【クロスハーモニクス】機奏と箱庭の大決戦!
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■過去と未来を繋いで、崩壊する世界を安定させよう! 1
オペラハウスを思わせる造り、そして開けた天井からは亀裂の入った空が見える。
「ネヴァー・エネルギー……正の力と負の力がぶつかることで生み出される、ネヴァーランドを救う力」
神様が用意した舞台、グラン・ギニョルに入ったレイニィ・イザヨイが、両の掌を上に向けて差し出し、真ん中で合わせる。アイドルたちが行う“正”のライブと“負”のライブが合わさることで生まれるエネルギーがこの劇場に満ちた時、空に見える亀裂が塞がりネヴァーランドは崩壊を免れる……そう説明を受けたものの、いざ本番となると本当にそんなエネルギーを生み出すことができるのか、イザヨイは不安に駆られる。
「難しく考えないでさ、楽しくやればいいんじゃないかな? ほら、みんなを見てごらん」
背後から聞こえた声――神様の声にイザヨイが顔を上げ、周りに視線を向ける。自分と同じくライブをするために集まったアイドルたちからは、神様の言うように「さあ、自分たちのライブを楽しんで、観客に楽しんでもらおう」といった声が聞こえてくるような気がした。
「……そうね。ハルならこんな時だってきっと、「さあ、ショータイムよ!」って言いながら楽しんでしまうに違いないわ」
イザヨイの目には、親友であるハルの姿が映っていた。彼女はいまディスカディアにいるはずだが、そこでも彼女はきっと、精一杯自分のライブをしていることだろう。
「レイニィも頑張るからね。フェスタでまた会いましょう、ハル」
イザヨイの顔から不安が除かれたところで、劇の開幕を告げるベルが鳴る。集められた観客たちの視線がステージへと向けられる中、最初の演者が登場しようとしていた――。
(私たちのライブが、世界を守るための力になりますよう……)
背中に輝く羽を広げ、天使をイメージした姿で登場した甘味 恋歌が、七色に光る弦を持つ真っ白なハープに指を添わせ、瑞々しい音色を劇場に響かせる。どこからか鳥の歌う鳴き声が観客の耳に届いた頃、教会の礼装のような衣装を身につけ、滑るような足運びで龍崎 宗麟が現れ、観客へスッ、と手を差し出す。
「子供の頃は夕暮れまで思い出を作っただろう。そこへ立ち返ってみてはどうだ?」
観客を過去へ誘う案内人の如く振る舞った宗麟が、ボールジャグリングで童心を思い起こさせる。堂々とした雰囲気を纏いながら行われる演技、和やかにさせる演奏に混じって、どこか懐かしさを感じさせる温かな風が劇場に吹く。
(さあ、皆の心に浮かぶものは何かな?)
色造 空の創り出す、死者の想いを元とする風は、観客の心に懐かしさを生んだ。……やがて演技を終えた宗麟が小さな炎を集めステージの奥に放つと、それは夕日となってゆっくりと沈んでいく。大きな時計の針が円を描く中、優しい音色を響かせながら恋歌がふわり、と宙に舞い、劇場内には恋歌の幻影が現れ観客と交流を図る。これは深夜零時までの魔法、決して永遠――Never――ではない。観客に触れた幻影がスッ、と消え、時計の針が一周することで魔法も解ける。
(過去へ戻ることはできないけれど、思い出として、あなたの中に)
地上に降りた恋歌と空がステージを退き、浮かんでいた夕日が完全に沈んだところで、案内人に戻った宗麟が次のライブへと観客を誘導する。
「さあ、俺の案内はここまで。次は明日へ続く時間が待っているぞ」
宗麟もステージを退き、誰もいなくなったステージにキラリ、白から薄紫へ移り輝く光が飛び込む。
「ディスカディアから来た、Rabbitsなの♪」
