秋の祭典! アイランミーティング!
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■フェス乳業プレゼンツ! 君だけのフェスアイスを作ろう! 5
エステル・エルウィングはしゃがみこんでいた。彼女の視線の先には、幼生神獣:ポン太がいる。
「どうした? ポン太もアイスが食べたくなったのか?」
ポン太は尻尾を振った。
「んん~。でも、人間の食べ物はわんこには毒だしなー……なんて心配は不要なのが、このフェスアイス犬まっしぐら味!!」
エステルは立ち上がると、カメラに向かってババンッとオリジナルアイスを突きつけた。
ナレーションを吹き込んでいるのは、カメラの外にいる鳴水立 輝海だ。輝海は今回の収録では助手に徹しており、自分よりもポン太を優先に映してもらう段取りだった。
ポン太がお手で要求しているのを見て、エステルがすかさず犬まっしぐら味を分け与えた。
「一緒に食べようなー。……うぅ~ん、ベストスパイス!!」
ポン太といっしょにグッドスマイルなエステル。カメラ外からは輝海がライブスキル・アイテムをフルに活用し、【FAT・ワンワンアレンジ】を演奏していた。犬の鳴き声を効果的に使った可愛らしい曲が、スタジオ内をグルーヴさせる。
エステルが楽しそうにポン太と戯れている。
(ま、幼生神獣は犬じゃねぇんだけど……可愛いければ許されるよね!)
ポン太のことをすっかり犬可愛がりしている、輝海とエステルなのであった。
チョコアイスにハート型のスプリンクルを大量に振りかけ、芹沢 葉月がオリジナルアイスを完成させた。別に変なものは入れていないので、見た目も味も至って無難なアイスである。
奇抜なのはそのネーミングだった。
「フェスアイス真夜中のラブレター味……。甘くてほろ苦い恋心と、深夜の高揚感をお届けしますっ!」
葉月はオリジナルアイスをひとくち食べると、持ち曲【みっどないと♥症候群(シンドローム)】を演奏した。ときおり青春シャウトで愛を叫んだり、ルミナイトフィーバーで深夜特有の奇行を表現したり、スタンドマイクを両手で包み込んでポエマーな語りを入れたりしていた。
痛々しいけれど一生懸命な恋する乙女のイメージが、ひしひしと伝わってくるパフォーマンスであった。
「んん~~~~あまぁ~~~~~~いいいっ!」
桃城 優希はオリジナルアイス甘甘びっぐばん味を食べて絶叫していた。ついにここにきて、フェスアイスの躍進は宇宙創生までたどり着いたようだ。
抹茶味のアイスを串に刺し、表面にはみたらし団子のタレを塗って、全面にカラフルな金平糖を散りばめた甘甘びっぐばん味。
「ああ、惑星にぶつかった隕石のような金平糖を……タレが! みたらし団子のタレが! 広大な宇宙のように包み込んでいる……っ!」
鉄板トークでアピールしつつ、優希はワンポイントシャインで瞳を輝かせた。
「これでいつでもどこでも糖分チャージ完了! 脳まで響けっ。甘々びっぐばん!!」
優希のパフォーマンスは文字通りビッグバン級のインパクトを生んだが、有城 藍羽が企画したアイスは、さらなる境地を目指そうとしていた。
それは、宇宙がはじまる前の静けさである。
(私のオリジナルアイスは――無味だ)
バニラのままだとか、自然の風味だとか、味付けをしていないとか、そういうレベルの話ではない。藍羽のアイスには本当に味が無いのだ。
藍羽はカメラの前に立つと、無味アイスをスプーンですくい、なにも言わずに食べた。アイスの冷たさ以外には、水の味すらも感じられないほど圧倒的な虚無。その後はただ、微動だにせず、虚空を見つめ、“無”そのものになりきっている。
かつて沈黙を音楽にした作曲家がいた。何もしないという状態にこそ、究極の可能性があるのかもしれない――。
けっきょく藍羽は最後までぴくりとも動かず、見ている者に禅問答を与えたまま、この収録は幕を閉じたのであった。
エステル・エルウィングはしゃがみこんでいた。彼女の視線の先には、幼生神獣:ポン太がいる。
「どうした? ポン太もアイスが食べたくなったのか?」
ポン太は尻尾を振った。
