夢見る少女のエキサイト・クリスマス
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【広がりゆく夢の世界~ミニノーマとミニ闇レーヴェとのバトル】
リンアレルのパーティールームの窓は真っ暗だったが、すでに少しずつ、夢の世界は広がり始めていた――
「ヘンな雪」
千夏 水希はひとり、高台で、夜空に向けて手を伸ばす。
今しがた降って来た雪は、確かに手のひらで溶けていくのに、なぜか温かい。
眼下に広がるは、石造りの街並み。
等間隔のガス灯はロマンティックで美しく、その合間をカップル達が歩いている。
街は、水希のいるこの一画以外は何も存在していない。
まだ未完成なのか、この一画は実はどこかにはめこむパーツの一つなのか、辺りは真っ暗い虚無になっている。
「ヘンな街だけど、ま、いっか」
水希は、友人から貰った【愛闇】を歌う。
♪ 仄暗い場所に独り 誰も居ない
♪ 何も聞こえない 自分の足すら見えない
ポン! ポンポンポン!
辺りに舞い落ちる温かい雪が、音を立ててミニノーマやミニ闇レーヴェに変身していく。
クロノスの啓示が、この世界を暗く冷たいものに戻そうとしているのだろう。
ミニノーマもミニ闇レーヴェも、小さいながらも悪役オーラを放ちつつ、ガス灯に冷たい息を吹きかけ、消し回っている。
カップル達はまだその存在に気づかないらしく、幸せそうにしたままだ。
(カップル達もノーマ達も楽しそう)
――鬱陶しくも、羨ましい。
自分のそんな気持ちが嫌になり、水希はますます歌に専念する。
♪ ぶつけたい気持ちは張り裂けそうで
♪ だからこそ壊れてしまいそうで
♪ 世界を壊す前に 私は闇に還る
歌いながら胸に抱くのは、水希だけが知っている物語。
(元彼は、実家に帰って結婚した。この物語は、終わらせないといけないんだ)
想いを秘めた水希が【ソング・オブ・フォース】
生命力をまぶしく煌めく魔法の光条に変え、辺りを薙ぎ払っていく。
ミニノーマを、ミニ闇レーヴェを……
「きゃあっ!」
「大丈夫かっ?」
水希は無意識だったが、居合わせているカップル達までが薙ぎ払われそうになっていた。
気づかないらしい水希は空に手を伸ばし、さらに歌う。
♪ この手に重ねてくれる手を求め
♪ ただわたしはうたう
ミニサイズの悪役達は水希の【ソング・オブ・フォース】によってガンガン薙ぎ払われていく。
カップル達はセント・ニコラウスのご加護があり、無事だった。
それでも怖くないわけがなく、手を取り合って、いたわり合って、その場を乗り越えていった。
――誰かが、この手を取ってくれますように……
歌い終わった水希はいつの間にか周辺のミニノーマとミニ闇レーヴェを殲滅し、さらに(不本意かも知れないが)カップル達の絆を深めていた。
いま、何もなかったうす闇に、カンタレーヴェの街によくある、白壁の家が現れた。
庭先には冬の花が咲き、家の中から楽しそうな声がする。
住人達が、クリスマスの支度にいそしんでいるのだ。
ひらひらと温かい雪が降り始めた。
ポン! ポンポン!
そして降る雪が、ミニノーマとミニ闇レーヴェに変わり、わらわらと好き勝手に動き出した。
ノーマ達は家を素通りし、吹き消すべき灯りを探し、辺りをうろうろしている。
家の中はクリスマスの飾りがなされ、ニコラウスの加護に溢れている。
そのおかげでノーマ達はまだ、家の中の暖炉や灯りを察知できない。
(地球様のお告げ通り、大切な灯りを護りましょう)
天鹿児 神子は両手を広げ、いつもの言葉を口にしようと目を閉じた。
しかし、それはあっけなく阻止された。
「くひひ」
「がおー!」
やるべきイタズラを見つけられないでいたミニノーマとミニ闇レーヴェが、寄ってたかって神子に攻撃を繰り出してきたのだ。
神谷 春人と乃地 はくま、そしてはくまの連れの星獣ホワイトが駆けつけて来た。
「せっかく引きつけたんだ。散らす前に倒せばいい」
はくまと春人は手近にいるミニノーマ達を叩いた。
彼らは大して強くない。
数回の攻撃ですぐにぱふんぱふんと煙になってしまう。
それでも数の多さから取りこぼしは防げず、遠くへ逃げようとするものもいたが……
「ホワイト、頼んだよ」
「チュッ!」
はくまの頭から飛び降りながら、ホワイトが意気揚々と【たねミサイル】を発射する。
神子もホワイトに続き【マナ・バレット】の小さな衝撃波を連打。
