックに、観客も身体を動かして音楽にノリ始める。
イントロとサビの繰り返しが3回繰り返され、二度目は一度目よりも、三度目は二度目よりも踊りやすくなる仕掛けを組み込むことで、共感の輪が劇場全体へ広がっていく――。
「 」
マイクを通さず、誰にも聞こえることのないその言葉。
それはこのライブが劇場の盛り上がりに反して“負”陣営で行われていることの証――。
(人と人がわかり合うことは、難しくて。些細な行き違いが悲劇を生むことも多いです。
そんな現在だからこそ……私は優しい未来を真摯に願います)
胸に手を当て、空花 凛菜が思い描くのは、決して完全にではない、程々にお互いを許容し合える社会、そして誰もが懸命に生きて自分の夢を見れる世界。
(決意を、希望を、いまこの胸にあるものを、解き放って……!)
自らの心の内にあるものを纏い、凛菜が慣れ親しんだ一曲をまさに全身、全霊を込めて歌い上げる。これまで繰り返された“正”と“負”のライブ、その終着を締めくくる最後のライブを、観客は一心同体となって応援した――。
「……うん、すごいエネルギーだ。これがネヴァー・エネルギーってやつだね」
参加者すべてのライブが終わり、劇場の内部にはこれまで発生した光の粒が無数に散らばっていた。神様がそれらのひとつに触れ、そこに蓄えられたエネルギーの量に感動しているような声を発する。
「この力があれば、あの傷も塞がって……ネヴァーランドの崩壊を免れるのね」
「そういうことだね。じゃあ早速やっちゃおう」
言うが早いか、神様が劇場全体に広がった光の粒をひとところに集め、開けた天井から空へと解き放つ。光は真っ直ぐに空の亀裂へと伸び、亀裂に吸い込まれていったかと思うと徐々に亀裂が小さくなっていき、やがて何も見えなくなった。
「はい、おしまい」
「……随分アッサリと終わったわね」
「これが僕の力なら、もっと壮大に、神の奇跡だと思い込むようにやるんだけどね。これはキミたちが生み出した力だから。ボクは何もしてないからね~」
「……そんなこと、ないと思う。神様がいたから……みんな、頑張れたんだと思う」
ちょっと恥ずかしそうにレイニィが言うと、その頭に神様の手がぽん、と添えられた。
「ありがとね~」
そよそよ、と撫でられたレイニィがくすぐったそうに、笑った。
完全な心を持つ命 確かに生まれた世界
不完全だろうと間違いなのかと 種を蒔いて育った軌跡
天使の歌 神の声 水となり潤す
日が沈み 今は過去となる
それでも箱舟に乗って 回り続ける
二神の決別の波に 揺られ続ける
アーヴェント・ゾネンウンターガングの繊細に紡ぎ上げた黄昏の歌が、観客に切なさを呼び起こす。少し前まで当たり前だった、死を知らないネヴァーランドを綴ったバラードソングが、劇場に染み込んでいく。
(世界を救うなどという大層な想いではない。ただ、もう争って欲しくない。だから世界の為、歌って魅せなければならないんだ)
『……貴様の言うことは難しい。だが悲しんで欲しいわけではない、それは我も理解した。
過去を忘れず、そして未来を恐れず。……そうだな、見る限り、観客は悲観しきっているわけではなさそうだぞ』
アーヴェントの弾くギターにユニゾンしているアウロラ・メタモルフォーゼスが、観客の様子を見たままに告げる。ここでただ嘆き悲しむだけならアーヴェントを窘めるつもりだったが、そうではない様子なのでアーヴェントへの協力を続け、やがて歌が終わり、夢月 瑠亜と空染 水花が並んでステージに上がり、アーヴェントの元へやって来る。
「さあ、次は君達の番だ」『任せたぞ、小娘達!』
アーヴェント(とアウロラ)と瑠亜、水花の手が固く結ばれ、離れる。過去の想いを託された二人がこくり、と頷き合い、未来へ繋がる歌を創る。
心が死んでいく物語は 漸く終わりを迎える
あの時の痛みを糧にして 今先へと進もう
(たくさんの笑顔を守るために……さぁ夢見る力よ、未来へ羽ばたけ!)