光をキャッチした栗村 かたりの声に合わせ、麦倉 淳がブースから陽気で奔放な音楽を奏で、ぴょんぴょんとステージを跳ねるかたりと一緒に踊りたくなるような雰囲気を作り出す。
「過去から未来へ……うまく繋げているかしら」
自身も演奏しつつ、二つのライブが繋がりを持つものとして思わせるように音色をチューニングしていたティリア・トレフォイルが、足元にやってきた目つきの悪いネズミを見つける。
「……何よ、ついてきたの?」
「ティル、そのネズミをかたりと踊らせてやってくれ」
追いやろうとしたところで淳の指示を受け、ティリアがしゃがみ込んでネズミをかたりの方へ向けつつ言う。
「ほら、かたりのとこにでも行きなさい」
ネズミがとてて、と駆け出したのを見て、淳がティリアにユニゾンを指示する。ブースがひときわ強力なハルモニアを放つと、小さな天使がラッパを吹きながら宙を飛び回り始める。
「ほら、お前たちもかたりとダンスだ、行って来い!」
小さな天使をかたりの元へ向かわせ、淳が演奏することで生じるハルモニアが、大小様々な植物となって踊ったり歌ったりする。ホログラムが劇場を照らし、天使と植物がダンスする、一見混沌としたステージは、しかしネヴァーランドという世界をよく体現していた。
「ネヴァーランドの楽しい森……大好き♪」
かたりの生み出すハルモニアが観客を踊りたくさせ、劇場は今や、観客も含めたみんなが演者となっていた。そうして場の雰囲気が最高潮に達した頃、淳がライブの総仕上げに用意した仕掛けを発動すべく、合図を放つ。合図を受けて空の歌う歌がハムスター型のチョコレートに命を吹き込み、まるで生きているかのように踊り出す。そしてかたりと一緒に踊っていたネズミと出会った瞬間、爆発が生じる。観客は一瞬驚くが、すぐに漂い始めたチョコレートの香りに顔が綻び、そして頭上には虹がかかった。
『二つの世界のものが、ひとつのところで出会う……ネヴァーランドとディスカディアも出会って、これから一緒に発展していけたらいいわね』
ティリアが思いを馳せる中、過去と未来、二つの世界の出会いを表現したライブが幕を閉じ、劇場には二つのライブの成果である光の粒が現れた――。
「神が不死の世界として作った箱庭の世界
その世界に生まれた青年は言います
「この命は紛い物であり、この世界は正しくない」と」
まだ演者が姿を見せていないステージに、古川 星夜の語りが響く。
「彼と友達になりたい、世界の外側にいる少女は悩みます
それは青年にとっては本当であり、否定できません
それでも言います
「誰かを失う辛さを知ってるからこそ、そんな世界を望むんだよ」と」
「これから始まるのは
ネヴァーランドの誕生にあったはずの願いを込め
青年に伝える為の歌です」
(……さて、これで彼が対バンに乗ってくれるかどうかだけど……詩歌に任せよう。お前なら大丈夫だ、俺は信じてる)
出番を終えた星夜と入れ替わりに、近衛 詩歌と桔梗・トルマリンスターがステージに登場すると、詩歌はトパーズ・ティアーハートがユニゾンしたギターを奏で、生まれた音を桔梗の腰に装着されたスピーカーセットが拾い、曲芸的な踊りに合わせて劇場全体へ発散させていく。
「さぁトラウ、見せてあげるわ! これが、アタシの全力!」
この時点では姿を見せていない、対バン相手に指定したトラウ・ヴィナスをステージに引き込むため、桔梗は懸命に踊る。アクロバティックなダンスを交えハルモニアを周囲に拡散させた後は、硬い動きから徐々に柔らかさを取り戻していくダンスを披露する。それはトラウが「この世界の人々は人形だ」と言ったことへの反証。心を持ち、他人に思いを伝え、心動かす事のできる存在であることを証明する。
「詩歌は、トラウさん、貴方と友達になりたい!
全部を消すのはダメ、でも、『誰も死なない世界を作る』その思いは否定させない!