彼らの逃亡を許さない。
連携プレイが功を奏し、神子達はこの場をおさめることが出来た。
「地球様、ありがとうございました。感謝いたします」
両手を広げ空を仰ぐ神子の後ろでは、暖かく幸せそうな家の灯りが輝いている。
黒瀬 心美は、ファラムートと共に、石畳が敷き詰められた広い場所にいる。
辺りは薄暗く、何があるのかよく見えない。
今まさに温かい雪が降り始め、雪はミニノーマとミニ闇レーヴェへと姿を変え始めた。
目の前に突然、野外ステージと幾筋ものスポットライトが現れた。
辺りの様子が少しだけ見えるようになった。
「ここってもしかして、イクスピナ?」
だが、本来あるべき建物たちはまったく見当たらない。
この世界も、未完成なカケラなのだ。
現れたミニノーマ達は、スポットライトを消そうと、ステージに群がっていく。
「まずはアタシが相手だよ。ったく。はた迷惑なヤツらだね」
ミニノーマ達はあまりものを考えていないらしく、心美に言われるがまま、わらわらと周りに集まって来た。
心美は漆黒の槍【インヴァイオラブルスピア】をぶんぶん振り回して【アレスホイール】。
その直接攻撃を受ける者もいたが、遠ざけられるだけで済むものも多い。
そこで追い打ちに【ウキ&ヤシ☆ナパームトルネード】
リング状に組み合わさって移動するウキマルとヤシマルの回転攻撃とヤシマルの実の小爆発で、ミニノーマ達をバッタバッタと倒していく。
しかしごちゃごちゃと数が多く、一掃するのは困難だった。
「師匠、このままじゃキリがない。
コイツらをなるべく一か所に集められる?」
「確かに。集めれば一掃できるのう」
ファラムートは少し考え、やがて簡単な魔法を放った。
野外ステージの上に、暖炉とクリスマスツリー、ご馳走の乗ったテーブルをしつらえたのだ。
イタズラ好きの小さな悪役達は、意地悪い笑みを浮かべ、わらわらとステージに集まると、幸せそうな景色を壊しにかかった。
全員が集まったところで心美は大きくジャンプ。
漆黒の槍【インヴァイオラブルスピア】に【ヒートインパクト】の灼熱の炎を纏わせる。
「でやぁっ!」
ズン!
炎の矢が、流れ星のようにステージへ落ちる。
と同時に、槍が纏っていた【ヒートインパクト】の炎から複数の衝撃波が起きる。
こうしてすべては、一瞬で片付いた。
「この景色……ちょっとカンタレーヴェっぽい?」
虹村 歌音は神獣アルカの上にいた。
アルカは【神獣覚醒】によって大きく成長しており、歌音とウィリアム・ヘルツハフトを乗せて飛翔している。
辺りは薄暗く、見える景色は乏しい。
草木が豊かに生え、丘が広がっているだけだ。
しかし、歌音はその更地にどこか懐かしさを感じている。
「確かにカンタレーヴェの王城に似ている気がする。
建物を全てをとっぱらったら、こんな風になるのではないか?」
「ね、きっとそうだよ。ウィルさんが故郷を見間違えるわけないもん」
歌音は、真後ろでアルカのたずなを握っているウィリアムを振り返る。
先ほどから降り始めた雪は、どんどんミニノーマとミニ闇レーヴェとなって、更地をわらわらと走り回っている。
雪と同時に、あちこちにキャンドルが現れ、光を放ち辺りを優しく照らしたが、ミニノーマ達は我先にと駆け寄ってすぐにそれらを吹き消してしまう。
今またキャンドルが出現し、ミニノーマ達が集まって来た。
歌音は身を乗り出し、そのノーマ密集地帯を狙って【氷刃乱舞】。
無数の小さな氷の刃で彼らを攻撃する。
「くひひ~っ」
大して強くないミニノーマ達は、すぐにやっつけられて煙になる。
しかし、後から後から降る雪がミニノーマとミニ闇レーヴェになってしまい収拾がつかない。
「がおー!」
ミニ闇レーヴェ達が、集団になってアルカに接近してきた。
ウィリアムは【シールドオブフェイス】。
捨て身の覚悟で歌音を守れば、その信念がカウンター攻撃となってミニ闇レーヴェを襲う。
さらにウィリアムはたずなを取りながら【ブレスウェイブ】や【レイジオブビースト】の衝撃波を放ち、彼らをどんどん倒していく。
リーニャ・クラフレットは翼を羽ばたかせ、【ゲイルインパクト】の衝撃波を放ちながら飛翔している。
弱いミニノーマ達は、その衝撃だけでも大ダメージを受ける。
眼下には、イタズラミニノーマ達が、せっかく灯ったキャンドルを吹き消しているのが見える。
(元気になれそーなリンアレルさんの邪魔をするなんて、酷いんだよ!)
