フェスタのスプリング・ワンデイ!
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リアクション
【2】
「まだまだたくさんありますので、ちょっとだけ待ってくださいね!」
並べた途端、あっという間になくなってしまった「花見ちらし寿司」の追加分を手早く仕込み始める紫月 悠里。
蟹のほぐし身やタケノコを混ぜた酢飯に、桜をイメージした桜でんぶを全体にまぶす。 刻み海苔と錦糸卵をちらして中央に大葉を乗せ、その上にイクラをそっと置けば宝石箱のような「花見ちらし寿司」が完成した。
「配るのは僕たちに任せてくれ」
悠里の負担を軽くするため、青井 星一郎とレイニィが手伝いを申し出てくれた。
「青井さんありがとうございます!」
悠里はその間に、焼けたばかりのスポンジケーキをオーブンから取り出し、桜の花びらの形に整えた。
春に旬を迎えるキウイフルーツや八朔をサンドして、ほろ苦いチョコクリームを塗る。
苺をベースにした甘さ控えめの生クリームでたっぷりと表面を覆い、その上に甘酸っぱい桜ジャムを乗せると、見事な「チェリーブロッサムケーキ」が観客たちの目を楽しませた。
「春は別れと出会いの季節です。それを全て、ちらしとケーキに込めました」
優しい色合いは、見ていてどこかほっとする懐かしさを思わせる――。
「春にぴったりな一皿だな。味もしつこくなくて、いくらでも食べられる」
「ほんとねーーふわふわして、とても不思議な食感……」
悠里のちらしとケーキを一口食べた星一郎とレイニィの口からは、思わず本音が出たのだった。
「オレたちも負けていられないな」
「そうね! とびっきりのスイーツを♪ 作りましょ!」
2人が作ろうとしているのは、「桜ゼリーとナタデココと杏仁豆腐入りフルーツポンチ」。
鍋に砂糖を入れて沸騰させ、水を少しずつ足しながら食紅を入れて着色させる。
星一郎は沸騰する寸前で火を止めて型に流し込み、塩抜きをした桜の塩漬けを沈めて金粉を散らし、冷蔵庫で冷やし固める。
「きれい……何だか、もったいなくて食べられないね」
桜を閉じ込めたゼリーは、見ているだけで思わず顔がほころんでしまう。
そして型から抜いたゼリーにナタデココと杏仁豆腐、そしてフルーツを盛ってさわやかに仕上げる。
杏仁豆腐は既製品ではなく、レイニィが一から作り上げた渾身の一品だ。
仕上がりが気になっていた彼女に対して、
「お客さんに出す前に、お互いが作ったものを試食して味を確かめないか?」
星一郎が声をかける。
レイニィは黙ったまま頷いた。
桜ゼリーは桜の塩気と砂糖の甘さが口の中で混ざり合い、喉越しも冷たくて食べやすい。
「……ど、どう?」
「これなら大丈夫だ!」
ほっと胸を撫で下ろしたしたレイニィ。
星一郎は、【目覚めのクロスコード】の後に【バレエシャッセ】を決めると、凛々しい【エスクワイアステップ】で出来上がったスイーツを観客たちへ持って行った。
2人のデザートは、わずか20秒で売り切れるという最短記録を叩き出したのだった。
「桜ゼリー、食べてみたかったな」
水と小麦粉を混ぜていた向有 ガイアは、観客たちが騒いでいる桜ゼリーを横目で見ていた。
彼が作っているのは、江戸風の巻きが美しい長命寺という名の桜餅。
「山菜スムージーならまだけっこう残ってるみたいだけど・・・?」
照美 瑠羽はPRESENT SLYMEたちの様子を遠く眺める。
ちらほらと観客たちの姿は見えるが、随分と在庫が残っている模様……。
2人で協力しながら、砂糖と桜の花を使った天然のシロップを混ぜて、深みのある色付けを行う。