白地に藍薔薇の刺繍を加えた清涼感を感じさせる衣装を纏い、白磁のヴァイオリンを演奏する瑠亜の周りでは、弦楽器隊の幻影が伴奏を行ってくれていた。
ハジマリの空へと日が昇る
何にも負けない 純粋な光が 剣先を照らしていく
歌がサビに差し掛かったところで、空から一筋の光明が降る。その道筋を辿るように、水花が掌から炎の柱を生み出し、空へと高く伸ばす。
(未来はこっち、こっちだよ)
続いて花束を空に向かって投げ、輝く光球で観客の視線を誘導する。瑠亜が花束に干渉すると、ごく一部で散ったはずの花弁が劇場の観客全員に対し、自分の頭上で散ったように見えるようになる。
『私達は一人、でも、独りになることはない』
そんなメッセージが込められた花弁に包まれた観客の身体が、ふわり、と宙に浮き上がった。そしてやって来た瑠亜と楽しげにハイタッチを交わすことで、観客もまた未来に向かって羽ばたくことを夢見るようになる。
――過去を経て、未来へと繋がる――。
それを強く感じた観客は盛大な拍手と歓声をステージの演者へ送り、そして劇場には多くの光の粒が生まれることとなった。
(神様が“永遠の死”がない世界を作ったのは……神様がこの世界の皆が大好きだったから、ずっと一緒に居られるようにしたかったんじゃねーかな)
空に赤い月が光り、もう一度強く光ったと思うと、ステージにギターを携えた春瀬 那智が現れる。突然現れたように見えた彼へ視線が集まり、その間に劇場へ広まった霧状の魔力によって、観客はうっとりとしながら彼の演奏に聞き入る。
(……でも、死のない世界は間違ってる。いつか死ぬ事を知っているから、生きている今を大事にできる。亡くなった人を想って悲しむことができる。
だから――俺らの音楽で終わらせようぜ、“永遠”を)
Cum Si autem abierunt.(もしもあなたがいなくなってしまったら)
Et dilexit mundum dilexit me et vos.(あなたが愛した世界を私も愛しましょう)
Fiat mihi carmen etiam cantare hummed tibi.(あなたが口ずさんだ歌を私も歌いましょう)
那智の演奏に続いて、ジュヌヴィエーヴ・イリア・スフォルツァが光を帯びたオルガンを演奏し、透き通るような歌声を劇場へ届ける。
(これは、“死”を歌った歌。ネヴァーランドの皆様に、死という“過去”の悲しみを、尊さを知っていただくために歌う歌ですわ。
誰かの死を見るだけではなく、死を理解して、そしてあるべき姿へ……)
そしてジュヌヴィエーヴの歌に、ユースティティア・ディアマンテと彼女の持つ壺の主たちがコーラスを添える。
(死は、“永遠の眠り”。死のない世界は、ずっとお休みできない、辛い世界。
でも、だからこそ、無理矢理じゃなく……皆が、一人一人、受け止めて理解しないといけないこと。神様は死なせない、†タナトス†に殺させたりもしないわ)
ユースティティアが歩いた後には、死者への手向けの花が咲く。観客がそれを摘んで大切な人へ想いを馳せていると、劇場が小さな星を散りばめた黒い霧で覆われる。高らかに歌われる鎮魂歌を耳にしながら、観客は星のひとつひとつを墓標と思い、そこへそっと花を捧げた――。
「神様神様、成功して平和になったら、俺、お願いしたいことがあるんだ!」
「ん~なにかな~? いいよ叶えてあげる、神様だからね」
ライブ直前、神様の元にやって来た深郷 由希菜が希望を口にする。
「俺にも俺だけの使徒名、ほしいな!!」
「う~んそれかぁ。アレは僕なりに真剣に考えて付けてあげてるからね~。僕を面白がらせてくれたら考えてあげるよ」
「わかった! よーし、俺、頑張っちゃうよ!」
「いってらっしゃ~い」
神様に見送られて、由希菜がステージに立つ。前のライブが“負”なので、“正”のライブが有効だ。
「それじゃ、この歌で!」
チューブ状の鐘をピアノの鍵盤のように並べて吊るした楽器を鳴らしながら、明るく元気を伝えるゴスペルを歌い上げる。
一括りに未来と言ったって いろんなものがあるでしょう
中にはちょっと落ち込んじゃうような そんなものもあるのでしょう
でもだからって悲観になるのは よくないんだから
さぁ前を向いて足を踏み出せば きっと楽しいことが待ってる!
