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シナリオは、複数のユーザーが参加した結果を描写される小説形式のコンテンツです。
「ヒロイックソングス!」の世界で起こった事件やイベントに関わることができます。

秋の祭典! アイランミーティング!

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■フェス乳業プレゼンツ! 君だけのフェスアイスを作ろう! 3



 白波 桃葉はパートナーの矢野 音羽を信頼していた。
「音羽は天才思考だし、なんかイイ感じの新作アイスを作れると思うのよね」
 という訳で桃葉は、オリジナルアイス作りを音羽に任せたのであった。もっともそれは信頼というより、面倒くさいことをただ押し付けただけと言えなくもなかったが。
「なんでフェス乳業って奇妙なアイスばかり作るのかしら……」
 フェスアイスのラインナップを調べながら、音羽は思わず頭を抱えた。奇抜なフレーバーには熱狂的なファンもいるようだが、そんな物好きはごく一部に過ぎないだろうと、彼女は確信していた。
 とはいえ、桃葉に「目新しい商品を作れるはず」だと期待され、ここまで連れてこられたのだ。やるからには相手の流儀に合わせてやりきろうと、音羽は考えていた。
(普通の味を作った方がよいのではないでしょうか……)
 早乙女 綾乃は内心でそう思いつつも、間違った方向に頑張りはじめた音羽を止めることもできず、結局そのまま手伝うことにした。
「とりあえず『あっさり&スッキリ』な味を目指して、梅紫蘇ミントソーダ味ってのを考えたわ」
「なるほど。悪くなさそうですね」
「まあ、保証はしないけど。そんなに不味くはないんじゃないかしら。……多分」
 音羽の提示したフレーバーに、今度は綾乃がアイディアを付け加える。
「あっさり&スッキリ――。でしたら隠し味に、レモンとお酢を入れてみてはいかがでしょうか?」
「スッキリしまくりだね」
「味の方向性は一致しているので、そこまでおかしくはならないかと思います。……多分ですが」
「うん。やってみようか」
 二人とも味の自信はほとんどなかったが、それでも材料を混ぜ合わせ、梅紫蘇ミントソーダ味・レモン酢添えの完成に漕ぎつけた。色の混ざったビー玉みたいな、カラフルで透明感のあるアイスだった。
「どれどれ、お味の方はいかがかな」
 桃葉がアイスをひょいっとつまみ上げると、
「食べるのは僕も付き合うよ」
 藤崎 圭もオリジナルアイス、梅紫蘇ミントソーダ味・レモン酢添えを手に取った。食べた後のリアクションもまた、重要なパフォーマンスだ。桃葉ひとりに任せるのはちょっと不安だなと思い、こうして実食に付き合うあたり、圭はなにかと気苦労の多い青年である。
(しかしこのアイス……一体どんな味なんだ?)
 圭はオリジナルアイスを、おっかなびっくりといった感じで口に入れた。舌の上に広がる濃厚な酸味――。
「あれ。でも、思ってたよりは……普通……かな?」
 苦笑いを浮かべつつ、圭は梅紫蘇ミントソーダ味・レモン酢添えアイスを完食した。これはなにも、彼が味覚オンチだというわけではなく、「きっと凄く不味いんだろう」と腹をくくっていたため、その想像と比較すれば普通の味だったというだけである。
「なんとか食べられる味だよな、桃葉」
 圭が隣を振り向きながら言った。
 しかし、そこにいるはずの桃葉の姿はなかった。ただ桜の花びらが舞い散っているだけだった。
(桃葉のやつ、逃げやがったな!?)
 もともと酸っぱい系の味が苦手な桃葉は、予想外の精神ダメージにホラー漫画のような表情を浮かべており、とてもテレビで見せられる状態ではなかったので、変わり身【桜】を使いそのまま逃亡してしまったのだ。
(どこに行ったんだろう……?)
 桃葉がどうなってしまったのか心配だが、おそらくは二度と戻ってこないだろう。このままでは収拾がつかないので、機転を利かせた圭は、カメラに向かってアイススティックを突きつけると、微笑みながらこう告げた。
「このアイスの爽快感は、思わず姿が消えるほどです!」


