フェスタのスプリング・ワンデイ!
リアクション公開中!

リアクション
【1】
花見会場ではアイランド型の簡易キッチンが設置され、その周囲を観客たちがぐるりと取り囲んでいた。
アイドルたちの料理対決が間近で見られるだけでなく、観客たちにも出来上がった料理が振る舞われるということで集客は後を絶たない。
――オブジェのように飾られた色とりどりの春野菜は、眺めているだけでも食欲中枢が刺激される。
先ほど、まず手始めにPRESENT SLIMEが作った個性的な料理や飲み物はほんの数秒でなくなってしまったが、観客たちの評判は微妙だった。
特に、舌と喉にあらゆる素材が絡みついて離れない「山菜スムージー」は、そこかしこで物議を醸している様子。
バラエティ番組の名物司会者であるMr.ウィンターの司会によって、観客たちからは賑やかな笑い声が起こる。
「むぅ……プレスラさん、狙い過ぎるのも如何なものかな?」
「いちご味の納豆」を試食した桐山 撫子が、未知の味との遭遇に思わず目を細める。
「チョコ味のカツオのタタキも……なかなか個性的な味だわ……」
げんなりした表情のウィンダム・プロミスリングも、溜め息をつく。
2人は水で一気に流し込んでから味覚を整え、腕まくりをして早速、料理の準備に取りかかった。
撫子とウィンダムが作ろうとしているものは、「蒸し鶏と水菜のトーストサンド」。
水菜のシャキシャキ感を損なわず、なおかつパンにできるだけ水気を吸わせないよう仕上げるのがコツとも言える。
「鶏といえば胸肉だよね! ヘルシーだしやわらかいし♪」
「そうね。そして今こそ……ピラニアの雪辱を果たす! 美味しい料理を提供するのも、アイドルの務めの一つよね♪」
お互いにガッツポーズを決めた撫子とウィンダムは、早速調理に取りかかった。
まず撫子が手際よく胸肉を切り裂き、全体に塩胡椒と山椒をまぶしてホイルに包む。
水を少し張ったフライパンに並べて蓋をすると、人参とカブを千切りにし、きれいに洗った水菜も食べやすい大きさにカット。
それぞれをさっと塩茹でした後、冷水にさらしてキッチンペーパーで水気を拭き取る。
「白胡麻とレモンを少々、っと」
ウィンダムは蒸し上がった胸肉と野菜に白胡麻とレモン汁、それからオリーブオイルをかけてから混ぜ合わせていった。
「パンはこれね! 具材はあっさりしてるから……パンの主張が強くならないようにしなくちゃ」
有名なメーカーのパンを取り出し、ウィンダムが素早く2cmサイズにカットする。
薄くバターを塗って軽く焼いてから具材をたっぷりはさむと、素材の食感が楽しい「蒸し鶏と水菜のトーストサンド」が完成したのだった。
「はーい、お待たせさま♪ 出来上がりましたー!!」
撫子とウィンダムのキッチン周りにはすでに長蛇の列が出来ており、その様子をPRESENT SLIMEのメンバーたちは唖然としながら見つめていた。
「この勝負、「蒸し鶏と水菜のトーストサンド」の圧勝と言えるね。しかーし、PRESENT SLIMEも善処したーー!」
Mr.ウィンターが勝敗を分ける宣告をすると、辺りは拍手で包まれた。
向かい側のキッチンで同じく観客たちの注目を集めていたのは、狛込 めじろだった。
カゴ一杯に盛られた新鮮な春野菜を全て一口サイズにカットし終えためじろは、あらかじめ余熱で温めておいたオーブンの中を確認した。
「準備万端ですね!」
フライパンにバターを入れ、野菜とベーコンなどを投入して更に絡め合わせる。
【フェスミルク】を数回に分けて少しずつ入れながら、全体的なバランスを見るめじろの手つきは、なかなか手慣れている。
「これをオーブンに入れて……っと。230度で25分、長すぎずちょうどいい感じですね」
焼き上がったグラタンは、真っ白なベシャメルソースととろけたチーズがふんわりとやさしい湯気を漂わせていた。
雪のようになっている部分をスプーンで割ると、中からブロッコリーや春キャベツの鮮やかな緑色が思わず食欲をそそった。
花の形になっているジャガイモやニンジンも、グラタンを彩る豊かな食材として華を添えていた。
「この【フェイクブラッド】で、魔法をかけてあげますよ」
めじろがキッチンの周りに集まっていた子供たちにやさしく声をかけると、グラタンはあっという間にピンク色へとその色を変化させた。
「わああ……!」
子供たちの歓声が湧き起こり、その声を聞きつけた観客たちが更に近づいてくる。