不死も神も、全て肯定する! 詩歌は過去を含めたネヴァーランドが、大好きだって!」
トパーズがユニゾンしたことにより、詩歌の紡ぐ歌、魅せるパフォーマンスには人を惹きつけるだけの力が備わっていた。普段以上に魅力的なアピールを行う詩歌に満足しつつも、トパーズの表情は完全には晴れない。
『トラウ氏、君には少し怒りを感じているんだ。君は言った、不死だから神の人形に過ぎないと。
ならば、ディーヴァは? 僕らは人から見れば不死に似ている。でも確かに今を生きていると思うのだよ』
別に謝ってほしいとは思っていない、自分たちのライブを見て、聞いて、感じて、そしてライブで示してほしい。ライブを終え観客から拍手と声援を受けながら、三人が似た思いを抱く――。
「ハッ、大した力の無いライブだ。これでは俺様が手加減をしてやらなければならんようだな!」
そんな声と共に、上空からトラウがステージに降りる。高さをまったく感じさせない立ちふるまいでありながら、観客にはズン、と身体を揺らす振動が伝わり、注目の視線が一気に集められる。
「†タナトス†の茶番に付き合うつもりは無い、だが下等な貴様らにお行儀よく付き合ってやるつもりも無い。俺様は俺様で好きにやらせてもらおう。今回だけは貴様らに付き合ってやる、俺様をステージに上げたかったらもっと強いライブを魅せてみるがよい!」
大層な口をはたくトラウだったが、そのライブは吸血鬼という不死の存在が持つ強い“生”の力を存分に振るった、実に魅力溢れるものであった。もしかしたら彼の言葉通り、より強いエネルギーがあったならもっと魅力的なライブが見られたかもしれない。
トラウのライブが終わると、二つのエネルギーがぶつかり合って生じた光の粒が劇場に現れた――。
ステージに上がった白川 郷太郎から放たれた血の魔力が、観客を一時的に自らのファンとなるように仕向ける。魔力の影響を受けた観客の胸には赤い薔薇が咲き、郷太郎が軽く手を挙げるだけで声援を送り、周りの観客をも巻き込んでいく。
むかしむかしのものがたり
何も知らない自分を引き留めた
「ずっとここにいたら幸せだって 前に進めば苦しいよって」
集められた視線を前に歌う郷太郎の歌は嘆きに満ちており、観客の間に不安が広がっていく。しかしそれは布石であり、歌が間奏に入ったところで手拍子を打ちながら緑青 木賊がステージに上がり、観客にも手拍子を促す。試しに観客が手拍子をしてみると、不思議なことに掌の間から光の球が生まれ、ふわりと漂った後にパッ、と弾けて消えた。それが面白く映ったのだろう、徐々に観客の間に手拍子が広まっていく。
「これら光は、可能性の表れ。
可能性は生み出せる、可能性は触れられる、可能性の先へは飛び出せるものっす!」
そう観客へ訴えた木賊がワイヤー付きの杭を天井に向かって打ち、飛んだ先の壁に大きな絵本を描き出す。その絵本がゆっくりと開かれると共に、マシンパーツにハルモニアを宿らせることで滞空を可能にした木賊の身体からは、観客席の奥まで届く強い光が放たれた。
めでたしめでたし、だなんて
過去に終わりつけても いまに終わりなどないから
終わりを締めくくる郷太郎の歌も、前に進む意思を観客に伝え、観客は未来への可能性に感動し大きな拍手と声援を送った。
二つのエネルギーがぶつかり、光の粒が劇場に浮かぶ――。
(世界が終わるかもしれないという不安に、怯えているのが見えます。無理もないですよね……。
どうか、あたしたちのライブで、世界の未来を感じてください。安心してください、そのための力は、あたしたちが作り出します)
ステージに上がった梓弓 莉花が確かな思いを胸に、“負”のライブを担当する。光るジャグリングボールを用いてのジャグリングを行うが、なかなか綺麗に宙を舞わず、莉花の手元を滑り落ちようとする。でも莉花は懸命に、少しでもたくさんの観客に『失敗からの成功』を期待してもらえるように、途中にちょっとしたマジックを織り込んだり、光の粒子を纏わせてキラキラと光らせたりしてパフォーマンスを続ける。そして最後にようやく一度の成功が生まれ、観客が大きな拍手を送ったところで莉花が退場し、ステージにはノーラ・レツェルとリーザベル・シュトレーネが登場する。
「生ける全ての者達よ!