 なんだかんだで順調に収録が進むなか、ティーネファル・ファリガミァンはふと我に返っていた。
「っていうかよ。皆だんだん麻痺してるみたいだから、あえて言うけどな。ここのアイスおかしいだろ! なんでどれもこれもゲテモノばっかりなんだ!」
 番組のスポンサーを批判するという暴挙に出たティーネファルだが、フェス乳業にとって「ゲテモノ」はある種の褒め言葉なので、収録はつつがなく続いた。
「特に狂ってんのはこれだよ! 何だ『ルミマル味』って! ルミマル食べたいなんて思ったことないからな!」
「ティーくん。興奮し過ぎはいけないよぉ」
 ノーラ・レツェルが、のんびりとリンクドロップを差し出した。ティーネファルにはいつも助けてもらっているので、今回は助ける側になりたいなと思ってついてきたのである。
「そ、そうだな。あんがとノーラ」
 リンクドロップを舐めて少し落ち着いたティーネファルは、当初の目的を改めて確認した。俺は美味そうな名前の、美味しいアイスを作るんだ……。

 そうして彼が完成させたのが、青春のサイダー味である。澄んだ青空のような清涼感のあるアイスだ。
 実食する前に、ノーラがアイスフィールドを展開し、スタジオに氷の粒を散りばめる。さらにベーシックリズムでドラムロールのような音を刻み、わくわくするような雰囲気を盛り立てた。
 いざティーネファルがアイスを食べる、という瞬間にドラムロールを止め、視聴者の意識を彼に集中させた。
 シャリッ。
 アイスを噛んだ時の軽快な音が、視聴者たちの鼓膜を打った。
「うんめぇぇぇぇっ!」
 ティーネファルは絶叫しながら高く飛び上がり、着地と同時にルミナイトフィーバーで決めポーズを取る。彼のパフォーマンスは、普通の味のアイスが食べられる喜びを、余すところなく表現していた。


(わたしが叫ぶのは……ちょっと恥ずかしいですね……)
 ティーネファルのパフォーマンスを感心した様子で見つめながら、三木 里緒菜は思った。
 里緒菜が開発したアイスは、爽やかなヨーグルト味をベースに、酸味の効いたレモンとほろ苦いビターチョコレートのソースを混ぜたもの。思春期の複雑な想いが絡まったような、チョコレモンヨーグルト味だ。
(でも……わたしも……やってみましょう……)
 ふうっと深呼吸すると、里緒奈はチョコレモンヨーグルト味をひとくち食べ、青春シャウトで感想を叫んだ。

「甘くて、酸っぱくて、ほろ苦い! これぞまさしく、青春の味!」

 里緒奈の顔は恥ずかしさで火照っており、もはやアイスの食レポとは思えなかったが、スタジオに響き渡るほどの豪快なシャウトは、番組を盛大に沸き立てていた。


 ユニット一蓮托生のメンバーは、各人がそれぞれオリジナルアイスを作っていた。
 氷堂 藤は青春っぽいオープニングナンバーを口ずさみながら、ときおり青春シャウト織り交ぜつつ、凍らせたソーダに金平糖とルミマルクッキーをトッピングしていく。
「うん。完成」
 出来上がった爽やかなオリジナルアイスを見て、藤は満足そうに頷いた。
「その名も、青春ナンバー味だよ」
「藤ちゃんのアイス、美味しそうだね」
 夢月 瑠亜が、藤のアイスを覗き込みながら言った。
「るあのも、美味しそうじゃん。ふわふわして、夢みたい」
「うふふ。ありがと」
 瑠亜はマナ・バレットで氷を砕き、チョコにエアブロウの風を込めてふんわりと仕上げ、猫型クッキーを添えたふわふわチョコ味 ~黒猫風味を添えて~ を完成させていた。バトルスキルを駆使するという異例の制作過程だが、これもフェスアイスならではだといえよう。
「まあ、もともと普通のアイスじゃ無いしな。俺もちょっと試してみるか」
 木戸 一晴は、バニラアイスに細かく刻んだカトル・カールを混ぜ合わせ、最後にキラキラハニーを振り掛けていた。
「俺のはパウンドケーキ味だ」
 パウンドケーキをアイスで作る――というのはわりと定番なので、一晴は敢えてその逆をやってみたのである。
「なにごとも挑戦だよな。常識に囚われては、良いものは生まれない」
 アーヴェント・ゾネンウンターガングはもっともらしいことを言いながら、ボウルの中に色んなアイスを次々と放り込んでいた。
 なんと彼は、全種類のフェスアイスを混ぜ合わせて、ひとつのアイスにするつもりなのだ。ナイトメア・カノンを使って、ボウルの中身をぐるぐると掻き回すアーヴェントは、優しげで落ち着いた外見に反して魔王のようにも見えた。
「ん? 見た目はバニラアイスだな」
 混ぜれば混ぜるほど、なぜか白くなっていくフェスアイス達。アーヴェントは不思議に感じながらも、オリジナルフェスアイス全部乗せ味を完成させた。