笑顔でいよう! 楽しい毎日が送れるかは
君と僕次第さ 明るくいこうよ!
clap your hands! 一緒にならば奇跡も起こるから
君の僕の違う道 歩いて進もうよ!
聖具の力が解放され、由希菜の歌が空中を旋回する白の十字架を通じて、劇場全体に広まっていく。深く心を打たれた観客が盛大な拍手を送り、二つのライブがぶつかることで生み出された光の粒が劇場を満たしていく――。
「ラファエル、よろしくね」
「心得ました。貴方様と共に」
恭しく一礼したラファエルに頷いて、楢宮 六花が高らかに声を発し、劇場からざわめきを取り除く。鳥が羽ばたき、やがて包み込むような清らかな声のゴスペルが劇場に広がっていく。
祈りを歌い踊る善き日に 今日の恵みと明日の幸いを願う
民らの歌声 天へ昇りて 善き声はまこと 神さえ癒す
傷つける者は来るがいい 病める者は来るがいい
心疲れて割れようと 私の元へと来るがよい
曲の盛り上がりに合わせ、六花の背後には輝く光の翼が現れ、その羽でもって宙を飛びながら、同じく空に浮き上がったラファエルとカランコエの花を観客へ撒く。
祈りを(祈りを)歌を(歌を) 癒しを(癒しを)救いを(救いを)
私はもたらす 私は与える 癒しの歌を天へ捧げて
と、その時ラファエルがある方向を見てハッと口を覆った。
六花がそちらを向くと……
「……間に合ったか。俺たちにも、歌わせてほしい」
戦場から帰還したウリエルとガブリエルが――どこかばつが悪そうではあるが――ラファエルと六花の撒いたカランコエの花を拾い上げたのだ。
「き、貴様ら――遅すぎるぞ! ……ああ、ずいぶん遅くなってしまった……えんじぇりっく☆カルテットの復活が!」
感極まったように珍しく瞳を潤ませるミカエルも加わり、六花の『天へ捧げるゴスペル』のコーラスがさらに厚く、美しくなった。
祷り歌いた遠い善き日は 揺籃の夢と等しくとも
歌った調べは消えることなく 幽けくとも歌い続ける
「よかったね、ラファエル」
「ええ。貴方も、いつも私を励ましてくれて――」
涙目で幸せそうに笑うラファエルと、六花は柔らかいハイタッチを決めるのだった。
「力を合わせていこう、レイニィ!」
「もちろんよ。レイニィの力、示してあげるんだから」
力強く頷いたレイニィが、スポットライトのような光を発し、ステージに上がった青井 星一郎を照らす。
「颯爽登場! 蒼星美少年!」
明るい色合いの、派手に花が飾られたタキシードを纏った星一郎が自身を鼓舞する意味も含めてそう宣言すると、光の影響もあって観客の視線が一気に集められる。その注目を離さないように、星一郎がミラーボールのように輝く光球を作り出して打ち上げ、先程の合図と共に飛び出した小さな魔物たちのオーケストラの中、ここにいる今の自分が出会ってきた人々に向ける、感謝と祝福の曲を歌い上げる。
「さあ、こっちよ」
さらに、レイニィが用意した人形やぬいぐるみに星一郎が命を宿らせ、ステージを盛り上げる役者として振る舞わせる。子供のおもちゃ箱のような楽しげなライブに、観客から笑顔が絶えることはなかった。
(愛と勇気と平和と皆の笑顔を守るのがアイドルのお仕事です。ネヴァーランドの崩壊なんて絶対させません! さあ、いきますよ!)