未来に進むために立ち上がりなさい!」
そして早速、リーザベルの力強い身振りを交えた声が観客を震わせる。自身の血の魔力を利用してのパフォーマンスは観客を一種の興奮状態に仕立て上げ、注目を一手に受ける結果となる。そこに仕上げとばかり、血の魔力を霧状にして劇場内に充満させ、観客自身がこれから始まるライブに最も似合う景色を幻視するようにする。
(ふふ。さあノーラ、わたくしをここまで動かしたのですから、その歌声をネヴァーランド中に響かせてくださいね?)
視線を受けたノーラがこくり、と頷き、堂々とした雰囲気を纏いながら歌を紡ぐ。その歌は“負”を、過去を否定するわけではなく、過去があったから今があり、そして未来に繋がろうとしている、そんな思いを歌っていた。
「ほら、みんなも聞こえてるでしょ、この歌がさ!
上を向いて、笑って、前に進んでこうぜー!!」
間奏を挟んで、歌が後半に差し掛かったところで登場した一浜 遥華が、今を生きることへの楽しさが存分に示されたダンスを披露しながら、その楽しみを背負ったまま前に進んでいこう、と呼びかける。
「はいせーの、ジャンプ! ジャンプ!! ジャーンプ!!!」
ジャンプの一段ごとに、遥華の身体に装着されたスピーカーから爆音が響く。いっそ暴力的ですらあるそれは、しかし“正”、いや“生”の荒々しさを表現しており、観客にひときわ強い喜びと感動を伝える結果となった。
「いい、覚えておいてね? 私たち、今、生きてるわけだから。だから前に進まないと!」
そう締めくくってライブを終えた遥華へ、他三人へ、観客が大きな拍手と歓声を送る。またひとつ生まれた光の粒が、劇場内を少しずつ満たしていった――。
オペラハウスを思わせる造り、そして開けた天井からは亀裂の入った空が見える。
「ネヴァー・エネルギー……正の力と負の力がぶつかることで生み出される、ネヴァーランドを救う力」
神様が用意した舞台、グラン・ギニョルに入ったレイニィ・イザヨイが、両の掌を上に向けて差し出し、真ん中で合わせる。アイドルたちが行う“正”のライブと“負”のライブが合わさることで生まれるエネルギーがこの劇場に満ちた時、空に見える亀裂が塞がりネヴァーランドは崩壊を免れる……そう説明を受けたものの、いざ本番となると本当にそんなエネルギーを生み出すことができるのか、イザヨイは不安に駆られる。
「難しく考えないでさ、楽しくやればいいんじゃないかな? ほら、みんなを見てごらん」
背後から聞こえた声――神様の声にイザヨイが顔を上げ、周りに視線を向ける。自分と同じくライブをするために集まったアイドルたちからは、神様の言うように「さあ、自分たちのライブを楽しんで、観客に楽しんでもらおう」といった声が聞こえてくるような気がした。
「……そうね。ハルならこんな時だってきっと、「さあ、ショータイムよ!」って言いながら楽しんでしまうに違いないわ」
イザヨイの目には、親友であるハルの姿が映っていた。彼女はいまディスカディアにいるはずだが、そこでも彼女はきっと、精一杯自分のライブをしていることだろう。
「レイニィも頑張るからね。フェスタでまた会いましょう、ハル」
イザヨイの顔から不安が除かれたところで、劇の開幕を告げるベルが鳴る。集められた観客たちの視線がステージへと向けられる中、最初の演者が登場しようとしていた――。
(私たちのライブが、世界を守るための力になりますよう……)
背中に輝く羽を広げ、天使をイメージした姿で登場した甘味 恋歌が、七色に光る弦を持つ真っ白なハープに指を添わせ、瑞々しい音色を劇場に響かせる。どこからか鳥の歌う鳴き声が観客の耳に届いた頃、教会の礼装のような衣装を身につけ、滑るような足運びで龍崎 宗麟が現れ、観客へスッ、と手を差し出す。
「子供の頃は夕暮れまで思い出を作っただろう。そこへ立ち返ってみてはどうだ?」
観客を過去へ誘う案内人の如く振る舞った宗麟が、ボールジャグリングで童心を思い起こさせる。堂々とした雰囲気を纏いながら行われる演技、和やかにさせる演奏に混じって、どこか懐かしさを感じさせる温かな風が劇場に吹く。
(さあ、皆の心に浮かぶものは何かな?)
