イラスト

シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

【クロスハーモニクス】機奏と箱庭の大決戦!

リアクション公開中!
【クロスハーモニクス】機奏と箱庭の大決戦!

リアクション

■3.「死」を見つめる悪神 


「まだまだ“死”の力は足りないんだ、よそから持ってこないと足りないくらい」
 †タナトス†は空に現れ、アイドルたちを見下ろした。
「そう……足りないんだよ。例え、ここにいる君達全員にその『足し』になってもらったとしても、さ」
 どこか悲しげな、いや虚しさを含んだ顔で笑う†タナトス†。
 だが、彼は自分自身がこの状況をあくまで「楽しんでいる」ことにしたいようだった。
「君達の相手をするなら、地味なのはつまらないよね? じゃあ、まずは『1000本ノック』でもいってみようか♪」
 そう宣言した†タナトス†は、その手に金属バットを出現させた。
 それと同時に、空中には極彩色のカラーボールが無数に現れた。
「じゃ、練習開始ぃ! そらそらそらそらそらそらそらそら!! ちゃんと受けないと、すんごい色になっちゃうよ~?!」
 高速でバットを振るう†タナトス†と、地上にぶち撒けられる色とりどりのインクの雨。
 それをまず【神と人が繋がる夜明けの旋律】の5人が迎え討った。
「……そんなことして。本当は楽しんでない事くらい、分かるんだよ? 独りで頑張って疲れてさ。自分の世界の人の変化、見えなくなってない?」
 千夏 水希がわざとらしく笑い声を上げる†タナトス†を見上げる。
 すると†タナトス†の背後に、瘴気の刃が花開き、バットを持つ手を斬りつけた。
 音を立てて落下するバット。
 それが【第87使徒バラエル】の仕業と気づいた†タナトス†は「ふうん?」と水希の方に視線を向けた。
 宴ノ球槌が光を反射し、眩しく輝いている。
「傷つけてもいい、受け止めてくれる人はいる。葬儀の力もその証……居場所を守る手伝いもできるさ。だからもう殺さなくていいんだよ、†タナトス†」
「だったら、『お返し』してもいいってことかい?」
 空に浮かんでいた無数のカラーボールが、一瞬にして瘴気の花に変わる。
 まずいと察した水希は思わず表情を歪める。
 だが――。
「おいちょっと待て†タナトス†! これを見ろ!」
 叫んだのは西園寺 レオだった。
レオが突き出してみせたのは過去の人気投票である。