「山菜スムージー…あ~、ピンポイントに微妙で新しいものを…。プレスラのアイディアには、いつもいつも驚かされるよ」
「山菜をスムージーにするって発想、なかなかないですよね。何というインパクト……私たちも負けてられませんね!」
ガイアは水と小麦粉をよく混ぜたものを平鍋で薄く焼き、桜餅の生地を作っていった。
俵型に丸めたこしあんを、焼けた生地でクルッとまとめて筒状に丸め込む。
「よし、これでいいかな♪ はい完成!」
ガイアが塩抜きした桜の葉の塩漬けで全体を巻いて、皿に盛り付けた。
瑠羽が丸めているのも桜餅だが、こちらは道明寺という。
団子状に丸めたこしあんを、道明寺粉と水を練り合わせた生地で包み込んで饅頭のような感じに仕上げる。
塩抜きした桜の葉の塩漬けで巻けば、長命寺とは対照的な上方風、道明寺が完成した。
ガイアと同じ皿に一つずつ盛り付けてゆき、
「桜餅~東西クロスセッション~!!」
2人同時に声を上げてポーズを決めると、一気に拍手が起こった。
「さぁ、ご賞味あれ!」
観客たちは桜の葉を食べるか食べないかで白熱の議論となり、その決着はつかないようだったが、大いに楽しい一時を過ごした。
カガミ・クアールと空花 凛菜のキッチンでは男性の観客たちが異様な盛り上がりを見せていた。
カガミがクッキーの生地をこねているのだが、腕を動かす度に135cmのバストが揺れ動き、男性たちの視線を釘付けにする。
「んーっ……」
だが、カガミはそんなことなど露ほども知らない様子で生地をこね続ける。
はちきれそうなブラウスのボタンは、今にも弾け飛んでしまいそうだ。
「はいっ、ではここで桜を入れちゃいます!」
生地に桜餡を練り込み、8回折り重ねて4cm各に切り、桜の花の塩漬けを上に乗せてオーブンで焼く。
天板をオーブンに入れる際、腰上までスリットのあるスカートの中を一目覗こうと、更に男性たちが集まって来た。
「桜餡のパイ風クッキー桜の花の塩漬けを添えて~焼きたてあつあつです~」
仕上げとしてチェリー味のホイップクリームを添える。
鼻の頭についたクリームをペロンとなめたカガミに、男性たちからなぜかどよめきが起こった。
「え??」
太ももを伝う黒い紐の正体……。
「やぁーーーん、紐パンほどけてるぅぅ~!!」
カガミ自身、胸から下は見えないのだが、紐のくすぐったい感覚で気づいたらしい。
しゃがみこんだカガミの前にすっと歩み酔ったのは、筍を両手に持った空花 凛菜だった。
「新鮮な筍はとても美味しいです。柔らかい最高級の朝堀り筍を是非、皆さんに味わっていただきたいです」
その名のとおり、凛とした佇まいは場の空気を一変させ、カガミは隙を見て紐を結び直したらしい。
空花 凛菜と目くばせをして、ひとまず安心していた。
凛菜は筍を一度軽く湯がき、さくさくと切り分けると星型やハート型などの可愛らしい形で抜いていく。
シロップと少量のラム酒と共に浅く煮込むと、【スイートサプライズ】の後に【雑学披露】も活用して、素材の風味を最大限に活かした「タケノコスィーツ」を完成させた。
「生でもほのかな甘みがありますが……料理対決ですので、もう一工夫してみました」
きれいに盛られた「タケノコスィーツ」を持ってはんなりと微笑む姿は、そのままグラビアの表紙を飾れそうなほど可憐だった。
「タケノコスィーツ」はおおーっという観客の歓声と共にたくさん振る舞われ、PRESENT SLYMEは結局、アイドルたちに一勝もできなかったのである。
「――勝負あり!!」
Mr.ウィンターのキレのある声が響き渡り、ガクッとうなだれるPRESENT SLYMEたち。
だが、負けたにも関わらず、その表情はどこか穏やかだった。