色造 空の創り出す、死者の想いを元とする風は、観客の心に懐かしさを生んだ。……やがて演技を終えた宗麟が小さな炎を集めステージの奥に放つと、それは夕日となってゆっくりと沈んでいく。大きな時計の針が円を描く中、優しい音色を響かせながら恋歌がふわり、と宙に舞い、劇場内には恋歌の幻影が現れ観客と交流を図る。これは深夜零時までの魔法、決して永遠――Never――ではない。観客に触れた幻影がスッ、と消え、時計の針が一周することで魔法も解ける。
(過去へ戻ることはできないけれど、思い出として、あなたの中に)
地上に降りた恋歌と空がステージを退き、浮かんでいた夕日が完全に沈んだところで、案内人に戻った宗麟が次のライブへと観客を誘導する。
「さあ、俺の案内はここまで。次は明日へ続く時間が待っているぞ」
宗麟もステージを退き、誰もいなくなったステージにキラリ、白から薄紫へ移り輝く光が飛び込む。
「ディスカディアから来た、Rabbitsなの♪」
光をキャッチした栗村 かたりの声に合わせ、麦倉 淳がブースから陽気で奔放な音楽を奏で、ぴょんぴょんとステージを跳ねるかたりと一緒に踊りたくなるような雰囲気を作り出す。
「過去から未来へ……うまく繋げているかしら」
自身も演奏しつつ、二つのライブが繋がりを持つものとして思わせるように音色をチューニングしていたティリア・トレフォイルが、足元にやってきた目つきの悪いネズミを見つける。
「……何よ、ついてきたの?」
「ティル、そのネズミをかたりと踊らせてやってくれ」
追いやろうとしたところで淳の指示を受け、ティリアがしゃがみ込んでネズミをかたりの方へ向けつつ言う。
「ほら、かたりのとこにでも行きなさい」
ネズミがとてて、と駆け出したのを見て、淳がティリアにユニゾンを指示する。ブースがひときわ強力なハルモニアを放つと、小さな天使がラッパを吹きながら宙を飛び回り始める。
「ほら、お前たちもかたりとダンスだ、行って来い!」
小さな天使をかたりの元へ向かわせ、淳が演奏することで生じるハルモニアが、大小様々な植物となって踊ったり歌ったりする。ホログラムが劇場を照らし、天使と植物がダンスする、一見混沌としたステージは、しかしネヴァーランドという世界をよく体現していた。
「ネヴァーランドの楽しい森……大好き♪」
かたりの生み出すハルモニアが観客を踊りたくさせ、劇場は今や、観客も含めたみんなが演者となっていた。そうして場の雰囲気が最高潮に達した頃、淳がライブの総仕上げに用意した仕掛けを発動すべく、合図を放つ。合図を受けて空の歌う歌がハムスター型のチョコレートに命を吹き込み、まるで生きているかのように踊り出す。そしてかたりと一緒に踊っていたネズミと出会った瞬間、爆発が生じる。観客は一瞬驚くが、すぐに漂い始めたチョコレートの香りに顔が綻び、そして頭上には虹がかかった。
『二つの世界のものが、ひとつのところで出会う……ネヴァーランドとディスカディアも出会って、これから一緒に発展していけたらいいわね』
ティリアが思いを馳せる中、過去と未来、二つの世界の出会いを表現したライブが幕を閉じ、劇場には二つのライブの成果である光の粒が現れた――。
「神が不死の世界として作った箱庭の世界
その世界に生まれた青年は言います
「この命は紛い物であり、この世界は正しくない」と」
まだ演者が姿を見せていないステージに、古川 星夜の語りが響く。
「彼と友達になりたい、世界の外側にいる少女は悩みます
それは青年にとっては本当であり、否定できません
それでも言います