神54票 †タナトス†0票

 そんな「残念な結果」を表示しつつ、「だけどな」とレオは言った。
「お前を心配する者も、気にする者もいた。葬儀を幸福と取る者も不幸と取る者もいた。永遠の死も、もう会えないと思う者もまた会えると真剣に思う者もいた! お前を受け止めてくれてる人はいる! 神はお前の中2センス『は』嫌いらしいがな!」
「いや待って……今、僕はそれに対してどんな反応すればいいの……?」
 戸惑う表情の†タナトス†。
 するとその足元から、ギターの音が鳴り響いた。
 氷堂 藤がDF.クリアエモーションを手に「†タナトス†!」と呼びかける。
「人は明日を切り開いていける。その証明を、これからの貴方に見て欲しい!」
 どうか、人を愛する貴方が「人に明日を預けられない」なんて寂しい事、言わないで。
 その思いを込め藤はギターをかき鳴らす。
 そして、スピネル・サウザントサマーが歌い始める。
(ラスボス戦には最高の音楽が必要だよね?)
 奏でるのは死の神との闇の死闘。
 藤と声を重ね、浮遊ドローンの群れを飛ばして。
 世界を闇が覆い、火が昇り、光が照らすように――。
(だからアタシ達は歌うよ、神と人が共に歩む世界の始まりを)
 ストリングス・ヴァイオリンを手にしたロレッタ・ファーレンハイナーの周囲にはヴィオラ、チェロ、コントラバスなどの弦楽器隊の幻影が出現した。
(素敵な慈愛はあなた様から頂いたもの。この力であなた様を支え、あなた様と人で共に明日を作る。それではいけませんか?)
 狂信者のフラメンコを踊り、ヴァイオリンを奏でるロレッタの足元には炎が纏う。
 思わず見入ってしまった様子の†タナトス†に向けて、このライブが【夜明けの旋律】となるように。
 3人は精一杯彼にアピールを試みた。
 だが――。
「……続きは僕を倒せたら聴かせてもらおうかな。まぁ、きっと無理だろうけど」
 †タナトス†はライブを振り切るように、更に上空へと舞い上がった。
 しかしその後を、無数の鳥の群れが追い立て、†タナトス†の周囲を取り巻いた。
 狛込 めじろが繰り出した幻影である。
「完璧じゃないのに、全部1人でやろうなんて傲慢なんですよ」
 苦痛に顔を歪める†タナトス†を見上げ、めじろは言った。
「なぜ、天使を、民を、周囲を頼らないんですか? 黒神様がいて白神様もいて、皆がいるネヴァーランドを守る方法を……なぜ考えようとしないのですか?!」
「……っ、やってくれるね!」
 †タナトス†は反撃に転じるような素振りを見せた。
 だが、【リトルフルール】の8人はそんな事は想定済みだ。
「そうはさせないウサギさんですよ~!」
「うわぁ?! な、何だぁ??!」
 唐突に†タナトス†の眼の前に飛び出してきたのは両手にバナナを持ったキグルミのウサギ。
 ウサミ 先輩は「わはははは~」と光の尾を引きながら妙な動きで†タナトス†の周囲を飛び回った。
「どーも†タナトス†さん。あ、バナナ食べます?」
「要らないよ! って、ここで食べ始めるの?!」
「うん、そう(もぐもぐ)。バナナ食べて、皮を投げる」
「わぷっ?!」
 あまりの事に油断した†タナトス†はウサミ先輩の投げたバナナの皮を顔面に食らった。
 激高した†タナトス†は空一面にバナナの皮を出現させ――。
「もう怒った! 全員すってんころりんさせてやる!」
「そうはいくか! ウサギ・フラッシュ!」
 バナナ……いや、右手を上げ、ウサミ先輩は†タナトス†に向けて爆音と光を放った。
 視界を奪われる†タナトス†。
 その間に、めじろは他の仲間の攻撃に備えたチャージを完了させていた。
「リーニャちゃん、シャロちゃん、チョコはちゃんと食べた?」
「もちろん! めじろちゃんチョコでパワーアップ完了、だよっ!」
 シャーロット・フルールはそう言うと、「目がぁ目がぁ」と騒ぐ†タナトス†に向け、自分の影を無数の影に変え、伸ばす。
 影に絡め取られた†タナトス†は地上へと引き寄せられ高度を下げるも、激しく抵抗した。