 こうして出来上がった一蓮托生のオリジナルアイスは、メンバー同士で交換しあってから、実食のパフォーマンスを開始した。
 藤が食べるのは、瑠亜のふわふわチョコ味 ~黒猫風味を添えて~ である。見た目のとおりふわっとした食感に、隠し味の薔薇のリキュールが聴いて、とろんとした良い気分にさせてくれる。
「甘くてふわふわー! 夢みたい!」
 藤はアイスの魅力を伝えるため、エモーショナルプレイを全開にした。ふわふわ楽しい気持ちを、大好きな歌に乗せて、視聴者に届けていく。
 スタジオが盛り上がってきたところで、藤の青春ナンバー味をガリッと齧ったのは、一晴だった。
「どうかな、ハル?」
「――俺の感想は、これだぜ!」
 一晴はスパークマネージで、スタジオ内に

爽やか


 と書いた。
 爽やかさよりも、熱血さのほうが伝わるアピールだったが、それもご愛嬌か。一晴はカメラに向けてグッドスマイルを浮かべると、最後にスペルワーディングで、感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう」
 それはアイスを作ってくれた藤や仲間たち、番組を制作するスタッフ、そして見ている視聴者へ送られた、とても清々しい想いであった。
 そんな一晴が開発したパウンドケーキ味を、アーヴェントがもぐもぐと頬張っていた。シンプルながら、ドライフルーツも織り交ぜられており、食べ応えは充分だ。
「ん、甘くて美味しい!」
 アーヴェントは素直な感想を伝えるため、光り輝く魔法のジェムを、小さな竜巻で舞い上がらせ、キラキラと輝く中でピクシーの歌声を響かせた。
 キラキラハニーを集めたピクシーたちと、花の舞う場所で歌うようなアイス――。優美な旋律がスタジオ内を包んでいく。
 甘く幻想的な雰囲気の中、とつじょ悪魔が踊り狂っているような影が横切っていった。フェスアイス全部乗せ味を食べた瑠亜が、トゥインクルノーツで生み出した幻影である。
「あーくん……。この味、何?」
「自分でもわからない。味見してないからな」
「うう……」
 なんとも形容しがたい味に、思わず立ちくらみする瑠亜だったが、すぐに気を取り直した彼女は、こう提案した。
「この際だから、みーんな混ぜてしまいましょう」
 瑠亜はメンバーが作った四種類のアイスを集めると、すべて混ぜ合わせていく。またたく間に禍々しい物体が出来上がった。
 これぞまさしく一蓮托生味である。

 好奇心はベストスパイス フェスアイス~

 メンバー全員で【一蓮托生味のテーマ】を楽しそうに歌いながら、番組スタッフに特製アイスを配っていく。彼らの歌には時折、食べた者は皆 運命共同体などという不穏なフレーズが織り込まれていた。
「みんなも、運命感じてみない?」
 チャームウィンクを振りまいて、瑠亜は言った。スタッフたちの背筋がゾクッと凍りついたのは、なにもアイスの冷気のせいではあるまい……。
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