「誰かを失う辛さを知ってるからこそ、そんな世界を望むんだよ」と」
「これから始まるのは
ネヴァーランドの誕生にあったはずの願いを込め
青年に伝える為の歌です」
(……さて、これで彼が対バンに乗ってくれるかどうかだけど……詩歌に任せよう。お前なら大丈夫だ、俺は信じてる)
出番を終えた星夜と入れ替わりに、近衛 詩歌と桔梗・トルマリンスターがステージに登場すると、詩歌はトパーズ・ティアーハートがユニゾンしたギターを奏で、生まれた音を桔梗の腰に装着されたスピーカーセットが拾い、曲芸的な踊りに合わせて劇場全体へ発散させていく。
「さぁトラウ、見せてあげるわ! これが、アタシの全力!」
この時点では姿を見せていない、対バン相手に指定したトラウ・ヴィナスをステージに引き込むため、桔梗は懸命に踊る。アクロバティックなダンスを交えハルモニアを周囲に拡散させた後は、硬い動きから徐々に柔らかさを取り戻していくダンスを披露する。それはトラウが「この世界の人々は人形だ」と言ったことへの反証。心を持ち、他人に思いを伝え、心動かす事のできる存在であることを証明する。
「詩歌は、トラウさん、貴方と友達になりたい!
全部を消すのはダメ、でも、『誰も死なない世界を作る』その思いは否定させない!
不死も神も、全て肯定する! 詩歌は過去を含めたネヴァーランドが、大好きだって!」
トパーズがユニゾンしたことにより、詩歌の紡ぐ歌、魅せるパフォーマンスには人を惹きつけるだけの力が備わっていた。普段以上に魅力的なアピールを行う詩歌に満足しつつも、トパーズの表情は完全には晴れない。
『トラウ氏、君には少し怒りを感じているんだ。君は言った、不死だから神の人形に過ぎないと。
ならば、ディーヴァは? 僕らは人から見れば不死に似ている。でも確かに今を生きていると思うのだよ』
別に謝ってほしいとは思っていない、自分たちのライブを見て、聞いて、感じて、そしてライブで示してほしい。ライブを終え観客から拍手と声援を受けながら、三人が似た思いを抱く――。
「ハッ、大した力の無いライブだ。これでは俺様が手加減をしてやらなければならんようだな!」
そんな声と共に、上空からトラウがステージに降りる。高さをまったく感じさせない立ちふるまいでありながら、観客にはズン、と身体を揺らす振動が伝わり、注目の視線が一気に集められる。
「†タナトス†の茶番に付き合うつもりは無い、だが下等な貴様らにお行儀よく付き合ってやるつもりも無い。俺様は俺様で好きにやらせてもらおう。今回だけは貴様らに付き合ってやる、俺様をステージに上げたかったらもっと強いライブを魅せてみるがよい!」
大層な口をはたくトラウだったが、そのライブは吸血鬼という不死の存在が持つ強い“生”の力を存分に振るった、実に魅力溢れるものであった。もしかしたら彼の言葉通り、より強いエネルギーがあったならもっと魅力的なライブが見られたかもしれない。
トラウのライブが終わると、二つのエネルギーがぶつかり合って生じた光の粒が劇場に現れた――。
ステージに上がった白川 郷太郎から放たれた血の魔力が、観客を一時的に自らのファンとなるように仕向ける。魔力の影響を受けた観客の胸には赤い薔薇が咲き、郷太郎が軽く手を挙げるだけで声援を送り、周りの観客をも巻き込んでいく。
むかしむかしのものがたり
何も知らない自分を引き留めた
「ずっとここにいたら幸せだって 前に進めば苦しいよって」