「じたばた……しないんだよ、†タナトス†ちゃん……っ! 降りてきてボクたちと……お話するんだよ……っ!」
「そっ、そうはいくか……! 僕は引っ張りっこで負けたことないんだから……!」
「自殺するとか……っ、そういう変なこと考えてたら……許さないんだよ、†タナトス†ちゃん……!」
 振り切られそうになる中、シャーロットは踏ん張り続けた。
「†タナトス†ちゃんはボクを楽しいって思ってくれたファン……! 生きて……クロスハーモニクスを見て貰うんだから!」
 ぐぐぐぐ……と続く【第15使徒イチゴエル】VS†タナトス†の攻防戦。
 その周囲にアレクス・エメロードがレイ・アルパspec-2とファングトルーパーズを展開した。
(この優男がシャロが救いたい奴ねぇ…ま、どうみてもこの世界、シャロの奴好きそうだからな。…嫉妬じゃねぇぞ?)
 アレクスの目的は†タナトス†の逃亡の阻止であった。
 †タナトス†がシャロの影を振り切って逃げるようなことがあっては困るのだ。
(まだその「ダンス」を続けるのかい? ハルモニアは人の意思を伝えるのがその本懐……お前が奴に「楽しい」をもっと見て欲しいってんなら、全力で踊ってこいシャロ。道具の俺がサポートしてやる)
 シャーロットと†タナトス†の工房を見守るアレクス。
 そこへ、ミーニャ・クラフレットもストラトストウエンジェルを飛ばし、†タナトス†の集中力を欠くべく、ちくちくと邪魔をした。
「許せよ、†タナトス†。これも世界平和と†タナトス†生存のためだ」
「ミーニャ、私もやるよ! このままじゃシャロちゃんが力負けしちゃう……!」
 リーニャ・クラフレットは意を決し、†タナトス†の周囲を球体空間で包み込み、捕らえた。
 そしてそこにミーニャがユニゾンし、リーニャの奥義に帯電と落雷の効果を付与する。
【第1059使徒アテンドエル】の名にかけて……†タナトス†さんにもライブに参加してもらうよ!」
「決めろ、リー姉!」
 リーニャの傍らに、ミーニャの幻影が揺らぎ、放たれる≪戦礼≫世界葬。
 闇の塊のような球体空間の中で、†タナトス†は抗重力と共に雷のダメージを受けた。
 しかしこれでも、†タナトス†はまだ力を失ってはいなかった。
「そろそろ……本気になれって事かな? みんながそれを望むなら……思いっきりやったっていいんだよ?」
 †タナトス†が絡みついた影を振り払い、翼を大きく打ち付ける。
 空から何か仕掛けるつもりなのか。
 オリヴィエ・ジェルムはそれを逃さず、空へと舞い上がった。
【第24使徒ケイビエル】の名にかけて。†タナトス†さまと、世界を守れる力量を、示す」
 フェアリーチャームを振り上げ、オリヴィエは†タナトス†の頭上へとそれを打ち下ろす。
 不意打ちを食らった†タナトス†は地上へと叩きつけられながらも、オリヴィエの鞭を掴んだ。
「僕を……飛ばせない気かな?」
「病人は周囲に甘えて、寝て待ってればいいの。貴方が安心して自堕落にゲームや趣味に没頭できるように、僕が…貴方と、貴方が生きる世界を守るから」
 そうしたら、僕のこと、好きになってくれる?
 首をかしげるオリヴィエ。
 だが、†タナトス†は鞭を振り払うと、「ダメだよ」と口にした。
「僕はまだ、ここで終われない。君達じゃ、この世界は……」
「まぁだそんな事言ってるの?!」
 スパァン、と†タナトス†の背後からハリセンを振り下ろしたのは梧 双葉だった。
 それは、「妖精の契約書」をハリセン状に折ったものだった。
「死の神†タナトス†。これが我が姫・シャーロットの意見よ。ちょっとは伝わったかしら?」
「……っ、だったら僕も君達に意見を聞いて欲しいな!」
 †タナトス†はそう言うと、右手に出現したハリセンで双葉を叩き、大きく距離をとった。
 そういう態度なのか、なるほど。
 双葉はハリセンを手放し、今度は「聖剣シャーロットカリバー」を手にした。
「シャロちゃん、わたしに力を……あいつは私がぶん殴るわ」
「あっ、もしかしてすっごい怒ってる?」
 †タナトス†は真顔で剣を振り回す双葉をハリセンでいなしながら後ろに下がった。