リーニャはぎゅっと口を結ぶと、力強く【ヴェイン・オブ・ルーラー】
「今日はクリスマス! 皆が楽しめる日じゃなきゃダメなの!」
翼を広げ、多数の羽根を周囲に散らした後、それをミニノーマ達に向けて飛ばす。
到達した羽根はミニノーマやら地面やら……何かに触れるたびに光の爆発を起こし、彼らをどんどん倒していく。
「アレクちゃん、よろしく♪」
【マナエグザート】で魔法攻撃力を高めたシャーロット・フルールもまた、【ゲイルインパクト】の衝撃波を放ちながら、空へ飛び立った。
「了解だ、シャロ」
アレクス・エメロードは、上昇するシャーロットを見守り空を見上げる。
ぐるりと視線を動かすと、歌音達、リーニャ、そしてシャーロット、皆のことがよく見えた。
ばらばらの方向から、地表を狙っているがよく判る。
「さて、俺もおっぱじめるか」
アレクスもまた、翼を広げ【ゲイルインパクト】
しかし飛翔はせず、羽ばたきの衝撃波を、より近くから彼らにぶつけていく。
「ほら来いよ。遊んでやっから」
敵意むき出しでたっぷり挑発すると、不意を打つように、集団化したミニ闇レーヴェが上空からアレクスを狙って急降下して来た。
アレクスは、時空を歪めて攻撃を届かなくさせる魔法の盾【ディストーションシールド】で、軽々とガードして、せせら笑う。
「けけけ。手ごたえなさすぎ。退屈だぜ」
憤慨した様子のミニノーマとミニ闇レーベが、仲間を呼び合いどんどん集結して来た。
「わ、たんま! ちょい、集めすぎたかも」
アレクスは慌てて彼らに背を向け逃げ走した。
「くひひ」
単純なミニノーマ達は、これが罠だなんて、これっぽっちも疑わない。
勝ち誇った顔でアレクスを追い始める。
後から後から集まって来て、周辺一帯、すべてのミニノーマとミニ闇レーヴェが集結した。
「アレクちゃん、すごいすごい」
はしゃいでいるシャーロットの頭上を、大きな影が頭上を通り過ぎた。
『何かお手伝いできればと思い、参りました』
「レーヴェちゃん!」
シャーロットの頭上には、本物の方のきれいなレーヴェがいた。
きれいなレーヴェは、シャーロットに告白した。
『思うままに豪快に……そんなワイルドな姿に憧れていた頃もありました……』
「ふにゅ?」
『だからあの時は、あんな姿になってしまったのかもしれませんね』
レーヴェは心なしかシュンとしょげてて、そして恥ずかしそうだ。
シャーロットは優しく微笑んだあと、キラリと目を輝かせる。
「レーヴェちゃん、大丈夫大丈夫。すぐに全消ししちゃうから♪
見てて、ボクらエンシェント三人娘の、究極魔法!」
歌音とリーニャに向けて大きく叫んだ。
「ウィルさんアルカちゃん、お願い!」
歌音は神獣アルカを撫でて【スカイハイ】
その声を借り、周囲に光の波動を放つ。
たずなを握っているウィリアムは、効果的に波動が敵に当たるようアルカを操作する。
「かのんちゃん、ナイス☆」
シャーロットは【ディストーション・ストーム】の膨大な魔力にて、空間を渦のように歪める。
ミニノーマやミニ闇レーヴェは、あっけなくその渦にねじ切られていく。
かなりの数が減ったが、まだ少し地上に残っているのが見えた。
「私の出番なの!」
リーニャはアレクスのそばに降り立つとミニ敵たちを一瞥し、
「ふふん。私も遊んであげるわ? なの」
精いっぱい高飛車に微笑んでみせる。
「ぷっ! 白いの、それで挑発してるつもりか?」
「んもー! 笑わないの!」
リーニャは少しだけぷんすかしながら【ライトニングスピア】を発動。
雷を槍に変え、ぐんぐん振り回し、群がって来るミニ敵たちをどんどん倒していく。
そして最後の仕上げに、リーニャは手にしていたライトニングスピアを放り投げる。
ドーン!
スピアが地面に刺さると落雷のような衝撃が起き、全てのミニノーマとミニ闇レーヴェは殲滅した。
まだうす暗い大空を、レーヴェが悠々と旋回している。
キャンドルが、1本、また1本と増えていく。
雪はもう、ノーマや闇レーヴェに変わることもなく、
「メリークリスマス」
五人は地上に集結し、笑顔と共にその言葉を交わし合う。