意気込みを胸に、雨宮 いつきがまずは輝く光球をステージに打ち上げ、さながらダンス会場を演出する。アップテンポなダンスミュージックを演奏し、その音楽が周りの人形やぬいぐるみに命を宿らせ、彼らは音楽に合わせて陽気に踊り始める。
「皆さんも一緒に、さあ!」
観客の頭上にも光球を打ち上げ、観客を主演であるかのように照らす。陽気なナンバーとスポットライトにアゲられた観客は思い思いに踊り始め、その輪が徐々に劇場全体へと広がっていった。
“正”陣営のライブが終わりを迎えた直後、そこに被さるように音楽が流れ始める。次いでステージに姿を見せたループゼロ・ペアがもう一度イントロをリピートし、自分に注目を集める。自然と身体が動いてしまうようなミュージックに、観客も身体を動かして音楽にノリ始める。
イントロとサビの繰り返しが3回繰り返され、二度目は一度目よりも、三度目は二度目よりも踊りやすくなる仕掛けを組み込むことで、共感の輪が劇場全体へ広がっていく――。
「 」
マイクを通さず、誰にも聞こえることのないその言葉。
それはこのライブが劇場の盛り上がりに反して“負”陣営で行われていることの証――。
(人と人がわかり合うことは、難しくて。些細な行き違いが悲劇を生むことも多いです。
そんな現在だからこそ……私は優しい未来を真摯に願います)
胸に手を当て、空花 凛菜が思い描くのは、決して完全にではない、程々にお互いを許容し合える社会、そして誰もが懸命に生きて自分の夢を見れる世界。
(決意を、希望を、いまこの胸にあるものを、解き放って……!)
自らの心の内にあるものを纏い、凛菜が慣れ親しんだ一曲をまさに全身、全霊を込めて歌い上げる。これまで繰り返された“正”と“負”のライブ、その終着を締めくくる最後のライブを、観客は一心同体となって応援した――。
「……うん、すごいエネルギーだ。これがネヴァー・エネルギーってやつだね」
参加者すべてのライブが終わり、劇場の内部にはこれまで発生した光の粒が無数に散らばっていた。神様がそれらのひとつに触れ、そこに蓄えられたエネルギーの量に感動しているような声を発する。
「この力があれば、あの傷も塞がって……ネヴァーランドの崩壊を免れるのね」
「そういうことだね。じゃあ早速やっちゃおう」
言うが早いか、神様が劇場全体に広がった光の粒をひとところに集め、開けた天井から空へと解き放つ。光は真っ直ぐに空の亀裂へと伸び、亀裂に吸い込まれていったかと思うと徐々に亀裂が小さくなっていき、やがて何も見えなくなった。
「はい、おしまい」
「……随分アッサリと終わったわね」
「これが僕の力なら、もっと壮大に、神の奇跡だと思い込むようにやるんだけどね。これはキミたちが生み出した力だから。ボクは何もしてないからね~」
「……そんなこと、ないと思う。神様がいたから……みんな、頑張れたんだと思う」
ちょっと恥ずかしそうにレイニィが言うと、その頭に神様の手がぽん、と添えられた。
「ありがとね~」
そよそよ、と撫でられたレイニィがくすぐったそうに、笑った。