 すると、その背後に密かに回り込んでいた者がいた。
「そうだ……†タナトス†。シリアスになってもらっては困る」
 ノノ ネネがアルミケースから取り出したのは、分厚い札の束。
 それを、ノノは†タナトス†の頭上へと強かに打ち下ろした。
(コピー攻撃にリソースを割かせて、こちらが畳みかけるタイミングで相手がガス欠を引き起こせばいい)
 というのがノノの考えだった。
 強力な攻撃をコピーされると厄介だが、これくらいならば……。
 しかし、†タナトス†はくるりとノノの方を見ると、ニヤリと笑った。
「お札……かぁ、僕だったら、こうするかな」
 そう言うが早いか、†タナトス†の周囲には何万枚もの札が吹き荒れ、嵐となって渦を巻いた。
 神の力を使えば、こんなことも可能なのだ。
 渦巻く札の群れは、アイドルたちを容易に近づけない程の威力を持っていた。
「お金で身を滅ぼす人がいるのはどこの世界でも共通だよね……まぁ、こんな事をするのも僕くらいなものだけど」
「くっ……やっぱりダメだったか!」
 アルミケースを盾に耐えるノノと、高らかに笑う†タナトス†。
 しかし、大量の札を出現させたことは思わぬ結果を生んだ。
「お札……ですか。これは、『よくくっつきそう』ですねぇ」
 エイリル・プルフーは吹き荒れる札の嵐に耐えながら、ニヤリと笑った。
 そして、†タナトス†に向かって、闘いの決定打ともいうべき攻撃を仕掛けた。
「これであなたは、もう空へは飛べませんよ、†タナトス†」
 放たれたのは、大きな蜘蛛の巣状に変えた血の魔力。
 それが†タナトス†の翼へと絡みつき、更に周囲の札をべたべたと貼り付けた。
「嘘っ……だろ?! こんなの反則……!」
 次々に札が張り付き、重くなっていく翼。
 それをどうにか引き剥がそうともがく†タナトス†。
 その前に立った行坂 貫は「もうやめておけよ」と†タナトス†に声をかけた。
「みんな、お前にもうこれ以上殺してほしくないし、死んでほしくもないんだよ」
 紫苑の鞭で逆巻く札を振り払いながら【第55使徒モットアツクナレエル】は語りかける。
「お前が間違ってるとは言わない。だがお前のやり方は犠牲が多すぎる」
「分かってるよ、そんなの」
 ため息をつき、†タナトス†は言った。
 そうだな、と貫は返した。
「分かっててやってきたんだよな、ずっと。だったら……俺達のやり方の結果が出るまで只待ってくれるだけで良い。時間が無いなら時間ぐらい稼ぐ。駄目だった時は俺がお前を殺してやるから……生きろ、世界を守るために」
「ははは、面白いことをいうね」
 †タナトス†はそう言うと、重い翼を無理矢理に羽ばたかせた。
 力を振り絞り、こびり付いた札を真っ黒なバラの花に変え、吹き飛ばす。
「君達に、神(この僕)が殺せるのかい?」
 吹き荒れる黒い花吹雪。
 だが、そこにはもう勢いがなく、†タナトス†の体力が残っていないのは明らかだった。
「まだ何かするつもりなん? もう、ええかげんにしいや、†タナトス†はん」
 朝霞 枢は†タナトス†の周囲へと黒い花びらを洗い流すように血の魔力の赤い雨を降らせた。
 雨は静かに†タナトス†の力を奪っていく。
「神様殺して自分も殺して……まだそんな事言うんやったら、うちが許さへんよ」
 うちが闇のアイドルていうなら、この「怒り」と†タナトス†はんに生きてほしいいう「欲」を力に変えてみせる。
 枢はゆっくりと†タナトス†に歩み寄った。
「うちは†タナトス†はんが好きて言うた。神様も嫌いやない言うてたて、ちゃんと伝えた。それ……覚えててくれるんやったら」
 人間を、信じて。
 泣きそうな顔をする枢の顔を、†タナトス†は黙って見つめていた。
 だがやがて、大きくため息をついた。
「分かった分かった、もう……僕の負けだよ」
 †タナトス†はそう言うと、両手を上に上げ、その場に仰向けに倒れた。
「君達の言うとおりにしようじゃないか」
 全身で降参の意思を示す、「悪神」。
 その顔は、思い切りスポーツをし終えたような、そんな表情にも見えた。
ページの先頭に戻る