「これは流石としか言いようがない! まさに春を操る神秘の力!! アイドルの圧倒的勝利!」
Mr.ウィンターも思わず興奮ぎみに、声が一際大きくなる。
様々なアイデアがふんだんに取り入れられた春野菜のグラタンは、調理時間よりも圧倒的に短いわずか数分でなくなってしまった
現時点の集客率において、アイドルたちに敗北を喫していたPRESENT SLIMEのメンバーたちだったが、それでも負けじと「山菜スムージー」を作り続けていた。
中には変わった趣向の観客も存在するため、今のところ閑古鳥が鳴く状態には陥っていない。
山菜をすりおろした独特の匂いが充満していたが、それをかき消すようなスパイシーな香りが漂い始めた。
「光凛、カレーグラタンはどう?」
世良 延寿がカットした果物を鍋に投入する。
ぐつぐつと煮えながら、具材のすべてをゆっくりと溶かし込んでいくカレーはエキゾチックな香りを放って観客たちの嗅覚を刺激する。
まだ完成前だというのに、光凛と延寿の周辺には「待ち時間60分」というプレートを持った臨時の人員が配置されるほどの並びようだ。
「あと少しでおーわり! 自分たちで作っておいて言うのもどうかなって思うんだけど……」
光凛は思わず延寿の大きな瞳を覗き込む。
「うん、どっちも食べたいよね!」
春の果物を使ったフルーツカレーは、程良い辛さに抑えた甘口タイプ。
世代を問わず、気軽に食べられる一品だ。
ちらちらとこちらの様子をうかがうPRESENT SLIMEに向かって、
「ほら、プレスラのみんなも一緒に食べよう!」
と、延寿が【エンジェルスマイル】で声をかけた。
「え? え……!? た、食べていいの?」
山のようなドクダミやぜんまいの入った容器を持ったまま、PRESENT SLIMEたちはぽかんと口を開けている。
「みんなと一緒に食べるからおいしいんだよ。……ね、光凛?」
ウィンクをして見せた延寿。
「うんうん……って、あつッッ!!」
熱々のグラタン皿を天板に上に並べている最中に、光凛は手を触れてしまったようで半泣き状態だ。
いつの間にか、料理対決はぴりぴりしたムードから和やかな雰囲気へと変わり始めていた。
自分たちの料理を食べたすべての人々が笑顔になる――それこそが、延寿の望んでいたものだった。
一方、湯上谷 潮音と梧 双葉がせわしく動き回るキッチンは他とは打って変わった様子。
みりんや日本酒、醤油など和風の調味料がたくさん並べられ、コンロではいくつもの鍋が熱い湯気を上げている。
潮音と双葉が作っているのは、「鰆の西京焼き」だ。
「魚偏に春と書く鰆はまさに春の魚。――いい輝きをしてるわ」
2人は手分けして新鮮な鰆を分厚い切り身にし、続いて潮音が西京味噌と煮切り日本酒、そして酒粕をふんだんに使った中に入れて味を染み込ませる。
双葉との共同作業のおかげで、調理は手際よく進んでいる。
「もっともっと、おいしくなりますように……♪」
潮音は鰆とは別に、湯がいた取れたての筍も一緒に漬け込んでいった。
それらをやや浅漬けの状態で取り出して、いったん双葉が鰆の味噌をよく拭き取り、潮音は鰆に切れ込みを入れる。
分けておいた味噌と小さめにカットしたフキノトウ、コゴミを混ぜ合わせたものを鰆に詰め、魚焼きグリルで焼き始めた。
「ごはんと一緒に、美味しくいただきたいですね~。はい、ハジカミと大根おろしを添えて……「鰆の西京焼き」の完成です♪」
焼きたての「鰆の西京焼き」を皿に盛った笑顔の潮音に、観客たちから思わず拍手が上がった。
次々と鰆が焼き上がっていく中、双葉は春キャベツと新玉ねぎを千切りにして、プチトマトと半分に切ったゆで卵を添えたサラダを仕上げる。
「そろそろ炊き上がったかな?」
白米が土鍋で炊き上がったのか、勢いよく蒸気が上がった。
そっと蓋を開けて、塩を少々を加えた熱湯でゆっくりとゆがき、薄皮をむいたそら豆を加えてさっくりと混ぜ合わせ、少し蒸らす。
「さぁ、これで皿は全て出揃った。いざ、勝負!!」
気合いが入った双葉の掛け声は、PRESENT SLIMEを圧倒させる勢いだ。
「鰆の西京焼き」によく合う「そら豆ごはん」を我先に食そうと、双葉のキッチン周辺も大盛況だった。――しかも、栄養バランスを考えたサラダつき。
これで人気が出ないはずがない。
和洋折衷の料理に舌鼓を打ちながら、観客たちの談笑はいつまでも途絶えることがなかった。