「んん~。でも、人間の食べ物はわんこには毒だしなー……なんて心配は不要なのが、このフェスアイス犬まっしぐら味!!」
エステルは立ち上がると、カメラに向かってババンッとオリジナルアイスを突きつけた。
素材と栄養価にこだわり、人と犬が一緒に楽しめるアイスに仕上げました
フレーバーはささみジャーキーを使用
フェスアイスファンの皆様にもご満足いただける味わいとなっております
フレーバーはささみジャーキーを使用
フェスアイスファンの皆様にもご満足いただける味わいとなっております
ナレーションを吹き込んでいるのは、カメラの外にいる鳴水立 輝海だ。輝海は今回の収録では助手に徹しており、自分よりもポン太を優先に映してもらう段取りだった。
ポン太がお手で要求しているのを見て、エステルがすかさず犬まっしぐら味を分け与えた。
「一緒に食べようなー。……うぅ~ん、ベストスパイス!!」
ポン太といっしょにグッドスマイルなエステル。カメラ外からは輝海がライブスキル・アイテムをフルに活用し、【FAT・ワンワンアレンジ】を演奏していた。犬の鳴き声を効果的に使った可愛らしい曲が、スタジオ内をグルーヴさせる。
きみといっしょが ベストスパイス
もっとおいしい ずっとたのしい フェスアイス♪
もっとおいしい ずっとたのしい フェスアイス♪
エステルが楽しそうにポン太と戯れている。
(ま、幼生神獣は犬じゃねぇんだけど……可愛いければ許されるよね!)
ポン太のことをすっかり犬可愛がりしている、輝海とエステルなのであった。
チョコアイスにハート型のスプリンクルを大量に振りかけ、芹沢 葉月がオリジナルアイスを完成させた。別に変なものは入れていないので、見た目も味も至って無難なアイスである。
奇抜なのはそのネーミングだった。
「フェスアイス真夜中のラブレター味……。甘くてほろ苦い恋心と、深夜の高揚感をお届けしますっ!」
葉月はオリジナルアイスをひとくち食べると、持ち曲【みっどないと♥症候群(シンドローム)】を演奏した。ときおり青春シャウトで愛を叫んだり、ルミナイトフィーバーで深夜特有の奇行を表現したり、スタンドマイクを両手で包み込んでポエマーな語りを入れたりしていた。
拝啓 紅葉の候 益々ご清祥のこととお慶び申し上げますが
わたしはあなたが素敵すぎるせいで既に虫の息です
わたしはあなたが素敵すぎるせいで既に虫の息です
痛々しいけれど一生懸命な恋する乙女のイメージが、ひしひしと伝わってくるパフォーマンスであった。
「んん~~~~あまぁ~~~~~~いいいっ!」
桃城 優希はオリジナルアイス甘甘びっぐばん味を食べて絶叫していた。ついにここにきて、フェスアイスの躍進は宇宙創生までたどり着いたようだ。
抹茶味のアイスを串に刺し、表面にはみたらし団子のタレを塗って、全面にカラフルな金平糖を散りばめた甘甘びっぐばん味。
「ああ、惑星にぶつかった隕石のような金平糖を……タレが! みたらし団子のタレが! 広大な宇宙のように包み込んでいる……っ!」
鉄板トークでアピールしつつ、優希はワンポイントシャインで瞳を輝かせた。
「これでいつでもどこでも糖分チャージ完了! 脳まで響けっ。甘々びっぐばん!!」
優希のパフォーマンスは文字通りビッグバン級のインパクトを生んだが、有城 藍羽が企画したアイスは、さらなる境地を目指そうとしていた。
それは、宇宙がはじまる前の静けさである。
(私のオリジナルアイスは――無味だ)
バニラのままだとか、自然の風味だとか、味付けをしていないとか、そういうレベルの話ではない。藍羽のアイスには本当に味が無いのだ。
藍羽はカメラの前に立つと、無味アイスをスプーンですくい、なにも言わずに食べた。アイスの冷たさ以外には、水の味すらも感じられないほど圧倒的な虚無。その後はただ、微動だにせず、虚空を見つめ、“無”そのものになりきっている。
かつて沈黙を音楽にした作曲家がいた。何もしないという状態にこそ、究極の可能性があるのかもしれない――。
けっきょく藍羽は最後までぴくりとも動かず、見ている者に禅問答を与えたまま、この収録は幕を閉じたのであった。