集められた視線を前に歌う郷太郎の歌は嘆きに満ちており、観客の間に不安が広がっていく。しかしそれは布石であり、歌が間奏に入ったところで手拍子を打ちながら緑青 木賊がステージに上がり、観客にも手拍子を促す。試しに観客が手拍子をしてみると、不思議なことに掌の間から光の球が生まれ、ふわりと漂った後にパッ、と弾けて消えた。それが面白く映ったのだろう、徐々に観客の間に手拍子が広まっていく。
「これら光は、可能性の表れ。
可能性は生み出せる、可能性は触れられる、可能性の先へは飛び出せるものっす!」
そう観客へ訴えた木賊がワイヤー付きの杭を天井に向かって打ち、飛んだ先の壁に大きな絵本を描き出す。その絵本がゆっくりと開かれると共に、マシンパーツにハルモニアを宿らせることで滞空を可能にした木賊の身体からは、観客席の奥まで届く強い光が放たれた。
めでたしめでたし、だなんて
過去に終わりつけても いまに終わりなどないから
終わりを締めくくる郷太郎の歌も、前に進む意思を観客に伝え、観客は未来への可能性に感動し大きな拍手と声援を送った。
二つのエネルギーがぶつかり、光の粒が劇場に浮かぶ――。
(世界が終わるかもしれないという不安に、怯えているのが見えます。無理もないですよね……。
どうか、あたしたちのライブで、世界の未来を感じてください。安心してください、そのための力は、あたしたちが作り出します)
ステージに上がった梓弓 莉花が確かな思いを胸に、“負”のライブを担当する。光るジャグリングボールを用いてのジャグリングを行うが、なかなか綺麗に宙を舞わず、莉花の手元を滑り落ちようとする。でも莉花は懸命に、少しでもたくさんの観客に『失敗からの成功』を期待してもらえるように、途中にちょっとしたマジックを織り込んだり、光の粒子を纏わせてキラキラと光らせたりしてパフォーマンスを続ける。そして最後にようやく一度の成功が生まれ、観客が大きな拍手を送ったところで莉花が退場し、ステージにはノーラ・レツェルとリーザベル・シュトレーネが登場する。
「生ける全ての者達よ!
未来に進むために立ち上がりなさい!」
そして早速、リーザベルの力強い身振りを交えた声が観客を震わせる。自身の血の魔力を利用してのパフォーマンスは観客を一種の興奮状態に仕立て上げ、注目を一手に受ける結果となる。そこに仕上げとばかり、血の魔力を霧状にして劇場内に充満させ、観客自身がこれから始まるライブに最も似合う景色を幻視するようにする。
(ふふ。さあノーラ、わたくしをここまで動かしたのですから、その歌声をネヴァーランド中に響かせてくださいね?)
視線を受けたノーラがこくり、と頷き、堂々とした雰囲気を纏いながら歌を紡ぐ。その歌は“負”を、過去を否定するわけではなく、過去があったから今があり、そして未来に繋がろうとしている、そんな思いを歌っていた。
「ほら、みんなも聞こえてるでしょ、この歌がさ!
上を向いて、笑って、前に進んでこうぜー!!」
間奏を挟んで、歌が後半に差し掛かったところで登場した一浜 遥華が、今を生きることへの楽しさが存分に示されたダンスを披露しながら、その楽しみを背負ったまま前に進んでいこう、と呼びかける。
「はいせーの、ジャンプ! ジャンプ!! ジャーンプ!!!」
ジャンプの一段ごとに、遥華の身体に装着されたスピーカーから爆音が響く。いっそ暴力的ですらあるそれは、しかし“正”、いや“生”の荒々しさを表現しており、観客にひときわ強い喜びと感動を伝える結果となった。
「いい、覚えておいてね? 私たち、今、生きてるわけだから。だから前に進まないと!」
そう締めくくってライブを終えた遥華へ、他三人へ、観客が大きな拍手と歓声を送る。またひとつ生まれた光の粒が、劇場内を少しずつ満たしていった――。